ブロックチェーンの社会実装とそのインパクト

日時:2020年11月20日(金) 10:00~16:45
会場:オンライン開催

ビットコインに代表される仮想通貨の利用はこれまで主に投資目的が顕著であり、日常の決済の場面では通貨としての社会的な普及には至ってこなかった。しかし近年、グローバルなソーシャルメディアと連携した仮想通貨や、中央銀行デジタル通貨の発行計画が見られるようになり、またその基盤であるブロックチェーン/分散台帳技術は、電子政府、サプライチェーン電力、アート作品の取引など様々な場面での活用が見られるようになった。こうした中、当初は自律分散性、非中央集権性が大きく注目されたブロックチェーン技術が、既存の社会制度の中で活用されるにあたり、どのように実装され、また技術が変容しつつあるかにも留意する必要がある。本セミナーでは、こうした大規模な社会実装に向けた動きが進むなかで、ブロックチェーン活用の影響・効果や技術の展開を明らかにしようとするものである。
オープニング[10:00-10:30]

コーディネータ:高木 聡一郎



セッション1[10:40-11:35]

ビジネスプラットフォームとしてのブロックチェーン

ブロックチェーンをビジネス・プラットフォームとして活用することで、複数組織にまたがるデータ共有やビジネス・プロセスの効率化が可能になることが期待され、近年大規模な実用ネットワークも増加している。ビジネス・プラットフォームとしてのブロックチェーンでは、業務使用に適した安全性や処理性能などの性質を実現するために、既存の分散DB技術などを取り入れたアーキテクチャを採用している。本講演では、複数の業界におけるブロックチェーンのビジネス利用の実例とともに、代表的なプラットフォームの一つであるHyperledger Fabric のアーキテクチャと、実用化における課題を考察する。

講師:吉濱 佐知子

日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所 シニア・テクニカル・スタッフ・メンバー、 FSS & Blockchain 担当部長

【略歴】2001年より米IBMのワトソン研究所で勤務。2003年に日本IBM東京基礎研究所に入社し情報セキュリティ関連の研究に携わる。2012年上海IBM Global Labsにて新興国向け研究戦略担当。現在はAIの金融分野への適用や、ブロックチェーン技術の研究開発を担当。ACM会員、情報処理学会シニア会員。2010年横浜国立大学環境情報学府より博士(情報学)。

セッション2[12:35-13:30]

Libraの技術的側面とブロックチェーンによるCOVID-19コンタクトトレース

2019年6月に発表されたデジタル通貨システムLibraは、一定比率の複数の法定通貨から生成されたバスケット型のステーブルコインによるグローバルな金融包摂を目指すものとして注目を集めたが、各国の金融当局からの懸念から軌道修正を受け、ステーブルコインではなく特定の法定通貨とペグした凡庸なデジタル通貨になろうとしている。しかし技術的視点から見たLibraは、線形論理を理論的背景に持つMove言語など、ブロックチェーン技術の本質的課題に対して王道とも言うべき技術的進展を伴ったプロジェクトである。本講演では、Move言語などのLibraが開発した技術のブロックチェーンの社会実装に対する潜在能力を応用例に則して解説する。応用例としては、COVID-19パンデミックに対抗するための感染者追跡技術に関する要件を検討する。そしてこのような応用へのブロックチェーンを用いる利点について分析を行う。

講師:山崎 重一郎

近畿大学 産業理工学部情報学科 教授

【略歴】1957年生まれ。九州大学システム情報科学府システム情報科学院博士課程修了。富士通株式会社、株式会社富士通研究所を経て近畿大学。現在の研究テーマはブロックチェーン技術や仮想通貨の応用など。著書、ブロックチェーン・プログラミング(講談社2017年)、仮想通貨(東洋経済新報社 2015年)など。

セッション3[13:40-14:35]

公共分野へのブロックチェーン技術特性の活用

新型コロナ流行をきっかけに行政のデジタル化への要請が一層高まっています。それは、既存プロセスをただデジタル化するDigitizationではなく、デジタル化とともにプロセスを変革するDigitalizationであるべきでしょう。デジタル化されることで、国民のデータはよりアクセシブルとなることが期待されますが、その一方でその運用がますます重要となります。行政サービスのユーザーとしての国民が、自らのデータがどのように使われているのかを把握し、また自らの意志で活用することができるか、そしてそのデータの真正性は確保できるのか。ブロックチェーンがその技術特性を活かして果たすことのできる役割を、海外の官民における取り組み事例などを踏まえて考察します。

講師:増田 剛

株式会社ブロックチェーンハブ Chief Operating Officer

【略歴】三菱重工業株式会社、アクセンチュア株式会社、三井住友銀行を経て、株式会社ブロックチェーンハブに参画。ブロックチェーン関連の教育、新規事業開発、スタートアップ支援に携わる。一般社団法人日本セキュリティトークン協会代表理事、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、大阪大学オープンイノベーション機構アドバイザー、日本ビジネスモデル学会執行役員を兼務。英国ケンブリッジ大学経営学修士(MBA)、英国オックスフォード大学フィンテックプログラム修了。

セッション4[14:45-15:40]

コンテンツ領域におけるブロックチェーン活用について ~競争領域:非競争領域の設計事例を交えて

昨今ブロックチェーンの最適な活用方法が日を追うごとに明らかになってきている一方、パブリックチェーンを活用しつつ収益性と公共性を両立させることの難易度は、依然として高いままである。この大きな課題が解決できれば、大企業やプラットフォーマーによるパブリックチェーンの有効活用が進み、ブロックチェーンならではの特性を活かした社会の実現も早まることだろう。本講演では、スタートバーン株式会社がアートのインフラ「Startrail」の構築にあたり、前述の課題解決のためにとりわけ注力した「収益性を確保する競争領域」と「公共性を担保する非競争領域」の棲み分けと設計、そして運営について事例を交えて考察する。

講師:施井 泰平

スタートバーン株式会社 代表取締役

【略歴】1977年生まれ。少年期をアメリカで過ごす。東京大学大学院学際情報学府修了。2001年に多摩美術大学絵画科油画専攻卒業後、美術家として「インターネット時代のアート」をテーマに制作、ギャラリーや美術館で展示を重ねる。2006年よりstartbahnを構想、日米で特許を取得。大学院在学中に起業し現在に至る。東京藝術大学での教鞭を始め、講演やトークイベントにも多数登壇。

セッション5[15:50-16:45]

ブロックチェーンx環境エネルギー ~デジタル技術と分散リソースを活用した新しい電力流通の可能性~

ポストコロナの時代においては不確実性が増大している中での、電力エネルギー分野においては再生可能エネルギーの導入が益々加速している。集中型のネットワークから分散かつ変動する再生可能エネルギーをうまく制御しうるリソースの確保が求められており電動自動車を含む蓄電池や移動体の活用に注目が集まっている。本講演では、分散リソースのビジネス基盤として注目を集めているブロックチェーンを用いた新しい電力流通システムやP2P電力融通やデータを活用したサービス設計の可能性を、家庭用蓄電池や電動自動車を用いた実証プロジェクトの研究事例とともに解説する。

講師:田中 謙司

国立大学法人 東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 准教授

【略歴】東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 准教授、同大学工学系修士課程修了後、マッキンゼ―、日本産業パートナーズを経て、2006年より東京大学助教 、2012年 特任准教授、19年2月より現職。データ駆動型の社会システム設計を研究し、電力では分散リソースが協調する新しい電力流通システムなどを研究している。兼担で、国土交通省政策参与(12年)、資源エネルギ庁の次世代技術を用いた電力プラットフォーム検討会委員(18年-)など政府委員も担当。