2022年04月04日版:西田 知博(調査研究担当理事)

  • 2022年04月04日版

    「研究会でできること・研究会にできること

    西田 知博(調査研究担当理事)


     調査研究担当理事になりおよそ2年が経ち、任期も残りわずかとなりました。振り返ってみれば、COVID-19感染拡大の影響で、研究発表会、シンポジウム、会議などがほとんど遠隔で行われたこともあり、研究会を始めとした学会の活動にお役に立てているのかという疑問を持ちながらの2年間でした。ただ、いろいろな角度から研究会の活動を見て、考える機会が多い期間でもありましたので、今後の研究会活動に期待したいことを書きたいと思います。

     研究会活動のメインは研究発表会です。興味のある分野の新しい研究発表を聞き、それ関して議論することが目的ですが、全国のさまざまな会場で開催されるので、それらの地に行くことも楽しみの1つでした。しかしこの2年、そのほとんどがオンラインとなりました。これにより研究会活動が停滞することも危惧しましたが、会場に出向く、つまり出張の必要がなくなったことが発表会参加のハードルを下げ、新規の発表者の方が増えるなど、参加者の幅が広がったように思います。また、チャットシステムなどを通して質疑も活発に行われ、当初心配していたよりは研究会のアクティビティは下がりませんでした。しかし、今後の発表会はハイブリッドの形態が多くなることが予想され、その際に現地参加が減ることも予想されることが懸念です。多くの方が感じられていると思いますが、研究発表会ではセッションの間の休憩時間や、懇親会などにおいて交わされる議論や雑談、また、それによって作られる人のつながりが重要です。ジュニア会員も含め若手のみなさんには、近くで発表会が開催されるときには、ぜひ現地に参加いただき、同じ興味を持つ研究者の方々と交流を持っていただきたいと思います。また、今年度まで新世代企画委員会が行ってきた「若手研究者招待講演謝金補助」という事業を調査研究運営委員会が引き継ぎます。研究会を運営するみなさんには、この制度も利用していただき、次の世代を担う若手研究者を発表会に招き、交流を深めていただければと思っています。

     最新のトピックとしては、JSTのプレプリントサーバ「Jxiv」の運用開始があります。査読論文として採録前の原稿をプレプリントとしてサーバ上に置き、これを元にオンラインで議論するということが日本でも本格的に始まることが予想されます。研究会は未査読の「研究報告」を元に発表会で議論するという活動がベースになっていますが、プレプリントサーバはこれをオンラインで行える仕組みと考えることもできます。上に書いたように、研究会において対面のコミュニケーションは大切な要素ですので、これが研究会活動に置きかわるものではないと思いますが、研究を随時発表してフィードバックを得ることができる環境は研究者にとって魅力的です。このサービスをライバルではなく上手く利用して、研究コミュニティを広げていくツールとすることを研究会には探っていって欲しいと思っています。

     最後に他の学会が行っている活動との連携についての期待を書かせていただきます。まずは、情報処理学会が加盟している情報処理国際連合IFIPとの連携です。IFIPにはTechnical Committees(TC)という分野別の委員会に分かれて国際的な活動が行われています。たとえば、「ICTと教育」を扱うTC3は8月に広島でWCCE(World Conference on Computers in Education)2022をコンピュータと教育研究会、教育学習支援情報システム研究会との共催で行います。TCの活動内容がダイレクトに扱う分野とマッチしない研究会もあるかもしれませんが、部分的にでも関連があれば連携をとっていただき、国際的活動の1つのチャネルにしていただければと思います。

     次に情報処理学会の情報規格調査会ではISO/IECの情報技術に関する合同技術委員会JTC 1での国際規格の審議や調査研究を行っています。私自身は標準化でも活動していますが、標準化は独特な部分が多く、研究会活動からは遠い世界に思われるかもしれません。しかし最近は、先端技術に関しての国際標準を作っていこうという動きも活発になっています。今後、研究会が持つ専門性が求められる場面も増えてくると思いますので、ご協力をお願いします。

     最後の最後にですが、先々月に中山理事が書かれていた通り、大学入学共通テストへの「情報」の出題が決まりました。また、新たに「情報」の個別入試実施を検討する大学も出てきています。入試に対しての立場はそれぞれですが、研究会に属するみなさんからも専門的な見知からご支援をいただければと思っています。