第5回:
シミュレーションと人工知能

日時:2019年11月15日(金) 10:00~16:45
会場:化学会館7F(東京会場)
   大阪大学中之島センター2F 講義室201(大阪会場)
   東北大学電気通信研究所 本館6階 中会議室(M602)(東北会場)
受付開始:9:30~

シミュレーションと人工知能の組合せは、これからの社会システムや生産技 術を設計・開発していく上で欠かせない要素となりつつある。IoTや人工知能に代表される近年の技術革新の特徴は、社会に幅広く直接的に関与することで、社会システムや製造・流通などを根本的に再構成する可能性を秘めている点である。シミュレーションはそのような真新しい状況を効果的に設計するための必須の技術であり、人工知能と組み合わせることで、多様で柔軟なシステムの設計を可能とできる。本セミナーでは、ものづくり、金融、自動交渉、交通、人流と言った様々な分野におけるシミュレーションと人工知能の活用手法を、各々の専門の方々から講演していただき、この分野の先端の応用事例などを紹介していく。
オープニング[10:00~10:10]

コーディネータ:野田 五十樹

国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 総括研究主幹

【略歴】産業技術総合研究所人工知能研究センター総括研究主幹。1992年、京都大学大学院工学研究科修了後、電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)に入所。博士(工学)。ロボカップの創立メンバーとして、シミュレーションリーグの立ち上げを行い、ロボカップ国際委員会会長などを歴任。研究分野はマルチエージェント社会シミュレーション、機械学習、減災情報システム。株式会社未来シェア取締役。

セッション1[10:10-11:10]

金融分析におけるデータ解析とシミュレーションの統合

本講演では、最新の人工知能技術を金融市場の分析に応用した事例を紹介する。特に注文情報や経済ニュース等の大量データを自動的に分析するデータマイニングで、どのような種類のデータをどのように処理しているかについて、いくつかの研究事例を基に解説する。例えば、動画や画像、テキストデータなどのオルタナティブデータと呼ばれる今まで経済分析に用いられてこなかったデータを新たに導入した市場分析や、経済状況に関する人々の認識を自然言語処理技術により抽出する研究などを紹介する。さらに、データ解析だけでは将来の制度設計は行えないので、人工市場シミュレーションにより市場制度の有効性を事前評価した事例を紹介する。最後に、データ解析と経済シミュレーションの統合に関する最新の研究動向も紹介し、人工知能技術を金融市場分析に用いる可能性と限界についても議論を行う。

講師:和泉 潔

東京大学大学院 工学系研究科 教授

【略歴】1970年生。1993年東京大学教養学部基礎科学科第二卒業。1998年同大学院 総合文化研究科 広域学専攻博士課程修了。博士(学術)。同年より2010年まで、電子技術総合研究所(現 産業技術総合研究所) 勤務。2010年より東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻准教授。2015年より同教授。マルチエージェントシミュレーション、特に社会シミュレーションに興味がある。IEEE、人工知能学会、情報処理学会、電子情報通信学会会員。

セッション2[11:20-12:20]

自動交渉における学術研究の現状と実応用にむけた取り組み

将来、様々なシステムがAI により制御されている世界において、複数のAIが協調・連携することにより、より効率的な社会システムの構築や新たなWin-Win機会の向上が見込まれる。そのようなAI間連携基盤において、重要な技術となるのが、自動交渉である。自動交渉により、複数の合理的な主体(エージェント)間で対立が発生した場合に自動的に交渉を行い、主体間で協調を可能とする。まず、交渉理論による様々な交渉問題への解析やエージェント間で合意を形成するための様々な交渉プロトコルなどを中心に、マルチエージェントシステムにおける自動交渉の学術研究分野の近年の進展と成果を述べる。次に、各エージェントの交渉戦略を評価するため重要な共通テストベッドとなっている自動交渉エージェント競技会(ANAC)の取り組みと最新の状況を述べる。さらに、自動交渉の実用化の例として製造バリューチェーンの効率化・柔軟化に向けた取り組みを紹介する。

講師:藤田 桂英

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院 准教授/国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センターNEC-産総研人工知能連携研究室 招聘研究員

【略歴】2010年より日本学術振興会 特別研究員(DC1、PD)。2010年6月よりマサチューセッツ工科大学訪問学生。2011年6月 名古屋工業大学大学院情報工学専攻修了。博士(工学)取得。2011年より東京大学大学院工学系研究科特任研究員。2012年より東京農工大学大学院工学研究院准教授。2018年より産業技術総合研究所招聘研究員兼任、現在に至る。情報処理学会山下記念研究賞(2010年)、2018年度マイクロソフト情報学研究賞。PRIMA2014 Best Paper Award等を受賞。

セッション3[13:25-14:25]

