2010年度受賞者詳細
2010年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細
●集合型Webオブジェクトの構成要素に対する追加・削除要素の推薦とそのレシピデータへの応用 |
佃 洸摂 君 (学生会員) 発表時所属:京都大学工学部4年受賞時所属:京都大学大学院情報学研究科修士1学年 |
[推薦理由] 本論文は,Webページ上の料理レシピなどの集合型Webオブジェクトに対して,その構造の分析により,追加・削除可能な要素を推薦する手法を提案している.提案手法ではWebオブジェクトを構成する要素の組み合わせに基づいて安定度を導出し,安定度の変化によって追加・削除する要素を発見する.近年,Webオブジェクトに基づいたWeb情報検索・推薦手法が注目されているが,本手法のように集合型Webオブジェクトの構造的な側面に注目した提案は存在せず,独創性が高い.また,提案手法は汎用性が高く,様々な種類の集合型Webオブジェクトへ適用可能であり,今後当該分野における研究の進展に大きく寄与することが期待できる.以上の理由により,本論文をCS領域奨励賞に推薦する. |
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●アンカーテキストとリンク構造を用いた同義語抽出手法 |
黒木さやか 君 (正会員) 発表時所属:早稲田大学大学院基幹理工学研究科情報理工学専攻 修士2年受賞時所属:日本アイ・ビー・エム(株)ソフトウェア開発研究所 |
[推薦理由] 本論文では,Webページのアンカーテキストとリンク構造を用いることで,略称や俗称などにも対応した同義語抽出手法を提案している.従来の同義語抽出においては,語毎にある一定の出現頻度が必要であり,これが網羅性を下げる要因となっていた.この問題に対し,リンクとアンカー間の共起強度を定義し,非頻出同義語についても抽出を可能とした.結果として,従来と同等の精度で網羅性を約15%向上させることに成功しており,手法の独自性のみならず高い実用性を持つ.時代に即した同義語を常にアップデートできる本手法は,自然言語処理をはじめとする多くの研究に寄与することが期待できる.以上の理由により,本論文をCS領域奨励賞に推薦する. |
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●クラス動作シナリオ可視化手法のプログラム理解作業に対する有効性評価 |
宗像 聡 君 (正会員) 発表時所属:大阪大学大学院情報科学研究科 博士前期課程 2年受賞時所属:(株)富士通研究所 クラウドコンピューティング研究センター |
[推薦理由] 本発表は,複雑なオブジェクト指向ソフトウェアにおけるオブジェクトの振舞いを複数の視点から可視化する手法を提案し,そのためのツールの試作と実験による評価を行っている.提案手法の中ではオブジェクト群のさまざまな振舞いを同値関係に基づいて効率的に整理し,それぞれを効果的に視覚化するというアイデアが活かされている.その発想自身も興味深いが,それに併せて完成度の高い支援ツールの試作と質の高い評価実験・考察も行われており,これらの成果は,ソフトウェア技術者のプログラム理解支援に大きく寄与するものと考えられる.現時点の成果はもちろん,将来の研究の発展にも期待が持てるものであり,優秀な若手研究者の発表としてここに推薦する. |
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●ユースケース記述からの状態遷移モデル生成 |
高久 陽平 君 (学生会員) 発表時所属:東京工業大学工学部情報工学科4年受賞時所属:東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 修士課程 |
[推薦理由] 本発表は,ソフトウェア開発の要求分析工程で得られるユースケースに着目し,その記述から状態遷移モデルを自動生成する手法を提案している.要求分析はソフトウェア開発の最上流に位置する重要な工程であり,その成果は後の開発工程並びに成果物の品質へ大きく影響を及ぼす.それゆえ早期に網羅的な分析が望まれるが,一般にユースケース記述は自然言語で行われているため,その分析・検証は容易でない.そのような課題に対し,本発表では状態遷移モデルを自動生成するしくみを提案し,そのためのツールも試作している.これらの成果は,ソフトウェア開発の高品質化・高信頼化へつながる重要なものであり,今後の発展も大いに期待される.以上の理由から,優秀な若手研究者の発表としてここに推薦する. |
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●CoreSymphonyアーキテクチャのための物理レジスタ管理手法 |
若杉 祐太 君 (正会員) 発表時所属:東京工業大学大学院情報理工学研究科 計算工学専攻 修士課程2年受賞時所属:(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント半導体システム開発部 |
[推薦理由] マルチコアプロセッサの逐次性能の向上,および逐次性能と並列性能のバランシングを目的として,スーパースカラの協調動作を実現するCoreSymphony アーキテクチャを提案している.CoreSymphony は複数個の発行幅の狭いスーパースカラを協調動作させることで,発行幅の広いスーパースカラを仮想的に形成する技術である.本研究では,CoreSymphony の効率的な実装のために,2-wayリネーミング方式および物理レジスタ分散手法の2つを提案し,性能にほとんど影響を与えずにリネームテーブルと物理レジスタの複雑度を軽減できることを示しており,すぐれた優位性を示している.以上より,本論文をCS領域奨励賞に推薦する. |
