第6回
AI,創造性,SF,その先に(2)

日時:2021年9月14日(火) 13:30~15:50
会場:オンライン開催

政府にデジタル庁が新設されることに象徴されるように情報処理技術はポストコロナ社会の根幹を支えるものとなりました。AIが何を指すのかの厳密な定義はないものの、情報処理技術の中のフロンティアを指していると思われます。AIという一見よくわからない分野を中に抱えていることが情報処理技術の発展性を担保していると言えるかもしれません。最近のAIはこれまで扱わなかった創造性を研究対象と含むようになりました。SFはこれまでAIにさまざまな目標イメージを与えてくれましたが、これからは進歩しつつあるAIがSFを刺激してさらに奇抜な目標を提供してくれるでしょう。AIはそれ単独としてではなく情報処理技術の一部として社会を支えていくことが期待されます。ここでは創造性、SFで最前線の話題を取り上げます。いまの情報処理技術の「その先」を考える機会になればと考えています。
オープニング[13:30-13:35]

コーディネータ:松原 仁

東京大学 次世代知能科学研究センター 教授

【略歴】1986年東大大学院情報工学専攻博士課程修了。工学博士。同年通産省工業技術院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所。2000年公立はこだて未来大学教授。2020年東大AIセンター教授。人工知能、創造性、ゲーム情報学などに興味を持つ。著書「鉄腕アトムは実現できるか」、「先を読む頭脳」、「AIに心は宿るのか」など。元情報処理学会理事。元人工知能学会会長。

セッション1[13:35-14:05]

人工知能と擬人化:フィクションとリアルの知能たち

人工知能という研究分野はSFと密接な関わりがある。人の知能の解明とその再現は、宇宙探索と同じように人類の究極の目標の一つと言える。人と同じような知能とはなにか、その再現が何を社会にもたらすかは、物語上も魅力的な題材であった。こうした物語に憧れ、研究者を志した人間も多い。SFが現実の研究者や技術者に目標を与え、現実の科学技術がフィクションの想像力を刺激する相互関係にある。本講演では、現状の人工知能技術、特に人の擬人化傾向を応用したヒューマンエージェントインタラクション技術について概観するとともに、AI技術の描かれ方を、過去のSF作品から分析し、将来のAI技術のあり方を議論する。

講師:大澤 博隆

筑波大学 システム情報系 助教

【略歴】筑波大学システム情報系助教。ヒューマンエージェントインタラクション、人工知能の研究に幅広く従事。2018年よりJST RISTEX HITEプログラム「想像力のアップデート:人工知能のデザインフィクション」リーダー。共著として「人狼知能:だます・見破る・説得する人工知能」「人とロボットの〈間〉をデザインする」「AIと人類は共存できるか」「信頼を考えるリヴァイアサンから人工知能まで」編著に「SFプロトタイピング SFからイノベーションを生み出す新戦略」など。日本SF作家クラブ理事。博士(工学)。

セッション2[14:05-14:35]

考えておきたい「なぜ、人間型ロボットが必要なのか?」

われわれが人間の近くにあるAIについて考えるとき、前世紀は当たり前にAIを搭載した人間型がイメージされた。だが、AIが普及した今世紀、そこにあるものはAIスピーカーやスマートフォンのエージェントのように人間型をしていないことが普通だ。現実のAI技術の生活への浸透によって新しくなったビジョンでは、AIを搭載した人間型ロボットは実現しない夢想だったようにも見える。だが、今一度、なぜ人間型ロボットがイメージとされたのか、そのビジョンがもう必要ないものなのかを、考える必要があるように思える。AIと人間の関係がもつ可能性は、何度でも見直されるべきものだからだ。

講師:長谷 敏司

日本SF作家クラブ 理事

【略歴】SF作家。日本SF作家クラブ理事。『戦略拠点32098 楽園』(2001年:角川スニーカー文庫)で第6回角川スニーカー大賞金賞受賞。『My Humanity』(2014年:早川文庫JA)で、第35回日本SF大賞受賞。『BEATLESS』(2012年:角川書店)はアニメ化され、本作の世界観と設定をオープンリソースにする「アナログハック・オープンリソース」を運営する。

セッション3[15:05-15:45]

創るためのAI

日常の何気ない会話の中にも登場するほど、私たちの生活に浸透しつつあるAI。創作に関わる領域でも、AI「が」描いたとされる絵画が世界的なオークションで販売される一方で、「所詮は道具でしかない」といった声も聞かれるようになりました。
本当にAIはただの道具なのか。AIは創造性を持ちうるのか。そもそも、創造性とは何か──。
AIを用いた創作は、創造性という極めて人間的な心の働きを人工物の上で模倣、モノマネすることによって、私たち自身の創造性について新しい視座を得ようとする試みとも考えられます。人の能力を拡張する「道具」としてのAI。人の行為を写す「鏡」としてのAI。本講演では、この両面の視点から講演者自身のAIを用いた音楽・アートに関する取り組みを題材に、AIが人間の創造性に与える影響について考察します。また、AI研究が文化の発展やアーティストの表現活動にどう寄与できるのか、そのヒントを探ります。

講師:徳井 直生

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 准教授/株式会社 Qosmo 代表取締役

【略歴】アーティスト/研究者/DJ。東京大学大学院博士過程で人工知能研究に従事する中で得られた知見を生かし、2003年前後から自身最初のアルバムや故Nujabesとのコラボレーション作品等を発表する。これまでに手がけた作品は、ニューヨーク MoMA、ロンドン・バービカンセンター、NTT InterCommunication Center、アルスエレクトロニカなどで展示されている。2021年1月には、これまでの活動をまとめた『創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語』(BNN)を出版。