連続セミナー2023「人とAIが共生する社会に向けた情報技術」

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第8回【10月13日(金)13:00~16:00】

ブレインテック(2)メディカルとエシックス


脳は私たちの思考や行動の源泉であり、古くからその仕組みの理解や機能修飾の可能性に人々の関心が集まっていた。最近では計測技術やAIの発展によって、実環境のなかでも脳情報をリアルタイムに見える化したり、機械動作に反映させたりすることができるようになり始め、ヘルスケア、人間拡張、脳機能医療などの応用が現実的になってきた。しかしその一方で、これまで不可能だった「脳を知る」「脳を改変する」ということへの不安や恐れもまた一般社会のなかで増幅し始め、世界各国ではブレインテックの規制や推進のあり方について、さまざまな議論が行われている。
このセミナーでは、本邦で精力的にブレインテックの研究や産業化に取り組んでいる講師陣から、ご自身の取り組みや周辺動向についてご発表いただき、参加者とともに今後の学術・産業動向について議論を深める。
  • [13:00-13:05]オープニング

    牛場 潤一
    牛場 潤一(慶應義塾大学理工学部 生命情報学科 教授)

    【略歴】1978年7月8日生まれ、東京都出身。2001年、慶應義塾大学理工学部卒(物理情報工学科)。2004年に博士(工学)を取得。同年、生命情報学科に助手として着任。以降、専任講師(’07〜)、准教授(’12〜)、基礎科学・基盤工学インスティテュート(KiPAS)主任研究員(’14〜’18)を経て、2022年より教授。慶應義塾大学関連スタートアップである研究成果活用企業 株式会社LIFESCAPES(’19〜)の代表取締役社長を兼務。
  • [13:05-13:55]Session1「頭皮脳波型Brain-Machine Interfaceとリハビリテーション」

    牛場 潤一

    脳卒中後に生じる片麻痺のうち、上肢運動機能については治療抵抗性が高く、有効なアプローチが存在していない。そこで私たちは、治療標的となる脳領域の興奮性を頭皮脳波からリアルタイム推定し、その推定結果に基づいて外骨格ロボットや神経筋電気刺激を駆動させる「頭皮脳波型Brain-Machine Interface」を構築し、その有効性エビデンスの獲得に成功した。現在、世界で複数のランダム化比較化試験とメタアナリシスが行われ、良好な結果が報告されている。このことを受けて、日本脳卒中学会刊行「脳卒中治療ガイドライン2021」にBMIの治療有効性が初収載された。この講演では、頭皮脳波の計測方法、情報加工プロセス、得られた結果の生理学的な妥当性検証の方法、そして臨床研究の結果について解説しながら、いかにして脳の可塑性誘導を実現すればよいか議論する。

    牛場 潤一(慶應義塾大学理工学部 生命情報学科 教授)
  • [13:55-14:05]休憩

  • [14:05-14:55]Session2「Brain-computer interfaceの臨床応用」

    栁澤 琢史

    脳活動状態から知覚認知内容や運動状態などを機械学習によって推定する脳情報解読技術によって、Brain-Computer Interface(BCI)を、ALSなどにより重度麻痺がある患者さんの運動機能や意思伝達機能の再建に医療応用することが期待されている。特に、刺入型電極や脳表電極を用いた侵襲型BCIは、深層学習などのAI技術を使うことで実用的なレベルで意思伝達や運動機能再建ができるようになった。さらに、推定された脳情報に応じて脳を電気刺激したり、脳情報を視覚・聴覚刺激として患者にフィードバックすることで脳活動状態を修飾することで、脳活動状態を修飾し、精神神経疾患を治療する可能性が示されている。侵襲型BCIの医療応用について、我々の取り組みを含め現状を概説し、脳とAIが融合する技術の可能性と課題を議論する。

    栁澤 琢史(大阪大学 高等共創研究院 教授)

    【略歴】2000年、早稲田大学大学院理工学専攻修士課程を修了。大阪大学医学部医学科に編入学し2004年に卒業。脳神経外科での初期研修を経て、2009年に大阪大学大学院医学系研究科にて医学博士を取得。大阪大学脳神経外科特任研究員を経て、2012年より大阪大学大学院医学系研究科助教。2016年、大阪大学国際医工情報センター臨床神経医工学寄附研究部門講師。2018年4月より現職。
  • [14:55-15:05]休憩

  • [15:05-15:55]Session3「ブレインテックの挑戦を法学・倫理学はいかに受け止めるか ——「神経法学(neurolaw)」の構築に向けて」

    駒村 圭吾

    神経科学技術(ブレインテック)の発展は目覚ましいものがあり、その商品化や社会実装も急速に進んでいる。しかし、現時点では法学や倫理学の前提を根底から覆すような脅威にはなっていない。とはいえ、明日にでもそのような事態が発生しないとも限らない。そんな分岐点に私たちは立っている。現状と近未来を見据えて、法学(倫理学)のありうる対応として、近時、議論が活性化している「神経法学(neurolaw)」という動向を紹介したい。まずは、神経法学が提案する典型的な法体系を説明し、興味深いいくつかの論点について具体的に考えていきたい。また、近時、報告者が弁護士会で本論点について講演した際の反応なども織り交ぜつつ、我が国における神経法学の受容可能性についても言及する予定である。

    駒村 圭吾(慶應義塾大学 法学部 教授)

    【略歴】1984年、慶應義塾大学法学部卒。1989年、同大学院法学研究科博士課程単位取得退学、2000年、博士(法学)取得。2003年より、慶應義塾大学法学部助教授・同大学院法務研究科(ロースクール)助教授等を経て、慶應義塾大学法学部教授(現職)。2012年、慶應義塾高等学校校長、2013年から21年まで、慶應義塾大学常任理事。2010年より、ハーヴァード大学ライシャワー日本研究所憲法改正研究プロジェクト諮問委員会委員。
  • [15:55-16:00]クロージング

    牛場 潤一
    牛場 潤一(慶應義塾大学理工学部 生命情報学科 教授)

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