2015年09月07日版:齋藤 正史(技術応用担当理事)

  • 2015年09月07日版

    「実務家に向けた学会アクティビティ

    齋藤 正史(技術応用担当理事)

     情報処理学会の会員として30年が過ぎ、技術応用担当理事に就任し1年が過ぎました。年とともに時の歩みが速く感じるという話は置いておき、技術応用担当の役割を紹介するとともに、それらを通して感じ・考えたことを気の向くままに書きます。

     技術応用担当は「情報技術者のプロフェッションの確立・地位向上を図るべく、最先端技術の普及・コミュニティの形成・成果の発表・人材育成などの諸活動を行う」ことを担務としています。平たく言えば、学会の産業界の会員が単調減少している現状を変えるために、あれこれと色々なことをやっているというのが目の前の仕事です。

     最も大切な役割が6回シリーズで開催する「連続セミナー」の企画と実行です。ここ数年、セミナー会社のタイムリーな企画を見るにあたり、学会として何を発信するべきかを考えます。表面的なキーワードに捕らわれずに、技術の本質を産業界の最前線エンジニアに理解・応用いただくよう努力していますが、スピードが追いつかないのが現状です。「短期集中セミナー」、「ソフトウエアジャパン」も合わせて企画し、最先端技術の普及(と言うとおこがましいですが)を目指しています。

     学会には「ITフォーラム」というメカニズムがあり、研究会よりも緩い、勉強会のようなものを開催することができます。サービスサイエンスやビッグデータ活用実務などのテーマに関しコミュニティを形成し、成果をソフトウエアジャパンで発表していただいています。学会としても資金援助や会議室の貸出し等サポートを行いますので、皆様もぜひ、ITフォーラムの設立をご提案ください。

     論文誌は新規性と有用性を元に査読を通して採録が決定しますが、産業界の技術者は、守秘義務で書けないこともありますし、新規性と言われると敷居が高いのも事実だと思います。学会は「ディジタルプラクティス」として、実践や経験に基づいた提案、実践で有用性が確認された知見を論文として掲載する機会を提供しています。論文を書き慣れない著者を手助けするために共同推敲というメカニズムがあり、体裁だけでなく、本来主張したいことを明確化することもお手伝いしています。ぜひ、新製品を開発しましたら投稿をお願いします。また、一般化・抽象化する前の実践蓄積の機会として「DPレポート」も発刊していますので合わせて活用ください。これらは、電子図書館に収録・保管され一般公開されます。

     ソフトウェア技術者を対象とする「認定情報技術者制度」を創設し、高度な専門知識と業務実績を有する情報技術者に資格を付与し、能力の可視化と資格保有者のコミュニティ構築を目指しています。情報技術者の人材流動化がどれほど進むかは不明ですが、産業分野、インフラ分野への情報技術の浸透に伴い、国内外におけるシステム案件受注に必要となる技術者として活躍していただくためにも、ぜひ資格取得を目指してください。

     これらのアクティビティを通して感じるのは、学会も「モノ」作りから「コト」作りに向け実務家を支援する方向にも意識が向いています。製品が小さく、軽く、安くなるとともに、製造技術が進歩した現在、「コト」がなければ製品が売れないだけでなく、新興国に負けるのは歴史が示しています。

     この「コト」作りに今後大きく影響を及ぼすのがビッグデータを前提としたAIなのでしょう。まだまだ、狭義のAIの範疇なのかもしれませんが、シンギュラリティに向けた変化・変革の空気を感じます。

     ここで、「コト」の次に来るのは何なのかという興味深い問題が出てきます。また、どんな仕事が人間のやるべきこととして残っているのかも興味深い設問です。ダークサイドを描いた映画「トランセンデンス」のシナリオは受け入れたくないことも含め、これからは「ヒト」なのかなとぼんやりと考えています。

     そんな先の話と言っていると、光陰矢の如し で、あっという間にまた次の世界が来るのかもしれません、年ですし。