2002年度詳細

2002年度(平成14年度)山下記念研究賞詳細

  山下記念研究賞は,これまでは研究賞として本学会の研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な論文を選び,その発表者に贈られていたものですが,故山下英男先生のご遺族から学会にご寄贈いただいた資金を活用するため,平成6年度から研究賞を充実させ,山下記念研究賞としたものです.受賞者は該当論文の登壇発表者である本学会の会員で,年齢制限はありません.本賞の選考は,表彰規程,山下記念研究賞受賞候補者選定手続および山下記念研究賞推薦内規に基づき,各領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は表彰対象の14研究会の主査から推薦された計20編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定されたうえで,第477回理事会(平成14年7月)および調査運営委員会に報告されたものです.本年度の受賞者は下記20君で,それぞれ研究発表会,またはシンポジウムにおいて表彰状,賞牌,賞金が授与されます.
 

コンピュータサイエンス領域

Webの受動的視聴のための同期化可能領域の発見と番組化用マークアップ言語 S-XML
[2000-DBS-121 (2000.5.25)] (データベースシステム研究会)
服部 多栄子

服部 多栄子君 (正会員)

平成13年3月神戸大学大学院自然科学研究科情報知能工学専攻修士課程修了.
学生時代,Webコンテンツを放送型コンテンツに変換する技術についての研究を行う.
平成13年4月日本放送協会に入局.現在に至る.
[推薦理由]
インターネットを通じてマルチメディア情報が頻繁に提供されるようになり,コンテンツの作成は大きなボトルネックとなる恐れがある.著者らは,読んでクリックするWWWのインタフェースよりさらに利用者にとって安楽な受動的視聴の有用性を訴え,HTMLで提供されているコンテンツを自動的にTV番組化する研究を展開しているが,本論文ではそれを高度に実現するために,音声と映像の同期を精密化する手法,および,コンテンツ提供者がWeb文書に番組化に有用な情報をマークアップするための S-XML(Scripting-XML) 言語の提案を行なった上で,プロトタイプの実装によって有効性を検証している.クロスメディアコンテンツ提供の実現に新たな可能性をもたらす研究として評価できる.
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●最近接点の有意性の評価によるマルチメディア情報の効率的な検索法
[2000-DBS-122 (2000.7.27)] (データベースシステム研究会)
片山 紀生

片山 紀生君 (正会員)

国立情報学研究所・情報メディア研究系・助教授.
平成2年東京大学工学部電気工学科卒業.平成7年同大大学院博士課程了.同年学術情報センター・研究開発部・助手.平成12年国立情報学研究所助手.同年同助教授,現在に至る.
データベースシステムに関する研究に従事.
博士(工学).電子情報通信学会,IEEE,ACM 各会員.
[推薦理由]
マルチメディア情報の類似検索は,しばしば特徴量ベクトルの最近接点探索によって実現されるが,特徴量空間が高次元の場合,最近接点の有意性が低くなるという現象が起こり得る.本論文の特徴は,この現象が探索効率を悪化させることに着目している点であり,この問題を緩和する手法として,検索処理の実行中に動的に最近接点の有意性を判定する手法を提案している.これにより有意性の低い結果に対する処理コストを削減することが可能であり,評価実験によって有効性を検証している.高次元空間における最近接点の有意性という問題に,新たな視点をもたらす研究として評価できる.
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●Webブラウザのための安全なプログラム実行環境の実現
[2001-OS-87 (2001.6.29)](システムソフトウェアと オペレーティング・システム研究会)
品川 高廣

品川 高廣君 (学生会員)

昭和49年生.
平成10年年東京大学工学部電子工学科卒業.
平成12年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修士課程修了.
現在,同大大学院博士課程在学中.電気通信大学特別研究学生.
オペレーティングシステム等のシステムソフトウェアに興味を持つ.IEEE/CS, ACM各学生会員.平成11年度情報処理学会論文賞受賞.
[推薦理由]
今後ますます多くの人が利用する機会が増す実行可能コンテンツは,容易にシステムの安全性にダメージを与える可能性があり,それを安全に実行する機構が実現できればその有用性は多大だと思われる.本発表は既存の細粒度保護ドメイン機構だけでなく,実行可能コンテンツのキャラクタに合わせた保護機構を提案し,実装評価している点が評価できる.
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●セルベース設計における連続的トランジスタ寸法最適化による消費電力削減手法
[DAシンポジウム2000 (2000.7.19)](システムLSI設計技術研究会)
橋本 昌宜

