Vol.64 No.9(2023年9月号)



Vol.64 No.9(2023年9月号)

小西健太
小西健太
[ジュニア会員]

 

 「究める」という工程において,どれを究めるなどの道筋は,自分の選んだ学科によって決まるのですか? それとも自分で道を切り開いていくものですか?

  「究める」工程は,人それぞれの道があると思います.
  私の場合,数学の教員を目指して数学科に入学しました.しかし,大学でコンピュータと出会い,大学院に進学しました.そこでは,音声研究の研究室に入りました.しかし,就職先は,文系女子大.教育研究システムの構築・運用と情報教育で,大学院の研究とは大きく異なる分野でした.そのため,音声研究を続けるための十分な機材がなく,研究環境を整えることは困難でした.さらに,結婚や子育てもあり,身近な職場での教育環境(機器等のハード面・教育コンテンツ等のソフト面の両面)の構築に力を注ぐことに舵を切ることにしました.
  情報化が急速に進んできたことも重なり,身近なところにもたくさんの研究テーマがありました.置かれた環境の中で,できそうなことを模索しながら,教育関係での実践を続けてきました.
  情報を専攻としない学生にどのように興味を持たせ,情報機器やシステムを自由にそして便利に使えるようにさせるか?という問いを立てました.GIS(Geographic Information System)を用いた防犯マッププロジェクトによる街の安全を可視化する活動(2002〜2003),TV会議システムを使った海外とのオンライン授業(2002〜2016),大学祭やコンサートでのプロジェクションマッピングの実施(2013, 2015)など,当時の女子大の環境では,なかなか手に届かないような仕組みを導入した実践を手掛けました.また,こどもが小学校入学直前には,教員,児童,保護者などの関係者が集まり,学校にLANを導入するネットデイの活動(2006)が始まり,こどもとともに小中学校のインターネット環境構築にかかわりました.そして,この活動は,ネットワークの構築にとどまらず,導入後の活用の検討を推進する研究会や地域を巻き込んだロボット教材によるプログラミング教育(2008)に発展しました.
  振り返ると,小さい頃から教員を志望していたことが起因し,新しいもの:ICTと教育とをうまく繋げる実践研究に繋げることができたように思います.
  このように,自分の置かれた環境や時代の流れの中でアンテナを高く張り,活動することで「究める」ことを見つけられるのではないでしょうか.

内田奈津子
内田奈津子
[正会員]
フェリス女学院大学

岸野泰恵
岸野泰恵
[正会員]
 日本電信電話(株)/
大阪大学

  大学の学科によって最初に触れられる知識の種類が異なるため,選んだ学科の影響が大きいことは確かです.しかし,1つの学科の中であっても,学科の先生の指導を受けて専門として深めることのできる分野の幅は広く,たとえば私が所属した情報系の学科ですと半導体設計から通信アーキテクチャ,ヒューマンインタフェースまで含まれていました.さらに学び始めてからこれは自分が思っていた内容と違う,と独学あるいは転籍により別な分野を学び始めた知人もいます.このような中で何を自分の専門として究めていくかは,自身の選択や身に付けた技術の積み重ねであり,研究者それぞれが道を切り開いていると言えるのではないでしょうか.また,自身の趣味を研究に組み込み,独自の分野を切り開く研究者もいます.このようにそれぞれ異なる道を切り開いてきた研究者同士が議論し,より良い技術を追い求めることが研究の楽しさであり,学会に研究者が集う目的の1つではないかと思います.

  「究める」ためには継続が必要です.継続とは自身がその研究への情熱を持ち続けることですよね.
  そして,情熱を失わないためにはその研究が自分がやりたいことであることが前提ではないでしょうか.と,当たり前のようなことを述べているわけですが,この当たり前を疎かにして,あるいはそこまで自身の関心を突き詰めずに進学するケースも多く見受けられます.大学受験や学科を偏差値で選び,研究室選択も第一志望ではなかったけれど,たまたま与えられた研究が楽しくなって就活もしないでのめり込んだという出会いも実際に知っています.これはこれでラッキーだと思います.
  でも,もしすでに自分の興味のあることを自覚しているのであれば,あらゆる手を使って自分が究めやすい環境を手に入れるのがいいと思います.情報収集は表に出ているものだけでなく,他学科や他研究室の生の声が聞けるならぜひとも聞くべきです.あるいは早くから学会や研究会に参加することをお勧めします.
  私が感じていることの1つに,校風や学科選び以上に研究室選びが重要ではないかということです.教授によって研究するという行為は大きく違います.1人1テーマか多人数で1テーマか,先輩のサポートや先輩の研究を引き継ぐのか,場合によっては教授の助手のような研究の仕方もあります.さらに,研究資金が潤沢にあるかどうかで,必要な研究機材が与えられるかどうか,また,学会での発表の機会を与えてもらえるのかも左右されます.もちろん,資金が多ければ良いと言いたいのではありませんし,その分野で名前が通っている研究室を選べば正解ということでもありません.助教や講師が在籍しているが大所帯.こじんまりしている代わりに教授と一対一で話せる,などメリットかデメリットなのかは捉え方次第です.
  これまでの経験で選択するのは不安かもしれませんが,どういう学科,どこの研究室が究めやすい環境なのかを自ら選択してみませんか.おや?間違ったかなとよぎったときに,流れに身を任せるのか自身を突き詰めるのか,また新たな2つの道が開けると思います.

中田眞城子
中田眞城子
[正会員]
mplusplus (株)
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