2007年度受賞者詳細

2007年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細

コンピュータサイエンス領域奨励賞は,コンピュータサイエンス領域に所属する研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な研究発表を行った若手会員に贈呈されます.本賞の選考は,CS領域奨励賞表彰規程,CS領域奨励賞受賞者選定手続およびCS領域奨励賞受賞者推薦内規に基づき,領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は10研究会の主査から推薦された計15編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定しました.本年度の受賞者は下記15君で,各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,賞金が授与されます.

●インターネットオークションにおける不正行為者の発見支援
  [2006-DBS-140 (H18. 7.14)] (データベースシステム研究会)

平手 勇宇 君 (学生会員)

発表時所属: 早稲田大学大学院理工学研究科情報・ネットワーク専攻博士課程2年
受賞時所属: 早稲田大学大学院理工学研究科情報・ネットワーク専攻博士課程3年
[推薦理由]
インターネットオークションには学術的に面白く,かつ実用的な問題が多々あると考えられ,受賞候補論文が取り上げた不正評価IDの検出はそのような問題の一つである.本論文でのアプローチ自体は一般的なものであるが,取り組みを総合的に考えると実用的かつ有用な研究であり高く評価できるため,ここに本研究を推薦するものとする.
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●Web事典からのシソーラス辞書構築手法
  [DBWeb2006 (H18.12. 1)] (データベースシステム研究会)

中山浩太郎 君 (正会員)

発表時所属: 大阪大学大学院情報科学研究科マルチメディア工学専攻博士課程3年生
受賞時所属: 大阪大学大学院情報科学研究科西尾研究室
[推薦理由]
この研究は,協調型Web事典であるWikipediaが知識抽出のためのコーパスとして非常に適していることを詳細な特徴分析により示している.また,Wikipediaのリンク構造を解析する手法としてlfibfと3つの副手法を提案し,実際にシソーラス辞書を構築している.その際,非常に膨大なリンクの関係性を解析するために二重二分木というスケーラビリティの高い疎行列積のアルゴリズムを提案し,計算量を軽減する工夫をしている.さらに,客観的な評価手法により従来手法と比較し,その有用性を示している.よって,本論文発表者をCS領域奨励賞受賞候補者として推薦する.
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●コードクローン履歴閲覧環境を用いたクローン評価の試み
  [2006-SE-154 (H18.11.27)] (ソフトウェア工学研究会)

川口 真司 君 (正会員)

発表時所属: 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科
受賞時所属: 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科
[推薦理由]
ソフトウェアにおいて,ソースコード中に現れるクローンは必ずしも有害であるとは限らない.このため,本論文では,従来のコードクローン検出を発展させ,クローンとそのクローンを編集した開発者との関係を版管理システムにより抽出・活用することで,除去すべきクローンと除去不要なクローンを特定する手法を提案している.クローンに対する変更履歴と開発者の編集内容を対応付けることで,クローンを評価するという発想は独創的であり,ツールによる自動化が可能な点で有用性も高い.さらに,小規模ではあるものの,実際のソースコードを用いて実験を行うことで,クローンに対する開発者の特徴的挙動の抽出に成功している点も高く評価できる.
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●消費電力を50%削減する動的電圧/周波数制御型H.264/AVC HDTVデコーダアーキテクチャ
  [2006-ARC-168 (H18. 6. 8)] (計算機アーキテクチャ研究会)

川上健太郎 君 (正会員)

発表時所属: 神戸大学大学院自然科学研究科博士課程後期課程情報電子科学専攻3年
受賞時所属: 株式会社富士通研究所 システムLSI開発研究所 先端システムLSI研究部
[推薦理由]
本論文は,従来はプロセッサ上のソフトウエア処理に限定されていた動的電圧・周波数制御を,動画像復号処理におけるパイプラインハードウエア回路にも適用できる新規アーキテクチャを考案し,HDTV解像度H.264ビデオデコーダの消費電力を約50%低減できることを示した.これは,世界でも稀に見るアルゴリズム,アーキテクチャ,回路の3設計階層の垂直統合研究による成果であり,携帯電話やデジタル放送などのマルチメディア機器の高性能化を直接加速し,社会の発展への多大な寄与が大きく期待される.以上より,CS 領域奨励賞に推薦する.
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●電力制御スケジューラのプロトタイプ実装
  [2006-OS-103 (H18. 8. 1)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

宮川 大輔 君 (正会員)

発表時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻
受賞時所属: グーグル株式会社
[推薦理由]
本研究ではOSレベルの電力制御手法として,OSが各プロセスの実行状況を監視し,プロセスに最適な動作速度を動的に決定する手法を提案,Webサーバにおける実験の結果,本方式が応答性能を下げずに消費電力を低減することを確認している.本研究におけるスケジューラの提案および実装により,問題分析から実装評価にいたる内容を明確に示している.その結果,1年の間に2回の研究会賞を受賞するなど,OS分野での期待の若手である証左と言える.
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●カーネル・レベル・コードによるユーザ・レベルVMMの移植性の向上
  [2007-OS-104 (H19. 1.30)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

