情報処理学会中期計画(2021年度〜2025年度)

情報処理学会中期計画(2021年度〜2025年度)

情報処理学会中期計画に関するお知らせ

2021年7月29日

情報処理学会は2020年11月に 「情報処理学会創立60周年宣言~More local and more diverse for global values~」を公表したが、これに基づく「情報処理学会中期計画(2021年度〜2025年度)」を公表する。
本計画は「60周年宣言」を実現するための学会運営に関する計画であり、以下の3つの柱で構成される。

  1. 広く新しい情報処理ユーザへの学会活動の訴求
  2. 広く新しい情報処理ユーザへの新しいサービスの提供
  3. 自らが運営しやすい学会の情報システムと業務プロセスの整備

情報処理学会は、本中期計画に基づく活動を今年度である2021年6月より開始している。
本計画の遂行により本会の継続的活動をより強固にし、社会の期待に答えて参ります。


情報処理学会中期計画(2021年度〜2025年度)
2021年4月理事会決定(一般公開版)

1. はじめに
これまで情報処理学会は設立趣旨に基づく一貫した活動を行なって来た。学会創立60周年を迎えるにあたり、本会の継続性を確保しさらに社会的期待に応えていくために、2018年度に中長期的な計画の検討が必要とした。2019年度に慎重な議論を行い、「中長期視点に立った本会運営への提言」をまとめ、2020年度に「60周年計画」とともに中期計画を立案することとした。以上から「情報処理学会中期計画(2021年度〜2025年度)」を定めることとする。

2. 現状認識
本会の目的は、定款第3条にある「コンピュータとコミュニケーションを中心とした情報処理に関する学術および技術の振興をはかることにより、学術、文化ならびに産業の発展に寄与すること」である。情報処理の社会における価値は不変どころか、この2021年においても、SNS、動画視聴、ゲームといった生活の基本から、オンライン授業、ウェブ会議、新型コロナとビッグデータ、あるいは企業のAI活用とDX、「情報Ⅰ」必修化、デジタル庁・デジタルの日の新設など、様々な分野からの期待や責任が高まっている。情報処理は、研究者が研究開発するものから、市民が利用するものにまで広がっている。
改めてこのように考えてみると、本会は情報処理に対する社会の期待に応えられているだろうか。

●会員:
会員数は約2万名で、同規模以上の会員数を有する日本の学会は現在10学会程度である(医学薬学系を除く)[1]。しかし会員数は潜在的な減少傾向にあり、様々な工夫でこの規模を維持している。会員構成はおよそ学術界が4割、産業界が4割、学生等が2割である。学術界会員数は理工系離れとされる中も比較的安定しており、さらに2014年度に開始したジュニア会員制度のこの層への維持開拓が期待されているところである。他方、産業界会員数は約30年前をピークに減少傾向にあり、日本企業の研究所の状況とリンクしていると考えられるが、情報処理に関心の高いユーザの受け皿となっているとは言えない。
[1]学会名鑑 令和元年度調査

●サービス:
本会が提供するサービスに、会誌・論文誌の発行、大会・研究会・シンポジウムの開催、実務家・ITエンジニア支援、情報教育支援、国際・標準化、支部活動などがある。
  • 会誌は、本会の伝統を受け継ぎながらも積極的な変化を試みており、オンラインの活用やコンテンツの工夫で、会員外や若年層へもプレゼンスを得つつある。
  • 論文誌(ジャーナル)は現在年間500編程度が掲載され、大会・研究会・シンポジウム等は同15,000名程度が参加している。その推移は必ずしも順調ではないが、努力により価値を維持している。
  • 実務家・ITエンジニア向けは認定情報技術者(CITP)数が累計10,000名を突破した朗報がもたらされたところだが、この領域は情報処理の研究者だけでなく利用する実務家のニーズへの対応が求められる。近年ソフトウェアジャパンやデジタルプラクティス等の取り組みの見直しをする一方、新たな他団体連携(IT連)を実施している。
  • 情報教育はカリキュラム策定等の従前からの営みに加え、情報教育者への支援等を強化し、我が国の情報教育の地位向上の歩みを共にしている。

●財務:
全体で年間6から7億円程度の予算規模で事業を行なっている。会費、大会・研究会等開催、論文誌出版が収益の柱である。現在、本会の財務状況は健全で一定期間に限れば投資体力もあると考えられる。ただし、特に事業全体を左右する会費収入は、会員減少傾向は不安要因である。

●運営:
理事および学会事務局の工夫により、安定した運営とニューノーマル対応が行われている。ただし、事業・業務のプロセスと各種システムには改善の余地がある。現在進行形で改修が行われており、すでにWebサイトのリニューアルやツイッター情報発信の強化をしている。

