「大規模OSS開発における不具合修正時間の短縮化を目的としたバグトリアージ手法」

2015年度論文賞受賞者の紹介

大規模OSS開発における不具合修正時間の短縮化を目的としたバグトリアージ手法

[情報処理学会論文誌 Vol.56, No.2, pp.669-681]
[論文概要]

 本論文では,大規模OSS開発における不具合修正時間の短縮化を目的としたバグトリアージ手法を提案した.提案手法は,開発者の適性に加えて,開発者が一定期間に取り組めるタスク量の上限を考慮している点に特徴がある.Mozilla FirefoxおよびEclipse Platformを対象としたケーススタディを行った結果,以下の3つの効果を確認した.(1)一部の開発者へのタスク集中を緩和できること.(2)現状の方法に比べFirefoxでは50%,既存手法に比べFirefoxでは34%,Platformでは38%の不具合修正時間を削減できること.(3)プリファレンス(開発者の適性)と上限(開発者が取り組むことのできる時間の上限)が,タスクの分散効果にそれぞれ同程度寄与すること.

[推薦理由]

 本研究は,大規模オープンソースソフトウェア(OSS)開発において,不具合修正時間の短縮を目的としたバグトリアージ手法を提案している.この手法は,不具合に対する開発者の適性(プリファレンス),および,一定期間内に開発者が修正可能な不具合数の上限を考慮し,0-1 整数計画法に基づいてタスクの割り当てを最適化する独自性の高いものである.また,現実の大規模OSS開発の二つをケーススタディの題材として,詳細に各設定やパラメータの違いの影響や既存手法・人手による手法に対する優位性を検証している点も評価できる.以上の理由により情報処理学会論文誌の論文賞に相応しいと判断し,推薦する.

柏祐太郎 君

 平成25年和歌山大学システム工学部情報通信システム学科卒業.平成27年同大学大学院システム工学研究科博士前期課程修了.修士(工学)平成27年株式会社日立製作所入社.現在に至る.

大平雅雄 君

 平成10年京都工芸繊維大学工芸学部電子情報工学科卒業.平成15年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了.同大学情報科学研究科助教を経て,平成24年和歌山大学システム工学部講師(現在,准教授).博士(工学).ソフトウェアリポジトリマイニングの研究に従事.情報処理学会,電子情報通信学会,ヒューマンインタフェース学会,ACM 各会員.

阿萬裕久 君

 平成8年九州工業大学工学部電気工学科卒業.平成13年同大学大学院博士後期課程修了.博士(工学)平成13年愛媛大学工学部助手.平成25年同大学総合情報メディアセンター准教授.ソフトウェアメトリクス,エンピリカルソフトウェア工学に関する研究に従事.情報処理学会,電子情報通信学会,日本ソフトウェア科学会,日本知能情報ファジィ学会,IEEE 各会員.

亀井靖高 君

 平成17年関西大学総合情報学部卒業.平成21年奈良先端大情報科学研究科博士後期課程修了.同年日本学術振興会特別研究員 (PD).平成22年カナダQueen's大学博士研究員.平成23年九州大学大学院システム情報科学研究院助教.平成27年同大学同研究院准教授.博士(工学).ソフトウェアリポジトリマイニングの研究に従事.情報処理学会,電子情報通信学会,IEEE 各会員.