「情報社会における倫理審査と倫理審査委員会3000個問題」

2022年度論文賞受賞者の紹介

情報社会における倫理審査と倫理審査委員会3000個問題

[情報処理学会論文誌 Vol.62 No.12, pp.2119-2126]
[論文概要]

 近年,多くの大学で導入されている研究における倫理審査に対して,倫理面への配慮よりもアリバイ証明としての側面が強くなっているとの批判がある.同時に,複雑化する情報社会では潜在的な倫理面の問題に対応できる研究倫理審査に期待される役割も高まってきている.本論文では,倫理審査に関する先行研究を概観した上で,現行の倫理審査や倫理審査委員会が抱える課題について整理した.さらに,情報社会学分野で近年倫理面での問題が注目された事例を取り上げ,倫理審査が与える影響について検討した.最後に,倫理審査委員会3000個問題とも呼ぶべき現状に対して,2つの観点から解決策を提案した.


[受賞理由]

 本論文は、情報科学分野において近年増加している「人を対象とする研究」に関する倫理審査について、体系的な考察を行っている。倫理審査に関する現状のまとめとその問題点を整理し、倫理審査のための組織が多すぎる「倫理委員会3000個問題」を指摘している。本問題に対し、中央集権的や専門的に審査していく体制による解決を提案しており、本分野の発展に寄与する論文である。本論文が扱う内容は、情報科学分野においてタイムリーかつチャレンジングな問題を取り上げ、新規性、有用性も高い。以上の理由により論文賞に値するものと判断し、ここに推薦する。

吉見 憲二 君

2007年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業.2012年早稲田大学大学院国際情報通信研究科博士後期課程修了.博士(国際情報通信学).早稲田大学大学院国際情報通信研究科助教,佛教大学社会学部現代社会学科講師,准教授を経て2020年より成蹊大学経営学部総合経営学科准教授となり,現在に至る.経営情報学,情報社会学の研究に従事.