Vol.64 No.12(2023年12月号)



Vol.64 No.12(2023年12月号)

匿名希望先生
匿名希望先生
[正会員]

 

   最近の著作権の改定で学校の先生が知っておくべきことを簡単に教えてください.

  著作権法って,わりとしょっちゅう改正されていて,この5年だと2018年,2020年,2021年,2023年に改正されました.
  教育機関にとって特に影響が大きいのは2018年の改正です.著作権法35条は教育機関における「権利制限」について定められています.「権利制限」というのは,著作権者の権利を制限することによって,著作物を利用したい人の利用できる範囲を増やすということです.
  35条では教育機関で行われる授業において,先生や生徒は,著作権者に許諾をとることなく,他者の著作物を「複製」と「遠隔合同授業を同時中継するための公衆送信」は行ってよいこととなっていました.「公衆送信」というのは,「公衆」に対し,著作物を「(有線無線にかかわらず)送信」することです.著作権法でいう「公衆」とは「不特定もしくは多数の人」で,具体的に何人とは定められていません.
  2018年の改正では,さらに「公の伝達」と「同時の遠隔合同授業等の公衆送信以外の公衆送信」が許諾なく行えるようになりました.「公の伝達」というのは,公衆送信されている著作物を,受信機を使って公衆に見せる等の伝達を行うことです.たとえばYouTubeで配信されている動画を,PCで受信してプロジェクタで生徒に見せるなどのことです.同時中継以外の公衆送信については,他者の著作物を使った授業を録画してオンデマンドで配信したり,先生が出張先のホテルからZoomなどを使って,教室にいる生徒に向けて授業をすることなどが可能になりました.
  これらの同時中継以外の公衆送信を行う際には,補償金を払うことになりました.各先生が著作権者一人ひとりにその都度使用料を支払うのは大変なので,教育機関の設置者がまとめて補償金を補償金管理団体に支払うことになっています.言ってみれば今流行りのサブスクみたいなものですね.この管理団体をSARTRAS(サートラス)☆1と言います.SARTRASから各著作権者へ使用料が支払われます.
  この35条に関するもっと詳しい説明は,「改正著作権法第35条運用指針」☆2や,大学ICT推進協議会が作成した「すごくわかる 著作権と授業」☆3を読んでみてください.
  科学技術は日々進歩していて,私たちの生活もどんどん変化しています.その変化にあわせて法律も変わっていく必要があります.最近は生成AIが一般の人にも使われるようになり,著作権の問題も複雑になっています.今後も著作権法の改正には注目しておく必要があるでしょう.
  なに,もっと最近の改正内容が知りたかった? おや,字数制限が来たようです……(その話はまた別の機会に).

☆1     一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会Society for the Administration of Remuneration for Public Transmission for School Lessons
☆2     https://sartras.or.jp/unyoshishin/
☆3     https://copyright-edu.axies.jp/sugowaka35/
 

天野由貴先生
天野由貴先生
[正会員]
帝京大学
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