連続セミナー2022「その先へ 情報技術が貢献できること」

第2回【6月29日(水) 13:00~15:30】

機械学習工学の進展:品質のマネジメント・規格・契約


第3次AIブームを受け、機械学習技術、特に深層学習技術を用いたAIシステムの産業応用が盛んに取り組まれてきた.機械学習を用いたAIシステムでは、データからの訓練を通して機能を構築するために、従来のソフトウェアとは異なる特性がある。この点から、2019年頃から品質や開発効率などソフトウェア工学観点での課題が多く提起され、議論されてきた。本セミナーにおいては、この「機械学習工学」とも呼ばれる動向について、ソフトウェア工学技術の研究開発の観点、品質マネジメントや規格・標準、知財管理などの実践の観点から、最新動向を論じる。
  • [13:00-13:05]オープニング

    石川 冬樹
    石川 冬樹(情報・システム研究機構 国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 / 先端ソフトウェア工学・国際研究センター 准教授 / 副センター長)

    【略歴】近年では、自動運転システムおよびAIシステムに対するテスティング・デバッグ・安全性論証に関する技術に主に取り組む。AIシステムの品質技術に関しては、品質技術日本ソフトウェア科学会機械学習工学研究会やAIプロダクト品質保証コンソーシアム等において産業界と連動した活動を行っている。
  • [13:05-13:45]Session1「AIシステムの品質マネジメント」

    小川 秀人

    AIシステムの産業応用、特に、人的リスクや経済的リスクを伴うミッションクリティカル領域でのAI利用の拡大には、品質マネジメントが必要不可欠である。機械学習は従来のハードウェアやソフトウェアとは異なる技術的特性を持つことから、これまでとは異なる品質の評価や管理の考え方と手法が必要とされている。AIシステムの品質マネジメントに関しては2018年頃から盛んに議論されており、国内では、AIプロダクト品質保証(通称QA4AI)コンソーシアムや、機械学習品質マネジメント(通称MLQM)委員会などが活発に活動しており、それぞれがAIプロダクトの品質に関するガイドライン等を公開している。本講演では、これらのガイドラインの紹介を中心として、AIシステムの品質マネジメントに関する論点、現在提案されている内容や方向性について説明する。

    小川 秀人(株式会社日立製作所 研究開発グループ サービスシステムイノベーションセンタ 主管研究員)

    【略歴】1996年、名古屋大学大学院工学研究科博士前期課程修了。同年、株式会社日立製作所入社。現在、研究開発グループ主管研究員。ソフトウェア工学の研究および実務応用に従事。2015 年、北陸先端科学技術大学院大学博士後期課程修了。博士(情報科学)。2020 年より静岡大学客員教授。AIプロダクト品質保証コンソーシアム運営副委員長。機械学習マネジメント検討委員会委員。情報処理学会、電子情報通信学会、ソフトウェア科学会各会員。
  • [13:45-13:55]休憩

  • [13:55-14:35]Session2「AIシステムにおける安全性と関連規格」

    桑島 洋

    近年、AI(機械学習)は、タスクによっては人間を凌ぐ正確性を発揮し、自動運転システムや先進運転支援システムでも使われ始めている。しかし、自動運転分野では、緊急車両への衝突など自動運転中の事故が起き、規制当局による調査も始まるなど、AIが社会に浸透し始める一方で、AIの安全リスクも顕在化している。アカデミアや産業界では様々な技術開発を進めているが、まだAI製品・サービスの安全性を評価し説明する技術はなく、万が一の事故の際も完全には原因特定することはできない。そのため、AIシステムの安全性は、現時点では技術だけで解ける問題ではなく、世の中を巻き込んだルール作りも必要である。このような状況で、分野横断的な標準化活動と、産業セクターごとの標準化活動が並行で進行している。本講演では、AIシステムの安全性の課題と関連規格の世界動向を紹介する。

    桑島 洋(株式会社デンソー ソフト生産革新部先端ソフト開発室 担当課長)

    【略歴】2008年に大阪大学大学院修士課程を修了し、マイクロソフトディベロップメント株式会社入社。2013~2015 年スタンフォード大学訪問研究員を経て、株式会社デンソーでAI 品質保証のルール作り、基盤技術開発に従事。ISO/IEC JTC 1/SC 42 及び ISO/TC 22/SC 32 エキスパート、国立情報学研究所外来研究員、産業技術総合研究所機械学習品質マネジメント検討委員会委員。
  • [14:35-14:45]休憩

  • [14:45-15:25]Session3「AIシステム開発における法規制・知財・契約」

    柿沼 太一

    AIシステムの開発は大きく分けて「開発者が自らデータを収集して開発する場合」と「特定のデータホルダから開発者がデータの提供を受けて開発する場合」の2つのパターンがあり、「開発者が自らデータを収集して開発する場合」においては当該データに関する法規制や知的財産権・ライセンスや契約の処理が主として問題となる。法規制については特に個人情報を利用したAIシステムの開発(顔認証、医療システム、人事系、マーケティング系)において、どのように適法に個人情報を収集・提供・利用するかが問題になるし、知的財産権の処理に関しては、主として著作物(画像や自然言語データ及びそれらのデータベース)をAI開発に利用する場合の権利処理の方法を知っておく必要がある。さらに、利用しようとするデータにライセンスが付されている場合は当該ライセンスを正確に読み解かないと、無用のトラブルになりかねない。本講演においては具体的事例を基に以上の諸点について解説する予定である。

    柿沼 太一(STORIA法律事務所 代表パートナー弁護士)

    【略歴】2000年弁護士登録。専門分野はスタートアップ法務、AI・データ法務、ヘルスケア法務。現在、様々なジャンル(医療・製造業・プラットフォーム型等)のAIスタートアップを、顧問弁護士として多数サポートしている。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン」検討会検討委員(~2018.3)。スタートアップファクトリー構築事業に係る契約ガイドライン検討会構成員(2018年)日本ディープラーニング協会(JDLA)有識者委員(2020.5~)日本データベース学会理事(2020.8~)。
  • [15:25-15:30]クロージング

    石川 冬樹
    石川 冬樹(情報・システム研究機構 国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 / 先端ソフトウェア工学・国際研究センター 准教授 / 副センター長)