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●効果的な攻撃テストによるWebアプリケーションの脆弱性検出手法 |
小菅 祐史 君 (学生会員) 発表時所属:慶應義塾大学大学院理工学研究科 博士課程1年受賞時所属:慶應義塾大学理工学部情報工学科 河野研究室 |
[推薦理由] 本研究では,Webアプリケーションの脆弱性検出のために,攻撃を自動的に生成し,テストと自動検証を効率的に行うフレームワークを提案している.サーバ側のプラグインのミドルウェアとして,SQLインジェクション,クロスサイトスクリプティング,JavaScript Hijacking 攻撃による脆弱性検出用のプラグインを設計・実装し,攻撃に対する検出効果を定量的に評価した.本研究会のテーマとして高セキュアなシステム構築法は重要な課題であり,脆弱性を検出するためのフレームワークをプラグインにより構築する方式の提案は有用性が高く今後の研究の発展を期待できる. |
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●OCamlによるOSの実装 |
井上 翔大 君 (正会員) 発表時所属:電気通信大学大学院電気通信学研究科 情報工学専攻 博士前期課程2年受賞時所属:(株)日立製作所情報制御システム社 |
[推薦理由] 本研究は,OSの記述言語として関数型言語のOCamlを用い,プロセス管理,メモリ管理,割込み,入出力デバイス管理を実装し,関数型言語をOSの記述言語に用いた知見を論じている.安全性の確保,保守性の向上を目的に,OSの仮想化・資源管理層を関数型言語で記述し,OCamlのランタイムシステムをベアマシン上で稼働するよう移植することでOSの処理をOCamlで実行する方式を提案,実装を行い,評価を示している.現代的な関数型言語によるOSの記述した場合の利点と問題点を実装を通じて明らかにしており,その利点・欠点,有用性を明らかにしたことを高く評価する. |
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●ハイブリッド型CMOS論理構成の4-2加算器による乗算器のグリッチ削減 |
小暮 武 君 (正会員) 発表時所属:神戸大学大学院工学研究科電気 電子工学専攻 修士2回生受賞時所属:(株)村田製作所 |
[推薦理由] 本論文は,グリッチによる不要な信号遷移を削減することで,低消費エネルギー・高性能な乗算器を実現する方法を提案している.従来の付加回路を伴うグリッチ削減方法では,面積や消費エネルギーのオーバーヘッドが問題であった.また,最小ゲート幅を持つMOSFETを利用したRCフィルタによるグリッチ削減方法では,遅延増大等の問題があった.提案手法では,4-2加算木型乗算器を,パストランジスタ・トランスミッションゲートとCMOS論理を組合せた構成とすることで,グリッチを削減する.0.18umプロセスでシミュレーションした結果,配列型乗算器と比べ,電力を52%,グリッチを約1/12に削減できた.以上の理由により本論文をCS領域奨励賞に推薦する. |
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●CUDAによるAES実装のための計算粒度最適化手法 |
西川 尚紀 君 (正会員) 発表時所属:防衛大学校理工学研究科前期課程 情報数理専攻2年受賞時所属:防衛省技術研究本部技術開発官(陸上担当)付第2開発室 |
[推薦理由] 本論文は,AES暗号化をグラフィックスプロセッサ(GPU)上で高効率に並列実行するための最適化方法を提案している.近年,CUDAと呼ばれる拡張C言語により,GPUを利用した処理の並列実行が可能になっているが,高性能な並列実装には,人手による反復実験が伴い,最適化戦略が必要となる.そこで本論文では,AES暗号化を例としてGPUへの実装を行い,平文の(1)データ型,(2)共有メモリ中での配置方法,(3)スレッドへの分割方法,を変化させたときの性能への影響を定量的に評価するとともに,汎用プロセッサと比べて47倍高速な実装を実現した.以上の理由により本論文をCS領域奨励賞に推薦する. |
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●OpenATLibを利用した疎行列ライブラリの開発と評価 |
櫻井 隆雄 君 (正会員) 発表時所属:(株)日立製作所中央研究所受賞時所属:(株)日立製作所中央研究所 |
[推薦理由] 本研究では自動チューニング(AT)機構実装を容易に実現するために提案された,ATインタフェースOpenATLibを利用し,諸パラメタを自動最適化する機能を有する疎行列反復解法ライブラリを開発した.同種の従来の研究成果をOpenATLibとして統合したものを活用し,数多くの問題に対しパラメタを典型的な値に固定した場合と比較して,適用手法の劇的な性能向上が確認された.今後もOpenATLibを利用した新プロダクト等を通じ,研究発展に期待できる若手研究者として, CS領域奨励賞に強く推薦する. |
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●OpenCLによるGPUコンピューティングの性能評価 |
