高度なIT人材を可視化する業界唯一の国際資格

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高度なIT人材を可視化する業界唯一の国際資格

高度な能力を持つ情報技術(IT)人材を可視化するとともに、プロフェッショナルとして能力の継続的研鑽(CPD)に努め産業界や社会に貢献
一般社団法人情報処理学会の「認定情報技術者(CITP:Certified IT Professional)」制度は、2つの目的を掲げて誕生した。

IT人材の地位向上へ資格を可視化

CITPが対象とするITSSのレベルの図

背景には、情報技術者の地位向上への期待も込められた。ITが、電気、ガス、水道、交通などと同じくライフラインとなり、ビジネスのみならず、日常生活に不可欠な存在となって久しい。ITが止まれば、生命に直結する事態も起き得る。個人情報漏洩やウイルス攻撃などに堪える得る堅牢なITシステムがなければ、個人も社会も脅かされる。

ITの仕事は能力とスキルの塊である。にもかかわらず、医師や弁護士のように、取得しないと業務が行えない「業務独占」の資格は存在しない。逆説的に言えば、能力とスキルさえあれば、資格がなくても業務が遂行できることもある。

しかし、プロジェクトへの参画条件や求人への応募条件に、特定の資格取得が求められることがある。例えば、2021年9月、日本のデジタル社会形成の司令塔として設立されたデジタル庁の職員募集で、調達支援エキスパートやガバナンスマネージャ-の職種で求めるスキルや資格として、「ITスキル標準(ITSS)レベル4相当の資格又は同等のスキル」と「実務経験(5年程度以上)」が掲げられている。同様の要件は調達案件においても当初適用されたが、現在デジタル庁や他省庁では、より絞り込んだ案件に限って適用されている。

ITSSは日本のIT業界で広く普及した尺度で、レベル4は、「プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、自らのスキルを活用することによって、独力で業務上の課題の発見と解決をリードするレベル」である。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の情報処理技術者試験で、「ITストラテジスト試験」「システムアーキテクト試験」など、8つの区分の試験が、レベル4相当の高度試験と位置付けられている。

この高度試験は、ペーパーテストにより専門知識とスキルを測定するが、業務の実績は問われない。本当に仕事をしているか、仕事で知識やスキルを発揮できているのかは不問だ。しかし、真の「高度ITプロフェッショナル」と言えるのは、豊富な業務実績、すなわち実務能力を兼ね備えた人材である。

専門知識と実務能力を兼ね備える

「専門知識+実務能力」を併せ持つIT人材を認定する制度として、情報処理学会のCITPがある。1960年に設立された情報処理学会は、情報処理分野で指導的役割を担う学術団体で、2014年にCITPの制度を立ち上げ、同年から個人をCITPとして認定することを開始した。2023年3月末時点で、2,078人が継続してCITP資格を保持している。

知識と実務能力の双方を測るのに加え、CITPの最大の特徴は、IT業界で唯一の国際認証資格であることだ。CITPは、国際標準化機構の技術者認証「ISO/IEC17024(適合性評価)」とソフトウェア技術者認証「ISO/IEC17024」の規格に準拠するように設計された。要件には、「知識・スキルの明確化」「業務遂行能力の評価」「倫理綱領・行動規範の遵守」「継続的な研鑽(CPD:Continuing Professional Development)」「資格の定期更新(有効期限の設定)」などがある。


国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の提案で情報処理国際連合(IFIP)が組織されており、日本の情報処理学会など50カ国が加盟している。IFIPには、情報技術者の国際相互認証を推進するプロジェクト IP3(International Professional Practice Partnership)があり、CITPは2018年にこの認定を受けた。名実ともに国際資格となり、CITP認定者は自身のスキルや実績を海外でも客観的に証明できるようになった。

CITPの「個人認証」のための申請は、毎年春と秋の2回、IPAの高度試験の有資格者が、業務経歴書などを添えて申請し、審査を受ける。更新は3年に1回で、継続的な研鑽として、業務の実績に加え、能力を磨く活動(講習会等の受講、コミュニティ活動参加など)とプロフェッショナル貢献活動(技術発表、筆活動、講演など)を一つひとつポイント化し、規準点をクリアしなくてはならない。

一方、IT企業は独自の社内の資格制度を持っていることがある。こうした制度を、CITPの「企業認定」として審査する仕組みもある。企業認定された場合、各企業内の有資格者は、企業が全員を一括してCITPに登録する場合もあるが、希望者が自主的に登録するのに任せている企業もある。企業認定の更新は、5年ごとである。

継続的に学びDXの担い手に

吉野氏(左)、西氏(右)

情報処理学会の資格制度運営委員会副委員長の吉野松樹氏(日立製作所)は、「ITの仕事を車の運転にたとえれば、運転ができれば良いだろうでは通用しない。技術は日進月歩で、EV(電気自動車)が登場したら対応できるよう、継続的に学ばなければ高度プロフェッショナルと言えない」と語る。一方でITの領域は広がり、資格制度も進化している。例えば、日立製作所は、社内の資格制度にデータサイエンティストの職種を最近追加し、これについてもCITPの企業認定を受けている。

吉野氏は、「自分の実力を証明する意味でも、CITPに積極的にチャレンジし、自信を得てほしい」と、IT技術者に呼びかける。もしCITPとして認定されなかった場合も、実績として不足している点についてのフィードバックが得られ、次なるキャリアアップの目標が明確になる。もちろん、CITPになれば、海外を含めてキャリアの幅が広がる。

また、CITP有資格者有志が主催するコミュニティで、有資格者同士が交流することで、自身の知見を深めるなど、レベルアップができる。コミュニティ活動を通じて、社会への貢献が実感できる。

失われた30年を本格的に巻き返すために、国はデジタルトランスフォーメーション(DX)に本腰を入れている。その担い手として、高度IT人材には大きな期待がかっている。

資格制度運営委員会委員長の西直樹氏(理研鼎業)は、「ソフトウェアやシステムが企業の成長に影響力を持つ時代。ITエンジニアが自らのキャリア開発でレベルアップすれば、企業はもちろん、日本のためになるだろう」と語る。

(2023年5月10日)

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