機械学習とシミュレーションの融合による設計・計画の高品質化・高効率化

シミュレーション技術及び機械学習技術の発展に伴い、ビッグデータの学習による解析のみならず、大規模シミュレーションと機械学習を融合させ、新しい知識を創出する技術開発が活発化している。データ同化をはじめとして、シミュレーションと機械学習の融合には様々な方向性が考えられるが、ここでは特にシミュレーションに確率的な学習・探索アルゴリズムを組み合わせ、シミュレーション対象において目的事象が起きる条件や最適状態を実現する条件を確率的に探索し、それら条件に至る途中の生起事象やシナリオの探索と生起確率を定量評価する技術の研究開発について、近年の進展を述べる。そして、非常に低確率でしか発生しない自然災害の生起シナリオや、工学的なシステムにおいて同じく特殊な条件でないと発生しない不具合やそれに至るシナリオを効率的かつ確率定量的に見つけ出すシミュレーションの実現例を紹介する。このような融合技術により、産業界においても高品質な設計・計画を高効率に実現する可能性が飛躍的に拡大する。

講師:鷲尾 隆

国立大学法人大阪大学産業科学研究所教授・国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センターNEC-産総研人工知能連携研究室連携研究室長

【略歴】1987年日本学術振興会特別研究員。1988年東北大学工学研究科原子核工学専攻博士課程後期修了(工学博士)。1988年マサチューセッツ工科大学原子炉研究所客員研究員。1990年(株)三菱総合研究所研究員。1996年大阪大学産業科学研究所助教授、2006年より大阪大学産業科学研究所教授にて現在に至る。2016年より産業技術総合研究所人工知能研究センターNEC-産総研人工知能連携研究室連携研究室長クロスアポイント。IBM Faculty Award、人工知能学会功績賞など受賞。

セッション4[14:35-15:35]

時空間統計解析と学習型マルチエージェントシミュレーションによる集団最適誘導技術

IoT時代では、多種多様なセンサーが時間と空間(場所)にひも付いた現実世界の情報収集が可能になる。本講演では、このような時空間データから「いつ、どこで、何が、どうなる」を予測する“時空間多次元集合データ分析”について論じる。“集合データ分析”は、空間メッシュ内の人または車両の数など、個々が認識できない場合の人または交通の時空間的な流れを推定するための技術で、集計された統計データのみが利用可能な状況での分析を意味する。本講演では、我々が新たに考案した時空間多次元データ集合分析の要素技術のいくつかを紹介する。次いで、イベント空間や都市空間などの混雑した環境において、近未来予測技術を用いて、人々の流れの近未来の混雑状況を予測することにより、近未来の混雑を抑制すべく、集団全体の動きを効率的に誘導するリアルタイム、先行的ナビゲーション技術について解説する。

講師:上田 修功

日本電信電話株式会社 コミュニケーション科学基礎研究所 フェロー・上田特別研究室長

【略歴】1984年大阪大学大学院通信工学専攻修士課程修了。日本電信電話公社(現NTT)入社。1991年NTTコミュニケーション科学研究所主任研究員、1993年米国Purdue大学客員研究員、2010年NTTコミュニケーション科学基礎研究所所長、2016年 同研究所 特別研究室長(NTTフェロー) 機械学習・データ科学センタ代表、理化学研究所革新知能統合研究センター 副センター長、2019年JST数理的活用基盤CREST研究総括、京都大学大学院情報学研究科連携教授、神戸大学大学院システム情報学研究科客員教授、電子情報通信学会、情報処理学会、IEEE、日本メディカルAI学会各会員。

セッション5[15:45-16:45]

MaaS にむけたマルチエージェント社会シミュレーションの応用

マルチエージェント社会シミュレーションを用いた MaaS (Mobility as a Service) の評価・設計について解説する。交通におけるシェアリング経済の先端であるMaaSは、少子高齢化による交通難民問題などを解決する切り札として期待されている一方、その制度設計はデリケートなものになっている。特に、ショッピングや医療介護など他のサービスとの連携を組み込んだMaaSは、複雑に絡み合う制約や評価関数を適切に分析しながら設計していく必要がある。マルチエージェント社会シミュレーションはそのような社会的な動きを多面的に再現・評価する有力なツールであり、MaaSのような具体的問題に対して様々な昨日を提供できる。本講演では、実際にサービスとして展開しているSAVS (Smart Access Vehicle Service)の事例を取り上げ、どのようなシミュレーションが可能で、どう設計に活かすことが出来るのかを紹介する。

講師:野田 五十樹

国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 総括研究主幹

【略歴】産業技術総合研究所人工知能研究センター総括研究主幹。1992年、京都大学大学院工学研究科修了後、電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)に入所。博士(工学)。ロボカップの創立メンバーとして、シミュレーションリーグの立ち上げを行い、ロボカップ国際委員会会長などを歴任。研究分野はマルチエージェント社会シミュレーション、機械学習、減災情報システム。株式会社未来シェア取締役。