2021年01月05日版:長 健太(事業担当理事)

  • 2021年01月05日版

    「オンラインの壁を越えて
    長 健太(事業担当理事)

     事業担当理事としてここ1年半ほど、情報処理学会全国大会、FIT(情報科学技術フォーラム)の企画・運営にかかわってきました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、New Normalにおける大会開催はオンラインが基本となってきました。第82回の全国大会、FIT2020はオンラインで開催され、2021年3月18日から3月20日で開催を予定している第83回全国大会についても、オンラインでの開催を決定しました。多くの研究者が1カ所に集まり、闊達な意見交換が行う場としてこれら大会を実地で開催できたのは、もはやだいぶ過去のことになってしまったなあという印象があります。

     オンライン開催は、場所の制約なく多くの方が集まり、発表やイベントへ参加いただけるというメリットがあり、FIT2020でも約2,000名と例年以上に多くの方に参加いただくことができました。しかしながらオンライン開催では、実地開催と比較した場合に発生する、いくつかの心理的な壁があると思います。
    • セッションに参加する際に、今何を話しているところだろう、何人くらい参加しているんだろう、ということが分からず入室を躊躇してしまう
    • セッションで発表する際に聴衆から反応がなく、壁に向かって話しているような疎外感や、ちゃんと通信できているのか分からないという不安感がある
    • 発表終了後の質疑において、会場の状況が分からず、わざわざ挙手ボタンやチャットで質問の意思表示を行うと、他の人の質問をさえぎってしまうのではないかという懸念を感じてしまう。参加者が多いウェビナーではさらにその懸念が増す
    • ポスター発表者と話したいときに、相手の顔や今誰かほかに説明を聞いている人がいるかが分からず、見ず知らずの人と1対1でいきなり対話する気になれない
     また、通常のオンライン開催ではそもそも実現できないこともあります。
    • セッション終了後に興味深い発表を行った発表者と対面で意見交換する
    • ポスター会場をふらっと眺めていてたまたま興味深い研究を見つける
    • 廊下や懇親会でたまたま会った研究者と近況報告を行う
     これらの問題点は学会の大会に限らず、企業のコンファレンスなど多くのオンライン開催でのイベントに共通している部分もあり、VR空間の活用など、すでにいくつかの解決案も提案されています。また、セッション参加者間のコミュニケーションの時間を設けるなど、プログラム編成の工夫により緩和できる点もあります。各セッションの参加者数や今発表しているスライドが一覧できるオンラインポータルを整備するなど、ITの力を使って解決する方法もたくさん考えられます。

     オンライン開催の特性だからしょうがない、と単にあきらめるのではなく、実地開催とオンライン開催それぞれで得られるメリットを組み合わせた実施形態を、これからの大会運営で探っていくとともに、情報処理学会内だけに閉じず、多くの他学会とも知見を共有し、New Normalにおいて一段と進化した大会を開催できるようになればと思います。