会長挨拶

会長挨拶

創立記念日に寄せて

会員各位
2019年4月22日
情報処理学会会長 西尾章治郎

  情報処理学会は本日で創立59周年を迎えました.

  現在,我が国では第5次科学技術基本計画を遂行中で,IoT ,AI,ロボット,ビッグデータなどにより,人々が快適に活躍できる超スマート社会「Society 5.0」の構築を目指しております.また,世界に目を向けると「SDGs(Sustainable Development Goals)」が人類共通の課題になっております.これら「Society 5.0」や「SDGs」の実現におきましては,「情報処理」技術がその基盤技術として期待されております.本会がそのような期待に応える絶好の機会を迎えていることを強く認識するとともに,その責務の大きさを痛感しております.

  本会は大学などの教育・研究機関と企業など産業界の会員がほぼ半々の構成となっており,情報処理分野の最先端の技術とその啓発および社会実装のすべてに責任を持っています.研究者・教育者と実務家がともに議論して互いを高めあう場を提供することが本会の使命でもあります.そのような従来の使命に加えて,「社会の中の学会,社会のための学会」となることを目指して,近年,若年層を対象とした新たな方向性を打ち出しております.

  2020年から小学校でプログラミング教育が,2022年度からは高校で「情報科」新カリキュラムが次々と導入されます.情報処理技術の基礎は必須のリテラシーと認知されつつあり,本会でも若年層向けの企画を強化しております.例をあげますと,第81回全国大会では新たに「中高生ポスターセッション」を開催し,37チームによる発表から優秀な発表に対する表彰を行いました.会誌では「先生,質問です!」「集まれ!ジュニア会員!!」など新連載をスタートしました.これらをまとめてWebに「ジュニア会員のページ」を新設しました.これらの施策により,2018年度末にジュニア会員(小学生~大学3年生)の人数が1,642名(昨年度末より860名増加)となりました.将来,この中から優秀な情報技術者が出てくるものと期待しております.

  産業分野に向けては,ソフトウェアジャパンや連続セミナー,短期集中セミナー,デジタルプラクティスなどの取り組みを実施,継続するとともに,会員と社会に対する観点からさらに改善していくよう検討を進めています.高度な専門知識と豊富な業務実績を有する情報技術者に資格を付与するCITP制度は,2018年度末でCITP認定者累計が9,402名となりました.昨年2月にIFIP(情報処理国際連合)から,IFIP IP3(International Professional Practice Partnership)の国際認定を受けたことで,普及活動が加速し,認定者は1万人に近づきつつあります.

  研究会活動では産業分野との連携や横断的な研究テーマに取り組む研究会のあり方を検討し,ビッグデータ研究グループを発足させました.会誌の発行,論文誌の発行など学会のコアな活動に加え,IEEE-CS,ACMとの共同表彰制度の創設や,CCF(中国),KIISE(韓国)との国際フォーラムの開催など国際連携も深めてまいりました.情報規格調査会では, ISO/IEC JTC 1が設置した人工知能に関する国際標準化のための分科委員会(JTC 1/SC 42)に対応する専門委員会を設置,同標準化分野における日本としての活動に貢献しています.

  2018年夏には刷新した学会システムが始動いたしました.新システムにより,会員あるいはこれから本会に参加される方が,マイページを通して会費や研究会,本会イベントへの参加をオンラインで管理できるようになり,本会の業務も合理化されました.

  新元号「令和」への改元が迫っており,それを契機に本会も新たな気持ちで活動を進めてまいります.また,2020年は東京オリンピック・パラリンピック開催の年であると同時に本会の創立60周年となります.記念事業に向けて始動いたしましたので,今後とも積極的なご参加ならびにご支援のほどよろしくお願い申し上げます.
 

新年のご挨拶

会員各位
2019年1月7日
情報処理学会会長 西尾章治郎

  あけましておめでとうございます.会長就任から2回目の新年を迎えました.昨年の取り組みと今年の目標について述べさせていただきます.

