2022年度詳細

2022年度(令和4年度)山下記念研究賞詳細

 山下記念研究賞は,研究賞として本会の研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な論文を選び,その発表者に贈られていたものですが,故山下英男先生のご遺族から学会にご寄贈いただいた資金を活用するため,平成6年度から研究賞を充実させ,山下記念研究賞としたものです.受賞者は該当論文の登壇発表者である本会の会員で,年齢制限はありません.本賞の選考は,表彰規程,山下記念研究賞受賞候補者選定手続および 山下記念研究賞推薦内規に基づき,各領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は39研究会の主査から推薦された計54編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い決定の上,理事会(2022年7月)および調査研究運営委員会に報告されたものです.本年度の下記受賞者には,3月に開催される第85回全国大会で表彰されます.

<コンピュータサイエンス領域>
DBS SE ARC OS SLDM HPC PRO AL EMB QS

<情報環境領域>
DPS HCI IS IFAT AVM GN MBL CSEC ITS UBI IOT SPT CDS DCC ASD

<メディア知能情報領域>
NL ICS CVIM CG CE CH MUS SLP EIP GI EC BIO CLE AAC

コンピュータサイエンス領域

●複合イベントストリームのための多方向特徴自動抽出
[データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム(DEIM2022)(2022/2/28)](データベースシステム研究会)
nakamura

中村 航大 君 (学生会員)

2020年3月 熊本大学工学部情報電気電子工学科 卒業.
2022年3月 大阪大学大学院情報科学研究科情報システム工学専攻 博士前期課程 修了.
同年より, 同大学院 博士後期課程 在学.
Web情報解析やセンサデータ処理など,大規模時系列データマイニングに関する研究に従事.

[推薦理由] 本論文は,乗車地域,降車地域,乗車時刻といった複数の属性をもつタクシーの移動データのような,大量に生成され続ける複数の属性情報をもつイベントデータ(複合イベントストリーム)を扱っている.本論文では,複合イベントストリームから簡潔かつ有用なパターンを抽出するため,リアルタイムに要約を行うことで自動的に時間的なパターンを抽出する手法を提案している.これまでに,複合イベントストリームにおいて潜在的なトレンドと時系列パターンの両方をリアルタイムに自動抽出する手法はなく,また,提案手法は既存手法と比べ,高速かつ高精度に抽出を行っている.このような複合イベントストリームの処理は,今後,実世界の事象を大規模かつリアルタイムに分析するためには非常に有用だと考えられる.以上から,本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●ロックフリー索引構造Bw木の再現実装及び性能評価
[データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム(DEIM2022(2022/3/1)](データベースシステム研究会)
makita

牧田 直樹 君 (正会員)

2020年3月 名古屋大学工学部電気電子・情報工学科 卒業.
2022年3月 名古屋大学情報学研究科知能システム学専攻 博士前期課程 修了.
現在,ソフトウェア開発に従事.

[推薦理由] ロックフリー索引はマルチスレッド向けの索引構造として着目されているが,実装が難しく,統一的な環境での比較実験は十分には行われていない.本論文ではロックフリー索引の一つであるBw木の再現実装を行い,基礎的なベンチマークを作成して,複数のロックフリー索引について統一的な環境下で詳細な比較評価を行っている.さらに,得られた実験結果を踏まえてBw木の問題点と改善案を考察している.このような実装に困難が伴う索引構造を対象として手法を整理し,実装して性能評価を行う研究は重要かつ貴重であり,非常に有用な知見を示していると考えられる.以上より,本論文を山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●複合コミット分割支援のための対話型ステージングツールの試作
[2022-SE-210(2022/3/11)](ソフトウェア工学研究会)
koga

古賀  碧 君 (学生会員)

2021年3月 東京工業大学工学院情報通信系 卒業.
2021年4月 東京工業大学工学院情報工学系 修士課程 入学.
現在に至る.

