実世界のインタラクションを支えるファブリケーションとアクチュエーション技術

日時:2020年12月2日(水) 10:00~16:45
会場:オンライン開催

現在では、様々な情報機器を常時身につけ、意識することなくそれらを操作し、使いこなす時代になってきました。マウスやキーボード、タッチパネルといった画一的な専用インタフェースデバイスを超えて、人々を取り巻く環境に適応し、実世界に働きかける機能を有するような能動的な「モノ」を創造することで、日常の生活やタスクに溶け込むインタラクションが可能になります。例えば、柔らかい、硬い、電気を通す、伸びる、縮む、自己治癒するなどマテリアル自体が持つ性質を生かすことで、より直感的な情報機器の操作が可能になります。また、カタチがダイナミックに変形する仕組みや、モノ自身に動きを与える技術を組み込むことによって、人の生活を物理的にアシストするロボット技術も実現可能になるでしょう。本セミナーでは、実世界のインタラクションを支えるファブリケーションとアクチュエーション技術について概観し、次世代のインタラクション技術の方向性について議論いたします。
オープニング[10:00-10:10]

コーディネータ:川原 圭博

国立大学法人東京大学 大学院工学系研究科 教授

【略歴】2005年東京大学大学院博士課程修了。同年東京大学助手。助教、講師、准教授を経て2019年より教授。同年同大インクルーシブ工学連携研究機構機構長。2015年からはJST ERATO川原万有情報網プロジェクトにおいて研究総括として、環境に溶け込むデバイスに関する技術と応用の研究に取り組んでいる。

セッション1[10:10-11:10]

インタラクティブマター研究が拓く新しいものづくり

デジタルとフィジカル環境の接続・統合は、HCI (Human Computer Interaction) 分野で長らく議論されるテーマである。画面を通じた映像的アプローチが一般的であるが、近年では物質の性状そのものをプログラマブルにし、インタフェースとして活用する研究領域が活発に開拓され、形状可変インタフェースや形状ディスプレイなどとして具現化されている。この領域において、講演者らのグループは、インタラクティブマターとして、物理素材の特性や構造を活用しながらその形状や硬軟、色、サイズなどをコントロールするフィジカルインタフェースの提案を行なってきた。さらに、これらの技術はファブリケーションの文脈で捉えると、データから物体を形作る、あるいは形あるものをもとに戻すというものづくりのサイクルに介入する手段としても位置付けられる。高速で即興的なものづくり、ニーズに合わせて作り変えることができるものづくり、必要がなくなれば素材に還すことができるものづくりなど、社会課題との関わりを含めたテクノロジーが拓く新しいものづくりの視座について紹介する。

講師:筧 康明

東京大学 大学院情報学環 准教授

【略歴】2007年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。科学技術振興機構さきがけ研究員を経て、2008年より慶應義塾大学環境情報学部専任講師、准教授。2015〜16年にはMITメディアラボにて客員准教授。2018年から東京大学大学院情報学環にて准教授を務める。第23回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞、ACM DIS2019 Best Paper Award, CHI2017 Best Paper Award、平成26年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手研究者賞など受賞。

セッション2[11:20-12:20]

自己修復するユーザインタフェース

我々の身の回りに存在するスマートフォンなどのインタフェース・デバイスは、一度壊れると修理しない限り故障したままである。一方、生物に目を向けると、ヤモリの尻尾やヒトデの腕、接ぎ木など、破壊から再生したり修復したりする事例が多数見られる。2000年代に入ってから、マテリアル工学の分野では、機械的・電気的な特性を修復することのできる「自己修復素材」がさかんに研究されるようになり、近年ではそれをロボットに応用する研究が散見され始めた。本講演では、そのような自己修復素材の分類やロボティクスでの応用事例を紹介しつつ、自己修復素材をより我々に身近なインタフェース・デバイスに応用する可能性について述べる。また、ただ「治る」から便利ということだけではなく、自己修復素材があたかも液体のようにつながるという性質を積極的に活かす方法についても議論する。

講師:鳴海 紘也

東京大学 大学院情報学環 助教

【略歴】2020年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。博士課程在籍中に日本学術振興会特別研究員、科学技術振興機構 ACT-I「情報と未来」個人研究者などを務め、2020年4月より東京大学大学院情報学環助教。専門はヒューマン・コンピュータ・インタラクションや形状変化インタフェースなど。主な受賞として2015年ACM UbiComp Honorable Mention Award、2020年度東京大学総長賞など。

