Vol.64 No.8(2023年8月号)



Vol.64 No.8(2023年8月号)

匿名希望
匿名希望
高校生

 

  日頃,どのようなことを考えながら研究をされていますか?

  私にとって,研究活動とは,人類の集合知を複数の研究者で協力して積み上げ,自分1人では到底見ることができない未来を見ることです.そうして得た新しい発見や知識を,論文という記録として残すことによって,ほかの研究者がその情報や知見を活かしてさらに新しい未来を見ることができるようになる.というところに意義があると思っています.そのため,研究をする際に私が常に意識しているのは,研究の目的と自分自身の情熱です.自分がやっていることが独りよがりにならずに,ほかの人にとっても意義があることであるかどうか,そして,その研究の成果がやがて形になった際には,社会にとってどのような影響が与えられるのか.そして何より,どんな新しい知識が得られたのか,ということです.世の中には,具体的な目的や用途の定まっていないことを研究している方も多くおられますが,誰も見たことのないものを見ようとする,誰も知らないことを知ろうとする好奇心に突き動かされるという点はどの研究者にも共通している想いではないかと思います.

森本典繁
森本典繁
[正会員]
日本IBM

井上美智子
井上美智子
[正会員]
奈良先端科学技術
大学院大学

  質問ありがとうございます.何を考えて研究しているのか改めて考えてみて,いろんなことを考えながら研究しているなぁと気がつきました.1つの研究トピックについ考えてるときもありますが,これからどんな研究テーマをしていこうかと考えているときもあります.研究トピックに限定した場合でも,どうやって目の前の問題を解決するかあれこれアイディアを考えたり,出てきた成果をどうやってまとめて発表しようか考えたり,研究の進捗の段階によって考えることも変わります.これからやりたい研究テーマを考えるときは,こんなものがあったらいいなとゴールから考えるときもあれば,思いついたいいアイディアを活かして何かしたいと考えるときもあります.それ以外にも,どうやって研究費を確保して研究を進めようかとか,自分の研究分野を盛り上げるために何をしたらいいかなど,いろいろ考えることがあります.いろんなことを考えながら研究をしていますが,いいアイディアが出るときは,集中して1つのことだけを考えているときだったりします.皆さんも,何か解決したい問題があるときは,そのことだけ集中して頭を使うと,いいアイディアが出るかもしれません.試してみてください.

    どのような立場で研究をするかにもよりますが,現在の大学教員という立場では比較的自由に研究ができます.
  なんでも良いとなると,なかなかテーマが決まらないものなので,広く世の中のためにという意味で,社会問題解決を考えています.
  とはいえ,解決すべき問題が大きすぎると手に余り研究が進まないものですので,将来の自分を幸せにするような,手ごろな大きさの問題に着目することを心がけています.
  具体的には,自分が苦手としているものをコンピュータ技術を使うことで解決することを考えています.
  自分が苦手とすることは,きっと多くの人も苦手としていて,これを解決できると多くの人も幸せになれるのではないかと思います.
  ところで,仕事で研究となると,研究のための研究になりがちで,これはこれで辛いものです.
  自分が研究で楽しめるということも大切な要素の1つとしています.
  そうなると自分が得意なことをやることになり,さっきと矛盾するように聞こえるかもしれませんが,そこはそうではなくて,得意なことで苦手なことを克服する,という着眼点を心がけています.
  若いみなさんも,ぜひ,身の周りの社会問題に目を向けて,これからの社会を自らの力で切り開いていってください.
  期待しています.

斉藤典明
斉藤典明
[正会員]
東京通信大学

田島 玲

田島 玲
[正会員]
ヤフー(株)

  こういう取り組みをしています,と専門家ではない方にシンプルに伝えるとしたらどう表現するか,です.「なるほど,それは面白そうですね,価値が高そうですね」といった反応をしてもらえるようなものが理想ですが,結構難しいです.細かすぎたり長すぎたりすると伝わらないですし,話が大きすぎると説得力が出ません.加工しすぎて自分の想いとずれてしまっては意味がありません.
  ではなぜわざわざこれを頑張るかというと,持続可能性という観点でとても重要だからです.研究開発自体は多くの場合,お金を使う側なので,学術界であっても産業界であっても周囲からの支援が不可欠です.自分の取り組みの価値を伝え,理解してもらうことはその第一歩になります.
  ちょっと世知辛い話になりましたが,シンプルに自分のためでもあります.元々確固たるビジョンがあれば素晴らしいですが,そうしたことはむしろ稀で,先輩から引き継いだり,思いつきで始めたりすることも多いですよね.それをあえて説明しようとすることで,どの部分が本質でどの部分が付随的なものかが見えてきたり,これを目指すのであればこうした取り組みも必要ではといった気づきにつながったり,暗黙的に根底にあったものが言語化できたりします.トップダウンとボトムアップを行ったり来たりしていくうちに,自分のスタンスが明確になっていくイメージです.続けていると一貫性が出てきたり,エッジが立ってきたりもします.
  いかがでしょうか.これは研究に限ったことではないので,身の回りの取り組みでぜひ試してみてください.毎日腹筋をしているとして,仕事をする上で体調を万全に,魅力的な外見を,などいろいろ打ち出し方がありますよね.それによって自ずと次のステップが見えてくるかと思います.
 

     目次に戻る