連続セミナー2009「進化する組込みシステム技術」

第6回 組込み基盤ソフトウェアの課題

様々な技術革新は新しい時代の組込みシステムのアーキテクチャを再検討する必要性をもたらす。仮想化、マルチ/メニーコア、クラウドコンピューティングとの連携等、様々な課題を今後検討していかないといけない。本講演では、次世代の組込みアーキテクチャを実現する上での技術面とビジネス面での課題を解説した後、次世代の組込みシステムの実現を検討するいくつかの取り組みに関して紹介する。 

 開催日時:2009年12月4日(金) 10:00~17:30

 開催会場:東京電機大学 神田キャンパス7号館1F 丹羽ホール

 コーディネータ:中島 達夫 (早稲田大学 基幹理工学部情報理工学科 教授)   

photo【略歴】早稲田大学基幹理工学部情報理工学科教授 リアルタイムシステム、組込みシステム、ユビキタスコンピューティング等に興味を持つ。現在は、マルチコアプロセッサ向け仮想化技術等の研究開発をおこなう。現職以前は、カーネギメロン大学計算機学科研究員、北陸先端科学技術大学情報理工学科助教授、AT&Tケンブリッジ研究所研究員、ノキアリサーチセンターリサーチフェロー等を歴任、エンベデッドリナックスコンソーシアム等でオープンソースソフトウエアの普及にも貢献する。

 プログラム

Session1 10:00~11:00

「NoTAを用いた次世代組込みシステム開発」
 藤井 貴晴 (株式会社ノタヴァ 代表取締役)

【講演概要】携帯機器や組込みシステムは、近年、ますます複雑化し、プロセッサやOSに依存するレガシーやハードウェアに依存するソフトウェア部品の増大、その一貫性、メンテナンスは大きな課題である。本講演では、組込み向けの分散モジュール疎結合ネットワーク型のオープン・デバイス・アーキテクチャNoTAについて、開発の背景とアーキテクチャの概要、コア技術であるモジュール間統一プロトコルスタック、NoTAを用いた場合のシステム構成例、その開発方法などを紹介する。また、NoTAのオープン・コミュニティnotaworld.orgについても紹介する。

photo【略歴】1993年 大阪大学工学部 情報システム工学科 卒業。1995年 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 修士課程修了。同年、電機メーカー入社。組込みプロセッサの研究開発に従事。2000年よりノキア研究所 東京およびヘルシンキにおいて次世代携帯機器、組込みシステムの研究開発に従事。2009年、フィンランドと日本でオープン・アーキテクチャNoTAのベンチャー設立。

Session2 11:10~12:10

「ユビキタスコンピューティング環境におけるサービス」
 木村 浩章 (早稲田大学 メディアネットワークセンター 助手)

【講演概要】近年、様々な種類のセンサが小型化し、さらに安価に手に入るようになってきた。これらセンサを活用することで、センサを搭載した機器はキーボードやマウスなどの旧来の入力手段以外からの情報を得ることが可能になる。ジェスチャを利用した家庭用ゲーム機の普及などは、加速度センサを応用した成功例の一つと言える。しかし、組み込み機器に搭載可能なセンサは加速度センサだけではない。様々なセンサを利用することで外界の情報を取り入れ、これまでとは異なったサービスもユーザに提供可能であると考えられる。本講演では、様々な外界情報を利用した次世代サービスの可能性について述べる。またその一例として、ユーザの行動改善を促すアプリケーションフレームワークであるAmbient Lifestyle Feedback Systemsを紹介する。

photo【略歴】2005年 早稲田大学理工学部情報学科卒業。2007年 同大学院理工学研究科情報・ネットワーク専攻修了。同年同大学院情報理工学研究科博士後期課程に進学するとともに、同大学メディアネットワークセンター助手として勤務(現職)。ユビキタスコンピューティング環境におけるヒューマンコンピュータインタラクションに興味を持ち、次世代アプリケーションやサービス構築フレームワークに関する研究に従事。

お昼休憩 12:10-13:10

Session3 13:10~14:10

「メニーコアに向けた組込みオペレーティングシステム」
杵渕 雄樹 (早稲田大学 理工学術院 助手)