 
[推薦理由] 本論文は,ソフトウェアソースコードをバージョン管理システムにコミットする際に発生する複合コミットについて,その分割を支援する対話型ステージングツールC-fourを提案している.複合コミットは開発履歴の理解や分析に悪影響を与えることが知られており,複合コミットの自動分割手法については既存研究がある.C-fourは,任意の複合コミット分割手法を利用しつつ,開発者の工数を削減し変更意図の認識を支援することを企図して作成された.また,同ツールを用いた評価実験結果を示している.本論文は,ソフトウェア工学の研究成果をソフトウェア開発で活用しの課題を解決する知見を示すものであり,山下記念研究賞に相応しいと考える.
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●実行トレースのマークル木を用いたプログラム変更前後の差分検出法の提案
[2022-SE-210(2022/3/12)](ソフトウェア工学研究会)
seong

成  泰鏞 君 (正会員)

2020年3月 立命館大学情報理工学部システム学科 卒業.
2022年4月 奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 博士前期課程 修了.
同年 シリコンスタジオ株式会社 入社.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文は,ソフトウェア修正による動作の変化を把握するために,プログラム変更前後それぞれの実行ログを比較して差分を検出する新しいアルゴリズムを提案している.膨大な実行ログの比較には多大な計算を必要とするが,本論文によるマークル木というデータ構造とハッシュを用いた提案手法は既存研究に比べて高遅に差分を研鑽することができる.論文に示された実験結果によれば,時間がかかるデータ構造の構築について既存手法に対して最大でも13%という短時間で可能である.本研究はソフトウェア修正時の変化の把握という重要な課題に対して新しい解決方法を提案するとともに,工学的価値も高いものであり,山下記念研究賞に相応しい.
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●アドレスとタイミングの予測を分離したデータプリフェッチャ
[2022-ARC-248(2022/3/10)](システム・アーキテクチャ研究会)
koizumi

小泉  透 君 (学生会員)

2016年3月 東京大学理学部化学科 卒業.
2018年3月 東京大学工学部電子情報工学科 卒業.
2020年3月 東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 修士課程 修了.
2020年4月 東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 博士課程 進学.
2020年4月より,日本学術振興会特別研究員(DC1).
現在に至る. 

[推薦理由] キャッシュミスは,現代のマイクロプロセッサの性能向上を阻害する大きな要因の一つである.これまでにもプリフェッチに関する様々な研究がなされてきたが,未だ決定的な方法は見つかっていない.これに対し本研究では,従来方式では「早すぎるプリフェッチ」によりプリフェッチデータが参照される前にキャッシュから追い出されてしまう状況が多発していることを発見した.そしてこの問題を解決すべく,適切なタイミングでのプリフェッチ発行を可能とする新方式を提案している.定量的評価を行った結果,最新プリフェッチャに対しても十分な性能向上を達成しており,今後のプロセッサアーキテクチャ研究における重要な方向性を示す価値ある成果である.よって,山下記念研究賞受賞候補として推薦する.
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●仮想NUMAマシンの性能及び弾力性の向上
[2021-OS-152(2021/5/27)](システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)
misono

味曽野雅史 君 (正会員)

2013年3月 群馬工業高等専門学校電子情報工学科 修了.
2016年3月 東京大学工学部システム創成学科知能社会システムコース 修了.
2018年3月 東京大学情報理工学系研究科システム情報学専攻 修士課程 修了.
2022年3月 東京大学情報理工学系研究科システム情報学専攻 博士課程 修了.
2022年4月 ミュンヘン工科大学博士研究員.
現在に至る. 