榮樂 英樹 君 (正会員)

発表時所属: 筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻
受賞時所属: 筑波大学大学院システム情報工学研究科
[推薦理由]
本研究では,静的なコード変換技術と準仮想化技術を用いて,実機用のOSをユーザプロセスとして動作させるVMM(仮想マシンモニタ)であるLilyVMをカーネルレベルコードに移行することにより,移植性を向上させた.氏のVMMの研究は,Xenとほぼ同時期に独自な方法で準仮想化方式の開発に成功しており,ComSys2005でのOpenSolaris Challenge賞を受賞したほか,国際的な論文でもたびたび引用されており,氏が内容と実装の両面に高い能力を有していることが評価されており,奨励賞を受賞するに相応しい若手研究者である.
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●レジスタ分散・共有併用型アーキテクチャを対象としたフロアプランを考慮した高位合成手法
  [DAシンポジウム2006 (H18. 7.13)] (システムLSI設計技術研究会)

大智  輝 君 (正会員)

発表時所属: 早稲田大学大学院理工学研究科情報・ネットワーク専攻修士課程2年
受賞時所属: 早稲田大学大学院基幹理工学研究科情報理工学専攻
[推薦理由]
レジスタ分散型アーキテクチャを用いると,レジスタ間データ転送を利用する事により,配線遅延が回路の性能に与える影響を低減できるが,レジスタ数の増大を招いてしまうという問題点が生じる.本研究では,レジスタ分散型とレジスタ共有型を併用するレジスタ分散・共有型を対象とし,(1) スケジューリング,(2) レジスタアロケーション,(3) レジスタバインディング,(4) モジュール配置の好転を繰り返し (4) から得られたフロアプラン情報をフィードバックする高位合成手法を提案している.計算機実験によって,分散型と同等の回路性能を維持し,最大4.0% の面積が削減できることが実証されている.実用的に有用な研究であることを高く評価し,本奨励賞に推薦する.
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●A Fast Register Relocation Method for Circuit Size Reduction in Generalized-Synchronous Framework
  [2006-SLDM-127 (H18.11.29)] (システムLSI設計技術研究会)

小平 行秀 君 (学生会員)

発表時所属: 東京工業大学大学院理工学研究科集積システム専攻博士後期課程2年
受賞時所属: 東京工業大学大学院理工学研究科集積システム専攻
[推薦理由]
クロックを各レジスタに任意のタイミングで入力できるという仮定の下で,回路の動作や構造を変更せず,レジスタの挿入位置のみを変更するレジスタ再配置を利用することで,回路が動作可能な最小クロック周期が減少することがある.しかし,最小クロック周期が減少する場合,回路内のレジスタ数が増加する傾向にある.本研究では,目標のクロック周期を達成しつつ,回路内のレジスタ数を減少させるレジスタ再配置手法を提案している.実験により,提案手法は多くの回路で実用的な時間内にレジスタ数を削減できることを示している.実用的に有用な提案であることを高く評価し,本奨励賞に推薦する.
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●MPI/GXP:広域環境用の適応的なメッセージパッシングシステム
  [2006-HPC-107 (H18. 7.31)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

斎藤 秀雄 君 (学生会員)

発表時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程1年
受賞時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程2年
[推薦理由]
MPI/GXPでは,時々刻々と変化するグリッド環境に対応するため,実行時にプロセス間の遅延情報やランク間の通信量を測定し,プロセス間の遅延を考慮した最適な接続の確立とランク間の通信量と通信コストを考慮したランク割り当てを行う.MPI/GXPを使うことにより,従来,ルータの接続セッション数を越えて解けないような問題でも,接続を最適化することで解くことが可能となった.また,ランク割り当ての最適化により,NAS Parallelベンチマークの性能が60~100%向上した.グリッド環境に合わせて通信方法を動的に最適化する本研究を,大学院博士課程において非常に高いレベルで行っていることはCS領域奨励賞に十分値し,今後のさらなる研究に期待して本賞に推薦する.
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●Program Transformation by Templates: A Rewriting Framework
  [PRO-2006-1 (H18. 6. 1)] (プログラミング研究会)

千葉 勇輝 君 (学生会員)

