2006年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細

コンピュータサイエンス領域奨励賞は,コンピュータサイエンス領域に所属する研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な研究発表を行った若手会員に贈呈されます.本賞の選考は,CS領域奨励賞表彰規程,CS領域奨励賞受賞者選定手続およびCS領域奨励賞受賞者推薦内規に基づき,領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は8研究会の主査から推薦された計11編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定しました.本年度の受賞者は下記11君で,各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,賞金が授与されます.

●Synvie:ブログの仕組みを利用したマルチメディアコンテンツ配信システム
  [2006-DBS-138 (H18. 1.26)] (データベースシステム研究会)

山本 大介 君 (学生会員)

発表時所属: 名古屋大学大学院情報科学研究科博士課程1年
受賞時所属: 名古屋大学大学院情報科学研究科博士課程2年
[推薦理由]
マルチメディアコンテンツ配信システムの研究において,ブログを対象にして,そのうえでマルチメディアコンテンツの流通と,そのウェブコミュニティを支援する新しい仕組みを提案した.また,それらを取り巻くウェブコミュニティにおける,ユーザの自然な知的活動(ブログを書く・コメントを投稿する・コンテンツの視聴履歴など)からコンテンツに関する知識をRDF形式のアノテーションとして抽出し,蓄積する仕組みも提案した.これらの実現をとおしてアイデアの可能性を示した.以上のように顕著な功績を挙げたので,CS領域奨励賞に値する.
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●ソースコードの差分を用いた関数呼び出しパターン抽出手法の提案
  [2006-SE-151 (H18. 3.23)] (ソフトウェア工学研究会)

中山  崇 君 (正会員)

発表時所属: 大阪大学大学院情報科学研究科コンピュータサイエンス専攻
受賞時所属: 富士通株式会社
[推薦理由]
本論文は,ソフトウェア部品化を促進するために,機能的に関連した関数群の利用法を示す「関数呼出しパターン」をソースコードから自動生成する新しい方法を提案している.従来の関数呼出しパターン抽出方法では,機能的なまとまりを特定することが困難であった.本方式では,「ソースコードの,ある一時に(版管理システムへの一度のチェックイン時に)変更された部分は,ある一つの機能を扱っている」というアイデアによりこの問題を解決している.さらに,実用規模のオープンソースに対して本方式の有効性を実証しており,既存プログラムからの部品再利用に向けた実用性の高い有益な研究であるといえる.今後のソフトウェア再利用技術への貢献が大いに期待されることから,CS領域奨励賞に相応しい論文と判断する.
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●ワークロード最適化によるキャッシュシミュレータの高速化
  [2005-ARC-164 (H17. 8. 4)] (計算機アーキテクチャ研究会)

中田  尚 君 (学生会員)

発表時所属: 豊橋技術科学大学大学院工学研究科電子・情報工学専攻(博士課程2年)
受賞時所属: 豊橋技術科学大学 工学研究科 電子・情報工学専攻(並列処理研究室) 
[推薦理由]
表彰対象となった発表論文は,シミュレーションワークロードごとに,そのキャッシュシミュレーションに最適化したシミュレータコードを生成することによって,シミュレーション性能を1桁向上させる方法の提案・実装・評価に関するものである.この研究の優秀性は,1桁の性能向上という優れた効果はもちろん,複数の最適化手法を組み合わせることで個々の手法による効果の積を大きく上回る相乗効果が得られることを示したことにある.またベースのアイデアである,ワークロードごとの最適化したシミュレータコードの生成は候補者の独創によるものであり,新規性・有用性の両面で優れた研究である.
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●シングルIPアドレスクラスタの設計
  [2005-OS-100 (H17. 8. 3)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

松葉 浩也 君 (正会員)

