第6回:
IT分野の研究開発動向を俯瞰する

日時:2019年12月9日(月) 10:00~16:50
会場:国立研究開発法人科学技術振興機構 東京本部別館(K’s五番町) 1Fホール(東京会場)
   大阪大学中之島センター2F 講義室201(大阪会場)
   東北大学電気通信研究所 本館1階 オープンセミナールーム(東北会場)
受付開始:9:30~

IT分野のうち、特に人工知能、ロボティクス、社会システム、コンピューティングアーキテクチャ、量子コンピューター、ブロックチェーンを取り上げ、各分野の研究開発動向を俯瞰する。各分野に関して、俯瞰図を示して概観するとともに、注目する技術動向・政策、国際比較、今後の方向性等についても述べる。
オープニング[10:00~10:05]

コーディネータ:木村 康則

国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー

【略歴】1981年東工大院修士了。同年富士通入社。1985年~1988年(財) 新世代コンピュータ技術開発機構出向。1995年スタンフォード大学客員研究員。2002年~2005年東京大学客員教授。2007年富士通次世代テクニカルコンピューティング開発本部長。2011年米国富士通研究所 President&CEO。2014年富士通研究所フェロー。2017年科学技術振興機構(JST) 上席フェロー。2019年富士通退職、引き続きJST勤務。博士(工学)。

セッション1[10:05-10:50]

人工知能分野を俯瞰する

人工知能(AI)は3回目のブームにあって、社会に様々な応用が広がり、AIと社会との関係が重要なものになってきている。このような時系列推移を踏まえて、AI分野を大きく2つの視点から、8つのサブ領域に分けて、研究開発動向や国内外の注目政策を俯瞰する。第1の視点は、AIと社会との関係から取り組まれるようになった新たな研究課題である。この視点から、社会におけるAI、AIソフトウェア工学、意思決定・合意形成支援、データに基づく問題解決という4つのサブ領域の動向を示す。第2の視点は、第3次ブームを牽引している機械学習を中心としたAI基盤技術の進展である。この視点では特に、機械学習、画像・映像解析、自然言語処理、計算脳科学という4つのサブ領域の動向を示す。ただし、AI関連は、連続セミナー第1回・第3回・第4回で取り上げられているので、重複感が強くなりすぎないように配慮する。

講師:福島 俊一

国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー

【略歴】1982年東京大学理学部物理学科卒業,NEC入社。以来,中央研究所にて自然言語処理・サーチエンジン等の研究開発・事業化および人工知能・ビッグデータ研究開発戦略を担当。工学博士。2005~2009年NEC中国研究院副院長。2011~2013年東京大学大学院情報理工学研究科客員教授(兼任)。2016年4月から科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー。2015~2017年人工知能学会理事(人工知能学会第31回全国大会実行委員長)。1992年情報処理学会論文賞,1997年情報処理学会坂井記念特別賞,2003年オーム技術賞等を受賞。

セッション2[11:00-11:40]

ロボティクス分野を俯瞰する

ロボティクスは、ITと物理世界とのインタラクションに不可欠な要素であり、近年は、人間との共生に向けた人間行動の理解や適切な介入、自律性の発現を促進する研究の傾向が顕著である。社会のスマート化による効率化、省エネルギー化、人間とロボットの協働を前提にした労働のモジュール化と参加を促すプラットフォームの構築など、実社会・実環境への浸透も進んだ。自律走行車はロボティクス技術の結晶と言え、今後も一見「ロボット」とは見えないロボティクス活用は拡大すると見込まれる。製造業をはじめとした労働生産性の向上、ロボット活用領域の拡大を狙って、各国とも次の時代に求められるロボティクスの研究開発を強化している。我が国は、産業用ロボットの開発・利用、ヒューマノイドの研究開発などを牽引してきた。これらを足がかりとして、研究開発用ロボットなど利用領域の拡大や、人とかかわる環境への導入における安全性向上に資するソフトロボティクスや生物規範型ロボティクスなどの開発に注目が集まっている。

