「スーパースケーラのための高速な動的命令スケジューリング方式」(Vol.42,No.SIG9)

平成13年度論文賞受賞者の紹介

「スーパースケーラのための高速な動的命令スケジューリング方式」(Vol.42,No.SIG9)

[論文概要]
 スーパースケーラ・プロセッサは,動的命令スケジューリングのため,命令の実行に必要なデータの有効性を追跡するwakeupと呼ぶロジックを持つ.従来のwakeupは,データに割り当てられたタグによる連想処理に基づくもので,RAMを読み出した結果でCAMをアクセスするという構造を持ち,LSIの微細化,パイプラインの深化にともなっていっそうクリティカルになっていくと予測されている.本稿ではwakeupを高速化する方式について述べる.本方式は,タグに基づく連想処理ではなく,命令間の依存関係を直接的に表現するテーブルを用いるもので,単にRAMを読み出すことで wakeupを実現することができる.さらに本稿では,このロジックの遅延をIPCに対するペナルティに転化する手法を示す.実在する0.18mum CMOSプロセスのデザイン・ルールに基づいてこれらのロジックを設計し,回路の面積を求め,Hspiceによって遅延を測定した.また,シミュレーションによって,ペナルティを測定した.その結果,3%以下のペナルティを代償に,2GHzを超える最高動作周波数を達成できることが分かった.
[推薦理由]
 本論文は,スーパースカラ・プロセッサの動的命令スケジューリング・ロジックの複雑さを飛躍的に緩和する手法について述べている.本論文で提案されている手法は,命令間のデータ依存関係を表す行列を採用することで,30年来用いられてきたタグによる連想処理を省略するもので,極めて独創性に富んでいる.また,評価によってその有効性を示しているが,実存する半導体プロセスのパラメータを用いた回路設計を行うことで信頼性のある評価を行っている点も優れている.現在ではスケジューリング・ロジックの遅延が実際にスーパースカラ・プロセッサの動作速度を律速しつつあり,提案手法は現実のプロダクトに対しても多大な貢献を果たすものと考えられる.

五島 正裕君  1968年生.1992年京都大学工学部情報工学科卒業.1994年同大学大学院工学研究科情報工学専攻修士課程修了.同年より日本学術振興会特別研究員.1996年京都大学大学院工学研究科情報工学専攻博士後期課程退学,同年より同大学工学部助手.1998年同大学大学院情報学研究科助手.高性能計算機システムの研究に従事.2001年情報処理学会山下記念研究賞受賞.

西野 賢悟君  1978年生.1994年大府市立大府西中学校卒業.1997年愛知県立旭丘高校卒業.2001年京都大学工学部情報学科卒業.同年より同大学大学院情報学研究科修士課程に進学.プロセッサ・アーキテクチャの研究に従事.

グェン ハイハー君  1974年生.1991年ハノイ大学付属数学専門高等学校卒.1993年ハノイ大学工学部退学.1999年京都大学工学部情報工学科卒業.2001年同大学大学院情報学研究科修士課程修了.同年(株)京都ソフトウェアリサーチ入社,フラッシュ・ファイル・システムの開発に従事.

縣 亮慶君 1977年生.1992年京都市立成徳中学校卒業.1997年国立舞鶴工業高等専門学校電気工学科卒業.1999年京都大学工学部情報学科卒業.2001年 同大学大学院情報学研究科修士課程修了.プロセッサ・アーキテクチャの研究に従事.

中島 康彦君 1963年生.1986年京都大学工学部情報工学科卒業.1988年同大学大学院修士課程修了.同年富士通(株)入社.スーパコンピュータVPPシリーズのVLIW型CPU,Mアーキテクチャ・命令エミュレーション,高速CMOS回路等に関する研究開発に従事.工学博士.1999年京都大学総合情報メディアセンター助手.同年 同大学大学院経済学研究科助教授.計算機アーキテクチャに興味を持つ.IEEECS,ACM各会員.

森 眞一郎君 1963年生.1987年熊本大学工学部電子工学科卒業.1989年九州大学大学院総合理工学研究科情報システム学専攻修士課程修了.1992年同大学大学院総合理工学研究科情報システム学専攻博士課程単位取得退学.同年京都大学工学部助手.1995年同助教授.1998年同大学大学院情報学研究科助教授.工学博士.並列slash 分散処理,計算機アーキテクチャの研究に従事.IEEE,ACM各会員.

北村 俊明君 1955年生.1978年京都大学工学部情報工学科卒業.1983年同大学大学院博士課程研究指導認定退学.同年富士通(株)入社.汎用コンピュータ,スーパーコンピュータVPPシリーズのVLIW型CPU,Mアーキテクチャ・命令エミュレーション,米国HAL社においてSPARCプロセッサ等の研究開発に従事.工学博士.2000年京都大学総合情報メディアセンター助教授.計算機アーキテクチャに興味を持つ.電子情報通信学会,IEEE,ACM各会員.

富田 眞治君 1945年生.1973年京都大学大学院博士課程修了,工学博士.同年京都大学工学部情報工学教室助手.1978年同助教授.1986年九州大学大学院総合理工学研究科教授.1981年京都大学工学部情報工学科教授.1998年同大学大学院情報学研究科教授.計算機アーキテクチャ,並列計算機システムに興味を持つ.著書「並列計算機構成論」,「並列処理マシン」,「コンピュータアーキテクチャI」等.電子情報通信学会,IEEE,ACM各会員.