2025年08月28日版:緒⽅ 広明(調査研究担当理事)

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    「教育データの利活用は学びを『楽しい冒険』にする羅針盤

    緒⽅ 広明(調査研究担当理事)

     私は、現在、ラーニングアナリティクス(教育データの利活用)の研究に取り組んでいます。この機会に、特に、本会の学生会員の皆様向けに、この研究分野について説明したいと思います。

     皆さん、「ラーニングアナリティクス」という言葉を聞いたことがありますか? これは、教育データを活用して、学びをより良くしていく研究分野のことです。この研究は、皆さんがこれまで受けてきた教育の在り方を、根本から変える可能性を秘めています1)

     これまでの教育は、誰かが作った地図の上をただ進むようなものでした。しかし、これからは違います。ラーニングアナリティクス(LA)は、先人たちの学びの「足跡」(データ)を分析することで、超高精度な羅針盤を作り出します。この羅針盤があれば、(現時点では生成AIなどですが、将来的にはもっと豊かなAIツールを用いて)皆さんは自分だけの道を自由に作り、知識やスキルという名の「宝物」を、まるで冒険のように楽しく見つけられるようになります。これは単なるデータ収集ではありません。これまでブラックボックスだった個人の「学び」のプロセスを可視化し、科学的な根拠(エビデンス)に基づいて学びや教え方を支援する画期的な取り組みです。

    なぜラーニングアナリティクスが重要なのか?

     学びの「足跡」を集めて分析することには、主に3つの大きな意味があります。
     
    1. 「個」に効く教育の処方箋: 「クラス全員、前へならえ!」式の画一的な教育は、いわば万人にそこそこ効く風邪薬のようなものでした。でも、LAは違います。皆さんの学習データから、「どこでつまずいたか」「どんな理解のクセがあるか」をピンポイントで診断し、「あなただけの特効薬」を処方できるようになります。
    2. 教育の「匠の技」を「エビデンス」へ:これまで教員の指導は、経験や勘に頼る「職人技」でした。LAは、その「匠の技」という暗黙知をデータという客観的なエビデンス(証拠)で裏付け、誰もが共有できるものへと昇華させます。これにより、日本の、そして世界の教育のレベルアップが図れます。
    3. 教員の負担軽減:授業準備や生徒指導で多忙な教員の皆さんを助けることもLAの重要な役割です。学習データを分析することで、生徒一人ひとりの状況を効率的に把握したり、個別の課題を自動生成したりできるようになり、教員が生徒と深く向き合う時間をもっと確保できます。

    研究を加速する3つの技術

     ラーニングアナリティクスの実現には、情報学を学ぶ皆さんの力が不可欠です。特に、以下の3つの技術開発が鍵となります。
     
    1.  データ駆動型教育エコシステムの構築:学習者、教員、保護者、教育委員会、EdTech企業、研究者など、教育にかかわる誰もがデータを安全に共有・活用できるプラットフォームが必要です。これにより、教育全体が有機的につながり、継続的に改善される仕組みが生まれます。また、留学など国境を越えた学びを支援するためには、データの標準化や海外との連携も欠かせません。
    2. 個別最適化を支援するユーザモデルの構築:学びの足跡から、成績だけでなく、学習者の興味や思考プロセスを捉える技術が重要です。日々生まれる知識や変化する学習者の特徴をリアルタイムに捉え、最適な学びや指導をサポートするユーザモデルを構築する必要があります。これは、知識やスキルだけでなく、非認知能力(たとえば自己主導能力:Self-Directed Learning Skillなど)の育成にもつながります。
    3. エビデンス駆動型教育の実現:教育のビッグデータを活用することで、「どんな指導法が、どんな生徒に、どんな効果をもたらすか」を定量的に分析できます。その成果を基に、より効果的なカリキュラムや指導法を開発し、教育政策に科学的根拠をもたらします。そのためには、日々の授業や学習ログというリアルワールド教育データから自動的にエビデンスを抽出し、共有・活用する技術が必要です。

    おわりに

     ラーニングアナリティクスは、「経験」に頼る教育を「エビデンス」へ、「苦行」だった学びを「冒険」へと変える、知的好奇心をくすぐる壮大な挑戦です。皆さんの研究プロセスもデータも記録・分析して効率化すれば、きっと「苦行」から「楽しい冒険」へと変わるはずです。情報処理学会の会員である皆さんの学びや研究の「足跡」が、未来役立つことを願って、私も研究に邁進したいと思います。


    参考資料
    1)緒方、他:学びを変えるラーニングアナリティクス、日経BP(2023).
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