[推薦理由] NUMAマシン上で仮想マシン(VM)を立ち上げる際にはNUMAトポロジを考慮する必要があり,NUMAトポロジを VM 上で再現するにはオーバコミットが発生するため優位性が低くなる.本研究では,トポロジを完全に再現した VM を作成しその性能評価を緻密に行い,アイドル時における仮想CPUの利用率低下やプロセスマイグレーションによる性能低下が起きることを定量的に示し,その解決手法を提案した.広く使われているNUMAマシンを効率的に仮想化するための方式,特にNUMAトポロジを完全に再現したVMへの着眼点はユニークかつ興味深く,今後の展開が期待できる.提案方式の評価も詳細であり論文の質も高い.
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●ELT(Enclosed Layout Transistor)による耐放射線CMOS集積回路の設計
 [DAS2021(2021/9/3)](システムとLSIの設計技術研究会)
ishihara

石原  昇 君 (正会員)

1981年 群馬大学工学部電子工学科卒業,工学博士(東京工業大学,1997年).
1981年 日本電信電話公社(現NTT)電気通信研究所入所.以来,高性能アナログ集積回路/モジュールの研究開発に従事.
2004年 群馬大学大学院工学研究科 客員教授.
2008年 東京工業大学,現在,同 科学技術創成研究院 特任教授.

[推薦理由] 放射線照射環境への適用を目的として放射線耐性に優れる集積回路の研究開発が進められている.ELT(Enclosed Layout Transistor)は,通常のSLT(Stripe Layout Transistor)に比べ放射線耐性に優れるが,標準の集積回路のデザインキットでは,その特性モデルが提供されていない.本論文では,放射線耐性に優れるELTを用いたCMOS集積回路設計のための簡易的なトランジスタ特性モデルを明らかにする.具体的にはSLTからの換算によるELT直流特性モデルと,放射線照射によるしきい値,少数キャリア移動度,リーク電流への影響を考慮した簡易モデルを示す.さらに,作成モデルにより1Gradの高放射線量までの影響を推定するとともにELTによる回路設計指針を示す.本論文は,放射線耐性に優れる集積回路設計の指針を与える価値の高い論文であることから,山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●不揮発性FFを用いたCGRA設計探索のためのばらつきを考慮したMTJへの書き込みエネルギー推定モデルの提案
[2022-SLDM-198(2022/3/10)](システムとLSIの設計技術研究会)
kamei

亀井 愛佳 君 (学生会員)

2016年3月 立命館大学理工学研究科電子システム専攻 修了.
2016年3月 航空自衛隊 入隊.
2021年4月 慶應義塾大学理工学研究科開放環境科学専攻 博士後期課程 入学.

[推薦理由] 粗粒度再構成可能アーキテクチャCGRAは電力効率に優れたデバイスであり,磁気トンネル接合(MTJ)ベースの不揮発性フリップフロップ(NVFF)を利用した不揮発性パワーゲーティングとの組合せにより,バッテリ駆動を強いられるエッジ環境におけるアクセラレータとしての活用が期待される.本論文では,様々な条件下でのMTJへのストアエネルギーを算出可能なモデル式を提案し,条件ごとに最適なNVFFやストア手法を選択するための指針を与える.提案モデルは,最適なストア手法の選択において,実測結果と同様の判断を導くことが可能である.本論文は,低消費電力かつ高性能なエッジコンピューティングの実現に向けて重要な指針を与える価値の高い論文であることから,山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●統一的なオープンソース線形代数ライブラリmonolishの提案
[2021-HPC-180(2021/7/20)](ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
hishinuma

菱沼 利彰 君 (正会員)

2013年 工学院大学情報学部情報デザイン学科 卒業.
2015年 工学院大学工学研究科情報学専攻 修了.
2017年 株式会社PEZY Computing.
2019年 株式会社科学計算総合研究所.
2020年 筑波大学図書館情報メディア研究科図書館情報メディア専攻 博士後期課程 修了.博士(情報学).
2022年 OPPO日本研究所.
現在に至る. 