講師:茂木 強

国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー

【略歴】1980年京都大学理学部卒業。同年4月三菱電機(株)入社。汎用機からミニコンのコンパイラの開発に従事。1991年米国スタンフォード大学留学。以後、情報技術総合研究所にて情報システム技術部門統括を経て、2013年より、国立研究開発法人 科学技術振興機構研究開発戦略センターにて情報科学技術分野に関する研究開発戦略策定に従事。

セッション3[11:45-12:15]

社会システム科学を俯瞰する

社会システム科学とは、Society 5.0が目指す社会における社会システムを構築し、安定的に動作させるために必要となる科学技術を想定している。IoTやAIといった科学技術が、社会に広く浸透していくのに対応して第5期科学技術基本計画でSociety 5.0が掲げられた。Society 5.0は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済発展と社会課題解決を両立させる社会でる。Society 5.0で実装される社会システムも、サイバー空間とフィジカル空間の両方を考慮する必要がある。サイバー空間側であるICTシステムの設計、構成、監視、運用、制御等に関わる技術として、社会システムアーキテクチャ、社会インフラマネジメント、サイバーフィジカルセキュリティの動向を俯瞰し、フィジカル空間側で人間社会との関わりに着目した科学技術として、計算社会科学、サービスサイエンス、マッチングやオークションといった制度設計の動向を俯瞰する。

講師:青木 孝

国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー

【略歴】1985年3月東京大学大学院情報工学専攻修士課程終了。同年富士通入社。以来、富士通研究所にてロボットのソフトウェア/ハードウェアの研究・開発およびJavaチップのシステムソフトウェア開発に従事。その後、スーパーコンピュータ「京」の開発やユビキタスプラットフォーム研究所所長、研究所技術のテクノロジーマーケティングを担当。2018年から科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー。

セッション4-a[13:15-13:30]

コンピューティングアーキテクチャ分野を俯瞰する

コンピューティングアーキテクチャの分野においては、コンピューターの使い方から見た、大きな構造について技術動向を俯瞰する。CPU のインストラクションセットや、コンピューター単体の構造などには立ち入らない。性能向上、計算負荷に応じた構成、新しい応用の開拓などについて以下のような領域に分けて技術動向を俯瞰する。
(1) 布線論理型やニューロモーフィックなどの新しいアーキテクチャのプロセッサ
(2) 計算機科学の観点から、ソフトウェアも含めた量子コンピューター
(3) 大規模なデータセンターを運用し、ビジネスに活用するための技術
(4) 大規模データ処理のための計算処理そのものとデータベースの技術
(5) さまざまなサービスを結びつけ、新たなサービスを創りだし、それらを人々に届けるためのサービスプラットフォーム技術
(6) IoT をどのように設計すべきかというアーキテクチャ技術
(7) 分散システムやP2P ネットワークとしてのブロックチェーン技術
なお、(1)、(2)、(7)に関しては、本講演の後にトピックスを紹介する。

講師:木村 康則

国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー

【略歴】1981年東工大院修士了。同年富士通入社。1985年~1988年(財) 新世代コンピュータ技術開発機構出向。1995年スタンフォード大学客員研究員。2002年~2005年東京大学客員教授。2007年富士通次世代テクニカルコンピューティング開発本部長。2011年米国富士通研究所 President&CEO。2014年富士通研究所フェロー。2017年科学技術振興機構(JST) 上席フェロー。2019年富士通退職、引き続きJST勤務。博士(工学)。

セッション4-b[13:30-14:20]