セッション3[13:25-14:25]

タッチインタラクションの拡張と活用技術

スマートフォンやタブレット端末をはじめとした、静電容量方式タッチデバイスが広く普及し、昨今では我々の日常生活に欠かせないデバイスとなっている。従来のマウスやキーボードを使ったコンピュータ操作に比べ、スクリーン上に配置された仮想的な情報を直接手で触れて操作することができるタッチデバイスは、より直感的でわかりやすい入力インタフェースとして浸透している。本講演では、外部のバッテリーや追加のセンサを使用せず、パッシブなオブジェクトをタッチデバイス上に取り付けるだけで使用可能な、拡張インタフェースに関する技術を紹介する。平坦で狭いタッチスクリーンという限られた領域を越えて、多様なインタラクションを実現する。

講師:加藤 邦拓

東京工科大学 メディア学部 助手

【略歴】2018年明治大学大学院先端数理科学研究科先端メディアサイエンス専攻博士後期課程を修了し、博士号(工学)を取得2018年より東京大学大学院工学系研究科特任研究員を経た後、2020年より東京工科大学メディア学部助手として勤務、現在に至る。ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)を専門とし、特にタッチインタフェース、デジタルファブリケーションに関する研究に従事。2016年SXSW Interactive Innovation Awards VR/ARファイナリスト。

セッション4[14:35-15:35]

ソフトロボティクスとインタラクション

ロボット学の新展開として、柔軟材料を多用したやわらかいロボットを扱うソフトロボティクスが注目されている。ソフトロボティクスは、生物に近い軟体ロボットを実現するばかりでなく、物理的な変形能力を備えた新しいコンピュータインタフェースを実現する技術でもある。やわらかいロボットおよびやわらかいインタフェースでは、材料・アクチュエータ(駆動源)・センサ・情報処理装置を高度に統合する必要がある。ここでは、ソフトロボティクスの動向を概観しながら、やわらかいアクチュエータの様々な応用を取り上げる。また、おりがみロボットやインフレータブルロボットなどの新しい形式のロボットを紹介しながら、ソフトロボティクスとHCI(Human Computer Interaction)の様々な接点を探ってゆく。

講師:新山 龍馬

東京大学 大学院情報理工学系研究科 講師

【略歴】ロボット研究者。2010年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了、博士号取得。マサチューセッツ工科大学(MIT)での研究員を経て、2014年より現職。専門は、身体に根ざした知能、人工筋肉で動作する生物規範ロボット、およびソフトロボティクス。著書に『やわらかいロボット』(金子書房)がある。

セッション5[15:45-16:45]

折紙の数理と生物模倣

平面から「折り」のみで様々な立体形状を創り出す折紙は、3Dプリンタに代わる革新的なデジタル・ファブリケーション技術の原型として学術界、産業界から注目されている。近年では展開構造や軽量・高剛性材料への応用にとどまらず、ロボティクスやメタマテリアルまで研究分野が広がっている。一方、自然界に目を向けると、折紙の幾何学は人工物だけでなく様々な生物の身体の中にも見ることができる。進化の過程で洗練されたこれらの構造は、生物模倣工学の観点から興味深い研究対象である。本講演では昆虫の翅に見られる巧妙な折り畳みを折紙の幾何学によって解析し、その設計原理を明らかにするとともに、これらの幾何学を人工の可変構造物に応用する試みについて解説する。外骨格の弾性変形を巧みに利用した彼らの可変メカニズムは人間の作る従来の機械的機構と大きく異なっており、革新的なファブリケーション、アクチュエーション技術となるポテンシャルを有している。

講師:斉藤 一哉

国立大学法人九州大学 大学院芸術工学研究院 講師

【略歴】2007年京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻修士過程修了、2009年東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻博士後期課程修了、2012年東京大学生産技術研究所機械・生体系部門 助教、2017年東京大学大学院情報理工学系研究科 特任講師(ERATO川原万有情報網プロジェクト)、2019年九州大学大学院芸術工学研究院 講師。折紙の数理や生物模倣に基づく先進構造材料の開発に取り組む。