「動的推定によるプリフェッチ量最適化」

2010年度論文賞受賞者の紹介

「動的推定によるプリフェッチ量最適化」

[情報処理学会論文誌 コンピューティングシステム Vol.3, No.3, pp.56-66]
[論文概要]

 プロセッサアーキテクチャにおける重要な課題として,メモリレイテンシの克服が挙げられる.プリフェッチ技術はレイテンシ隠蔽に効果的であり,汎用プロセッサへの採用が進んでいる.しかしプリフェッチには,プログラムやキャッシュ容量次第で最適量が変化し,性能を大きく増減させるという問題がある.本論文では,キャッシュの内部データ対流とデータ取り込み速度のバランスに着目したプリフェッチスロットリング,CCCPOを提案する.シーケンシャルプリフェッチに適用した評価では,予測精度に着目した従来スロットリング手法に対し,最大で13%,調和平均でも1.3%の性能向上を示した.



[推薦理由]

 近年の高性能プロセッサでは、メモリ・アクセス・レイテンシは増大する傾向にあるため、キャッシュ・ミスを削減できるプリフェッチはより重要な課題である。本論文では、cache convention値(CC値)という新しい評価基準を提案し、CC値を用いたプリフェッチ量制御手法を提案している。本手法により、有効性は高いがキャッシュに余裕がない場合のプリフェッチ抑制、有効性は低いがキャッシュに余裕がある時のプリフェッチ推進を行うことで、適切なプリフェッチ制御を行えることが評価の結果示されている。手法の提案には新規性があり、着眼点・アイデアも技術的な見地から興味深いものとなっている。論文の記述も理解しやすく、質が高いことから授賞に相応しい論文であると判断した。

入江 英嗣 君

 1999年東京大学工学部電子情報工学科卒業.2004年年同大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程修了.博士(情報理工学).2004年科学技術振興機構CREST研究員.2008年東京大学情報理工学系研究科助教.2010年電気通信大学情報システム学研究科准教授.プロセッサ・アーキテクチャ,コンピュータ・システム等の研究に従事.情報処理学会,電子情報通信学会,IEEE,ACM各会員.

本城 剛毅 君

 2009年東京大学理学部情報科学科卒業.2011年東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了,同年同博士課程進学.プロセッサアーキテクチャの研究に従事.ACM,IEEE各会員.

平木 敬 君

 東京大学理学部物理学科,東京大学理学系研究科物理学専門課程博士課程退学,理学博士.工業技術院電子技術総合研究所,米国IBM社T.J.Watson研究センターをへて現在東京大学大学院情報理工学系研究科勤務.数式処理計算機FLATS,データフロースーパーコンピュータSIGMA-1,大規模共有メモリ計算機JUMP-1など多くのコンピュータシステムの研究開発に従事,現在は超高速ネットワークを用いる遠隔データ共有システムData Reservoirシステムの研究,超高速計算システムGRAPE-DRの研究を行っている.