発表時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻博士課程1年
受賞時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻
[推薦理由]
本論文で提案された SAPS (Single Address Protocol Stack for clusters) はTCPプロトコルハンドリングをI/Oサーバに集約し,各クラスタノードはTCPソケットと互換性のあるインターフェースでこのI/Oサーバと通信をおこなう.一台の計算機に多くの接続を集約させる場合,ネットワークのキューに多くのパケットが挿入された状態が続くことにより,通信性能が低下するという問題がある.本研究ではこの問題に対し,キューに挿入するパケット量を制限する解決法を提案している.提案手法は,NATと比較して低遅延,高速であり,複数の通信が平等に帯域を共有する.本研究は,今後のクラスタサーバにおける有効な通信手法を示しており,価値がある.よって CS 領域奨励賞に推薦する.
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●User Mode Linux上における高速通信機構
  [2006-OS-101 (H18. 2.16)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

仲亀 渉 君 (正会員)

発表時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻
受賞時所属: 西日本電信電話株式会社 総務部人事グループ
[推薦理由]
本発表では,ユーザレベルで動作する仮想的なオペレーティングシステムUser Mode Linux における通信の高性能化手法が提案された.提案内容は,プロトコル処理をホストOS側からゲストOS側に移すこと,および,ホストOS側のシグナル処理の高速化である.特に,シグナル処理の高速化については,二つの方式を挙げ,実験を通じてそれぞれを詳しく評価している.近年,User Mode Linux を含めた様々な仮想実行環境が大きな注目を集めており,今後も益々重要性が増すと考えられる.そのような状況において,本発表における提案内容は非常に意義があると考えられる.よって CS 領域奨励賞に推薦する.
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●オンチップグローバル配線における確定的/確率的ノイズとエラー率のモデル化
  [2005-SLDM-122 (H17.12. 1)] (システムLSI設計技術研究会)

湯山 洋一 君 (正会員)

発表時所属: 京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻博士課程3回生
受賞時所属: 株式会社ルネサステクノロジシステムソリューション統括本部
[推薦理由]
本研究では,チップ上配線におけるエラー検出/訂正符号化の研究に不可欠であるエラーの発生確率のモデル化方法を提案している.従来手法とは異なり,確定的なノイズと確率的なノイズを区別してモデル化することにより,ノイズ量やエラー率を見積もる上で,より現実的なモデル化を可能としている.また,計算機実験により,従来手法と比べ,エラー率の見積もり値が 100倍以上異なる場合があることを示している.チップ上配線におけるノイズについてより現実的なモデルを提案しており,実用上の有効性も期待されることから本奨励賞に推薦するものである.
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●二次近似法に基づくプログラマブル数値計算回路の構成とその合成法
  [2006-SLDM-123 (H18. 1.17)] (システムLSI設計技術研究会)

永山  忍 君 (学生会員)

発表時所属: 広島市立大学情報科学部情報工学科
受賞時所属: 広島市立大学情報科学部情報工学科
[推薦理由]
種々の数値計算回路の構成法は古典的な課題であるが,本研究では,三角関数,対数関数,平方根演算,逆数演算などの多様で複雑な関数を計算する数値計算回路の構成とその自動合成法を提案している.提案手法では,Look-Up Tableカスケード,不等区間分割,二次近似法を組み合わせることにより,高精度(24ビット精度)の数値計算回路を,従来法に比べ 4-22% 程度のメモリ量で,FPGA実現することに成功している.数値計算回路の有効な構成手法を示しており,今後の発展も期待されることから,本領域奨励賞に推薦するものである.
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●高いヒープ使用率の下で高速なインクリメンタルGC
  [PRO-2005-2 (H17. 8. 4)] (プログラミング研究会)

白井 達也 君 (学生会員)