長沼 翔 君 (正会員) 発表時所属:東京大学大学院情報理工学研究科 電子情報学専攻受賞時所属:NTTコミュニケーションズ(株) |
[推薦理由] 本発表では,広域分散システムのネットワーク網について,バンド幅マップと呼ばれる性能情報を取得する手法を提案している.バンド幅マップは,各エッジのバンド幅を重みとして付加した重み付き有効グラフでネットワークを表すものであり,分散アプリケーションのチューニング時に非常に重要な情報である.提案手法では測定対象のエッジを経由する複数の異なるホスト間通信を同時に発行し,合計バンド幅からエッジのバンド幅を測定する,というユニークな手法を取っている.さらに,同時発行するホスト間通信の数の削減や,複数のエッジの並行計測といった工夫により,実用的な低コストの測定手法を実現している.以上の優れた研究成果に関し,今後のより一層の研究発展を期待して,CS領域奨励賞に推薦する. |
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●DMI:計算資源の動的な参加/脱退をサポートする大規模分散共有メモリインタフェース |
原 健太朗 君 (学生会員) 発表時所属:東京大学大学院情報理工学系研究科 修士課程1年受賞時所属:東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 修士課程2年 |
[推薦理由] 本研究発表では,計算資源の動的な参加/脱退をサポートする分散共有メモリというプログラミングモデルと,その一貫性維持プロトコルを提案している.プログラミングインタフェースとしては,ユーザの指定する任意のサイズを単位としたread/writeを準備するとともに,非同期read/write,マルチモードread/writeなどの明示的な最適化手法を提供しようとしている.やや荒削りな部分や今後の課題が残るものの,動的な参加/脱退をサポートした見通しのよい,つまり,その正しさに説得力のあるプロトコルを設計している点を特に高く評価し,ここに推薦する. |
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●Efficient Enumeration of All Pseudoline Arrangements |
山中 克久 君 (正会員) 発表時所属:電気通信大学大学院情報システム学研究科受賞時所属:電気通信大学大学院情報システム学研究科 |
[推薦理由] 擬似直線アレンジメントは計算幾何における重要な概念のひとつである.本研究は,擬似アレンジメントの組み合わせ構造のすべてを,1個あたりO(1)時間で高速に列挙するアルゴリズムを与えている.このアルゴリズムは理論的に最速である.また,このアルゴリズムを実装することにより,n個の擬似直線から構成される擬似アレンジメントの組み合わせ構造の個数をn=1,2,...,10について確認している.この研究発表の直後に得られたn=11の値は,世界で初めて得られたものであり,この分野のデータベースに登録された.さらに,本結果は,国際会議EuroCGや,権威ある学術雑誌Theoretical Computer Scienceにも採録されている. |
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●小脳スパイキングネットワークモデルにおける条件刺激強度依存性タイミング制御 |
本多 武尊 君 (学生会員) 発表時所属:電気通信大学大学院電気通信学研究科 情報通信工学専攻 博士後期課程1年受賞時所属:電気通信大学大学院電気通信学研究科 情報通信工学専攻 博士後期課程2年 |
[推薦理由] 瞬目反射の条件付けとは音(CS)とまぶたへの侵害刺激(US)の組合せを繰り返し与えると,音だけでまぶたを閉じる条件反応の学習であり,小脳が関与していることが知られている.音と刺激の時間間隔を変えるとまぶたを閉じるまでの時間が変化することから,小脳のどこかで時間の情報が表現されていると考えられているが,その詳細はまだ明らかでない.本発表では,CS の強度を強くすると,CR がより早く引き起こされるという実験的事実を,小脳皮質のスパイキングネットワークモデルを構築して計算機シミュレーションにより検証した.新しい小脳の情報処理メカニズムを実験に照らし合わせて提案した優秀な発表であり,CS 領域奨励賞に推薦する. |
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●SRAMの世代分割によりCAMを有効利用する低電力高連想度キャッシュ |
岡部 翔 君 (学生会員) 発表時所属:電気通信大学電気通信学研究科 情報工学専攻 博士前期課程1学年受賞時所属:電気通信大学大学院電気通信学研究科 情報通信工学専攻 |
[推薦理由] Content Addressable Memory(CAM)ベースの高連想度キャッシュは低電力組込みシステムで有用である.しかし,CAMタグがキャッシュあたりの消費電力の大きな割合を占めているという問題がある.本研究ではCAMのサブタグとのマッチングにおいて,ヒットするキャッシュラインを1つに絞らない,SRAM部分をアクセス頻度により2世代に分割するという2つの技術を新たに組み合わせた手法により,ヒット率の低下を抑えつつ省電力を実現している.本研究では評価実験を丹念に行い,結果の分析を詳細に行う研究姿勢にも好感がもて,今後が期待できる.以上の理由からCS領域奨励賞にふさわしいと考えられる. |
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