  まず,昨年は日本国内のみならず世界中で地震や豪雨災害に見舞われ,学会イベントなどにも一部影響を受けました.被災された方々にお見舞い申し上げるとともに,ITやAI活用による防災技術への貢献が重要な課題であると考え,今後さらに研究強化を図っていきたいと思います.
  さて,昨年も述べましたが,本会が社会的役割を果たすためにも会員数を増加させる必要があります.昨年11月末時点での個人会員の新規入会者数は1,687名で,一昨年同月時点を上回りました.また,同時点でジュニア会員数は1,300名となり,2015年度の制度開始から過去最多となりました.ジュニア会員のWebページにコンテンツを集約掲載し,ジュニア会員活性化委員会を新たに発足するなど,ジュニア会員向けサービスの拡充が功を奏したと考えます.このような活動を踏まえて,今年3月末には昨年度を上回る総会員数となるよう努めてまいります.
  次に,国際的に活躍するトップレベルの研究者・技術者の育成については,IEEE Computer SocietyおよびACMとジョイントアワードの制度化を確立し,今年3月の全国大会でお披露目できる予定です.アジアの学会との関係強化に関しては,韓国のKIISEや中国のCCFとの連携において,初のJoint Technical Forumを開催いたしました.また,CITP(認定情報技術者)制度がIFIP/IP3の認定を受けたことは大変誇りに思います.認定者の増加とさらなる高度IT人材育成を推進する所存です.
  さらに,情報教育に関しては,新学習指導要領における小中学校の児童生徒への「情報教育」の導入決定や,大学入学共通テストへの教科「情報」導入に向けての検討など大いに注目が集まりました.本会でも昨年9月のExciting Coding! Juniorや今年3月の全国大会で新しい『中高生ポスターセッション』などの試みも準備しており,次世代を担う青少年の育成にも尽力してまいります.
  事務局業務においては,昨年9月から新会員システム(マイページ)を導入し,会員の利便性向上と事務局の業務削減にも取り組みました.12月末時点で約8,000名の方にマイページをご利用いただいております.今後,会員情報を積極的に活用したサービスの強化を図っていきます.
  最後に,昨年11月には,歴代会長である長尾先生の文化勲章,益田先生の瑞宝中綬章受章の朗報に会員一同が大変勇気付けられました.2020年に本会が60周年の節目を迎えるに当たり,エポックメイキングな慶事となりました.

  本年も未来志向のコミュニティとして会員の皆様とともに学会活動に邁進してまいりますので,より一層のご支援のほどを何卒よろしくお願い申し上げます.

長尾真名誉会員の文化勲章受章決定にあたって

 このたび,当会20代会長・名誉会員の長尾真先生(京都大学 名誉教授)の文化勲章受章の報に接し,心からお祝い申しあげます.

 長尾真先生は,永年,画像および言語の情報処理の研究に力を注がれ,パターン認識や画像処理から機械翻訳,電子図書館に至る広い分野で優れた研究成果を挙げられました.門下生として多くの優秀な研究者を輩出され,当会では長尾真記念特別賞を創設されるなど,後進の育成にも力を尽くしてこられました.
 また,京都大学総長,情報通信研究機構理事長,国立国会図書館長等の公職や当会会長をはじめ学会等の役職を歴任され,学術分野にとどまらず社会に対しても大きな貢献をなされました.
  そのご功績が実を結ばれたことは,私ども情報処理に携わるものにとっても大きな誇りであり,私たちに輝かしい夢と希望を与えていただきました.心からお祝い申し上げますとともに,今後もご健勝で,ますますご活躍されることを祈念いたします.

 本学会員一同は,先生のこのたびのご受章を大いなる励みとして,さらなる発展に努力してまいります.


2018年台風21号ならびに北海道胆振東部地震について

  このたびの台風21号ならびに北海道胆振東部地震により亡くなられた方々に深い哀悼の意を捧げますとともに,被災された方々,今も避難生活を余儀なくされている方々,そのご家族と関係者の方々に心よりお見舞い申し上げます.被災したインフラの早期復旧に向けて日夜ご尽力されている方々に深く敬意を表します.

  立て続けに起きた2つの自然災害は,その直接的な人的・物的被害にとどまらず,いずれも広範囲かつ長期にわたる停電をもたらした点において類を見ないものでした.情報システムを含めた私たちの生活を支えるインフラは電力なしでは機能しないという基本的な課題を,改めて突き付けられることとなりました.一方,通信ネットワークやデータセンタなど停電への対策が整備されていた一部のシステムがほぼ無停止で働き,情報の発信・共有に活用されたという報道もあり,十分な備えがあれば災害に立ち向かえることを教えてくれました.

