人工知能技術と人間の思考・感性

日時:2020年10月26日(月) 10:00~16:45
会場:オンライン開催

このセミナーでは、人工知能(AI)技術と人間の思考・感性の関わりに着目する。情報が氾濫し、様々なものごとが影響し合う現代において、我々は的確で迅速な意思決定の難しさを感じつつある。フェイク情報に騙されて判断を誤ったり、思考を誘導されてしまったりといったリスクも高まっている。このような問題に対して、AI技術の活用によって、人間の意思決定の主体性を確保、熟慮・熟議や集合知を促進する試みが進められている。さらには、論理性が重視されるような意思決定の場面を支援するためでなく、人間の感性や創造性を活かす場面においても、AI技術による支援が試みられている。前半の2つの講演では主に人間の意思決定との関わり、後半の2つの講演では人間の感性・創造性との関わりの面から、AI技術がもたらす価値やこれからの可能性を紹介する。
オープニング[10:00~10:30]

コーディネータ:福島 俊一

国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー

【略歴】1982年東京大学理学部物理学科卒業、NEC入社。以来、中央研究所にて自然言語処理・サーチエンジン等の研究開発・事業化および人工知能・ビッグデータ研究開発戦略を担当。工学博士。2005~2009年NEC中国研究院副院長。2011~2013年東京大学大学院情報理工学研究科客員教授。2016年4月から科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー。2015~2017年人工知能学会理事、2018~2020年同学会監事。1992年情報処理学会論文賞,1997年情報処理学会坂井記念特別賞,2003年オーム技術賞等を受賞。

セッション1[10:30-11:40]

現実世界とサイバー空間の境界で生体情報を守るには~メディアセキュリティ・プライバシーのこれから~

高性能なセンサを内蔵したスマートフォンの爆発的な普及により、他人の顔や音声、さらには指紋や虹彩といった膨大な生体情報が、撮影や録音を経て、サイバー空間に共有されることで、プライバシーの侵害だけでなく、生体認証の突破といった脅威が指摘されている。さらに、これらの高品質な生体情報を学習データとして用いることで、ディープフェイクを始めとした高品質なフェイクメディアの生成が容易になっており、人間の意思決定に悪影響を及ぼすことが懸念されている。本講演では、このような脅威を概説するとともに、現在、講演者らが取り組んでいる、サイバー空間における生体情報の流通を、本人の意思に応じて制御する技術や、フェイクメディアの検知技術、生体情報の匿名化技術などについて紹介する。

講師:越前 功

国立情報学研究所 情報社会相関研究系 教授

【略歴】1997年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了(応用物理学)。日立製作所システム開発研究所を経て、現在、国立情報学研究所 所長補佐、同研究所 情報社会相関研究系 教授。東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 教授。2010年ドイツ・フライブルク大学客員教授、2011年ドイツ・マルティン・ルター大学客員教授。2016年 情報セキュリティ文化賞、2014年 ドコモ・モバイル・サイエンス賞など受賞。IFIP TC11日本代表。博士(工学)(東京工業大学)。

セッション2[12:50-14:00]

AIによる大規模合意形成支援システムの創成

本講演では、インターネット上で群衆の合意を形成するシステムについて紹介する。TwitterやFacebookなどのSNSによって、インターネットで何万人、何百万人という人たちの意見を収集できるようになっている。これらの意見をうまくまとめて、何百万人という人たちの合意を形成できる可能性がある。大規模な合意を形成できれば、これまでには不可能だった、大規模な人数による意思決定が可能になる。しかし、規模が非常に大きいことから、人間の手で行うのは困難である。そこで本研究では、エージェントという人工知能プログラムを用いて、大規模な人数の人たちの意見を効率的に収集し、合意を形成するシステムを創成する。本研究により、従来では不可能だった、極めて大規模な人数(例えば10000名以上)で、ネット上で議論し、効率的に合意を形成することが可能になる。これにより、時間と場所と労力によって、大規模な人数の議論を繰り返さなくても、効率的に合意を得る、もしくは、合意できる案をみんなで探すことができるようになる。この効果により、例えば、非生産的な意味のない会議を激減することができ、対面方式の会議では、本来的な生産的な議論にのみ集中することもできる。本講演では、名古屋市との共同社会実験、およびアフガニスタンでの社会実験など最新の成果を紹介する。

