Vol.61 No.8(2020年8月号)



Vol.61 No.8(2020年8月号)

匿名希望
匿名希望
中学生

 

    大学の研究費はどこから出されているのでしょうか.

  個人で行う研究から多数の研究者がグループで行う研究まで,さまざまな研究活動が大学で行われていますが,それを支える研究費は大別すると次の3つに分類できます.(1)国からの資金,(2)企業からの資金,(3)個人・団体からの寄付金・助成金等.
  (1)は,研究者個人の自由な発想による研究を支援する経費や,大学の特色ある研究活動を支援する経費,あるいは国の機関からの依頼を受けて大きなグループで研究するための経費等があります.これらの経費は国民からの税金がもとになっていて,大学内で研究者に配分されるものや,厳しい審査を経て獲得するものがあります.なお,日本からのノーベル賞の多くは,研究者個人の自由な発想による研究から生まれています.
  (2)は,企業が抱えている課題等を大学と共同で解決していく研究を進める場合に,企業から大学に支払われる研究費です.最近ではこのような共同研究が増えており,その成果から社会を大きく変える製品などが開発される場合もあります.
  (3)は,広く大学の研究活動に賛同いただき,それを支援する目的で提供されるものです.ただし,助成金の場合は,申請をして審査で採択された場合に提供されるものがほとんどです.

西尾章治郎

西尾章治郎
[名誉会員]
大阪大学

岡部寿男
岡部寿男
[正会員]
京都大学

  大学で行われている研究活動には,政府が分野や目標を定めてプロジェクトとして行うもの,企業が費用を負担する共同研究で具体的な製品開発に結びつけるためのものなどさまざまな形態があります.しかし,研究分野の縛りがなく,研究の目的を外部から設定されずに研究者が自由な発想に基づいて行う研究(curiosity-driven research)を支えているのは,我が国では文部科学省所管の科学研究費助成事業(通称「科研費」)です.科研費は,人文学・社会科学から自然科学までのすべての分野にわたり,基礎から応用までのあらゆる独創的・先駆的な学術研究を対象としています.研究者が応募した研究計画の中から厳正な審査を経て採択される研究費を競争的資金と呼びます.科研費は,日本政府全体の競争的資金の半分以上を占め,令和2(2020)年度の予算額は2,373憶5千万円です.科研費の審査は,学術論文の審査などと同様に,専門分野の近い複数の研究者による審査(ピアレビュー)によって行われています.科研費には毎年10万件を超える応募があり,平成30(2018)年度は約2万6千件が新規に採択され,前年度以前から継続している研究課題と併せて約7万5千件が支援を受けています.国立大学である京都大学を例に挙げますと,政府からの委託や企業との共同研究を除き大学として行った研究の研究費は平成30(2018)年度は189億円で,そのうち134億円が科研費による助成です.科研費はすべての研究活動の基盤となる学術研究を幅広く支え,科学の発展の種を蒔き芽を育てる大きな役割を果たしています.
 

  「大学に所属する研究者(教員)が研究費を得る方法」の視点から答えることとします.
   研究費は,「大学から自動的に支給されるもの」と「自らが申請して獲得するもの」があります.前者は一般に校費と呼ばれ,国立大学の場合は大学の運営するための資金として国から毎年支給される運営費交付金の一部が充てられます.私立大学の場合は国からの補助金と,大学が自らの事業により得た資金の一部が財源となっています.支給金額は大学により異なりますが,教員一人あたり年間数万円から多いところで100万円といったところでしょうか.一方,申請して獲得するものには国,民間,財団などさまざまな資金源(競争的資金)があります.その中で最も総額が多いのは科研費と呼ばれる文部科学省がスポンサーとなっているもので,総額で年間約2,500億円ほどです.科研費には一人あたりの配分額は年間100万円から1億円超までとさまざまな種類があります.ただし,申請すれば必ずもらえるというわけではなく,得られる確率(採択率)は平均では30%弱程度,金額の大きなものでは採択率約10%という狭き門となっています.ここ20年ほど国は運営費交付金を減らし,一方で競争的資金を増やす政策を進めてきており,それに対して賛否両論,激しい議論がなされています.

橋本和仁
橋本和仁
物質・材料研究機構/総合科学技術・イノベーション会議 議員
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