2023年03月02日版:田上 敦士(財務担当理事)

  • 2023年03月02日版

    「デジタルとリアルのバランス

    田上 敦士(財務担当理事)


     私が財務担当理事に就任してから早いもので2年が経過しようとしており、任期の終了が近づいています。就任以前は研究会の活動からのみ学会を見ていましたが、財務担当理事としてお金の流れを通して全体を俯瞰して見ることができたのは、貴重な体験でした。実際、今まで知らなかった情報処理学会の業務などを知ることもできました。

     意外と忘れそうになりますが、情報処理学会の主な業務は、会誌や論文誌などの出版になります。しかしながら、紙の出版物に触れる機会が減ってきていると感じる方も多いかと思います。私も冊子になった論文誌にアクセスすることはほぼなく、PDF形式の論文をPCやタブレットで読むことが多いです。辞書アプリとの連携で便利さを感じる一方で、薄くなった会誌に少しノスタルジックな気持ちになる自分がいます。また、新型コロナウイルスの影響もあり、研究会や全国大会、国際学術会議、標準化のオンライン化が進みました。財務的に見ると完全オンラインでの開催は会場費などの経費の抑制になるのですが、やはり「対面」でのつながりを重視して、ハイブリッドでの開催も増えてきています。情報処理技術の学会としては、また、財務担当理事と兼務している情報システム・DX委員会委員長としては、「デジタル化」が推進すべき道なのでしょうが、完全なデジタル化はまだ抵抗がある気がします。

     研究会や連続セミナーなどがオンラインで開催されることは、どこからでも参加でき、移動時間・コストが不要になるなど、多くのメリットがあります。また、IPSJ VIRTUAL HALLや情処ラジオなど、オンラインだからことできる活動もあります。このような、デジタル化やオンライン化のメリットは説明するまでもなく、多くの方が感じているかと思いますし、情報処理技術の恩恵は、本会が積極的に活用し、そのメリットを享受すべきものだと思います。一方で、情報処理の専門家だからこそデジタル化やオンライン化のデメリットも見えてくるのかと思います。現在、紙で発行している「賞状」や「認定書」のデジタル化、つまり、オープンバッジの配布については、デジタル化に関するメリット/デメリットや事業の持続性、標準化などさまざまな議論が行われ、少しずつ導入することになりました。この議論は専門外であったこともあり、私にとっては勉強になった議論でした。

     すべてをデジタル化すべきではない。これは多かれ少なかれ、みなさん感じていることかと思います。このデジタルとリアルのバランスをうまくとるための技術やノウハウを蓄積することも大事だと考えます。しかしながら、デジタル化されていく領域が今後広がって行くことも確かだと思いますし、情報システム・DX委員会としても広げていくべきです。ご存じのとおり「DX」は情報システムだけでなく、事業そのものの変革を指しています。デジタル化が進む学会事業・社会活動はどのようなものになってゆくのか、そのとき、リアルとのバランスはどのようにとるのか、学会サービスのDX化を試金石として、情報処理学会が指針を示せるように皆様と考えていければと思っています。