[推薦理] CPUやアクセラレータなどのアーキテクチャは多様化しているため,プログラムの可搬性が問題となっている.その問題点を改善するため,本研究はアーキテクチャに依存しないオープンソースの線形代数ライブラリmonolishを提案している.monolishは,様々なデータ型と行列格納形式,アクセラレータに対するデータ通信,ハードウェアベンダ製の数値計算ライブラリなどを統一的に扱うためのAPIを定義しており,ユーザは1つのプログラムを作成するだけで,すべてのアーキテクチャで高速に動作するアプリケーションを開発することができる.このことから,monolishはユーザの生産性を向上できる真に有用な線形代数ライブラリであり,山下記念研究賞に相応しい研究であると評価できる.
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●TensorCoreを用いた精度補正単精度行列積
[2021-HPC-180(2021/7/20)](ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
ohtomo

大友 広幸 君 (学生会員)

2018年3月 東京工業大学工学部情報工学科 卒業.
2020年3月 東京工業大学情報理工学院情報工学系 修士課程 修了.
2020年4月 東京工業大学情報理工学院情報工学系 博士課程 進学.
2021年4月 日本学術振興会特別研究員(DC2).
現在に至る. 

[推薦理由] 本研究では,TensorCoreを用いた精度補正単精度行列積演算の計算精度の向上を行った.TensorCoreは入力として半精度浮動小数点数(FP16)をとるため,単精度浮動小数点数(FP32)行列積を計算する場合には入力行列をFP16に変換する必要があり,単精度演算器を用いた行列積と比較して計算精度が劣化するという問題があった.本研究ではこの問題を改善し,単精度演算器で計算した場合と同等の計算精度でより高速な単精度行列積手法を開発した.本研究はHPC分野において重要な行列積演算の高速化において貢献が大きく,山下記念研究賞に相応しい研究であると評価できる.
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●Durable Queue Implementations built on a Formally Defined Strand Persistency Model
[(2021/6/11)](プログラミング研究会)
han

韓  吉新 君 (正会員)

2014年8月 北京言語大学情報理工学部 卒業.
2017年4月 早稲田大学情報理工研究科 修士課程 卒業.
2020年4月 早稲田大学理工学術院助手.
2022年4月 早稲田大学情報理工研究科 博士課程 卒業.

[推薦理由] 不揮発性メモリはCPUの主記憶を永続化するためなどに使われ,データベースシステムなどへの応用が期待されている.本研究では,よく知られたstrand persistency modelを前提として,不揮発性メモリ上に実装されたシステムの形式的検証で必要になる抽象化されたメモリモデルを提案している.さらに,提案した抽象化モデルを用いて,キューの実装のケーススタディを示している点も高く評価できる.抽象化されたメモリモデルを構築することによって,今後,キャッシュアルゴリズム,マルチプロセッサ環境でのメモリアクセス順序,などの正しさの検証を行うことが可能になる.よって,山下記念研究賞にふさわしい研究発表として推薦する.

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●Constant Amortized Time Enumeration of Eulerian trails
[2021-AL-183(2021/5/8)](アルゴリズム研究会)
wasa

和佐 州洋 君 (正会員)

2011年3月 北海道大学工学部情報エレクトロニクス学科 卒業.
2013年3月 北海道大学大学院情報科学研究科コンピュータサイエンス専攻 修士課程 修了.
2013年4月 日本学術振興会特別研究員DC1.
2016年3月 北海道大学大学院情報科学研究科コンピュータサイエンス専攻 博士後期課程 修了.
2016年4月 国立情報学研究所情報学プリンシプル研究系 特任研究員(2018年4月より特任助教).
2020年4月 豊橋技術科学大学工学部情報・知能工学系 助教.
2022年4月 法政大学理工学部応用情報工学科 専任講師.
現在に至る. 

[推薦理由] 本論文では,グラフのオイラー路を列挙する問題を扱っており,最適な解の列挙アルゴリズム,つまり解の個数に線形な時間で動作するアルゴリズムを与えている.これは既存手法よりもはるかに高速である.アルゴリズムは単純であり,実用性も高い.以上の理由により,山下記念研究賞にふさわしいものとして本研究を推薦する.
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●mROS 2:組込みデバイス向けのROS 2ノード軽量実行環境
[2022-EMB-59(2022/3/10)](組込みシステム研究会)
takase

高瀬 英希 君 (正会員)

2012年3月 名古屋大学大学院情報科学研究科 博士後期課程 修了・博士 (情報科学)取得.
2012年4月 京都大学大学院情報学研究科 助教,2019年11月より同 准教授.
2021年4月 東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授,現在に至る.
2009年4月より2012年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1).
2018年10月より2022年3月 科学技術振興機構さきがけ研究者を兼務.一般社団法人ROSCon JP理事. 

