2013年07月01日版:砂原 秀樹(事業担当理事)

  • 2013年07月01日版

    「情報銀行」

    砂原 秀樹(事業担当理事)


     「ビッグデータ」という言葉が聞かれるようになって久しいが、そのメリットが語られると共にプライバシの問題等が議論されるようになってきた。ところで、私は「ビッグデータ」という言葉に違和感を持っている。非常に多数・多種の情報から有益な情報を引き出す処理のことを指すわけであるが、実際に扱ってみると情報全体の総量はそれほど大きく無いことが多い。例えば、私が聞いた話ではある病院で扱った2年間の医療データは1T Byte程度であったということであった。これは今や一本のHDDに格納可能な量である。なので「ビッグ」では無いと考えるのである。たぶん「Massive Data」の方がしっくりくるのではないかと考えている。そういう意味では、喜連川先生の「情報爆発」という言葉はなかなかなネーミングだと思っている。

     さて、この「ビッグデータ」であるが、このところ前述のプライバシの点だけでなく、特定の企業に情報が集中するなど問題点がクローズアップされてきている。技術は有益な点と問題点のバランスを取りながら進化していかなければならないと考えているが、時としてこういう批判が技術を潰すケースもある。ビッグデータ利活用に関する法的整備や制度設計等を進めなければならないが、これには時間もかかりまたこれらで守ることが難しいこともある。並行して技術の開発を進めなければならない。

     実は、昨年後半から東京大学空間情報科学研究センターの柴崎亮介教授らとともに「情報銀行」というプロジェクトをスタートさせている。一般の利用者の認識では、多くの情報が知らないあるいは気付かないうちにビッグデータとして収集されていると考えられている。こうした情報の流れを一度整理し「自分の情報を預け、それを利活用してもらい、そこからなんらかの益を得る」仕組みを確立できないかと考えているのである。こうした情報の流れが、「銀行に預金し、運用してもらい、利子を得る」ことに似ていることから、この仕組みを柴崎教授が「情報銀行」と命名したのである。約1年の準備期間を経てこれから大学だけでなく企業と協力して本格的にプロジェクトをスタートさせることとなった。

     プロジェクトでは、具体的に技術の開発を行い、これらをオープンソースとして公開する予定である。ここには
    • 情報を安全に収集・管理をする技術
    • 情報収集の際に利用者から許諾を得る仕組み
    • 利用者の情報がどのように利用されたか確認する仕組み
    等の技術が含まれる予定である。

     また、こうした技術を使って運用される組織について、組織運用に関する知見を蓄積しドキュメント化するとともに、こうした組織を監査するメカニズム等を検討することになっている。さらに実証実験を実施することで、このような仕組みで有益な情報を生みだしビジネスとして成立するのか、またこのような仕組みが社会に受容されるか否かを調査する計画である。

     具体的なプロジェクトの内容については、9/30に慶応の日吉キャンパスにおいてシンポジウムを実施して広く紹介する予定である。また、参加される組織も広く求めている。これらのことに興味のある方は以下にお問い合わせいただければ幸いである。プロジェクトやシンポジウムのご案内をさせていただく。
     E-Mail: info-bank-inq@kmd.keio.ac.jp

     なお、情報銀行のコンセプトについては、柴崎教授のTEDxTokyoの講演を参照頂けると幸いである。
    http://tedxtalks.ted.com/video/TEDxTokyo-Ryosuke-Shibasaki-I-2

     まだまだ、やらなければならないことは多く、どのぐらい有効な仕組みを作ることができるかはわからないが、今後に期待して頂ければと考える。


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