講師:伊藤 孝行

京都大学大学院 社会情報学専攻

【略歴】名工大大学院教授。平成12年名工大大学院博士後期課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員。平成13年北陸先端大助教授。平成15年名工大助教授。平成26年名工大教授。USC、ハーバード、 MITの客員研究員。内閣府最先端次世代プログラム、さきがけ研究員、CREST代表研究員。IFAAMAS理事。人工知能学会業績賞、日本学術振興会賞、文部科学大臣表彰科学技術賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞、情報処理学会長尾真記念特別賞、日本ソフトウェア科学会論文賞、IPA未踏ソフトスーパークリエータなど。

セッション3[14:10-15:20]

人工知能と人の感性

感性とは、外界の刺激に応じて、知覚・感覚を生ずる感覚器官の感受能力であり、身体的感覚に基づき物事から感じる能力である。人は外界のモノについて、聴覚、視覚、触覚、味覚、嗅覚といった五感を通して知覚し、何かを感じて、好き嫌いといった感情や購入するに値するかどうかといった価値判断をしたりする。現在の人工知能は、この処理の流れの最初の部分、外界のモノが何であるか、を高精度かつ高速に認識できるようになった。しかし、同じモノを見たり、聞いたり、触れたりしても、そこから何を感じるか、好きと思うか嫌いと思うか、価値を感じるか、人それぞれで、正解不正解はない感性をどのように学習させたらよいかは、そのモノが何であるかを学習させる場合より、はるかに難しい。本セミナーでは、人の感性を人工知能に学習・理解させる方法と、ビジネスやクリエイティブ分野での活用例を紹介する。さらに、人工知能が感性を持つ可能性についても検討する。

講師:坂本 真樹

国立大学法人電気通信大学 大学院情報理工学研究科情報学専攻 教授

【略歴】1998年東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了(博士(学術))。同年東京大学助手。2000年電気通信大学講師。准教授を経て、2015年より同大大学院情報理工学研究科教授。同大人工知能先端研究センター副センター長を兼務。人工知能学会理事、認知科学会運営委員、広告学会評議員など歴任。感性AI株式会社取締役COO。2014年度人工知能学会論文賞など受賞。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)。「感性情報学―オノマトペから人工知能までー」(コロナ社)などがある。オスカープロモーション所属(業務提携)でメディア出演多数。

セッション4[15:30-16:40]

AIと創造性

知性をあえて理性と感性とに分けるとすると、AIはこれまでもっぱら理性のコンピュータでの実現を目指してきた。まだ完璧ではないが理性の方はコンピュータがそれなりに実現できるようになりつつある。一方の感性についてはどう取り組めばいいのかの見当がつかないこともあってコンピュータでの実現が非常に遅れている。それでも最近のコンピュータの性能の進歩などを背景にして感性をコンピュータで実現する研究が広がりつつある。創造性は感性の重要な部分を担っており、またもっともコンピュータによる実現が困難と考えられている。ここでは話者が関わっている小説、俳句、マンガ、脚本の自動生成の研究を通してAIと創造性について考える。

講師:松原 仁

東京大学大学院情報理工学系研究科 AIセンター 教授

【略歴】1981年東大理学部情報科学科卒業。1986年同大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。同年通産省工技院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所。2000年公立はこだて未来大学教授。2016年同副理事長。2020年東京大学大学院教授。著書に「鉄腕アトムは実現できるか」、「AIに心は宿るのか」など。元人工知能学会会長、元情報処理学会理事。