Vol.62 No.11(2021年11月号)



Vol.62 No.11(2021年11月号)

tachyon
tachyon
大学院生

 

  資金獲得などで,成功するコツがあれば教えてください(心がけていたことや,やって良かったことなどあれば……) .

  資金獲得など,というのが,いわゆる「競争的研究資金」のことを意味しているのかはっきり分かりませんが,たぶんそうだとしてお答えします.
  まずは,資金獲得を目指す目的があるだろうと思いますので,その目的によく適合する競争的資金を選んで応募するというのが大事だと思います.大学院生ということですので,たとえば「研究者として自立するまでの経済的支援を受けたい」ということであれば,日本学術振興会(JSPS)特別研究員への応募が考えられます.その場合は,研究分野は問いませんが,良い博士論文になりそうな研究計画を提案できているか,その計画に沿った成果(学会発表や論文等)が徐々に出始めているか,という点が重視されると思います.
  一方,もしも「何か実現したい具体的アイディアがあって,そのための開発資金が欲しい」ということであれば,IPAの未踏事業などが応募先として適しています.そちらでは,既存の学問の枠に収まらない突出した人材の発掘を狙っているので,論文業績よりも,独創的で社会的インパクトのあるアイディアかどうかと,それを実現する能力がありそうかどうかが問われます.
  ほかにもJST,NEDOなどの公的機関や民間企業の競争的資金がありますが,対象分野が定められている場合があり,応募条件がそれぞれ異なるので,よく調べて応募するのがよいと思います.
  競争的研究資金はコンテストや競技会とは違って,競争を勝ち抜いたら終わりではなく,むしろそこからが始まりで,計画を実行して成功させることが求められます.もちろん研究ですので必ず計画通りに行くとは限りませんが,少なくとも資金提供者に対する説明責任が生じます.自分が心からやりたいと思える研究課題でないと,うまく行かなかったときに辛くなってしまうかもしれません.通ったときに困るような無理なことは申請書に書かない方がよいでしょう.なぜ自分だったらこれを実現できるのかという客観的な理由(これまでの実績など)をアピールできれば,審査員も採択しやすいと思います.
  申請書を執筆しているときは一生懸命に良い文章を書いたと自分では思いがちですが,一晩頭を冷やしてから,審査員になったつもりで客観的に読み直してみると,用語が分かりにくいとか,根拠が弱いとか,いろいろ見えてくることが多いので,少し時間的余裕をもって準備した方がよいでしょう.また,自分の能力を熱心にアピールすることは大事ですが,根拠のない自慢になってしまうと心に響きません.論文業績や受賞など,客観的なエビデンスを挙げて淡々と説明し,自分が適任であることを切々と訴えてくる申請書は強い印象を与えます.日頃からコツコツと地道に研究成果を積み上げていくことが,次の資金獲得への可能性を高めることにつながると思います.

湊 真一
湊 真一
[正会員]
京都大学

牛久祥孝
牛久祥孝
[正会員]
オムロンサイニックエックス(株) / (株)Ridge-i

  ご回答の前に「お前は回答者に資する資金獲得実績があるのか」というツッコミが考えられるので,資金獲得経験を述べます.主たるところを述べると,代表として科学技術振興機構(JST)のACT-Iおよびその加速フェーズ2,300万円,分担として日本学術振興会(JSPS)基盤(S)の約2,200万円,およびJST未来社会創造事業の探索・本格で計14,500万円程度というところです.決して額が大きいという認識ではありませんが,色々と試行錯誤している立場としてご回答できるのかなと思っております.
  取り組みとしては,要項や申請書ハウツー本の読み込みはすでにやっている前提として,「構造を明らかにする」「仲間を集める」「諦めない」の3つに集約されると思います.
  まず「構造を明らかにする」という点.見出しや強調のまったくないテキストのベタ書きは論外としても,過剰な修飾を行った申請書は逆に読みにくいです.重要なのは,背景や研究項目,その計画などの項目をノードとしたときにそれぞれの子ノードが何なのかがハイライト部分だけで分かることと,それらの子ノード同士の接続が項目間で明らかにされている状態です.
  次に「仲間を集める」という点.個人で獲得する資金もありますが,グループで狙う資金の方が多いのも事実です.常日頃の学会等のイベントで知己を増やしていくのが必須になります.
  そして最後に「諦めない」こと.上記のように今獲得している分では2億円程度になりますが,申請したものが全部通っていたら8億円程度になったと思います.要するにそれだけどんどん落ちているので,振り返って修正しながらどんどん出していくことです.
  制限文字数を超過してしまった……端的に述べたので伝わりにくい部分があったかもしれませんが,何らかの参考になれば幸いです.

  この質問を受けて,私自身のことも振り返ってみようと思い,府省共通研究開発管理システム(e-Rad)にアクセスしてみました.
  e-Radが稼働して以来,私が申請した研究費は60件ありました.
  そのうち,採択された件数は19件,つまり採択率は32%です.
  科研費の採択率が20〜30%程度のようですから,それより少し良い程度にすぎません.

  【仮説1】数を打つことで,ある程度の採択件数は稼ぐことができます.
  (……野球と違って,何度でも打席に立つことができるのですから)

  もう1つ,面白いことに気づきました.
  私は当初から独立した研究室を持っていましたが,私が代表者として申請した件数が21件,分担者として申請した件数が39件と,ほかの代表者の陰に隠れて申請したものが倍近くあったのです(ちなみに,分担の採択率は28%に対して,代表の採択率は38%).

  【仮説2】数を打つためには,自分が代表になるだけでなく,いろんな人と交流を持ち,研究チームの一員になれるような,分かりやすい得意技や守備範囲があればいいのかもしれません.

  この,「チーム」という言葉は,もっと大きい意味でも重要だと思います.競争的資金がどのように用意され,選考されるかを考えると,同じ研究分野のリーダ的研究者が国などから予算を確保し,選考は同じ研究分野の誰かがするわけです.そして選考される側はほとんどの場合,匿名ではありません.

  【仮説3】研究費の申請は,一発勝負の試験ではなく,いわゆる中高生の内申点のような,「日ごろの行い」が重要なのかもしれません.

  ただし,この「日ごろの行い」とは,おべっかを使うとかゴマをするというような,短絡的なものではありません.
  研究コミュニティで,どのように自分の得意技や守備範囲を伝えられているかということ,そしてそれにも増して,一度研究費を獲得したらしっかりと実績を出し,スポンサーである国などに科学的に貢献する姿勢が,研究キャリア全体を通して見られるのだと思います.資金獲得はあくまで,国などからの借金だと思うのです.

井上創造
井上創造
[正会員]
九州工業大学大学院生命体工学研究科
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