[推薦理由] 本研究は,分散型のロボットシステムを実現するためのミドルウェアROS2(Robot Operating System 2)を,組込み向けの軽量な通信プロトコルスタックおよびリアルタイム OSを用いて構成する軽量実行環境 mROS2を提案するものである.低消費電力マイコン基板での動作を想定して,高効率な ROS2プロトコル通信方式およびメモリ軽量な実行環境を設計実装し,プログラムサイズ・エッジデバイスの応答性やリアルタイム性の向上を評価し有用性を示した.更にオープンソースソフトウェアとして公開しており,今後の発展が大いに期待できる.よって組込みシステムの開発技術の発展に貢献するところが大きいことから,本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●Classical Shadow with Decision Diagrams
[2021-QS-3(2021/7/2)](量子ソフトウェア研究会)
rudy

ルディー レイモンド 君 (正会員)

2001年3月 京都大学工学部計算機工学卒業 学士.
2003年3月 京都大学大学院情報学博士前期課程修了 修士.
2006年3月 京都大学大学院情報学博士後期課程修了 博士(情報学).
2015年6月 IBM東京基礎研究所 研究員.
2015年6月より2015年9月 Preferred Networks, Inc.研究員.
2016年2月より現在 IBM東京基礎研究所 研究員.
2018年6月より現在 慶應義塾大学量子コンピューティングセンタープロジェクト 研究員.
2019年4月より2022年7月 東京大学 非常勤講師.
2022年8月より現在 東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻 特任教授. 

[推薦理由] 現在の量子計算機の有効な利用方法の一つである変分量子アルゴリズムでは,その出力の量子状態から,解きたい問題に対応する観測量の推定値を,できるだけ少ない観測回数で見積もることが重要である.そのために,各量子ビットを独立かつ確率的に3種類の直交基底で観測するクラシカル・シャドーと呼ばれる手法が知られている.本論文では,量子観測量を表す多量な文字列を決定図を用いて圧縮できることに着目し,決定図で定められた条件付き確率で各量子ビットを観測することで,クラシカル・シャドー系の手法を理論と実装の両面で大幅に改善できることを示した.この結果は,近未来の量子計算機の活用に大きな可能性を秘めることから,本論文は山下記念研究賞に相応しいと考える.
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情報環境領域

●事前予測による物体検出の推論実行効率化
[マルチメディア,分散,協調とモバイルシンポジウム(DICOMO2021)(2021/7/1)](マルチメディア通信と分散処理研究会)
tanaka

田中 美帆 君 (正会員)

2013年 九州大学工学部電気情報工学科 卒業.
2015年 九州大学大学院システム情報科学府情報知能工学専攻 修士課程 修了.
同年 富士通株式会社 入社.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文は,認識精度向上によって様々な場面で使用されるようになった機械学習においてGPU 処理を効率化することでコストを削減する手法を検討し,処理フレーム数を削減しつつ高い性能でカメラ画像の類似度判定を可能とする手法を提案している.本論文はDICOMO2021 のDPS 研究会関連セッションで発表された論文のうち,座長と評価委員2 名による評価において高いスコアを獲得した.機械学習の効率的な推論実行に有用な手法の提案であり,実用面において重要な成果であると考えられるため,本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●身体運動の日常的評価に向けたパーソナルモーションキャプチャーデバイス~エレキギター演奏の運動学的診断への応用~
[2022-DPS-190(2022/3/10)](マルチメディア通信と分散処理研究会)
matsushita

松下宗一郎 君 (正会員)

1988年 東京大学工学部電気工学科 卒業.
1993年 東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了.博士(工学).
1993年 株式会社東芝ULSI第一研究所.
2001年 東洋大学工学部コンピュテーショナル情報工学科 講師.
2008年 東京工科大学コンピュータサイエンス学部 准教授.
2010年 東京工科大学コンピュータサイエンス学部 教授(現在に至る).
コンピュータエンターテイメント,楽器演奏等における表現工学の研究に従事.  