橋本 昌宜君 (正会員)

平成9年京都大学工学部電子工学科卒業.
平成13年同大大学院博士課程(通信情報システム専攻)修了.
現在,京都大学大学院情報学研究科助手.
LSIの設計手法,LSI用CADの研究に従事.博士(情報学).
平成11年度電子情報通信学会学術奨励賞受賞.
[推薦理由]
セルベース設計の枠組みの中でセル内のトランジスタを連続的に縮小し,消費電力を削減する手法を提案している.セル内のトランジスタサイズを任意に変更することにより,セルベース設計の冗長性を解消する.0.35μmのプロセスで5つのベンチマーク回路を用いて消費電力の削減効果を評価した.初期回路の遅延時間を遅延制約として与えて消費電力の最適化を行ったところ,消費電力を最大77%,平均66%削減可能なことを示している.以上のように本研究は極めて優秀であり,山下記念研究賞に推薦する.
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●テストパターン変換によるテスト時の消費電力低減手法
[DAシンポジウム2001 (2001.7.25)] (システムLSI設計技術研究会)
梶原 誠司

梶原 誠司君 (正会員)

昭和62年広島大学総合科学部総合科学科卒業,平成元年広島大学大学院工学研究科情報工学専攻博士課程前期修了,平成4年大阪大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士後期課程修了.博士(工学).
同年大阪大学工学部応用物理学科助手.平成8年九州工業大学情報工学部助教授,現在,九州工業大学情報工学研究科助教授.
この間,平成9年6月~平成11年3月大阪大学大学院工学研究科助教授(併任),平成13年~九州工業大学マイクロ化総合技術センター助教授(兼任).
論理回路のテスト生成,テスト容易化設計などの研究に従事.
電子情報通信学会,IEEE 各会員.
[推薦理由]
フルスキャン順序回路に対して,テストパターン印加時の消費電力を低減させる効果的な手法を提案している.与えられたテストパターンに含まれるドントケア入力,すなわち故障検出率に影響のない入力を見つけ,スキャン動作における回路内のゲートの信号値変化回数が低減するように信号値を割り当てる.実験の結果,ゲート信号値変化回数を平均で30%,大規模回路については50%以上削減する効果が得られた.
以上のように本研究は極めて優秀であり,山下記念研究賞に推薦する.
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●I-LIB: 自動チューニング機能付き並列数値計算ライブラリとその性能評価
[2000年記念並列処理シンポジウムJSPP2000 (2000.5.30)](ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
片桐 孝洋

片桐 孝洋君 (正会員)

平成6年3月国立豊田工業高等専門学校情報工学科卒業,平成8年3月京都大学工学部情報工学科卒業
平成10年3月東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修士課程修了,平成13年3月東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻博士課程修了,博士(理学)号取得
平成13年4月日本学術振興会特別研究員-PD
平成13年12月科学技術振興事業団さきがけ研究21研究者
平成14年6月電気通信大学大学院情報システム学研究科助手,現在に至る
[推薦理由]
この研究では,同一プログラムを用いても多様な計算機環境で高性能を達成できる新しいライブラリ構築技術である自動チューニング機能(Auto Tuning Facility,ATF)について研究を行ったものである.著者らはATFを付加した並列数値計算ライブラリI-LIBを開発し,実際の並列計算機を用いて性能評価を行うことでATFの効果を実証した.性能評価の結果,連立一次方程式の直接解法と反復解法,および固有値問題の直接解法において,理論性能に対し80%の効率,約52倍の速度向上,そして1.8倍の速度向上をそれぞれ達成した.これらの結果は並列処理の分野のみならず数値計算を必要とする応用分野全般に本質的な貢献をするものと考えられ,本研究賞を受賞するに価する.
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●Cluster-enabled OpenMP: ソフトウェア分散共有メモリシステムSCASH上のOpenMPコンパイラ
[並列処理シンポジウムJSPP2001 (2001.6.6)]( ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
佐藤 三久

