Vol.61 No.11（2020年11月号）

 　はい，すでに実現しています．といっても，これはどのような量子コンピュータか？ということによって答えは変わります．たとえば，みなさんが使っているスマホの中でも，半導体というスイッチみたいなものを動かして計算をしています．この半導体は量子なくしては動きません．でも，やっている計算はみなさんがやっている足算や掛け算に似たようなもので，さすがに量子コンピュータとは呼べないでしょう．ほかにも，カナダのD-waveという会社が量子を使って新しい方法で計算をするコンピュータを実現しています．これこそ量子コンピュータが実現したといってもいいかもしれません．しかし，量子の力を完全に引き出せているわけではなく，僕たちが普段使っているコンピュータにまだ勝てていません．量子コンピュータたるもの，私たちが使っているコンピュータよりも速くあるべきでしょう．昨年，Googleが最先端のスーパーコンピュータを超える速さの量子コンピュータを実現したと発表して話題になりました．今度こそ，量子コンピュータが実現したといってもいいかもしれません．しかし，Googleがやった実験は量子コンピュータを使ってデタラメな数字を計算することです．量子コンピュータたるもの，役に立つ計算で私たちの使っているコンピュータよりも速くあるべきでしょう．そのような量子コンピュータはまだ実現していません．このように，量子コンピュータとは何か，どうあるべきか，何ができるのか，というのを考えるのも私たちのやっている研究です．そして，私は量子コンピュータはいずれ必ず実現すると思っています．少なくとも，量子コンピュータの実現を邪魔する物理法則はいまだ見つかっていません（もし見つけることができれば歴史に名前が刻まれます）．なので，時期が熟せば実現すると思います．

 　きっと実現すると思います．量子コンピュータは量子力学と呼ばれる原理に従って計算をするコンピュータです．ふだんの生活の中で皆さんは気にしていないと思いますが，実は私たちの住んでいる世界そして宇宙も同じ量子力学の原理に従って動いていることが知られています．それなので宇宙全体がすでに量子コンピュータであって，私たちが生きているのはその計算動作の一部（！）と言えるのかもしれません．このような考え方はSF映画のように聞こえるかもしれませんが，実は宇宙の成り立ちにも深くかかわっている可能性もあります．一方で，実際に量子コンピュータを作ろうという研究では，そのように自然に造り上げられたものではなく，人間が設計して作り上げた装置で，量子力学の持つ計算能力を最大限に引き出そうという試みが行われています．自然を支配する最も根本的なルールを自在に使いこなす究極の機械が量子コンピュータと言ってもいいでしょう．