Vol.63 No.7(2022年7月号)



Vol.63 No.7(2022年7月号)

tezen
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社会人

 

  2022年度から高等学校で始まる新学習指導要領では新しい科目として「情報I,II」が設置されますが,プログラミングはどの言語を学ぶことになるのでしょうか? また,現在IT業界で最も利用されている言語は何でしょうか?

  高校の「情報」という教科は,すべての高校生に学んでほしい情報学の内容を含んでいます.ところで,私たちが暮らす社会は,いまや,情報学や,情報学に基づいたさまざまな分析と工学に基づく技術のおかげで,過去には存在していなかった理想を実現しつつあります.高校の「情報」が含む内容は,そんな社会でこれから活躍するひとのための内容なのです.
  さて,ご質問の回答ですが,いま,特定のプログラミング言語を固定して学んでも,10年後,20年後に,世の中の流行が別の言語に変わるかもしれません.現在は,Pythonがブームになっていて,また,C++やC言語を学ぶ人も多いですが,一方で,表計算ソフトではVBAが,また,データベース言語ではSQLがよく使われています.そして,世界で最も利用されているインタプリタは,現在は JavaScript でしょう(ほぼすべてのwebブラウザが JavaScript のインタプリタです).ということで,高等学校の学習指導要領では,特定の言語を指定しておらず,各教科書会社の裁量で書かれています.2022年度の「情報I」の教科書の顔ぶれを見ると,PythonとVBAが多いですが,Scratchを採用した教科書も登場しています.授業は,教科書を参考に作られますので,その点でいえば,当分の間は Python と VBA が,よく学ばれることになるでしょう.
  なお,大学入試センターが公表した「情報I」サンプル問題(2025年入学生の試験問題のサンプルとして作成されて公表された)を見ると,日本語の命令文を利用して,Python に似た構造の擬似コードが利用されています.情報教育の研究者は,これを「DNCL2」あるいは「新しいDNCL」などと呼んでいます.このサンプル問題を参考にすると,今後は,Pythonを採用する教科書が増えていくと予想できますね.

辰己丈夫
辰己丈夫
[正会員]
放送大学

中西 渉
中西 渉
[正会員]
名古屋高等学校

  新しい科目が始まるとともに,大学入学共通テストにも「情報」が導入されることが決まっています.これまでにも大学入試センター試験では数学②に「情報関係基礎」という科目が設置されており,情報教育関係者はこの科目の出題内容に着目してきました.
  最初はBASICなど世間で使われている言語でプログラミングの問題が作られましたが,すぐに日本語ベースの擬似言語(アルゴリズムを自然言語で表したもの)になり,整理されてDNCLと呼ばれる言語になりました.これは特定の言語で勉強した人が有利にならないようにという配慮だと思われますが,DNCLで書いたプログラムが実行できる環境は当時から作られており,試験問題のプログラムを実行することもできました.
  だったら「情報I」でもDNCLで学習したら入試に直結して有利なんじゃないか……というのも自然な考えです.しかし(私自身DNCLの実行環境の1つを開発している立場ですが) DNCLだけで学習を進めることには明確に反対します.「情報」という教科は問題発見・解決が大きいテーマであり,そのためにはDNCLでできることは限られています.DNCLは日本語ベースで取り付きやすいことから,導入で用いることはいいと思いますが,プログラムがある程度書けるようになったら,PythonやVBA,JavaScriptなど実用的に使われている言語を使うべきです.そうすることで,将来必ず現れる新しい言語にも手が届くようになります.
  入試対応? 実は上述したどの言語で勉強しても,共通テストのサンプル問題に解答した結果には大差なかったという研究結果があります1).だとしたら,現実にいろんなことができた方が楽しいじゃないですか.

参考文献
1)井手広康:大学入学共通テストを見据えたプログラミング教育の言語選択に関する考察,情報処理学会CE研163回研究発表会[14].
 

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