発表時所属: 東北大学情報科学研究科情報基礎科学専攻博士後期課程2年
受賞時所属: 東北大学電気通信研究所外山研究室
[推薦理由]
本論文では,プログラム変換に対して,書換え系の枠組みを用いた新たな定式化を与えている.プログラムを書換え系と見なし,書換え系のテンプレートを用いてプログラム変換を表現している.項書換え系の等価性に関する既存結果をテンプレートへ適用することにより,プログラム変換が等価変換であるための条件を明確にしている.また,項書換え系の理論に基づく自動証明法を用いることで,変換の正当性の自動証明が可能になっている.新規性に優れた研究であり,今後の展開が期待されことから,CS領域奨励賞に推薦する.
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●OSカーネル用アスペクト指向システム KLASY
  [PRO-2006-4 (H19. 1.19)] (プログラミング研究会)

柳澤 佳里 君 (学生会員)

発表時所属: 東京工業大学情報理工学研究科数理・計算科学専攻博士後期課程2年
受賞時所属: 東京工業大学 情報理工学研究科 数理・計算科学専攻博士後期課程 千葉滋研究室
[推薦理由]
著者等の提案するOSのための動的アスペクト指向システムKLASYは,C言語の構造体メンバアクセスのポイントカット,動作中のOSカーネルに対するアスペクトのウィーブといった機能を提供する.これらは,従来の同様なアスペクト指向システムには無く新しい機能である.また,ベンチマーク・ケーススタディを通して,KLASYがOSカーネルのプロファイリングやデバッグ作業の手間を大幅に縮小する可能性が示されており,KLASYによるソフトウエア開発の場面で大きな貢献が期待できる.更に,システムの構築に対する著者等の多大な努力が本論文から読み取れる.以上の理由から,本発表をコンピュータサイエンス領域奨励賞へ推薦する.
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●Efficient solutions to relaxations of combinatorial problems
with submodular penalties via the Lovasz extension and non-smooth convex optimization
  [2007-AL-110 (H19. 1.23)] (アルゴリズム研究会)

永野 清仁 君 (学生会員)

発表時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻博士課程2年
受賞時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻博士課程3年
[推薦理由]
本研究は,劣モジュラ集合関数を罰金関数とする施設配置問題等の組合せ最適化問題の緩和問題に対して,凸最適化手法を用いた効率的な近似解法を提案するものである.劣モジュラ関数と凸解析との関連を活用し,効率的なアルゴリズムの設計を行っているという点で非常に興味深い結果であり,数学的にも優れた内容である.また,本研究の内容は,2007年1月開催の ACM-SIAM Symposium on Discrete Algorithms(SODA)で発表され,国際的にも高い評価を受けている結果である.以上のことから,CS領域奨励賞にふさわしい成果として推薦する.
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●極大クリーク全列挙アルゴリズムCLIQUESを基にした極大2部クリーク全列挙アルゴリズム
  [2006-MPS-62 (H18.12.22)] (数理モデル化と問題解決研究会)

仲川 崇史 君 (正会員)

発表時所属: 電気通信大学大学院電気通信学研究科情報通信工学専攻博士前期課程2年
受賞時所属: 株式会社ACCESS人事部
[推薦理由]
本発表ではCLIQUESを基にした極大2部クリーク全列挙アルゴリズムを提唱している.これがCLIQUESより使用するメモリが小さく,かつ高速である事を計算機実験で示し,興味深い結果を示している.
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●パーソナライズを考慮したWeb検索フィルタリングアルゴリズム
  [2006-MPS-62 (H18.12.22)] (数理モデル化と問題解決研究会)

堀田 知宏 君 (正会員)

発表時所属: 名古屋大学大学院情報科学研究科複雑系科学専攻修士課程2年
受賞時所属: (株)NTTデータ

[推薦理由]
膨大な情報源であるWebから適切に効率良く所望の情報を得ることは非常に重要である.本研究では,その目的を達成する一つの手法として,各ユーザーの嗜好に適合する様にURLをソーティングするアルゴリズムを提唱し,興味ある結果を示している.
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●デュアルコアプロセッサにおける最悪性能の確率的予測手法の提案
  [2007-EMB-3 (H19. 1.23)] (組込みシステム研究会)

斉藤 一樹 君 (正会員)

発表時所属: 名古屋大学大学院情報科学研究科情報システム学専攻修士2年
受賞時所属: ソニー株式会社・テレビ事業本部プラットフォーム技術部門
[推薦理由]
近年組込みシステム分野においてもマルチコアプロセッサが注目されているが,マルチコアプロセッサにおいては,バスや共有変数等のリソース競合により,最悪実行時間を正確に見積もることが難しい.本論文は,デュアルコアプロセッサを対象に,リソース競合の発生状況をモデル化し,確率モデルを用いることによって最悪実行時間を確率的予測する手法を提案し,その有効性を実験により検証した.マルチコアプロセッサのハードリアルタイムシステムへの適用に向けて,有効性の高い成果である.
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