佐藤 三久君 (正会員)

昭和34年生.昭和57年東京大学理学部情報科学科卒業.昭和61年同大学院理学系研究科博士課程中退.
同年新技術事業団後藤磁束量子情報プロジェクトに参加.平成3年,通産省電子技術総合研究所入所.平成8年,新情報処理開発機構並列分散システムパフォーマンス研究室室長.
平成13年より,筑波大学電子情報工学系教授.同大学計算物理学研究センター勤務.理学博士.
並列処理アーキテクチャ,言語およびコンパイラ,計算機性能評価技術,グリッドコンピューティング等の研究に従事.
日本応用数理学会会員.
[推薦理由]
この研究では,ソフトウェア分散共有メモリシステムSCASH向けに現在普及しつつある並列プログラミングインタフェースであるOpenMPコンパイラを研究開発した.このOpenMPコンパイラを用いることで,従来プログラミングが難しいとされていた分散メモリシステム上でも,OpenMPプログラムを容易に実行でき,並列化,並列プログラミングのコストを大幅に軽減できる.さらに,局所性を制御するために,OpenMPを拡張し,NAS Parallel benchmarkを始めとするいくつかのベンチマークを用いて評価し,ある程度の性能向上が得られている.以上の研究開発は,並列処理技術の発展普及に寄与するものである.
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●Succinct Data Structures for Longest Common Prefix Information
[2002-AL-83 (2002.3.15)](アルゴリズム研究会)
定兼 邦彦

定兼 邦彦君 (正会員)

東北大学大学院情報科学研究科助手.
平成12年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻博士課程修了.
データ圧縮,情報検索 などに関するアルゴリズムとデータ構造の研究に従事.
E-mail: sada@dais.is.tohoku.ac.jp
http://www.dais.is.tohoku.ac.jp/ ̄sada/
[推薦理由]
本論文は,文字列検索を効率的に行うためのデータ構造として,部分文字列間の最長一致接頭辞長を格納するコンパクトなデータ構造を新たに提案している.文字列の長さをnとしたとき,接尾辞木に代表される従来手法がO(n log n)ビットを必要とするのに対して,新たなデータ構造はO(n)ビットを要する.文字列処理の効率化という基本的でかつ応用範囲の広い分野において,このように理論的にも興味深い本質的な貢献をしている点が高く評価される.
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情報環境領域

●ID Cam:シーンとID を同時に取得可能なイメージセンサ
[インタラクション2002 (2002.3.6)](ヒューマンインタフェース研究会)
松下 伸行

松下 伸行君 (正会員)

昭和48年生.
平成10年慶應義塾大学大学院理工学研究科計算機科学専攻修士課程修了.
同年ソニー株式会社入社.平成11年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所インタラクションラボラトリに勤務.
実世界志向インタフェースを中心とする研究に従事.
平成9年日本ソフトウェア科学会高橋奨励賞受賞.
[推薦理由]
本発表は,赤外線LEDおよび高速度CMOSカメラを利用した,ロバストなID認識カメラシステムの提案である.本システムでは,カメラで撮影した画像中にIDが埋め込まれた状態で認識され,ユーザの視点からの観察者中心座標系での機器の位置情報と機器自体のID情報との対応関係をリアルタイムで与えるための現実的かつ実効性の高いアプローチを提案している.今後,ネットワークドアプライアンスなど,ユーザの視点に基づく空間的制約を考慮する必要のあるシステムへの幅広い利用が期待される.
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●Migemo:日本語のインクリメンタル検索
[2001-HI-94 (2001.7.19)] (ヒューマンインタフェース研究会)
高林 哲

高林 哲君 (学生会員)