以上から、現状認識は以下のようにまとめられる。
  • 情報処理は研究者が研究開発するものから、市民が利用するものになっている
  • 本会は情報処理の学術分野で一定以上の役割を果たしているが、情報処理のユーザ分野に関しては、まだまだ広く社会に貢献できる余地がある
  • 財務状況に不安はあるが、一定期間に限り投資体力があると考えられる
  • 事業・業務のプロセスと各種システムには改善の余地がある

3. 方針
現状認識、および情報処理学会60周年記念宣言の内容から、計画の方針を次のように考えた。
第一に、社会の情報処理への期待は大きく、本会への期待および本会が貢献できる領域は、情報処理ユーザ向けを中心にまだまだ大きい。第二に、本会の財務状況から少なくともここ数年に限れば投資体力がある。このことから年限を切って、新しい会員層の開拓を目指した成長戦略を立てるべきである。期間は財務予測等から5年間の中期計画とする。この期間で、新しい会員層(情報処理ユーザ)へのアプローチとサービスを徹底的な試行錯誤も含めて検討し、5年後10年度の安定した学会活動の基礎づくりを行うべきである。また、いくつかの事業には費用対効果の議論もあるが、本中期計画としては既存事業の見直しはスコープに含めず、新しいチャレンジを軸とする。既存事業の見直しは、必要に応じて適宜行うことは言うでもないが、本中期計画はむしろ事業のPDCAサイクルを健全に回すための環境整備を行うことの計画を行う。

方針を踏まえて、中期計画の柱を以下の3項目とする。
  1. 広く新しい情報処理ユーザへの学会活動の訴求
  2. 広く新しい情報処理ユーザへの新しいサービスの提供
  3. 自らが運営しやすい学会の情報システムと業務プロセスの整備

4. 計画
中期計画の柱3項目に関して、4.1から4.3に計画を定める。なお各柱は相互に強く関連する。とくに柱(1)と(2)は新しい会員層(情報処理ユーザ)を意識して、マーケティングとサービス開発の両面から活動を行う。新しい会員層の例には、実務・ITエンジニアや情報教育関係者と生徒、およびコンピュータが好きな若年層などがある。この対象の検討と選定も重要な戦略課題である。

4.1広く新しい情報処理ユーザへの学会活動の訴求
本柱の目標は、新しい会員層を開拓して、会の活動と財政の基盤となっていただくことである。
具体的な目標を「新たな会員種別の開発を前提とした会員3万人の獲得」とする。新しい会員層にアピールしていくためには、その会員層に応じた複数の新しい会員スキーム(プレミアムやエントリー)が必要と考えられる。仮に低価格の会費会員の存在も前提とすると、現在の規模の実質的維持の具体目標が会員3万人である。したがって、新しい会員スキームの開発を目標に含む。
このために、サービスの広報、サービス実施の結果分析、分析結果からリピーターもしくは会員の獲得に至る業務を遂行するマーケティングに関する責任者を任命し、新サービスの企画と連携した活動を行うものとする。
計画は、広報システムおよび会員マネジメントシステム、および新しい会員スキーム(会費スキーム)の検討と実践を順次行い、本期間内で本格運用するものとする。

4.2広く新しい情報処理ユーザへの新しいサービスの提供
本柱の目標は、新しい会員層への新しいサービスを提供することである。
新しい会員層とは、従来の研究開発にとらわれない「情報処理ユーザ」層であり、対象の検討と選定も重要な戦略課題である。サービス開発の取り組みは積極的な試行錯誤となるべきで、またこの分野の特徴からしても、短期で足回りよく様々なサービスを次々投入できるようになるのが望ましい。すなわち本柱で重要な点は、各担当からのタイムリーな新サービスの提案、マーケティングおよび新情報システムと連携した低コストで新サービスが開発できる学会全体の仕組みの確立(共通新サービスフレームワーク)、およびうまく行かない時の見極め判断を適切に行える方法論の確立である。
計画は、新サービスの試行とサービスの見極め方法論の検討をセットで多数行う。新しいサービスの立ち上げが見極め方法論と共に確立でき次第、既存事業との整合(見直し)を行う計画立案までを本期間内で行うこととする。

4.3自らが運営しやすい学会の情報システムと業務プロセスの整備
本柱の目標は、新しい会員サービスと新しい会員獲得のための情報システムの刷新と、各種サービスを効率よく行うための業務プロセスの整備(DX)である。
このために、本業務を遂行する責任者を任命し、情報システムと業務プロセスの整備を順次行うものとする。
計画は、環境整備の優先順位検討を進めていくが、喫緊の課題解決(基幹系情報システムおよび業務プロセスの改修、会員データの統合等)を優先し、追って柱1の会員戦略および柱2のサービス戦略対応を検討するものとする。なお計画の遂行に関しては、移行にかかる業務コストへの現実的な留意も必要である。

以上