  情報処理学会は,情報システムをはじめとするインフラの災害に対する強靭化と,災害発生時の被害の最小化や迅速な復旧,被災者の支援に向けて,引き続き情報処理技術の開発と利活用に取り組んで参ります.

  なお,本災害による被害の大きさに鑑み,2018年7月豪雨災害に対してと同様に,被害にあわれた会員の方々の2018年度分の会費を免除することにいたしました.つきましては,本件に該当する会員の方々にはご面倒をおかけしますが,本ページからリンクされている会費免除手続きにかかるページをご参照いただき,お手続きをお願いいたします.



2018年7月豪雨災害について

  このたびの豪雨災害により亡くなられた方々に深い哀悼の意を捧げますとともに,被災された方々,今も避難生活を余儀なくされている方々,そのご家族と関係者の方々に心よりお見舞い申し上げます.

  今回の豪雨がもたらした被害は広い範囲に及んでおり,被災された地域には多くの情報処理学会員がおられます.本災害による被害の大きさに鑑み,当面の被災者支援として,被害にあわれた会員の方々の2018年度分の会費を免除することにいたしました.つきましては,本件に該当する会員の方々にはご面倒をおかけしますが,本ページからリンクされている会費免除手続きにかかるページをご参照いただき,お手続きをお願いいたします.

  今回の豪雨はダムや堤防の決壊,土砂崩れなどを引き起こし,大きな被害をもたらしました.一面では我々の国土や居住環境の持つ課題を浮き彫りにしたとも言えます.情報処理技術により,こうした課題にいかに立ち向かうか,技術自身とともに技術の利活用に必要な連携を含めた最大限の貢献ができるよう,情報処理学会として取り組んで参ります.

 

大阪北部地震について

  このたびの大阪北部地震により被災された方々,ご家族と関係者の方々に心よりお見舞い申し上げます.
  情報処理学会には被害のあった地域に何人もの会員がおられます.皆様方のご無事と一日も早く平穏な生活に戻られること,ならびに,地域の復興をお祈りいたします.

  今回の地震は都市部を直撃したため,現時点で判明しているだけでも被災家屋が2万棟を超え,交通網の混乱や水道・ガスなどライフラインの機能停止が大きくクローズアップされました.このようなときこそ,情報処理技術は被害を最小にとどめ,迅速な復旧を助けるための役に立たねばなりません.センサによる情報収集を活用した異常個所の発見特定や迅速な補修,情報の交換や集積された情報の的確な加工・提示,あるいは遠隔共同作業という選択肢を提供するなど,情報処理技術はさまざまな可能性を有しています.
  こうしたレジリエントな社会を目指す努力は学会員によって今も行われておりますが,より一層社会に貢献できるよう,情報処理学会としても取り組みをさらに強化して参ります.

創立記念日に寄せて

会員各位
2018年4月22日
情報処理学会会長 西尾章治郎

  情報処理学会は1960年にスタートし、本日で創立58周年を迎えます。

  ここ数年、ディープラーニングに代表される人工知能(AI)やビッグデータ、コンピュータ将棋・囲碁などの技術的な進展により、社会的にも情報処理に対する関心が飛躍的に高まってきています。2016年に策定された第5期科学技術基本計画により、IoT(Internet of Things)や ロボット、人工知能、ビッグデータ等の技術をベースに、社会のさまざまなニーズにきめ細やかに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、活き活きと快適に暮らすことのできる社会(超スマート社会(Society 5.0))を構築しようとする取り組みが始まりました。
  さらに、2020年から導入される次期学習指導要領では、急速に発展する高度情報化時代に必要なスキルとして、プログラミング教育が小学校から導入されることになりました。小学校でのプログラミング教育の導入は2000年代に入って間もなくから実施している国もあり、我が国は国際的に見れば遅きに失した感もありますが、若い世代の多くの人にメタサイエンスとしての情報処理技術が浸透していくことは、望ましいことと考えます。

