Vol.60 No.4(2019年4月号)



Vol.60 No.4(2019年4月号)

鈴木大志
鈴木大志
高専生

 

  AI IoTの普及で仕事の効率が上がっていくと思います.
  私自身,そのことは良いことだと考えています.
  そのようなことは実現すると思いますか?
  また,可能であるならどのような世の中になると思いますか?  

 さまざまな回答があり得ると思いますが,個人的には仕事自体がなくなるということはないと思っています.AIの規範となっているディープラーニングやIoTはあくまで新しい技術,インフラの枠組みで,人間の仕事を完全に代替することは(少なくとも当分は)考えづらい状況です.これは多くのディープラーニング研究者の共通認識であると思っています.
 しかしこれらの技術の普及で仕事の内容が大きく変わる可能性はあります.過去にPCやインターネットが普及したときに,仕事がなくなる(種類が少なくなる)のではなく,従来の仕事の形態が大きく変化し,むしろこれらの新しい技術を活用した新しい仕事が数多く生まれました.恐らくこれと同様のことが起こるだろうと考えられます.これまで特になくても困らなかったけど,あるととても便利,というアプリケーションが大きな市場を握る可能性があります.
 最大の懸念の1つは,ディープラーニングやIoTを利用する人々と,利用しない人々との格差の拡大です.これはPCやインターネット普及時にも起こったことです.新しい技術をどれだけ柔軟に受け入れられるかが,非常に重要になってくる と考えられます.

尾形哲也
尾形哲也
[正会員]
早稲田大学/
産業技術総合研究所
人工知能研究センター

井上創造井上創造
[正会員]
九州工業大学/
理化学研究所AIP

  私は「仕事がまったくない」世界は来ない(!)と予想します.1つ目の理由は,これまでの自動化は,人間の仕事の一部を代替することでコストを成り立たせてきたからです.「仕事がまったくない」ということは,人間の全部の仕事を社会全体で代替できなければなりませんが,それでコストが成り立つかどうか疑問が残ります(面白い命題ですが).2つ目の理由はもっと重要ですが,人間の欲求には「他人に認められたい,自分を高めたい」というものが含まれるからです(たとえばマズローの承認欲求や,自己実現欲求).良い仕事をして他人や社会に認められ,自分を高めていくことは,この欲求を満たす有効な手段ですので,世の中から人間の仕事がなくなることはないと考えます.
  ところで,日本にはもう「仕事がない」世界が存在するのをご存知でしょうか.そう,15歳から65歳未満の生産年齢人口に該当しない人々は,その多くが「仕事がない」のです.2018年時点で人口の40%以上が非生産年齢と推計されています(生産年齢でなくてもすばらしい「仕事!」をされている情報処理学会の先生方もいらっしゃいますので,生産年齢というのはあくまで目安ですが).
  私も大学で,(生産年齢だが仕事はしていない)学生を教えながら,高齢者のためのIoTの研究に取り組んでいますが,彼らの承認欲求や自己実現欲求をどう満たすのか,その課題はすでに目の前にあります.戦争の代替行為として時にスポーツが発展したように,仕事の代替行為としての新しい何かが必要なのかもしれません.いっしょに取り組んでみませんか?
 

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