発表時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻修士課程1年
受賞時所属: 東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻修士課程2年
[推薦理由]
本論文では,インクリメンタルGCにおいて,ヒープ使用率の増加に伴うスループットの低下を抑える手法を提案している.提案する手法は参照カウント(RC)方式をベースに,循環参照したオブジェクトの回収を含むバックアップGCとしてIncremental Mark & Sweep(IMS)を採用したものである.提案手法の特徴は,IMS部のマーク量を動的に制御することでスイープの開始タイミングを適切にスケジュールし,IMSのサイクル数を減らすことにある.結果として,ヒープ使用量が高い場合におけるコストの上昇を抑えることができている.RCとIMSを組みあわせたハイブリッドGCにおいて,IMSのマーク量をマーク量とヒープの空きに従って動的に制御する方式には新規性がある.また,モデルにもとづいたコストの見積りと,JMTkを用いた実装による評価を行っている.IMS部において,lazy sweep が未実装である等若干未完成な部分はあるものの,本論文の結果のコミュニティへの貢献は大きい.よって,本論文をCS領域奨励賞に推薦する.
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●多値モデル検査を利用したモデル化の誤りの発見
  [PRO-2005-4 (H18. 1.16)] (プログラミング研究会)

辰巳 淳朗 君 (学生会員)

発表時所属: 筑波大学大学院理工学研究科理工学専攻2年
受賞時所属: 日本電気株式会社航空宇宙防衛事業本部
[推薦理由]
本論文は,多値モデル検査を用いてモデル化の冗長性を検出する手法について述べている.まず,ガード条件で遷移が記述されるシステムの冗長性を検査する手法を提案し,さらに,一般に膨大になる計算量を削減する方法としてガード条件が持つ単調性を利用した枝刈り手法を提案している.また,本手法と抽象化と組み合わせるための基本的な知見として,多値クリプケ構造に対するシミュレーション定理を示している.
一方本論文では,モデル化の冗長性が誤り発見の手がかりとなるという立場をとっているが,その立場自体は十分に正当化されていない.しかしこれは,主題そのものが未開拓な領域に踏み込んでいる証でもある.モデル検査によってモデル化そのものの妥当性に対してはたらきかけるという,新たな手法を目指す著者の野心と可能性も評価して,CS領域奨励賞に推薦する.
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●電力取り引きにおける約定量決定問題の高速解法
  [2005-AL-101 (H17. 5.19)] (アルゴリズム研究会)

清見  礼 君 (学生会員)

発表時所属: 総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻(国立情報学研究所)博士課程2年
受賞時所属: 総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻(国立情報学研究所)博士課程3年
[推薦理由]
近年自由化が行われた電力取引の市場における取引価格は,ある種の最適化問題の解を計算して決定することが義務付けられている.本研究は,この価格を計算する高速な計算手法を提案している.従来のアルゴリズムでは,将来的に電力市場が超大規模になった場合に現実的な時間で計算できるか不明であったが,この研究により問題の大きさの線形時間,つまり最適に計算可能であることが理論的に保証された.またこのアルゴリズムは,既存の手法とはまったく異なる発想に基づいており,アルゴリズム理論の側面からも重要な結果である.よって,CS領域奨励賞にふさわしい成果として推薦する.
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●遺伝子発現プロファイルを用いた遺伝子制御ネットワーク推定のためのバイクラスタリングの利用
  [2005-MPS-57 (H17.12.20)] (数理モデル化と問題解決研究会)

瀧  浩平 君 (学生会員)

発表時所属: 大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程
受賞時所属: 大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻ゲノム情報工学講座
[推薦理由]
遺伝子発現プロファイルを用いた遺伝子制御ネットワーク推定の既存手法として,遺伝子のクラスタとその制御を行う遺伝子を推定するモジュールネットワークモデルが挙げられる.多様な実験条件を含む発現プロファイルでは,多くの実験条件で発現が類似しないクラスタが作られる事が多く,推定精度が低下する.本研究発表では,遺伝子のクラスタの代わりに,遺伝子と実験条件のバイクラスタに対して制御関係を推定する方法を提案し,精度の低下を軽減できることを示した.このように,本研究報告の内容は独創性の高い研究である.さら,研究発表の内容も非常によくまとまっており,第57回数理モデル化と問題解決研究会においてプレゼンテーション賞を受賞した.以上のことより,本研究をCS領域奨励賞として推薦するものである.
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