2012年度受賞者詳細
2012年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細
●マルチコア環境における低レイテンシストリーム処理のためのスレッド割り当て手法 |
上田 高徳 君 (正会員) 発表時所属:早稲田大学 メディアネットワークセンター/基幹理工学研究科 情報理工学専攻 博士後期課程3年受賞時所属:早稲田大学 IT研究機構/基幹理工学研究科 情報理工学専攻 博士後期課程4年 |
[推薦理由] 本論文は,マルチコア環境におけるストリーム処理のレイテンシ最小化問題の定義,オペレータに対するスレッド動的割当手法の提案,実機を用いた実装,評価を行っている. ストリーム処理の低レイテンシ化は,パケット監視やアルゴリズム取引などの応用のために極めて重要な課題である.近年のCPUはコア数の増加により性能向上を実現しており,レイテンシの観点からストリーム並列処理の最適化を行うには,CPUコア間のバス,OSのプロセススケジューラ,ストリーム処理のプラン木と広範囲に及ぶ考察をしなくては実現できない.本研究はこれら全てを網羅する提案を行い,実機上に実装し,評価を行い,大きな性能向上を得ている.本研究は有用性が高く考察のレベル が高いためコンピュータサイエンス領域奨励賞にふさわしいと考え推薦する. |
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●ソフトウェアモジュールにおける識別子の語長と不具合出現に関する分析 |
川本 公章 君 (学生会員) 発表時所属:京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 情報工学専攻 1回生受賞時所属:京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 情報工学専攻 2回生 |
[推薦理由] 本論文は,関数名や変数名などの識別子の語長による不具合予測に関するものである.一般に識別子の命名規則や語長はソースコードの可読性などに影響を与えると考えられているが,本研究では識別子の語長とその識別子が含まれるモジュールの不具合出現に関する分析を行い,機械学習を用いて識別子の出現回数の分布から不具合有無を判別するモデルを構築し,不具合を含んでいそうな(Fault-prone)モジュールの予測を行う手法を提案している.さらに二つのオープンソースプロジェクトに対して本手法を適用し有効性を示している.興味深い問題に対して実証的な分析・実験を行っており,CS領域奨励賞にふさわしい研究としてここに推薦する. |
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●開発履歴メトリクスに基づくFault-proneモジュール予測の細粒度モジュールへの適用 |
畑 秀明 君 (正会員) 発表時所属:大阪大学 大学院情報科学研究科 3学年受賞時所属:大阪大学 大学院情報科学研究科 コンピュータサイエンス専攻 ソフトウェア設計学講座 |
[推薦理由] 本論文はメトリクスに基づくFault-proneモジュール予測を行う際に,ファイルレベルとメソッドレベルとの異なった二つの粒度に対する適用比較を行うものである.通常の版管理システムではファイルレベルでの開発メトリクスの計測が容易であったが,本論文では著者らの提案する細粒度履歴管理リポジトリを用いて,より細粒度のメソッドに対して開発メトリクスを適用してFault-proneモジュール予測を行っている.4つのオープンソースに対して適用しし,メソッドレベルの方がより高いRecall値が得られよりFault特定に優れているという結果が得られた.粒度の違いによるメトリクスの比較を実証的に行い興味深い結果が得られており,CS領域奨励賞にふさわしい研究としてここに推薦する. |
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●OSにおける細粒度パワーゲーティング向けオブジェクトコードの実行時管理機構の研究 |
小林 弘明 君 (学生会員) 発表時所属:東京農工大学 工学府 情報工学専攻 修士1年受賞時所属:東京農工大学 工学府 情報工学専攻 修士2年 |
[推薦理由] 本研究は,コンパイラとOSとの協調により,マイクロプロセッサコアの温度変化に伴う電力的損益分岐点の変動に配慮する,細粒度なパワーゲーティング制御方式を提案している.マイクロプロセッサの省電力化に対する期待はますます大きくなっており,ハードウエアによる機構のみに頼るのではなくコンパイラとOSとの協調を試みた点は意義が大きい.実際にOSを実装し,FPGAボード上に構築された評価用プラットホームで評価を行なっており,実用性も高い.評価結果で,ハードウエア単体と比較して平均35%のリーク電力削減が確認出来ている.新規性と有用性はともに高く評価でき,コンピュータサイエンス領域奨励賞に相応しい論文である. |
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●都鳥: メモリ再利用による連続するライブマイグレーションの最適化 |
穐山 空道 君 (学生会員) 発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 修士2年受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 博士1年 |
