第4回:
AIと歩む未来(3):社会に広がるAIの現状と課題

日時:2019年10月25日(金) 10:00~16:45
会場:日本大学理工学部駿河台校舎1号館6F CSTホール(東京会場)
   大阪大学中之島センター7F 講義室702(大阪会場)
   東北大学電気通信研究所 本館6階 中会議室(M602)(東北会場)
受付開始:9:30~

人工知能(AI)技術の応用が急速に拡大し、社会の中の様々なシステムに組み込まれるようになった。それにつれて、AI技術の性能面だけでなく、社会システムの構成要素としての要件や開発方法論といった面からも取り組むべき様々な技術課題が指摘されるようになった。機械学習に必要なデータ量・ラベル付け負荷の問題、AI応用システムのブラックボックス問題や品質保証問題、あるいは、フェイクニュース・フェイク動画等の問題である。AIが人間と協調し、健全な社会の発展に向けて、これらの問題への取り組みの状況を紹介する。
オープニング[10:00~10:15]

コーディネータ:浦本 直彦

株式会社三菱ケミカルホールディングス 先端技術・事業開発室 .Chief Digital Technonology Scientist/一般社団法人人工知能学会 会長

【略歴】1990年、日本IBM入社、東京基礎研究所にて、自然言語処理、Web技術、セキュリティ、クラウドなどの研究開発に従事。2017年、三菱ケミカルホールディングスに入社し、人工知能やIoT技術を活用したデジタル変革の推進を行なっている。国立情報学研究所客員助教授、情報セキュリティ大学院大学連携教授、情報処理学会理事などを歴任。2018年より、人工知能学会会長および九州大学客員教授を兼務。

セッション1[10:15-11:15]

限られたデータに対する機械学習

近年、深層学習の登場により、画像認識などのパターン認識における精度向上が著しい。深層学習は教師あり学習であるため、高い精度を得るには正解ラベルのついた大量のデータを学習する必要がある。しかし、十分な量の学習データを自前で準備するのは、必ずしも容易なことではない。データ収集に時間を要するだけでなく、正解ラベル付けは人間が介在するため高コストである。さらに、発生頻度の低い異常データは、そもそも大量に手に入れるのが難しい。本講演では、このような限られたデータに対する機械学習について概観する。まず、評価に必要なサンプル数や学習に必要なサンプル数、あるいは認識精度の評価方法について述べた後、転移学習などの限られたデータに対する機械学習技術や、クラスインバランスなデータに対するAUC最適化について述べる。さらに、NECで開発した少量の学習データに対する機械学習技術についても紹介する。

講師:佐藤 敦

NEC データサイエンス研究所 主席研究員

【略歴】1989年東北大学大学院理学研究科博士課程了。理学博士。同年NEC入社、中央研究所にてパターン認識、機械学習の研究開発に従事。郵便区分機向け文字認識の開発、顔認証エンジンNeoFaceの開発にも携わる。1994~1995年米国ワシントン大学客員研究員、2008年米国マサチューセッツ工科大学客員研究員。現在、NECデータサイエンス研究所主席研究員。東京大学大学院情報理工学系研究科客員教授、理研AIP-NEC連携センター 副連携センター長を兼務。2010年度情報処理学会喜安記念業績賞、2012年度電子情報通信学会業績賞、2014年度全国発明表彰発明賞など受賞多数。

セッション2[11:25-12:25]

フェイクニュースと計算社会科学

2016年以降、嘘やデマ、陰謀論やプロパガンダ、こうした虚偽情報がソーシャルメディアを介して大規模に拡散し、現実世界に混乱や悲劇をもたらす事象が次々と発生している。フェイクニュースと呼ばれているこれらの一連の現象は、人間とデジタルテクノロジーの相互作用が生み出す複雑な現象であり、私たちの日常生活や民主主義を脅かす深刻な社会問題である。本講演では、フェイクニュースとは一体何で、どのような仕組みで拡散するのかについて、伝統的な社会科学だけでなく、計算社会科学という新しい学際科学の知見を取り入れながら解説する。大規模ソーシャルデータの分析によって、情報カスケードとしてのフェイクニュースの性質が、また、計算モデルによって、フェイクニュースの温床となるエコーチェンバーがSNS上に生じる仕組みが示される。さらに、進化し続けるフェイクニュースに対抗するために、計算社会科学に何ができるかについても議論する。

