情報処理に関する法的問題(LIP)研究グループ新設のお知らせ

情報処理に関する法的問題(LIP)研究グループ新設

目的

情報処理技術は目覚ましいスピードで進化していますが、現状の民商法、著作権、特許権、不正競争防止法、個人情報保護法等の法制度は技術革新のスピードに追いついていません。情報処理/情報通信の現場では、これらの法律上または契約上の問題が潜んでいるにもかかわらず、リスク要因への意識が低いことにより、気が付かないうちに落とし穴に陥ることが少なくありません。
 第77回情報処理学会イベント企画「弁護士から見たICTの落とし穴」では、上記の弁護士による、法律上のトラブル等落とし穴についてご講演いただき、次にソフトウェア開発、産学連携、ビッグデータ処理やクラウド等の新技術を扱う実務家を交えて、ICT時代におけるガバナンスの観点からリスク管理のあり方についてパネルディスカッションを行いました。
 市毛弁護士が「ソフトウェア開発をめぐる法律問題」、三尾弁護士が「産学連携をめぐる法律問題」、平岡弁護士が「クラウドとビックデータをめぐる法律問題」と題して講演をいたしました。その後、実務家として発起人のうちの2名を含め現場の状況のことも交えてパネルディスカッションが行われました。
 ソフトウェア開発を前提としていない民法上の請負や委任などの従来型の法律関係では、ソフトウェア開発,特に非ウォーターフォールモデルであるプロトタイピングモデル、アジャイル開発などの開発方法には適用できない事例が出てくること、産官学連携においては、利益相反の関係、権利委譲の問題など、すべての大学でルール化されていないことも多いことが指摘され、さらに大学発ベンチャーにからむ問題について指摘がありました。クラウドに関する法的な整備はほとんど追い付いておらず、インターネットが止まったことによりサービスが提供できない場合の中断の責任はだれがとるのかなどの問題、ベンダとユーザが異なる国で活動する場合、またそもそも通信中段が起こった場合ユーザが悪いのかベンダが悪いのかという切り分けも現在の法律では明確化されていない現状について弁護士からの現状報告に加え、現場からの困惑も報告されました。
最近はやりのオープンソースに関しては、オープンソースのライセンス規約を適切に使うことでベンチャー企業が成長する例もあれば、適切に使えない場合には問題も起こりうることなどが指摘されました。
 会場からは、オープンソースが特許に使用された場合の対応、海外での事例、プロバイダの責任の範囲などについて質問がありました。
 その他、情報処理技術(アルゴリズムや実装法,それにプロトコル等)で資料が公開されていないもののリバースエンジニアリングやその結果を使った別の処理方式の開示が,どこまで許されるかが明確でないこと、また、例えば株売買のソフトウェアが自分でビッグデータを分析し市場(ほかのソフトの存在も含む)」を学習できる場合,ソフトウェアの作成者はその利用者行動による損害にどこまで責任を負うべきか、などといった問題もあります。倫理的な側面も視野に入れて考えると非常に多くの問題を抱えているのが実態です。
 情報処理Vol.55 No.3の特集「弁護士から見た情報処理」では上記の3テーマに加え、大学における情報処理の問題、SNSを巡る法律問題を扱いました(エディタ:高岡詠子、市毛由美子)。この特集のモニタ評価が非常に高かったこともあり、これらのことを踏まえ、情報処理に関して法整備が追い付いていない状況において、弁護士側からも情報処理学会側からも早急な対応が必要と認識し、あらたに「情報処理に関する新たなルール作り」に関する研究グループを設立します。

主な研究分野

・新たなソフトウェアモデル契約
・大学における知的財産権
・産学連携
・クラウドとビッグデータ
・ソーシャルネットワークにおける新たな法律
・インターネット上の著作権
・初等中等教育における情報処理に関する法的思考の育成

提案者(五十音順)

市毛由美子(のぞみ総合法律事務所)、稲垣陽一(きざしカンパニー)、上原哲太郎(立命館大学)、筧捷彦(早稲田大学)、神沼靖子(情報処理学会フェロー)、川合慧(放送大学)、喜連川優(国立情報学研究所/東京大学)、鈴木貢(島根大学)、砂原秀樹(慶應義塾大学)、高岡詠子(上智大学)、竹内千春(のぞみ総合法律事務所)、辰己丈夫(放送大学)、中山泰一(電気通信大学)、西田知博(大阪学院大学)、登大遊(ソフトイーサ)、萩谷昌己(東京大学)、平岡敦(たつき総合法律事務所)、三尾美枝子(キューブM総合法律事務所)、結城大輔(のぞみ総合法律事務所)