[推薦理由] IaaS 型のクラウド環境では仮想マシン技術を用いたサーバの集約が行われている.仮想マシン技術を用いるとサーバ集約が可能となるだけではなく,マイグレーションによる柔軟なサーバ配置が可能となる.本研究では,マイグレーションに伴うデータ転送コストを削減するため,メモリページを効果的に再利用する手法を提案している.マイグレーションを繰り返し行う環境に適した手法であり,長時間稼働するサーバをホストする環境では効果が高い.このようなシステムを開発するには,低レイヤにおける複雑なプログラミングに習熟している必要があり高いスキルを要求される.その点からも CS 領域賞に適した発表であるといえる. |
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●キャッシュインジェクションを用いた受信キューのキャッシュ制御方式の提案 |
壬生 亮太 君 (正会員) 発表時所属:NECシステムプラットフォーム研究所受賞時所属:NEC クラウドシステム研究所 |
[推薦理由] ネットワーク受信処理では,受信データがNICからメインメモリ上の受信キューに書き込まれ,CPUがこの受信データを処理する際にメモリアクセスによる遅延が発生する.プリフェッチではこの遅延を完全に制御できないが,本論文では,受信データをメモリの代わりにキャッシュへ書き込むキャッシュインジェクションについて,効果的なキャッシュ制御方式を提案し,キャッシュミスの減少,性能向上を確認している.理論的ならびに実験的評価の両面において手法の有効性が期待できる.以上の理由により本論文をCS領域奨励賞に推薦する. |
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●トランジェントグリッチエネルギーを低減するパワーゲーティングの回路方式の検討 |
太田 雄也 君 (正会員) 発表時所属:芝浦工業大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻 修士2年受賞時所属:株式会社日立製作所 情報・通信システム社 |
[推薦理由] 本論文では,論理セル単位で実行さえる細粒度パワーゲーティングにおいて,スリープ状態から復帰するときに発生するトランジェントグリッチによるエネルギーオーバヘッドを低減する,新たなパワーゲーティング回路方式を提案している.また実験評価によりスリープサイクル数 (ブレークイーブンサイクル数) を検出している.ALUや乗算器に適用することで,その有効性が検証されている.理論的ならびに実験的評価の両面において手法の有効性が期待できるものであり,本論文をCS領域奨励賞に推薦する. |
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●メニーコア並列計算機における通信機構の設計 |
思 敏 君 (学生会員) 発表時所属:東京大学 大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻 修士2年受賞時所属:東京大学 大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻 修士2年 |
[推薦理由] スループット性能に最適化されたアクセラレータはHPCにおける電力性能向上に有効であり,現在においてはPCI拡張デバイスとして種々設計されている.アクセラレータ上のデータをリモートノードに転送する場合は,まず同様にPCIデバイスとして設計されているネットワークアダプタにデータを転送する必要があるが,今日製品化されているアクセラレータではそれらの間で直接通信が行えず,CPU側メモリを介する必要があり,特にレイテンシの増加を招く問題がある.本研究ではIntelMICアクセラレータを対象とし,通常CPU側で行われる通信処理の一部をアクセラレータ側に実装することによりこの制約を回避し,通信性能の大幅な向上を実現した.以上の理由からCS領域奨励賞に推薦する. |
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●複数ノードのGPU による大規模パッシブスカラー粒子計算の強スケーリングと動的負荷分散 |
都築 怜理 君 (学生会員) 発表時所属:東京工業大学 大学院総合理工学研究科 創造エネルギー専攻 青木研究室 修士 1 年受賞時所属:東京工業大学 大学院総合理工学研究科 創造エネルギー専攻 青木研究室 修士 2 年 |
[推薦理由] 本論文では,計算された流体速度場に対して多数の粒子を移動させるパッシブスカラー粒子計算を取り上げ,複数GPUを用いた高速処理方法を論じている.領域分割により並列化を実現したうえ,粒子が領域間を移動することに伴うメモリ断片化を間欠的な再配置(ソート)により削減,粒子の偏りにより生ずる負荷の不均衡を領域分割の変更による動的負荷分散により改善した.これらの工夫により,64 GPUを用いて最大2億5千万粒子のシミュレーションを実現することができた.本論文で開発された手法はそれ自身で有効であるのに加え,SPHやMPSなどにも適用できると考えられ,非常に価値の高い成果であるため,CS領域奨励賞に推薦する. |
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●Hoare State Monad Transformerを用いたCoq上でのtotal parser combinatorの実装 |
上里 友弥 君 (学生会員) 発表時所属:筑波大学 情報学群 情報科学類 3年受賞時所属:筑波大学 情報学群 情報科学類4年 |
