Vol.63 No.11(2022年11月号)



Vol.63 No.11(2022年11月号)

匿名希望
匿名希望
[正会員]

 

  大学院進学するかどうか悩んでいるけどキャリア・ライフプランに影響があるか気になっています.コメントをいただきたいです.

  いまIT業界は就職状況がいいので,学部卒でも十分いい会社に就職できる可能性が高いと思います.しかしそこから一歩目標を高くして「IT業界で特に面白い仕事やキャリアを拓ける仕事に就きたい」と考えるとしたらどうでしょうか.それを満たすには,皆さんが会社から選ばれるだけの人材になる必要があります.
  では,企業から選ばれるために必要な実力や実績とは何でしょうか.たとえば本格的な開発経験かもしれませんし,発案力・議論力・発表力かもしれませんし,発表や受賞の経歴かもしれません.これらの実力や実績は学部の授業を受けるだけで身につくものではなく,研究室配属後の経験がチャンスとなります.大学院進学はそのチャンスを拡げる有効な手段です.
  企業に就職する皆さんの新卒時の配属は,就職活動後の内定時や入社時に決まります.その時点での実力が皆さんの人生を左右するかもしれません.大学院進学はその実力アップのための重要な時期でもあると考えます.
  さらに,新卒就職だけでなく転職についても考えてみましょう.転職先の企業が皆さんからの応募を受け付けたら,企業はまず皆さんの名前を検索することでしょう.大学院に進学したら皆さんは学会発表しますので,その経歴が検索結果として見つかります.皆さんの活躍ぶりは,新卒就職時の企業での仕事よりも,学生時代の発表のほうで見つかる可能性が高いのです.その意味でも,大学院に進学して学会発表を重ねることが皆さん自身の存在感につながるのが分かるかと思います.
  会社を選べる人材を目指すことはライフプランの面からも重要です.たとえば皆さんに家族ができるなどして,仕事選びにも制約が生じるようになったとき,その制約の中で一番自分に合った職場を選べるようになるためには,皆さん自身が実力と実績をつけることが重要であると考えます.
  まとめますと,大学院進学は研究者を目指す人だけのものではなく,IT業界などで活躍したい普通の学生が実力をつけるための有効な手段でもあると考えています.参考になれば幸いです.

伊藤貴之
伊藤貴之
[正会員]
お茶の水女子大学

太田智美
太田智美
慶應義塾大学/
大阪音楽大学

  大学院に進学したことでキャリア・ライフプランに影響があったかという問いに対して答えるとすれば,「もともとプラン自体がありませんでしたが,その後に影響はありました」という答えになります.私の場合は,国立音楽大学卒業後,慶應義塾大学の修士課程で音楽生成アルゴリズムを生み出し修了,その後は企業に就職して営業や記者などを経験し,途中なぜかロボットと暮らしはじめ,転職を経て,今度は博士課程でヒトとロボットの共生に関する研究をしています.そんな中,大阪音楽大学で新専攻立ち上げの話があり,現在は音大で教員をしながら博士課程の学生として研究する日々を送っています.「大学院に進学したから会社員になった」「大学院に進学したから教員になった」というシンプルなものではなく,もっと複雑で絡み合ったものでした.
  こんな経歴からも分かるように,現在の私の職業や生活は,遠くの目標に向かって逆算しながら作り上げてきたものではなく,その瞬間の偶然や運,嗅覚に頼りながら導かれた集合体の一部です.私は自分自身のことを「そのときその瞬間の環境や選択の集合体によって創り出されたもの」と捉えていて,これからも完成することなくいろいろなものに影響されながら常に創られ続け変化していく物体なんだと見守っています.

  企業で採用を担当していますが本人次第というのが回答になります.
  研究したことを将来の仕事に活かしたいというのであれば院進してしっかり研究することがおすすめです.
  しかしながら研究したことを仕事に活かせる職業に就けるか否かは就活しないと分かりません.
  特に狭い分野の研究職などは募集自体があまりない可能性もあります.
  それなら研究を突き詰めるより早い段階で社会に出て経験を積んだほうが良いという考え方もできます.
  直接的に活かせなくとも研究への取り組み方(主体性や行動力)など評価してくれる企業もたくさんあります.
  結局のところ,自分が将来どうなりたいかを考えてその実現のためにどう行動すべきか考えることが重要なのです.有利不利で考えると判断基準があやふやで決めることができません.でも自分の気持ちに向き合って見つけた答えならそれに向かって努力できるはずです.
  就活がうまくいかないときは次の夢に向かって動くことが重要です.いつまでもしがみついていても無理なものは無理と切り替えることも大切です.
  ということでご自身が何をどう考えるかによって答えが違うのでしっかり悩んで自分の答えを見つけてください.

加藤謙一
加藤謙一
[正会員]
(株)ハイマックス

放置少年

放置少年
大学院生

  キャリアは積めば積むほど就職に有利になる.ライフプランは初めから正解なんてないし,今できるなら進学した後で考えたらよいと思う.進学してから得るものも多いが,失うそれまでのものもある.
 

  情報を含めたSTEM系エンジニアで開発して飯を食う気があるなら,修士までは必須と考えてください.入社してからの配属や,キャリアプランに差が出ます.私の所属は組込開発の先行業務ですが,大学との共同研究にあたり,博士を取れるテーマと環境であるにもかかわらず,担当者が学部卒であるために叶わない事案がありました.

佐々木順
佐々木順
社会人

力武健次

力武健次
[正会員]
力武健次技術士事務所

  当然影響はあるでしょう.イマドキのコンピュータの仕事や技術の仕事に就きたいのであれば,最低修士相当のプロジェクトを遂行する力は必要でしょうし,コンピュータサイエンスで一流のキャリアを築きたいのであれば,自分でプロジェクトを起こして誰もやっていないことをやって博士を取れるぐらいの力は必要です.もちろん若いうちにしかできないことはほかにもいっぱいあるでしょうから,修士取った上で就職して社会人博士に挑戦するというのが現実的な話になるかとも思います.
 

  進路,悩みますよね,分かります.影響があるかという観点では,もちろん影響はあります.ただし,どちらを選んだらどのような影響があるか,どちらを選んだら良い結果になるかは誰にも分かりません.悩むということは,決められない状態ということです.決めるためには,判断するための情報を増やすことと,ある時点で決断を下すことが必要です.ぜひいろいろ調べて,手持ちの情報を増やしてみてください.
  学部卒業後にストレートで進学する以外に,会社などで働きながら大学院生として大学院に在籍する社会人学生という方法もあります.研究を行う場所と時間の制約が少ない情報科学は,社会人学生をやりやすい分野ですので,ぜひ選択肢の1つに加えてみてください.ただし,働いて給料をもらいながら大学院生として研究もできる社会人学生は,一見いいところどりをできるようですが,とにかく時間がありません.社会人学生を検討する際には,研究を計画的に進められるようしっかり準備しましょう.
  現代は,技術のアップデートが早く,少し先の未来に何のスキルが役立つか分からない不確実な時代です.だからこそ,大学院での研究活動を通じて身に付けることのできる,物事の本質を探るという根源的なスキルの価値は高まるでしょう.2〜5年ほどの時間を投資する先として,大学院は悪くない選択かもしれません.

湯村 翼
湯村 翼
[正会員]
北海道情報大学
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