[推薦理由] 本研究による小型軽量なパーソナルモーションキャプチャーデバイスでは,カメラ等の光学機器や磁場センサの適用が難しい環境であっても利用可能であり,15 時間といった長時間に,デバイスの存在にほとんど留意することなく対重力姿勢角を含めた有用な運動パラメータを得ることができる.また,エレキギター演奏レッスンにおけるコードストローク奏法の運動学的な診断に適用することで本デバイスの有用性を検証した.実用性が非常に高く,適用範囲も広い重要な成果であると考えられるため,本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●Kuiper Belt: バーチャルリアリティにおける極端な視線角度を用いた視線入力手法の検討
[インタラクション2022(2022/2/28)](ヒューマンコンピュータインタラクション研究会)
choi

崔  明根 君 (正会員)

2019年3月 北海道大学工学部情報エレクトロニクス学科情報理工学コース 卒業.
2021年3月 北海道大学大学院情報科学院情報科学専攻情報理工学コース 修士課程 修了.
2021年4月 北海道大学大学院情報科学院情報科学専攻情報理工学コース 博士課程 入学.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文では,視線インタフェース固有かつ最大の問題であるミダスタッチ(意図しない選択操作)問題に対して,バーチャルリアリティ環境での入力手法を検討している.本研究では,人間の視線は運動能力としては視野中心から約45度は動かすことができる一方で,通常の視線の運動は25度以内に分布しているという事実に注目し,この25度から45度の範囲に選択対象を配置することで,ミダスタッチを解消する手法を提案している.実験の結果,提案手法が従来手法よりもミダスタッチの発生を軽減させることができ,かつ従来手法よりも高速に対象となる物体を選択することができることを確認した.メタバースが大きな注目を集める現代では,バーチャルリアリティ環境における視線インタフェースの研究が盛んに行われるようになってきており,本手法はバーチャルリアリティ環境でのミダスタッチの解消にむけて新しい視点を導入したという点で極めて有用である.従来手法よりも高速かつ安定して操作できるという点も学術的価値が高い.これらのように,本研究は社会的要求に応えつつ学術的価値も大きい成果を挙げており,山下記念研究賞を受賞するのにふさわしいと判断される.
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●ダンスをマスターした自身の映像を先に見ることによるダンス学習支援
[2022-HCI-197(2022/3/14)](ヒューマンコンピュータインタラクション研究会)
tsuchida

土田 修平 君 (正会員)

2012年 神戸大学工学部電気電子工学科 卒業.
2014年 神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻 博士前期課程 修了.
2017年 神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻 博士後期課程 修了.
2017年 国立研究開発法人産業技術総合研究所 情報技術研究部門 特別研究員.
2019年 神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻 特命助教.
現在に至る. 

[推薦理由] 理想的な動作を行っている自身の映像を見ることで行動の改善を促す手法としてビデオセルフモデリング(VSM)が知られているが,VSM映像を作成することは困難である.本研究は,深層学習による映像生成技術(Deepfake)によりVSM映像を自動生成しダンス学習に活用する学習システムを開発し,その効果を参加者20人によるユーザテストにより評価している.本研究の,VSM映像の自動生成に深層学習による映像生成技術を使うというアイディアは様々な応用が可能であるため,学術的にも実用的にも価値が高い.また,評価結果から,学習者の練度に合わせて段階的にVSM映像を提示する必要性,および,熟練者の練度と初学者の練度をモーフィングできるような技術の必要性を示したことも研究成果として大きい.これらのように,本研究は社会的要求に応えつつ学術的にも大きい成果を挙げており,山下記念研究賞を受賞するのにふさわしいと判断される.
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●帳票における修正内容の推定方法について
[2022-IS-159(2022/3/7)](情報システムと社会環境研究会)
maeda

前田 一穂 君 (正会員)

1994年 東京大学理学部情報科学科 卒業.
1996年 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻 修士課程 修了.
同年 株式会社富士通研究所 入社.
2021年より富士通株式会社.現在に至る.データマイニング技術の研究開発に従事.

