Vol.61 No.7(2020年7月号)



Vol.61 No.7(2020年7月号)

神長春花
神長春花
[ジュニア会員]
小学生

 

   いつかドラえもんのようななんでも出せてコミュニケーションがスラスラできるロボットはできますか?

 「なんでも出せて」とは,ドラえもんがおなかの四次元ポケットから取り出すさまざまな「ひみつ道具」のことですよね.NHKでも2019年末にドラえもん50周年の特集をやりましたが,ひみつの道具は1,600以上もあるようです.そのうちのいくつかは形を変えて実現してきています.「メロディお玉」も東大名誉教授の嵯峨山茂樹先生が自動作曲システムを,「とうめいマント」も稲見昌彦先生(東大)が透明人間システムをそれぞれ発明していましたよね.情報処理学会の研究者の多くが小さいころからドラえもんのまんがを読んで「こんなことできたらいいなあ.じゃあやってやるぞ」と思って謎を解いている人が多いと思います.もう1つの質問ですが,「コミュニケーションがスラスラできるロボット」ですが,これはすごく良い点に気づきましたよね.たぶん,のび太が「何をしようかと考えている」ことにドラえもんが「のび太君,『まさか〇〇できたらいいなあ』,なんて考えているんじゃないだろうね?」とスラスラとコミュニケーションできるようになるかという質問だと思います.これは「相手の意図を理解する」研究ですが,もう少し経てばロボットができるようになると思います.

萩田紀博

萩田紀博
[正会員]
大阪芸術大学

石黒 浩
石黒 浩
[正会員]
大阪大学

 アニメのドラえもんのようにすらすら話をするためには,人の考えや感情をある程度理解し,自分も自分の考えを持ちながら,感情豊かに声の調子や表情を変えて話す能力が必要になります.これらの機能を全部実現できるのは,30年とか40年先になるかもしれませんが,いつかはアニメのドラえもんくらいに話せるロボットは出てくる可能性はあると思います.

 タイムマシン,もしもボックス,どこでもドアなどのすごいひみつ道具がなんでも出せるようになるかは回答者には分かりません.しかし,対話が情報のやりとりであり,人間が情報処理を行っている以上,いつかはドラえもんのようにコミュニケーションがスラスラできるロボットはできるでしょう.
 人間もそうですが,コミュニケーションがスラスラできるためには,相手と価値観や目的を共有する必要があります.相手の心は見えません.そのため,対話を通して,価値観や目的をすり合わせていく必要があります.ドラえもんとのび太はよく喧嘩をします.人間同士もそうです.相手の言葉に傷ついたり,喜んだりします.こうしたことを通して,より円滑なコミュニケーションができるようになっていきます.ドラえもんが未来に帰ると言ったとき,のび太はドラえもんが安心して未来に帰れるように,ジャイアンに立ち向かっていきました.これは,一緒に過ごす中で,ドラえもんの価値観を理解したからでしょう.
 現状の対話システムは,一般に価値観は変わりません.目的も変わりません.ユーザに自身の価値観を押し付け,システムが理解できるように伝えないと会話が成り立ちません.これからの対話システムは,人間と歩み寄るようなものになっていかなければなりません.お互いの価値観や目的をすり合わせることができれば,人間とコンピュータの連携は深まっていくでしょう.人間同士ではできなかった問題解決も実現できるようになると思います.そうした人間とコンピュータのやりとりから数々のひみつ道具も産まれてくるのかもしれませんね.

東中竜一郎
東中竜一郎
[正会員]
名古屋大学

大武美代子
大武美保子
[正会員]
理化学研究所

 ご質問は大きく2つの機能,1)なんでも出せる,2)コミュニケーションがスラスラできる,が実現できるかを問うています.1)なんでも出せる,は,ドラえもん本体というよりドラえもんの道具を作れるかどうかなので,ここでは2)について考えてみます.
 回答の時点での対話技術は,話題の範囲を限定することにより,いろいろな質問に答えられるようになっています.のび太がドラえもんを必要とする状況は,スネ夫に自慢話を聞かされてくやしい,ジャイアンをやっつけたい,など,かなりパターン化されているので,これまでのドラえもんとのび太の会話データを集めれば,それらしいコミュニケーションができると思います.ただ,質問では,「ドラえもんのように」と比喩であって,ドラえもんそのものではないので,ドラえもんとまったく違う状況だと,スラスラ答えられませんね.
 ご質問いただいた方は,それらしく見えることではなく,本当に共感してくれることを期待していると思います.ところが,心の働きを突き詰めると,ふるまうことによって気持ちを感じる仕組みになっているという説があり,適切にふるまえばよいと割り切ることも可能です.2)は1)の機能と比べると,物理法則上の制約はないので,質問に対する応答の観点で,同じようなコミュニケーションは,今でもある程度できるし,今後の研究でもっとできるようになると思います.

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