  情報処理学会でも若い人たちに少しでも情報処理に関心を持ってもらおうという観点から、小学生から大学3年生までが無料で会員になれるジュニア会員制度を設けています。昨年度は一昨年度に比べて186人増の782名の方にジュニア会員になっていただきました。学会としても、若い人たちに興味を持ってもらえるように会誌を充実させたり、全国大会で高校生や高校の先生にも参加してもらえるようなイベントを充実させたりしたいと考えています。一人でも多くの若い人たちに学会の活動や魅力を知っていただくことが重要であり、会員の方々のご子息・ご息女、ご令孫、ご親戚、お知り合いなどの方々の入会をご検討ください。
  また、人工知能やビッグデータ、IoT、セキュリティなど近年の新たな情報技術はコンピュータ関連の業務に従事する人のみならず、さまざまな産業分野の人にも重要な技術になりつつあります。本会においても、ソフトウエアジャパンや連続セミナー、短期集中セミナーなどの取り組みを通じて、企業のリカレント教育などにも積極的に貢献していきたいと考えています。さらに、情報処理学会では情報技術者のプロフェッショナルとしての能力を認定する認定情報技術者(CITP:Certified IT Professional)制度を創設し、高度な専門知識と豊富な業務実績を有する情報技術者にCITPの資格を付与してきました。一方、IFIP(情報処理国際連合)は、その重要な活動の一環として、高度IT人材資格制度の推進組織であるIP3(International Professional Practice Partnership)の創設および国際展開を図ってきました。 本年2月に、IP3のプロフェッショナル資格制度IP3Pの国際基準をCITP制度が満たしていることが認定され、そのことによりCITP制度に関わる長年の念願が成就されました。これを契機に、情報処理学会は国際的に認められたCITP制度の普及を加速するとともに、CITPコミュニティの発展を支援していきます。

  この1年、研究会活動、会誌の発行、論文誌の発行など学会のコアな活動に加え、情報処理学会のサービス向上や若手の育成に関するいくつかの取り組みを行ってきました。全国大会での若手研究者のトークイベントIPSJ-ONEの実施やニコニコ動画での配信、国際AIプログラミングコンテストSamurAI Codingの実施などを行うとともに、学会事務の情報システム化を推し進め、今夏にはマイページの新たなサービスの提供を始める予定です。サービスが開始されたあかつきには、改善のためのフィードバックを会員の皆さんからいただければ幸いです。さらに、IEEE-CSやACMなどとの国際連携を深め、両学会と共同で若手研究者を顕彰する新たな表彰制度を創設します。CCF(中国)、KIISE(韓国)の両学会とは今秋に合同でスマートシティ関連の国際フォーラムを開催します。また、研究者と企業などの技術者が一緒になって最新の情報技術の産業応用などを議論したりする研究会・研究グループを新設できるような仕組みも構築して参ります。

  2020年度の創立60周年に向けて、今年度も新しい企画が続々登場します。どうぞご期待ください。
 

新年のご挨拶

会員各位
2018年1月5日
情報処理学会会長 西尾章治郎

  あけましておめでとうございます。早いもので昨年6月に会長を拝命して以来、7カ月が過ぎました。新年にあたり、会長就任時に掲げさせていただいた実行の柱について、3つを例に振り返り、最後に今年の展望について述べさせていただきます。

  まず第1の柱である本会が社会に影響力を持つための会員数の増加です。支部役員や理事の皆様のご努力により、昨年12月時点での個人会員の新規入会者数は2,000名強と、前年度1,600名に対して大きく上回りました。また、事務局のご努力により企業などによる賛助会員口数も昨年12月時点で前年度を7%超上回ることができました。今後は、ジュニア会員の入会締切を延長したので、ジュニア向けサービスの充実などによりさらに若い世代の入会を促進していきます。
  次に、国際的に活躍するトップレベルの研究者・技術者の育成については、IEEE Computer SocietyやACMと、ジョイントアワードを新たに設けることで合意が形成できました。アジアの学会としては、韓国のKIISEや中国のCCFとの連携をさらに深めていきます。
  最後に、次代を担う世代へのアプローチのさらなる強化については、昨年12月に文部科学省から「超スマート社会における情報教育カリキュラム標準の策定に関する調査研究」を受託することができました。本研究成果を2007年に本会で制定した情報教育カリキュラム(J07) の更新に役立て、社会的ニーズが高まっている高度IT人材の創出に貢献していく所存です。

