Vol.62 No.5(2021年5月号)



Vol.62 No.5(2021年5月号)

匿名希望
匿名希望
[正会員]
企業研究者

 

    コロナウイルスを可視化できるものはできないのでしょうか?

  メガネをかけるとコロナウイルスが見える,なんてことが実現できればウイルスを避けるのも簡単になりますね.
  実現には身の回りに飛散,付着しているコロナウイルスをセンサで検知してAR技術等で見える化すればよいわけですが現時点では難しいでしょう.そんなセンサはまだ世の中にありませんから.ただ,直接コロナウイルスを検知しなくても似たようなことは実現できます.コロナウイルスは感染者が触れた,咳やくしゃみをした場所に付着,飛散します.ということは,コロナウイルス感染者が触れた,咳・くしゃみをした場所を検知できればよいわけです.
  私たちは人が触ると触ったモノに手の体温が少しの間残ることを利用して,人が触った場所をサーマルカメラで検知し,その場所にウイルスが付いているかもしれないよという警告をプロジェクションするシステムを作っていますが,人が触った場所,くしゃみ等をした場所の検知にはほかにもいろいろなアプローチが考えられるでしょう.その人が感染者かどうか分かれば,より正確にそこにコロナウイルスがあるか推定できると思います.倫理面など課題はありますが,感染者を追跡するシステムと組み合わせてもよいかもしれませんね.

白井良成

白井良成
[正会員]
日本電信電話(株)
NTTコミュニケーション科学基礎研究所

川原圭博
川原圭博
[正会員]
東京大学

  新型コロナウイルスのサイズは0.1µmぐらいなので,これを可視化するには電子顕微鏡が必要になります.ウイルスが含まれているかもしれない,くしゃみや咳の飛沫であれば,サイズも数µm以上になるので,シュリーレン現象を利用した特殊な光学系を用いることにより可視化することもできます(シュリーレン法自体は19世紀からある枯れた技術です).
  ウイルス自体を可視化すること以外にも,COVID-19に感染した人の行動やほかの人々との接触状況を記録することも感染拡大防止対策として有効だと考えられています.厚生労働省が提供する新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)は,各ユーザのスマートフォンからランダムなIDを発信し,そのIDを記録することで,陽性者との接触があった場合に匿名で連絡を受けられるようになります.
  東京大学では,キャンパス内の教室や図書館,食堂などに位置情報を発信するBluetoothビーコンを設置して,その情報をスマートフォンで読み取るMOCHAを開発・運用しています.学内で感染者が出たときには,接触の可能性がある人に匿名で通知することもできますし,普段から教室等の混雑度を確認したり,席の予約ができるようになっています.社会での自由で安心できる活動を取り戻すためには,人の行動や接触履歴のデータの利活用は,ますます重要になると考えられます.
 

  はいであり,いいえでもあります.
  コロナウイルス自体の可視化は難しいですが,新型コロナウイルス感染症の患者さんや感染しそうな方の数・場所は可視化はできます.たとえば,陽性かもと心配になった場合,みなさんは何をするでしょうか?
  メッセージアプリでご両親に相談したり,インターネットで「コロナ 初期症状」などと調べたりしませんか?
  そういった行動の多くは情報技術で捉えることが可能です.
  インフルエンザの症状など実際に検索できるサービスもあります.「インフルくん」で検索してみてください.
  ただ,問題もあります.すべて可視化しまうのをいやがる人もいます.何をどこまで可視化するか.これは情報学の問題だけでなく政治や倫理の問題でもあります.これからみんなで決めていきましょう.

荒牧英治
荒牧英治
[正会員]
奈良先端科学技術
大学院大学
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