Vol.59 No.8(2018年8月号)



Vol.59 No.8(2018年8月号)



 岸本ゆきひと
[ジュニア会員]
小学生

 

先生教えてください!
人工知能がくらしの中に入ってきたら
授業も宿題もやってくれるかも
もしそうなったら
僕らはどんなことを勉強したらいいでしょうか

 人工知能が宿題をしてくれたら便利ですね.そうやって時間が空いたら自分の好きなことをしましょう.料理をしましょう.スポーツをしましょう.工作をしましょう.旅行に行きましょう.本を読みましょう.詩を書きましょう.絵を描きましょう.楽器を習うのもいいかもしれません.人工知能も楽器を弾けるかも? でも,それは自分で楽器が弾けるようになるのとはやっぱり違いますよね.自分で,これができたらいいなと思うものはなんでしょう?  それを,人工知能を使ったらもっと楽しくすることはできないだろうか,と考えることもいいですね.たとえば人工知能に伴奏をしてもらって演奏をすることができるかもしれません.そういうことを考えるのも「勉強」なんです.そして,もし興味がわいたらプログラミングをしてみましょう.人工知能がどうして宿題をしてくれるのか,調べてみましょう.そうしたら,自分が好きなことをするための人工知能を作れるようになるかもしれないですよ.


暦本純一
[正会員]
東京大学/ソニーコンピュータサイエンス研究所
小林一郎
[正会員]
お茶の水女子大学/
産業技術総合研究所
人工知能研究センター

  たとえば,みなさんが将来大きくなったときに何かをしたいとか,何かになりたいという夢を持っているとしましょう.もし,それを人工知能が代わりにやってしまったら,それはみなさんの夢を他人が叶えてしまうことと同じことになってしまいます.そのことは,きっとみなさんを幸せな気持ちにはさせず,みなさんは生きていることの目標を見失ってしまうかもしれません.人はみんな生きているという充実感と目標に対する達成感に幸せを感じ,夢に向かって努力をしていると思います.そして,自分の夢を叶えるためには,それを実現するための知識が必要になってきます.そのために必要な知識を身につけるための努力は,どんなに人工知能が優れたものになっても変わらず,人工知能はあくまでもみなさんがそのような努力をするためのお手伝いをするものとして存在することに価値があります.ですので,いま学校で勉強すべきものをしっかりと身につけ,その中から,あるいはその他のことからでもいいので,みなさんが好きになれるもの,みなさんの夢を叶えるのに必要なものを見つけて,それを学ぶことに精一杯頑張ってください.
 人工知能がみなさんの代わりに授業に出席し宿題ができるようになっても,それに頼らず,将来の夢を叶えるためにがんばりましょう!

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 はじめまして.私はいま高専の2年で,セキュリティや低レイヤに興味を持ち自分なりに調べて学んでいます.しかし,興味の対象がコロコロ変化したり,どれから手をつけようか迷って手が止まったりすることがよくあるため,物事を深く学ぶことができていない気がして焦りを覚えます.どうすればうまくいろいろなことを学べますか?
  また,特に研究では1つのテーマにじっくり取り組む必要があると思いますが,どのようにしてテーマを選んでおられるのでしょうか?


井上勢大
[ジュニア会員]
高専生
菊池浩明
[シニア会員]
明治大学

 高専2年生で焦ることはありません.目移りするくらい色々なものに興味があることはよいことだと思います.ましてや,それがセキュリティや低レイヤといった,普段あまり人の目には触れないけれども私たちのインターネット基盤を支えている重要技術であることは大変結構です.
どのようにしてテーマを選ぶのか,ですか? 研究にとって最も大事なのは新規性です.ですので,人がまだやっていないけれども,これから社会的に重要になりそうなテーマを選びます.ネットに載っているようでは駄目ですね.次に,これはできないだろうと常識になっているテーマがあれば,それは挑戦の価値があります.もちろん,研究する人や予算を見ながら,できそうな目途が立ちそうなものを選ぶのも打算的ではありますが,大事なことです.そして,最後に,自分がわくわくするテーマであるかどうか.これが一番大事かもしれませんね.
  さあ,貴方がどんな専門家になるのか楽しみです.