昭和51年生.
平成11年愛知大学経営学部経営学科卒業.
平成13年奈良先端科学技術大学院大学博士前期過程修了.
同年同大学院博士後期課程入学.
同年 (株) ソニーコンピュータサイエンス研究所入社.
[推薦理由]
本発表は,日本語文書に対するインクリメンタル検索を実現する手法を提案したものである.これまで日本語文書におけるインクリメンタル検索は,1文字入力する毎に単語の読みを決定する必要があるため,困難であるとされていた.本手法はインクリメンタル検索をローマ字でおこない,入力した文字列に対応する読みの言葉を検索し,得られた言葉群から動的に正規表現を生成することで,動的な検索を実現した.本手法の実用性は高く,また,日本語インクリメンタル検索に限定されず様々な文書入力・編集作業への応用が期待される.
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●ベストエフォート型データに基づく医薬品臨床情報共有システムの提案
[2001-IS-77 (2001.6.24)](情報システムと社会環境研究会)
刀川 眞

刀川 眞君 (正会員)

昭和49年上智大学理工学部電気電子工学科卒業.
同年,日本電信電話公社入社.
横須賀電気通信研究所を経て,現在,NTTデータ技術開発本部システム科学研究所にて情報システムと社会の相互関連についての研究に従事.
東京工業大学社会理工学研究科博士後期課程在学中.
[推薦理由]
医薬品に対する情報ニーズに対処するために,これまでのような情報内容に発信者が責任を負うギャランティ型データとは対置にあるベストエフォート型データの考え方に着目し,それに基づく医薬品臨床情報共有システムを提案している.発信者は品質に最善を尽くすものの利用者が利用責任を負う情報システムは,以前より論じられてきたが,利用場面を考慮した具体的な概念デザインを示した点で,推薦に値するものと考えられる.
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●入力質問と知識ベースとの柔軟なマッチングに基づく対話的ヘルプシステム
[2001年情報学シンポジウム (2001.1.18)](情報学基礎研究会)
黒橋 禎夫

黒橋 禎夫君 (正会員)

昭和41年生.平成1年京都大学工学部電気工学第二学科卒業.平成6年同大学院博士課程修了.博士(工学).
同年,京都大学工学部助手,平成10年京都大学大学院情報学研究科講師,平成13年東京大学大学院情報理工学系研究科助教授,現在に至る.
平成6年4月より1年間Pennsylvania大学客員研究員.自然言語処理,知識情報処理の研究に従事.
[推薦理由]
ユーザからの質問に応答する対話的ヘルプシステムに関し,自然言語処理技術をベースとする新しいアプローチを提案し,システムの試験運用により得られた知見などを報告した論文.対話システムは,従来,様々な試みがなされてきた領域であるが,多くはトイシステムに終わってしまったという側面がある.本研究では,自然言語で記述された知識とユーザの自然言語入力とを柔軟にマッチングするという明快なアプローチを提案している点,また,京都大学の計算機教育環境で99年7月から実運用できているという実績が高く評価される.
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●FECを用いたMPEG2 over IPシステムの開発と評価
[2001-DSM-24 (2001.11.30)](分散システム/インターネット運用技術研究会)
大塚 玉記

大塚 玉記君 (正会員)

平成12年3月広島大学工学部第2類(電気系)卒業
平成14年3月広島大学大学院工学研究科情報工学専攻博士課程前期修了.高品質動画像の伝送に関する研究に従事
平成14年4月日立ソフトウェアエンジニアリング(株)入社
[推薦理由]
本論文は,FECを用いたMPEG2ビデオ画像伝送システムを実装し,全日本規模で行なわれた実験でこれを利用し,理論値と実験値を比較することによって定量的な評価を行なったことについて述べている.FEC を使ったデータ伝送の手法については既に多くの研究が行なわれているが,伝送システムを自ら実装し,これを大規模な画像伝送実験で用い,定量的な評価を示したことは,インターネットを使った高品質のビデオ配信が盛んになろうとしている現在において,大きな役割を果たすことが期待され,山下記念研究賞受賞に相応しいものと判断する.
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●XML複合文書の実現方式に関する一考察
[2001-DD-27 (2001.3.14)](デジタル・ドキュメント研究会)
野村 直之

野村 直之君 (正会員)