  人材教育に関連したトピックについて紹介します。昨年9月、日本経済新聞社主催の「関西経済人・エコノミスト会議」で「イノベーションと人材育成」をテーマに、京都大学の山極壽一総長、神戸大学の武田廣学長、日東電工の高﨑秀雄社長と議論する機会がありました。焦点となったのは産学の垣根を越える仕組み作りでした。当シンポジウムでは企業大学連携がテーマでしたが、連携前のマッチング探索フェーズでは、産業界学界の情報処理のプロからなる本会がハブになると確信します。

  国の動きとしては昨年11月発足した第四次安倍内閣により「生産性革命」に加えて「人づくり革命」を両輪として、デフレ脱却に向けて2020年度までの3年間を集中投資期間とすると表明されました。「生産性革命」に情報処理は不可欠であり、さらにその実現にはシステムを研究開発する人材の養成が急務であることを考えると、本会への社会的責務はさらに重くなってきたといわざるを得ません。

  社会的な重責を果たすべく、未来志向型のコミュニティとして新たな活動を展開していく1年としたいと考えます。会員皆様とともに歩むべく、本年もよろしくご支援のほど、お願い申し上げます。


日経産業新聞にインタビュー掲載

7/3発行の日経産業新聞8ページ、先端技術面、直談のコーナーに西尾会長のインタビュー記事が掲載されました。

情報処理学会会長 西尾章治郎氏に聞く

 科学新聞に西尾会長への取材記事が掲載されました。

 情報処理学会の第29代会長に西尾章治郎大阪大学総長が就任した。情報処理は、我々の生活や研究開発にとってなくてはならないものであり、今後の各分野の発展や産業競争力にも直結する重要な分野だ。「情報処理技術を開発していくだけでなく、情報処理で社会システムをいかに変革していくかが重要」と話す西尾新会長にお話を伺った。(続きは科学新聞6月30日号をご覧ください。fujisanで購読いただけます。)

会長就任にあたって

社会と共に未来をデザインする学会を目指して

—会長就任にあたって—


西尾章治郎
情報処理学会会長/大阪大学

 

(「情報処理」Vol.58, No.7, pp.560-561(2017)より) 

 このたび,第29代会長を拝命しました.歴代の会長,歴代・現在の役員,学生会員を含む会員の皆様,そして事務局の皆様の力強いバックアップをいただきながら,情報処理学会の会長を務めさせていただく喜びと重責を身にしみて感じております.今後,以下に述べることを大きな実行の柱として,皆様とともに本会をさらに発展させていく所存です.
 

追い風の中での責任の重さ

 昨年開始された我が国の第5期科学技術基本計画では,IoT(Internet of Things),人工知能(AI)技術,ビッグデータ解析など情報処理技術を駆使した「超スマート社会(Society 5.0)」の実現を目指しています.まさに,本会の活動が社会全体にとってきわめて重要になり,その潜在力を活かす絶好機が到来しています.本会はこの好機を捉え,真価を発揮して社会変革(イノベーション)を正しい方向にリードして,新たな社会を実現する責務があると考えます. 

  逆に言えば,この機において,社会の要請に十分に応えることができないようであれば,我々の分野全体への信用を失墜しかねないほどの重要な時期に差しかかっていると言えます.そのことを肝に銘じて学会活動を展開していきます.

社会と共に歩む,そのためにも会員数の確保

 我々を取り巻く諸問題が,複雑化・高度化すると同時に,情報処理技術の急速な進展が先導役となって,産業構造も「垂直統合」から「水平統合」へと大きく変遷しています.その状況の中,学会自体も変革の時期にきており,新たな役割を果たすことが社会から求められています.特に,その実現のためには,「問題をいかに解決するのか」ということ以前に,根源的な課題である「いったい何をすればよいのか」,「なぜそれをするのか」,ということを学会内のみならず,社会のさまざまなステークホルダーと共にオープンに創造する,つまり,「共創(Co-creation)」する学会へと変革を遂げる必要があります.

