Vol.60 No.10(2019年10月号)



Vol.60 No.10(2019年10月号)

smk7758
smk7758
[ジュニア会員]
高校生

 

  学生でできる情報系の研究のテーマは何か? また見つけるコツは?

 もし研究者を目指すのであれば,恐らくほかの先生方が答えている答えを参考にすればよいかと思いますが,そうではない人も多くいるかと思います.
 そんな人にお勧めなのが,「情報処理×自分の好きな分野」の組合せです.世の中の多くの事柄は,情報処理によって解決することができますが,これは,IT業界だけを見ていても見つけられるものではなく,また,その業界だけを見ていても難しいジャンルです.掛け合わせるものが増えれば増えるほど,学術的なインパクトは下がっていきますが,それだけ新規性を生み出しやすくなります.
 そんな研究テーマを見つけるコツは,「興味のある物事に対して,情報処理が入る余地があるかを常に考える」,「解決できる手段を増やす」の2点でしょう.前者は日頃の意識が大切ですし,後者は日々の勉強が大切です.機械学習を学んだり,競技プログラミングでアルゴリズムを勉強したりすることで,どういった問題であれば解決できるか,という視点を持てるようになれば,自然と見つかるのではないでしょうか?
 たとえば僕自身は,競技プログラミングに興味があったので,「問題を解くためのヒントを提案するアルゴリズム」を題材に研究したことがあります.友人の中には,エレクトロニック・スポーツに興味があり,「大会で可能な限り正確に順位付けするための対戦表のリアルタイム生成」をテーマに研究した人もいますし,漫画などのキャラクタに興味があり,キャラクタの自動生成や,似たキャラクタ・作品の検索について研究した人もいます.
 これらのすべてに共通するのは,「当事者であるからこそ何が必要かが分かっている」ということです.この強みはほかの研究者にはなく,テーマ発見で大きな優位性を持つことができます.そして,「現代技術で何ができるか」を知っていることで,これを解決する手段が存在するかが判断できる,というわけです.例に挙げた研究では,自然言語処理やマッチングアルゴリズム,GANなどの機械学習アルゴリズムが使用されています.需要を知り,解決手段を知ることで,研究の場でも,たとえばビジネスなどのそれ以外の場でも,活躍することができるのではないでしょうか.

高橋直大
高橋直大
AtCoder(株)
 

千葉 滋
千葉 滋
[正会員]
東京大学

 自分は学生のころ「若い人はできるだけ目新しいこと,最近流行り始めたことを研究した方がよい」と言われました.伝統的なテーマは文献や教科書もあって手をつけやすい一方,「この道何十年」のような大研究者がいますので,良い成果をだそうと思うとなかなか大変です.新しい話題にかかわるテーマなら皆平等に初心者なので,経験が浅くても運が良ければ優れた成果を出せるチャンスがあります.そのかわり,周囲の大人に「そんなチャラチャラしたテーマでなくて,もっと真面目なテーマを研究しなさい」などと言われてしまうかもしれませんが(もう若くない私もそう言うかもしれません.ごめんなさい).なお冒頭のアドバイスは「そしてうまくいかなかったら,良いテーマに当たるまで次々テーマを変えなさい」と続きます.アドバイスに従ったら,ますます周囲の人が顔をしかめるかもしれませんが,そこは気にせず研究を楽しんでください!

 「研究」をしたいですか? 「研究」って何でしょうか? 広い意味では,就職活動の際の業界研究,といった用法もありますが,狭い意味での,大学などで行われる「研究」は,人類がまだ知らなかったことを見つけること,です.人類の知識を増やすこと,という言い方もあります.なので,研究の成果をまとめた学術論文には新規性が求められます.
 人類が知らなかったことを見つけるというのは,ロマンティックで,そしてエキサイティングです.アドレナリンが止まりません.ただ,何に喜びを感じるかは人それぞれなので,高校生の時点で,研究,すなわち,絶対に新規な何かを生まないといけないという呪いに身を投じる必要はないと思います.自分が使う家計簿ソフトを作るのも楽しいよ,と言う一流研究者もいます.新規性があろうとなかろうと,自分が得意なこと,楽しめることを見つけられれば,人生を楽しめます.
 え? 研究のその興奮を体験してみたいから研究テーマが欲しいんだよ,と? おっと,そろそろ紙面が尽きそうです.その経験がある人生の先輩に連絡して相談するといいでしょう.

首藤一幸
首藤一幸
[正会員]
東京工業大学
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