博士(理学).法政大学エクステンション・カレッジ ディレクター.
昭和59年3月東京大学工学部卒業.同年NEC入社.NEC C&C情報研究所,CICC基盤技術研究センター機械翻訳研究所,EDR(株)日本電子化辞書研究所,米国マサチューセッツ工科大学,人工知能研究所客員科学者,(株)ジャストシステム研究開発本部シニア・マネジャーを経て現職.
平成14年3月九州大学より博士(理学)を授与.Concept Base関連ソフトウェア,文章要約エンジン,一太郎およびJava-XMLワープロのレイアウト認識応用の新規機能を設計. XML Consortium,Evangelist.PSLX Consortium技術アドバイザ.ビジネスモデル学会ナレッジマネジメント研究分科会座長.NLPRS2001併設ワークショップ "1st International Workshop on NLP and XML"を提案し,プログラム,会合を組織.平成1年度情報処理学会学術奨励賞受賞.共著:"WordNet",eds.by C.Felbaum,MIT Press,1998.他.
[推薦理由]
21世紀の可搬データ表現としてXML基盤技術が注目を浴びている.しかし,文書交換について考えると,文書,図形,数式など文書表現の個別要素に関してXML由来の言語規格により独立に取扱がなされているものの,それらを如何に統合し十分な表現能力を備えた文書形式とするかについては議論が十分でない.本論文は,汎用性,可搬性を保つXML複合文書を構成するための指針について論じ,広く流通している処理系で検証することにより先の問題に接近している.その内容は関連分野の多くの読者に対し有用な知見を与えるものである.
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●動画像からの複数顔パターンを用いた個人認証
[コンピュータセキュリティシンポジウム2001 (2001.10.31)](コンピュータセキュリティ研究会)
小坂谷 達夫

小坂谷 達夫君 (正会員)

平成11年東京工業大学工学部情報工学科卒業.平成13年同大大学院修士課程修了.
同年(株)東芝入社.
現在,同社研究開発センターマルチメディアラボラトリー勤務.
コンピュータビジョン,ヒューマンインタフェースの研究開発に従事.
[推薦理由]
認証に用いる顔画像を複数個利用するという新しい試みと,探索空間を制約する制約空間法を組み合わせることで,非常に信頼性の高い認証方式を提案している.特に,制約相互部分空間法の本質である「制約部分空間の汎用的な生成法」を示し,提案方式の有効性を入室管理を想定した大規模データで定量評価している点は注目に値する.提案方式の新規性は明確であり,それ以上に,認証結果の効果が高く画期的であった.方式の提案だけにとどまらず,定量的な評価と試作を行い,運用実験を通じてその有効性を明確にしている.その意味で,非常に完成度の高い研究であり,関連分野への貢献も大きい.
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●2色木によるオンライン証明書状態検証サーバの実装と評価
[2000-CSEC-9 (2000.5.10)] (コンピュータセキュリティ研究会)
安部 謙介

安部 謙介君 (正会員)

平成6年4月東海大学工学部電気工学科入学
平成10年3月東海大学工学部電気工学科卒業
平成10年4月東海大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程前期入学
平成12年3月東海大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程前期修了
平成12年4月松下通信工業(株)入社
[推薦理由]
上記論文はPKIの証明書廃止方法における問題点を指摘し,2色木のデータ構造を利用した新しい廃止方式を提案している.アルゴリズムの提案に加えて,実際に試験システムを実装し,実験データに対するパフォーマンスを測定して提案システムの有効性を検証している.その結果,提案された方式は,通信効率と計算効率が高く,安全性も従来の方式より優れていることが定量的に示された.よって,十分な新規性と実用性があり,本論文を推薦する.
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●地図と画像の融合によるレーン形状推定方法の提案
[2001-ITS-4 (2001.3.2)](高度交通システム研究会)
小島 祥子

小島 祥子君 (正会員)