  そこで本会では,産・官・学・民が一体となり課題の議論やアイディアの発表を行う「共創」の場を活性化し,情報処理に関する多様な分野に携わる本会員の「協奏(Orchestration)」を強化します.その強化策を通じて,「共創に向けた新しい協奏のかたち」を本会のビジョンとして国内外に発信し,「未来をデザインする場」としてのグローバルな活動基盤を確立していきます.

  そのような活動を多様なステークホルダーの方々と展開し,社会に影響力を及ぼす観点からも,学会としての大きな存在感を示すことは重要であり,そのために会員数の確保が必要不可欠です.現在,会員数は,2万人を切る状態にまで減少しています.私は,古川元会長,喜連川元会長のもとで副会長を務めた折,特に学生会員を中心とした会員増加を図り,何とか減少を食い止めることができました.そのときの経験をもとに,会員数の維持,増加を目指していきます. 

魅力あるイベント・企画の強化

 本会では,研究会,全国大会,ソフトウエアジャパン,FIT(情報科学技術フォーラム)などを軸として,さまざまなイベントや企画を推進しており,それらは時代の変遷に伴って,より魅力的なものへと進化しています.たとえば,AI技術やビッグデータ解析技術については,近年のソフトウエアジャパンにおけるメインテーマであり,企業を中心とする多くの研究者・技術者に参加いただいています.また,先の全国大会の若手研究者のトークイベントIPSJ-ONEの会場には中・高校生や大学生など多くの若者が集まり,各研究会から推薦された若手研究者の最先端の研究成果に耳を傾けてくれ,ニコニコ生放送での中継もされました.

  このような従来の魅力的なイベントを発展・強化させつつ,若い世代が本会の魅力をさらに感じられるよう,新しい企画を積極的に導入していきます.
 

国際的に活躍するトップレベルの研究者・技術者の育成

  最近,情報技術分野における我が国のプレゼンスは,多くの研究領域において衰退しつつあるようです.世界トップクラスの論文誌や国際会議の企画・運営に,我が国の研究者・技術者が中心的に参画している研究領域は少なくなってきており,残念なことですが,国際的な活動からは影の薄い存在になりつつあります.

  このような現状を打開し,国際的にトップレベルで活躍する研究者・技術者を育成することは,学会の重要な存在意義の1つであり,我が国の研究力・技術力を維持し向上する上で必須です.そのためには,本会においてもシニア・中堅の会員がより強力に国際的に活躍し,若手に経験やノウハウを伝授する必要があり,さらにその流れを継続していかなければなりません.このようなサイクルを実現・支援する場として,本会が機能することが望ましいと考えます.

  今後は,国際的にトップクラスで活躍する「とんがった」研究者・技術者を育成するための,教育システムや企画について検討したいと思います.さらに,中国・韓国などのアジア諸国との連携を一層深めつつ,欧米との連携にも力を入れ,本会員が国際活動に積極的に参画できるような場を提供したいと思います.

次代を担う世代へのアプローチのさらなる強化

  大学教育・入試改革の動きの中で,高大接続が重要視されています.私は,2017年3月20日に大阪で開催されました文部科学省大学入学者選抜改革推進受託事業「2025年高校教科「情報」入試を考える」シンポジウムに参加し,主催者を代表して挨拶をしました.このシンポジウムは,開催会場が満席になるほどの多数の参加者を得まして,盛況裡に終了することができました.特に,高等学校の教諭の方々に多く参加いただき,大変熱心な討議をしていただきました.本会はこの受託事業の連携機関であり,そのことをはじめとして,今後,「情報」入試,さらには高校教科「情報」に関して,本会がますます大きな役割を果たすことが期待されており,そのための活動を強化していきます.

  このような活動を契機に,情報処理分野の「未来」を担う小・中・高校生を含めた次世代が本会の斬新で魅力ある企画や活動成果に触れて「ときめき」を感じることができるように努めます.


  これまで述べてきましたように,これから本会は,社会的な重責を果たしつつ,若い世代が魅力を感じる活動を推進しなければなりません.そのために,会員の皆様と一丸となって未来志向の「活気溢れるコミュニティ」の構築に邁進していきます.

 

(2017年4月27日)


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