[推薦理由] 受賞候補者は研究会発表においてHoare state monadのモナド変換子版であるHoare state monad transformerを提案し,それを用いたパーザコンビネータライブラリの実装,およびそのライブラリで実現される構文解析器のCoqによる停止性証明事例を示した.提案されたtransformerには新規性があり,それによって従来よりも簡潔に構文解析器を記述できる可能性がある.そのようなtransformerを提案するだけでなく,それを用いた構文解析器の停止性証明技法についても新規性のある提案したことは高く評価できる.さらに受賞候補者は発表時点で学部3年生であったにも関らず,理論的に高度な内容を含む研究を独自に行って分かりやすい発表をしたことは特筆に値する. |
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●May&Must-Equivalence of Shared Variable Parallel Programs in Game Semantics |
渡辺 敬介 君 (正会員) 発表時所属:京都大学大学院 理学研究科 数学・数理解析専攻 修士2回生受賞時所属:帝塚山中学校・高等学校 |
[推薦理由] 本論文は,並列実行による非決定性を持つAlgol風のプログラム言語に対して完全抽象性(full abstraction)を持つゲーム意味論を構成している.既存のゲーム意味論による並列言語の分析が停止可能性のみを考慮しているのに対し,並列言語の分析で必要となる必然停止性も考慮した完全抽象モデルを構築していることが大きな成果である.また,二つのプレイのインターリーブによる統合において,wait及びnotifyと呼ぶ手を導入する手法は非常に興味深いものであり,今後の研究の進展に貢献することが期待できる.以上の理由により本論文をCS領域奨励賞に推薦する. |
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●組合せ剛性理論に基づく冗長性を有する剛堅な2次元フレームワークの生成手法 |
吉仲 祐史 君 (正会員) 発表時所属:京都大学 工学研究科 建築学専攻受賞時所属:株式会社オービック 東京本社 |
[推薦理由] 組合せ剛性理論とは,建築などで用いられる骨組み,つまりフレームワークをグラフとして扱い,その剛性を組合せ的に特徴づける理論である.辺を取り除くと剛性が保てなくなる,ぎりぎりのグラフ構造は,すでによく研究されている.一方,実際の建築物では,冗長性をもたせることが普通である.したがって,冗長性を与えて,これを実現するグラフの構造を明らかにすることは,応用上重要なテーマである.ところが,こうしたグラフについては,まだそれほど研究は進んでいなかった.本研究では,グラフの冗長性を増加させる問題,与えられた冗長性kを持つ最小なグラフを生成する問題,さらに冗長性kを持つグラフの理論的特徴を考察し,新たな数学的な特徴づけや,生成アルゴリズムなどを示した.現実的な応用を踏まえた,理論的にも優れた研究である. |
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●確率的 Slow Feature Analysis における観測ノイズの影響 |
関口 智樹 君 (正会員) 発表時所属:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 修士2年受賞時所属:NTTドコモ 人事部/千葉支店 企画総務部 兼務 |
[推薦理由] 近年,時系列データからゆっくりと変化する情報を抽出する数理モデルとして Slow Feature Analysis (SFA) が注目されており,神経システムの数理モデルなどに応用されている.本発表は SFA の確率的定式化に関するものある.従来の確率的定式化では,定式化の際にデータに加わる観測ノイズに関する近似が行われていたが,その影響についての定量的な議論が行われていなかった.本発表では,パラメータ推定の精度や,推定される Slow Feature ダイナミクスの振舞いを調べることで,SFA の確率モデルにおける観測ノイズの影響を明らかにし,最もゆっくりと変化する成分が観測ノイズの影響を最も大きく受けることが示された.実用的にも有用な考察が含まれており,本研究成果の意義は大きい.よって,CS領域奨励賞に推薦する. |
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●CMA:超低電力再構成アクセラレータ |
小崎 信明 君 (学生会員) 発表時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 博士前期課程 2年受賞時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 博士後期課程 1年 |
[推薦理由] 本発表は,CMA (Cool Mega-Array)というモバイルフォンなどの対象とした低消費電力の再構成アクセラレータを試作した実践論文である. 一般的な動的再構成プロセッサのPE と異なり,CMAではPE はプログラ ム実行中は再構成をしない完全な組合せ回路で構成される.CMA は各種回路 上の工夫でDVFS を効果的に適応でき,性能に悪影響を与えないで実演算で消費される電力を削減している.実際にFujitsu 65nm CMOS プロセスで実装し試作を行い,その有効性を実証するなど,その研究開発に対する姿勢は今後多いに期待できるものである.以上の理由からCS領域奨励賞にふさわしいと考えられる. |
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