Vol.59 No.9(2018年9月号)



Vol.59 No.9(2018年9月号)


晟熙
晟熙
[学生会員]
大学院生

 

 博士後期課程修了後,企業への就職ではなくアカデミアに残り研究を続ける場合,博士での研究(分野)を続けることになるのか,新たなテーマ(分野)に移るのか.

 こんにちは.どちらのケースもあると思いますが,私は前者の「博士での研究(分野)を続けて」いる一人です.……とはいえ,ずっと同じことをやっているわけではありません.
 私の博士研究では,複合現実感(Mixed Reality ; MR)や拡張現実感(Augmented Reality ; AR)向けの新しいインタフェースの提案をしていました.博士取得後は,遠隔協調作業が専門の先生とAR遠隔作業指示システムの研究に取り組んだり,考古学の専門家と発掘作業におけるAR透視システムの効果を調査しています.
  私の場合は,博士での研究は「自分の軸」を作るプロセスで,今はその軸を中心にさまざまな分野へ興味の範囲を広げています.特に,色んな人とコラボレーションすることは発見の連続でとても刺激的です.自分のできることを増やすために「自分の軸」を武器として,常に磨いておくのはもちろん,新しいことにチャレンジしていくことや,視野を広く持つというのはいつまでも大事にしたいですね.

大槻麻衣
大槻麻衣
[正会員]
筑波大学

馬場雪乃馬場雪乃
[正会員]
筑波大学

  多くの場合,アカデミアの研究者は研究テーマを自由に決めることができます.そのため,テーマ・分野の選び方がとても重要になります.学生時代から一貫して1つのテーマ・分野を掘り下げ続けるというやり方もありますし,自分の興味や社会の動向の変化に合わせてさまざまなテーマ・分野に取り組むやり方もあります.どういうスタイルが適しているかは,自身の性質次第です.興味が長続きするのか飽きっぽいのか,新しい知識を取り入れるのが早いのか遅いのか,などの性質をよく見極め,自分のスタイルを決めるのがよいでしょう.ただし,情報処理技術は,技術革新や社会要請の変化が目まぐるしく,技術が陳腐化しやすいです.そのため,1つのテーマ・分野に一点張りするのは,ややリスクが大きいでしょう.どのような研究スタイルにしろ,さまざまな分野にアンテナを張って,技術と社会の動向を見極める姿勢が重要だと思います.

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 修士卒で企業に勤めている人が社会人博士として博士号を取得するとき,何がきっかけで取ろうと思うようになるのでしょうか? また,それはいつ頃で,企業研究との両立の大変さはどの程度ですか? 

匿名希望
匿名希望
[正会員]
社会人
榎 美紀榎 美紀
[正会員]
IBM Research

 海外の研究者のほとんどは博士号を持っています.自分もイチ研究者として社会で働くには博士号が必要だなと日々感じるようになります.社会人博士の取得には,大きく2つのパターンがあると思います.1つは修士課程で研究していた内容を,仕事の傍ら研究を進めること,もう1つは仕事での研究内容をまとめることです.前者の場合は,就職してからあまり時間をあけずに社会人博士生活を始められるかと思いますが,仕事内容と別の研究内容となる可能性が高いため,平日夜や土日を有効活用する二足のわらじ生活となります.後者の場合は,ある程度論文などの業績を仕事で積み重ねてから,それらを博士号取得条件を満たすための業績として含めてもらえる大学や研究室を見つける必要があります.研究内容は仕事内容とほぼ関連付けられるはずです.いずれにせよ,論文締切前は職場の同僚に仕事の一部を手伝ってもらったり,指導教官には論文投稿のスケジュールや内容を相談するなど,周囲の協力なしには成し得ないものとなるのも事実です.でも,博士号を取った後の自分の姿に憧れがある限り,成し遂げられると思います.

 博士号挑戦のきっかけは,就職後に博士号を取得した上司からの勧めでした.最初は,博士号は勧められて目指すものではないと思っていました.ただ,仕事で研究をする中で,体系的な学びの必要性を感じていたことや,仕事の場合,研究以外の要素も多いから,どっぷりと研究につかる経験をしてほしいという上司の言葉に納得したこともあり,挑戦することを決めました.また,当時は入社8年目で,会社とは違う環境に身を置いてみたいと思っていたことも理由としてあります.
 非常に幸運なことに,博士課程に専念させていただけたので,企業研究と両立するという苦労はありませんでした(その分,会社からのプレッシャーが……).私の博士課程の3年間を踏まえると,両立するのは大変だとは思うのですが,産業界とアカデミアの両方の情報を得やすかったり,研究内容について会社で相談できる方がいれば,一人で悩む時間が減ったりするのではないかと思います.
 仕事をする中で進学したいと思ったなら,得られることは多いと思います.ぜひ真剣に考えてみてください.

匿名希望
匿名希望
企業研究者