平成5年名古屋大学工学部電気系学科卒業.
平成7年同大大学院修士課程修了.
同年(株)豊田中央研究所入社.
以来,主に画像処理に関する研究開発に従事.
現在同所画像センシンググループ所属.電子情報通信学会会員.
[推薦理由]
本研究は,地図情報と画像処理技術を組み合わせ,車両が走行する道路上のレーンの三次元的形状を推定する手法を提案している.本研究の講演者らは,得られる情報の精度を考慮し,効果的に組み合わせることで有効性が高まることを理論的に示し,さらに模擬データと実環境で検証することで,実用性を示した.本研究で提案されている手法は新規性が高く,かつ有効性も高い.本研究で得られた知見は今後の走行支援システムの制御に関する研究活動に大きな指針を与えるものである.よって,本研究の講演者を山下記念研究賞受賞候補者として推薦いたします.
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フロンティア領域

●音声補完: “TAB” on Speech
[2000-SLP-32 (2000.7.15)](音声言語情報処理研究会)
後藤 真孝

後藤 真孝君 (正会員)

平成5年早稲田大学理工学部電子通信学科卒業.平成10年同大大学院理工学研究科博士後期課程修了.
同年,電子技術総合研究所(平成13年に独立行政法人産業技術総合研究所に改組)に入所し,現在に至る.博士(工学).
音楽情報処理,音声言語情報処理,マルチモーダルインタラクションなどに興味をもつ.平成4年jus設立10周年記念UNIX国際シンポジウム論文賞,平成5年NICOGRAPH'93 CG教育シンポジウム最優秀賞,平成9年情報処理学会山下記念研究賞(音楽情報科学研究会),平成10年平成10年電気関係学会関西支部連合大会奨励賞,平成12年WISS2000論文賞・発表賞,平成13年日本音響学会第18回粟屋潔学術奨励賞・第5回ポスター賞各受賞.
電子情報通信学会,日本音響学会,日本ソフトウェア科学会,日本音楽知覚認知学会,ISCA各会員.
[推薦理由]
音声の言い淀みの現象に基づいて補完機能を実現するという,音韻情報と韻律情報を統合した斬新な音声の利用法を提案した.効果的なデモンストレーションもなされて,非常に魅力的な発表であった.発表者は,これに続く関連研究「音声シフト:"SHIFT"on Speech (2002- SLP-40-3)」などでも,新たな音声の利用法・音声インターフェースに関する研究を続けており,音声言語情報処理研究への貢献は高く評価できる.
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●『日本語話し言葉コーパス』の設計の概要と書き起こし基準について
[2001-SLP-36 (2001.6.1)](音声言語情報処理研究会)

小磯 花絵

 

小磯 花絵君 (正会員)

平成6年千葉大学文学部卒業.平成8年同大学院文学研究科修士課程修了.平成10年9月奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科後期課程修了.理学博士.
平成8~10年9月ATR知能映像通信研究所.
平成10年10月国立国語研究所入所.
[推薦理由]
当該コーパスは,日本語の本格的・大規模な話し言葉コーパスとしては前例のないものであり,既にモニタ公開が始まっており,今後の音声言語研究に大きく寄与することが期待される.また高品質なコーパス作成のための話し言葉の書き起こしは,客観性・一貫性の点から困難な問題であったが,発表者は様々な検討を行った結果,詳細な基準を策定しており,これは今後の同様のコーパス作成においても,きわめて有用な指針となるものである.
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●超流通技術に基づくアクセスログ管理方式の提案
[2000-EIP-8 (2000.6.2)](電子化知的財産・社会基盤研究会)
河原 正治

河原 正治君 (正会員)

昭和37年生.
平成3年筑波大学大学院修士課程理工学研究科修了.
同年筑波大学電子・情報工学系助手.平成4年筑波技術短期大学助手.平成13年筑波技術短期大学講師.
専門は超流通システム.電子情報通信学会,ACM,IEEE-CS各会員.
[推薦理由]
計算機資源に対するアクセスの記録を管理する従来の方法では,特権ユーザである管理者によるログの改ざん・消去が可能であり,証拠保全能力の確実性という観点から不十分であった.また,従来技術において証拠保全に力点をおけば,プライバシーの保護が犠牲になるという問題があった.この論文は,超流通の実装技術とログ記録手法の構造の類似性に着目し,たとえ管理者であっても,痕跡を残さずにアクセスログを改ざんすることができないような記録・管理技術を提案したものであり,超流通の新しい応用の可能性を示し今後の発展も期待できる.
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