革新的コンピューティングの創生に向けて〜量的変化から質的変化へ〜

コンピュータ・システムの発展を支えてきた半導体の微細化がついに終焉を迎えつつある。このままでは、着実に発展を遂げてきたコンピュータ・システムの性能向上が停滞するという深刻な事態を招きかねない。その一方、ニーズ面ではビッグデータやAI処理に代表されるように高度かつ複雑なアプリケーションが爆発的に普及しており、持続可能な高度情報化社会を実現するには更なる情報処理能力が求められる。したがって,このようなニーズ/シーズ間ギャップを解消すべく、微細化に頼らない新たなコンピュータ・システム構成法の確立が今まさに世界で求められている。我々コンピュータ・アーキテクトは、このような本質的課題をどう解決すべきであろうか?本講演ではその一つのアプローチとして、量子や超伝導、シリコンフォトニクスといった新しいデバイスを対象とし、デバイスから回路、アーキテクチャ、アプリケーションまでを見据えた「システム・コデザイン」の研究事例を紹介する。また、2018年度からスタートしたJSTさきがけプログラム「革新的コンピューティング技術の開拓」で進行している若手新鋭研究者の活動内容を紹介し、様々な観点から今後のコンピューティング技術の方向性を議論する。
井上 弘士

講師:井上 弘士

国立大学法人 九州大学 大学院システム情報科学研究院 情報知能工学部門 教授

【略歴】1996年に九州工業大学大学院情報工学研究科博士課程(前期)、2001年に九州大学大学院システム情報科学研究科情報工学専攻博士課程(後期)をそれぞれ修了。博士(工学)。2001年より福岡大学工学部電子情報工学科助手。2004年より九州大学大学院システム情報科学研究院助教授、2015 年より同大教授、現在に至る。高性能/低消費電力プロセッサ/メモリ・アーキテクチャ、スーパーコンピューティング、超伝導コンピューティング、ナノフォトニック・コンピューティング、量子コンピューティング、などに関する研究に従事。2000年情報処理学会創立40周年記念論文賞、2008年科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞。2018年よりJSTさきがけ「革新的コンピューティング技術の開拓」領域総括。

セッション5-a[14:30-14:45]

量子コンピューティング分野を俯瞰する

量子干渉や量子もつれといった量子力学特有の性質を利用して情報処理する「量子コンピュータ」に注目が集まっている。大規模な量子コンピュータが完成すれば、因数分解や検索などの特定の種類の問題は現在のどんなコンピュータよりも圧倒的に効率よく計算できるようになるとされているが、現状の開発状況から見るとその実現まではまだ少し時間がかかりそうである。一方で、非フォンノイマンアーキテクチャの文脈で注目が集まるアニーリングマシンは、試行的な利用が着実に広がってきている。本講演では、理論モデル、ソフトウェア、アーキテクチャ、ハードウェアなど量子コンピューティングの「今」の雰囲気を、コンピューターサイエンスの視点から眺めて紹介する。

講師:嶋田 義皓

国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー

【略歴】JST 研究開発戦略センターフェロー。博士(工学、公共政策分析)。2008年東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。2008年日本科学未来館科学コミュニケーター、2012年JST戦略研究推進部主査を経て、2017年4月より現職。2018年に政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策プログラム博士課程修了。専門分野は、物性物理、科学コミュニケーション、ICT、科学政策。

セッション5-b[14:45-15:35]

量子コンピュータと機械学習の基礎と応用

これまでは夢のコンピュータと呼ばれていた量子コンピュータが近年ついに技術的な壁を乗り越えて現実的な開発が進んできました。量子コンピュータは現在のコンピュータの原理を1から見直し、ナノサイズのより小さい技術で1から構築された新しい計算原理のことです。それら量子コンピュータにはこれまでの歴史とこれからの展望があり、量子コンピュータの発展とともに社会に与える影響が明らかになってきました。現在のコンピュータの技術の限界が見えてきた今、世界的なGAFAと呼ばれる巨大IT企業を中心に開発競争が始まっており、すでに量子コンピュータをめぐる大きな市場が形成されつつあります。ここでは、量子コンピュータの仕組みを簡単に確認し、期待される量子化学アプリケーションを確認した上、特に機械学習というどの分野に応用できる汎用性の高いアプリケーションに対して量子コンピュータがどのように優位性を持つことができるのか確認をします。
湊 雄一郎