 私も「一人前の忍者になるためにはどうすればよいですか?」ということを知り合いの忍者に尋ねてみたことがあります.その答えは「先人たちの残した忍者の秘伝書に書かれている技を習得した上で,先人を超える自分なりの新しい技を生み出す」ということで,それができて初めて一人前の忍者と認定されるそうです.それを聞いて私は一流のハッカーになるために必要な修行も同じだと思いました.セキュリティの穴(脆弱性)を探すハッカーは,誰もまだ見つけていない攻略方法を世界で一番最初に探し出すことで一流とみなされます.Black HatやDEF CON,CODE BLUEなど世界のトップカンファレンスではそのような最先端のセキュリティ研究の事例が発表されています.セキュリティは日進月歩で変化が早い分野のため,いろんなことに興味を持つことは大事なのですが,興味を持ったトピックの中から「これって本当に実現できるの?」と思ったテーマを選び,それを実際に手元で環境を作って試しに動かしてみることが非常に重要です.本物の環境で試すと違法行為になって逮捕されてしまうリスクがありますので,CTF(Capture The Flag)などのセキュリティコンテストの競技に参加することで学び始めるのがよいと思います.一流のハッカーになるための道のりは長く感じるかもしれませんが,一人前の研究者になるためにも同じ努力が必要です.ローマは一日にして成らず,せめて二日は欲しい…….急がずゆっくり自分のペースで積み重ねることが大切です.高専生は高校生と違って生徒ではなく学生と呼ばれています.学び方を学ぶことが学生として最初に学ぶことです.そういった意味であなたの質問はパーフェクトです.正解があるかどうか分からない世界ですが,私たちと一緒に興味の続く限りいろんなテーマを探求し続けてみませんか.


竹迫良範
高知工業高等専門学校/
(株)リクルートテクノロジーズ
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 みきぷりん
[ジュニア会員]
中学生

 

 3Dプリンタというのがありますが,頭の中のイメージをそのままプリントアウトしたりディスプレイに表示したりできたら,言葉の壁や病気も問題なくなるし事件の取り調べなどにも便利だと思います.大学の何科を目指したら,その研究ができますか? 具体的には日本ではどんな大学がその方面の研究を盛んにしていますか?


  3Dプリンタは,3Dプリンタでつかう材料の研究(材料科学),3Dプリンタで使うデータの研究(情報科学),3Dプリンタの機構の研究(機械工学),3Dプリンタならではのデザインの研究(デザイン学科)まで,いろいろな分野の成果を組み合わせて実現したものであり,とても領域横断的な性質を持っています.
  あなたがこのうちのどこから3Dプリンタにアプローチしていくのかを考えながら,専門の研究室をネットなどで探していくのがよいでしょう.
  また,実は研究室に入らなくても,いますぐにでも研究をはじめることもできるのです.3Dプリンタの安いものはなんと2万円程度で買うことができ,最近では小学生や中学生が夏休みの自由研究に使う例も増えています.「ファブラボ」や「ファブ施設」といった,市民が3Dプリンタを自由に使える施設も日本中に200カ所以上広がっています.そういう場所に出かけて,まずは「触れてみる」「つかってみる」ところからはじめるのはどうでしょうか? いろいろな人と友達にもなれるかもしれません.
  まだ新しい分野なので,中学生や高校生でも世界的な大発明を生み出すかもしれませんよ.

田中浩也
慶應義塾大学
SFC環境情報学部
 八木 透
東京工業大学

 頭の中には脳がありますね.その脳の仕組みを調べる研究が世界各国で行われています.特別な装置を使うと脳から出てくる信号を観察することができますが,最近ようやく「目の前の風景の何に注目しているのか」を,観察した信号から当てることができるようになってきました.近い将来,SF映画のように「何を考えているのか」を当てることができるようになるかもしれません.当てることができるようになれば,考えている物を3Dプリンタで作ったり,ディスプレイに表示したりできるようになりますね.このように脳を研究する分野は「神経科学」「神経工学」「認知心理学」と呼ばれ,日本では全国の主要大学の医学部,工学部,文学部心理学科が研究を行っています.「ブレインマシンインタフェース」「神経インタフェース」のキーワードで検索して調べてみてください.