第1回
情報技術のポストコロナ社会への貢献(1)

日時:2021年6月2日(水) 15:30~17:40
会場:オンライン開催

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、コロナ禍が発生する前の社会が抱えていた問題を拡大・顕在化させたとともに、これまでのオンラインでの活動を支援する技術の改良と進歩が急激に加速された。ポストコロナの社会産業活動は、単なる情報化ではなく、空間的制約を大幅に緩和する情報技術をさまざまな形で活用することで、これまでとは根本的に異なる新たな社会の姿を模索しなければならならない。本セミナーでは、東京大学大学院情報理工学系研究科として2020年6月に提言した「情報技術のポストコロナ社会への貢献」の再点検と今後の方向性を2回に分けて議論展望する。
  • [15:30-15:35]「オープニング」 江崎 浩(東京大学)
  • [15:35-16:10]「超スマート社会の進め方」 須田 礼仁(東京大学)
  • [16:20-16:55]「真のオンライン社会のための情報教育」 萩谷 昌己(東京大学)
  • [17:05-17:40]「ポストコロナ時代の大学教育と大学経営:関西学院大学の事例」 上村 敏之(関西学院大学)、阪 智香(関西学院大学)
  • オープニング[15:30~15:35]

    コーディネータ:江崎 浩

    東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授

    【略歴】1987年 九州大学電子工学修士了。同年4月 (株)東芝 入社。1990年米国ベルコア社、1994年米国コロンビア大学にて客員研究員。1998年10月東京大学大型計算機センター助教授、2001年4月より東京大学 情報理工学系研究科助教授。2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。 MPLS-JAPAN代表、JPNIC副理事長、東大グリーンICTプロジェクト代表、日本データセンター協会 理事/運営委員会委員長。工学博士(東京大学)。

    セッション1[15:35-16:10]

    超スマート社会の進め方

    「超スマート社会(Society 5.0)」 は、第5期科学技術基本計画(2016年)で提唱された、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会である。2020年から日本を襲った新型コロナウイルス感染症の拡大は、このビジョンの修正を迫るのではなく、むしろその実現が急務であることを知らしめた。本講演では、情報の専門家である我々が、Society 5.0の実現に向けてどのように取り組むべきか、政治や巨大プラットフォーマーとの関わり、人権やサステイナビリティなど、社会科学や国際関係の視点も含めて論考する。坂井修一教授による論考をベースに、講演者が自らの視点も加えて議論するものである。

    講師:須田 礼仁

    国立大学法人東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授

    【略歴】1993年 東京大学理学系研究科情報科学専攻修士課程修了、同理学部助手。1996年 東京大学 博士(理学)。1997年 名古屋大学工学研究科講師。2000年 同助教授。2002年 東京大学情報理工学系研究科助教授。2010年 同教授。2020年 研究科長。2010~2013年度 情報処理学会 HPC 研究会主査。2013~2014年度 情報処理学会 ACS 編集委員長。

    セッション2[16:20-16:55]

    真のオンライン社会のための情報教育

    東京大学情報理工学系研究科「オンライン・ファースト」(東京大学出版会)の第2章に沿って、我が国のオンライン化・IT化(すなわちDX)の問題点について、特にその根底にある情報教育の課題ついて述べていく。具体例として特別定額給付金問題を取り上げ、オンライン化すること自体を目的としたオンライン化を「魂の入っていなかったオンライン化」と呼ぶ。そして、この問題における情報リテラシーの重要性を説き、我が国における情報教育の課題と解決策について議論していく。教育の情報化に向けて進められているGIGAスクール構想にも触れながら、初中等教育から高等教育に至る情報教育の現状について述べ、そのあるべき姿として日本学術会議の報告「情報教育課程の設計指針」も参照する。最後に、大人のための情報教育に関して、アンドラゴジー(成人教育)の一般的な難しさを述べた後、情報処理学会の取り組みにも触れながら各種の方策について検討していく。

    講師:萩谷 昌己

    東京大学 情報理工学系研究科 教授

    【略歴】昭和57年4月 京都大学数理解析研究所助手。昭和63年10月 京都大学数理解析研究所助教授。平成4年4月 東京大学理学部助教授。平成5年4月 東京大学大学院理学系研究科助教授。平成7年11月 東京大学大学院理学系研究科教授。平成13年4月~ 東京大学大学院情報理工学系研究科教授。平成22年4月~平成25年3月 東京大学大学院情報理工学系研究科研究科長。平成23年10月~平成29年9月 日本学術会議会員。令和3年4月~東京大学Beyond AI研究推進機構機構長。

    セッション3[17:05-17:40]

    ポストコロナ時代の大学教育と大学経営:関西学院大学の事例

    新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの大学でオンライン授業が実施された。大学を取り巻く変化は不可逆的であり、「大学DX」をいかに進めるかが試金石になる。デジタル技術による「個別化」授業のメリットを生かしつつ、アウトプット重視の「協同化」対面授業の良さを引き出すリアルキャンパスを構築する必要がある。オンライン授業と対面授業のバランスの良い配置も求められる。「大学DX」による変化は大学教育にとどまらず、大学経営も根本的に変える必要がある。教員の役割分担、カリキュラム設計や教学マネジメント、さらには教職員の働き方や施設のあり方の再検討など多岐にわたる。関西学院大学は、昨年9月に教職員による会議を構成し、ポストコロナ時代の大学教育と大学経営に関する報告書を12月に作成した。その報告書をベースとして、今年1月にDX推進計画を策定、今後は長期計画に組み込む予定である。本講演では、報告書の内容とその後の経緯を報告する。

    講師:上村 敏之

    関西学院大学経済学部

    【略歴】2000年~東洋大学経済学部専任講師、准教授を経て、2009年より関西学院大学経済学部教授。財務省財政制度等審議会臨時委員、内閣府民間資金等活用事業推進委員会委員、内閣官房行政改革推進会議歳出改革WG構成員など。

    講師:阪 智香

    関西学院大学商学部

    【略歴】1998年~関西学院大学商学部専任講師、准教授を経て、現在、教授、大阪府環境審議会委員、大阪市環境審議会委員、日本学術会議連携会員、日本経済会計学会常務理事、日本社会関連会計学会理事等。日本会計研究学会学会賞等受賞。