講師:湊 雄一郎

MDR株式会社 代表取締役

【略歴】1978年東京都世田谷区生まれ。2004年東京大学工学部建築学科卒業(構造計算力学)。2005年株式会社隈研吾建築都市設計事務所勤務。2008年MDR株式会社設立〜現在に至る。
2008年環境省エコジャパンカップ・エコデザイン部門グランプリ。2015年総務省異能vation最終採択。2017年内閣府ImPACT山本プロジェクト、プログラムマネージャー補佐。2019年文科省さきがけ量子情報処理領域アドバイザー。

セッション6-a[15:45-16:00]

ブロックチェーン分野を俯瞰する

暗号技術に基づく仮想通貨の草分けは、David Chaum のブラインド署名技術を用いたDigiCashである(1990年公開)。これは、最終的にはクレジットカードの台頭により普及しなかったが、2008 年に Satoshi Nakamotoを名乗る謎の人物によって書かれた論文に基づき、ビットコインが生まれた。その実現は、暗号技術とP2Pネットワーク技術、分散合意形成技術などの既存技術の統合によるものであり、第1世代のブロックチェーン技術に分類される。その後、2014年以降には、第2世代技術として、この技術を応用し改良したスマートコントラクトなどの技術が生まれ、これらの技術を活用したイーサリアムなどの仮想通貨が誕生するとともに、金融分野への活用が可能な技術としての期待が高まってきた。さらに、金融以外の分野への活用として、文書・著作権や分散型アプリケーションの管理、医療情報管理、製品・サービスのトレーサビリティ、IoTなどに対応できる第3世代技術に進化しつつある。

講師:的場 正憲

慶應義塾大学 理工学部物理情報工学科 教授/国立研究開発法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー

【略歴】慶應義塾大学理工学部物理情報工学科教授(兼)JST-CRDSフェロー、博士(工学)。2011年4月より、JST-CRDSでシステム・情報科学技術を中心とする挑戦的戦略研究領域、特に萌芽的研究領域の調査研究に従事。専門は、強相関電子物理、複雑系の科学、新物質探索・設計、発見科学(そして、Beyond Disciplineの気概と勇気をもって前人未踏の新しい分野に挑戦し、困難や試練に耐えて開拓に当たることができる「自我作古」人材の育成)。

セッション6-b[16:00-16:50]

ブロックチェーン技術のビジネスへのインパクトと今後の課題

ブロックチェーン技術は、その登場以来、インターネットを革新するものとして大きな期待を受けてきた。様々な業界においてブロックチェーン技術の活用可能性が検討されるとともに、スマートコントラクトの拡充や処理速度の改善など様々な技術的課題を解決する試みも進んでいる。その一方で、一般企業にとって既存の事業にどのように活用すればよいか、あるいは既存の情報システムと比べてどのようなメリットや意義があるか、その考え方は必ずしも明確になっていたとは言えなかった。こうした中、近年国内外においてIoT、電力、メディア、公共サービスなど様々な場面でブロックチェーン技術を導入する具体的な動きが出てきている。本講演では、ブロックチェーン技術の本質とメリット・デメリットを改めて整理したうえで、一般企業が活用する際の観点をフレームワークとして提示する。また、そのフレームワークをもとに、世界におけるブロックチェーン活用事例を概観し、企業にとってのブロックチェーン技術活用の基本的な戦略や、今後の課題を明らかにする。

講師:高木 聡一郎

東京大学大学院情報学環 准教授

【略歴】東京大学大学院情報学環准教授。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主幹研究員を兼務。株式会社NTTデータ、同社システム科学研究所、国際大学GLOCOM教授/研究部長/主幹研究員等を経て2019年より現職。これまでに、国際大学GLOCOMブロックチェーン経済研究ラボ代表、ハーバード大学ケネディスクール行政大学院アジア・プログラム・フェローなどを歴任。専門分野は情報経済学、デジタル経済論。主な著書に「ブロックチェーン・エコノミクス 分散と自動化による新しい経済のかたち」(翔泳社)など。2019年にKDDI財団よりKDDI Foundation Awardを受賞。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。