【講演概要】近年、情報家電など組み込みシステムにおけるサービスの多様化、複雑化に対応するため、マルチコアプロセッサを利用し、単一の組み込みシステム上で複数のOSを実行する組み込みシステムが見られるようになった。例えばリアルタイムOSと汎用OSを単一システム上で同時実行することで、リアルタイムOSのリアルタイム応答性と汎用OSの豊富なソフトウェア資産の再利用を両立させることが期待される。その一方で、複数のOSを用いることによるシステムの複雑化に伴い、取り組むべき課題も多く存在する。本講演では、組み込みシステムにおけるマルチコア・マルチOS環境に関する研究課題として、リアルタイム性や並列性を考慮した環境特有のスケジューリングや消費電力低減への取り組み、複数のOS連携を応用したアプリケーションなどについて紹介する。

photo【略歴】2005年早稲田大学理工学部情報学科卒業、2007年同大学院理工学研究科情報・ネットワーク専攻修了、同年同大学院情報理工学研究科博士後期課程進学、2008年早稲田大学理工学術院助手。現在に至る。OS設計、仮想化技術に関する研究に従事。

Session4 14:20~15:20

「クラウドコンピューティングと組込みシステム」
 佐藤 一郎 (国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授)

【講演概要】組込コンピュータはプロセッサやメモリなどの計算リソースが十分とはいえない。一方、クラウドコンピューティングは多数のサーバ群や大容量のデータストレージから構成される。クラウドコンピューティングを積極的に利用することにより、組込コンピュータはその計算リソース不足を補うだけではなく、クラウドコンピューティングが提供する各種サービスと組み合わせることにより、従来の組込コンピュータの枠を超える新しい応用が期待される。つまり、クラウドコンピューティングが広がると、組込コンピュータは外部サービスとの連携が不可欠なものとなり、組込コンピュータ製品の開発では、外部サービスとその接続部分が重点が移ってくる。
本講演では、クラウドコンピューティング時代の新しい組込コンピュータを展望するとともに、そのソフトウェア開発や試験においてクラウドコンピューティングがどのような役割を示すのかを概説していく。

photo【略歴】1991年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒。1996年同大学理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了、博士(工学)。2001年国立情報学研究所助教授。2006年より同研究所教授。国立大学法人総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻 教授(併任)。この他、1994~1995年Rank Xerox Grenoble研究所客員研究員。1999~2001年科学技術振興事業団さきがけ研究21(「情報と知」領域)研究員。2006年科学技術分野文部科学大臣表彰若手科学者賞。

Session5 15:30~17:30 ((1)前半15:30-16:30 (2)後半16:30-17:30)

「次世代組込みシステムのアーキテクチャ(1),(2)」

【講演概要】今後の組込みシステムの基盤ソフトウエアはより膨大になるソフト ウエア、多様なデバイス、仮想化技術、マルチコア、インターネット上のサービスの利用等多くの技術的な問題 を考える必要がある。また、信頼性、セキュリティ、実時間性等の様々な非機能的要件も考える必要がある。本 講演では、将来の組込みシステムの基盤ソフトウエアを検討する上での技術的課題に関して紹介する。特に、仮想 化技術、マルチコア等の課題を中心に検討すべき課題を紹介する。以上の新規技術はオープンソースとして開発、提 供することにより、はいかつコストを低減することが可能となる。しかし、組込みシステム分野でオープンソース を利用する場合には検討すべきこともいろいろある。本講演の後半では、新規の技術をオープンソースとして利用 する場合の課題とビジネス上考える必要がある事項に関して紹介する。

(1)前半: 中島 達夫 (早稲田大学 基幹理工学部情報理工学科 教授)

photo【略歴】早稲田大学基幹理工学部情報理工学科教授 リアルタイムシステム、組込みシステム、ユビキタスコンピューティング等に興味を持つ。現在は、マルチコアプロセッサ向け仮想化技術等の研究開発をおこなう。現職以前は、カーネギメロン大学計算機学科研究員、北陸先端科学技術大学情報理工学科助教授、AT&Tケンブリッジ研究所研究員、ノキアリサーチセンターリサーチフェロー等を歴任、エンベデッドリナックスコンソーシアム等でオープンソースソフトウエアの普及にも貢献する。

(2)後半: 講師が変更になりました
変更後:田中 康宣 (パナソニック株式会社 本社R&D部門 参事
             (兼)パナソニックアドバンストテクノロジー(株)戦略企画室 室長)
変更前:梶本 一夫 (パナソニック株式会社 システムエンジニアリングセンター 所長)

photo【略歴】1984年 大阪大学・大学院・電子工学専攻 修士課程修了。同年、松下電器産業株式会社・無線研究所入所。ワークステーション開発において、System V Unix への 4.2BSD Unix のネットワーク機能の統合化を担当。1997年から、iモードの技術検討に参画すると共に、携帯電話のμブラウザを開発し、P501i で商品化。その後、携帯電話のOSとして
Linux OSの導入、商品化を推進した後、2005年から UniPhier ソフトウェアプラットフォームの開発・展開に従事。