講師:笹原 和俊

名古屋大学 大学院情報学研究科 講師

【略歴】2005年東京大学大学院総合文化研究科博士課程終了。博士(学術)。理化学研究所BSI研究員、日本学術振興会特別研究員PD、FIRST合原最先端数理モデルプロジェクト研究員を経て、現在、名古屋大学大学院情報学研究科講師およびJSTさきがけ研究者(兼任)。この間学外では、UCLA訪問研究員(2009年度)、Indiana University訪問研究員(2016年度)を務める。主著に『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(化学同人)がある。

セッション3[13:25-14:25]

AI倫理と社会

AIが社会の隅々まで浸透しており、我々の生活に与える影響は大きくなっている。このような状況でAIはどうあるべきか、すなわちAI倫理とAIとの付き合い方について知っておきたい。まず、AI倫理に関して、国内外での動向を紹介する。海外動向としては、IEEE: Ethically Aligned Design 、EC HLEG:Ethical Guideline for Trustworthy AI が発表され、国内では内閣府の人間中心AI推進会議の報告書が公開された。これらの報告書で重要さが指摘されている透明性、説明可能性、アカウンタビリティ、トラストについて説明する。また、AIシステムが実用に供されるあたって問題となる法律的問題、AIの利用でもっとも利益があがる個人データの保護と利活用について概観する。

講師:中川 裕志

理化学研究所 革新知能統合研究センター

【略歴】1975年東京大学工学部卒業。1980年東京大学大学院修了(工学博士)。1980年~1999年横浜国立大学工学部勤務。1999年~2018年東京大学情報基盤センター教授。2018年~現在理化学研究所。人工知能、自然言語処理、機械学習、人工知能倫理と法制度の研究に従事。

セッション4[14:35-15:35]

機械学習モデルの判断根拠の説明

高精度な認識・識別が可能な機械学習モデルは一般に非常に複雑な構造をしており、どのような基準で判断が下されているかを人間が窺い知ることは困難である。このような機械学習モデルのブラックボックス性は、モデルの動作検証や誤動作の原因究明の難しさを押し上げる要因となっており、機械学習モデルを運用する上での懸念事項の一つとなっている。特に、近年の機械学習技術の利用の拡大に伴って、モデルのブラックボックス性の解消が喫緊の課題として取り上げられつつある。このようなモデルのブラックボックス性を解消する方法の一つが「モデルの判断根拠を調べる」ことである。本講演ではこれらモデルの判断根拠を"説明"する代表的な手法とそれらを取り巻く近年の展開について紹介する。

講師:原 聡

大阪大学 産業科学研究所 助教

【略歴】2013年3月大阪大学大学院工学研究科博士後期課程終了。博士(工学)。同年日本アイ・ビー・エム入社。特徴選択や異常検知などの機械学習技術の研究に従事、2016年4月より国立情報学研究所ビッグデータ数理国際研究センター 特任助教。2017年9月より現職。2016年より機械学習モデルの説明法の研究に注力。

セッション5[15:45-16:45]

機械学習の産業応用を支える工学技術の最新動向

機械学習を用いて構築したソフトウェアシステムは、人が直接設計した規則ではなく、与えた訓練データから得た規則に基づいて動作する。これはプログラミング・ソフトウェア開発のパラダイムが異なるともいえ、ソフトウェア工学における従来の知見や技術がそのままでは通用しないことが多い。これに対し国内・海外ともに、非常に盛んな研究開発や議論がなされている。本講演では、特にテスティング分野や自動運転分野における「品質」の観点を中心として、機械学習のための新しいソフトウェア工学(機械学習工学)の動向を紹介する。

講師:石川 冬樹

国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 准教授

【略歴】国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 准教授 および 先端ソフトウェア工学・国際研究センター 副センター長。博士(情報理工学,東京大学,2007年)。電気通信大学客員准教授兼任。ソフトウェア工学および自律・スマートシステムに関する研究・教育に従事。日本ソフトウェア科学会 機械学習工学研究会 主査。AIプロダクト品質保証コンソーシアム 副運営委員長。