[推薦理由] 本論文は,RPAでの自動化が困難な複数帳票の突合せ作業を一部自動化できる推定方法を提案し,自治体での住民税賦課業務を題材に検証している.具体的には実際の業務における帳票突合せに関する人間のノウハウを学習データに埋め込むことで,過去の修正履歴をもとに,未修正の帳票の修正内容を機械学習により推定する方法を提案した.これを,実用システムの帳票をもとに検証し,実際に人間のノウハウによる突合せ作業と同等なチェックが可能なことを示した.現実の情報システムで頻繁に発生する問題を解決する手法の提案であり,「使える」情報システムを研究対象としている当研究会にとって有用性が高い事例研究であり,山下記念賞に値すると判断した.
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●Next Sentence Predictionを応用した学術文献著者同定
[2021-IFAT-143(2021/7/30)](情報基礎とアクセス技術研究会)
kanazawa

金沢 輝一 君 (正会員)

2002年 東京大学大学院 工学系研究科電気系工学専攻 博士課程 修了.
2002年 KYA group Corporation 設立.
2016年 国立情報学研究所コンテンツ科学研究系 准教授.現在に至る.
情報検索,情報推薦,情報統合等の技術に関する研究,学術コンテンツサービスの開発に従事.

[推薦理由] 本研究では,学術論文の著者同定処理を,氏名と論文および研究課題のタイトルという最小限の情報のみで行う手法を提案している.5万例以上の論文著者を提案手法で同定する評価実験を行い,実用的な精度が得られることを確認している.評価は大規模な実データを用いて行われており,有用性が示されている.本論文で取り組まれている課題は社会的要請のあるものであり,それに対して,最新手法を用いた提案手法によって有用性のある信頼できる結果を提示しており,高く評価できる.
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●Weisfeiler-Lehmanアルゴリズムに基づく新しいグラフ構造間距離の提案
[2022-AVM-116(2022/2/25)](オーディオビジュアル複合情報処理研究会)
fang

方  鐘熙 君 (学生会員)

2021年 早稲田大学情報理工学科 卒業.
2023年 早稲田大学基幹理工研究科情報通信・情報理工専攻 博士前期課程 終了.
データマインニング,グラフ機械学習に関する研究に従事.

[推薦理由] 推薦者は,オーディオビジュアル複合情報処理研究会にて,Weisfeiler-Lehman(WL)アルゴリズムに基づく新しいグラフ構造間距離に関する発表を行った.本発表内容は,グラフカーネルでよく利用されるWLアルゴリズムの問題点を克服する新たなグラフ構造間の距離を提案するものである.本提案手法は,近年注目を浴びているグラフ機械学習モデルの効率化ならびに精度向上を図ることができ,グラフ機械学習モデルの分野のさらなる発展に寄与することが期待される.このように,候補者は,2021年度のAVM研究会において,特に優れた研究提案の発表を行ったため,山下記念研究賞へと推薦したいと考えている.
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●YouTubeのカテゴリ別におけるYouTuberとVTuberの配信スタイルによる印象評価の検討
[グループウェアとネットワークサービスワークショップ(GNWS2021)(2021/11/19)](グループウェアとネットワークサービス研究会)
echigo

越後 宏紀 君 (学生会員)

2018年 明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科 卒業.
2020年 明治大学大学院先端数理科学研究科先端メディアサイエンス専攻博士前期課程 修了.
同年 同大学大学院同研究科同専攻 博士後期課程 進学.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文では,Youtubeを通じた配信における動画カテゴリ,配信スタイル別の印象を評価するため,アバタを利用した2種類の動画と利用していない顔出し動画の計3種類を用意し,視聴者の印象にどれほど影響があるのかを調査している.評価実験の結果,動画カテゴリによって印象が良い配信スタイルが異なることが示唆された.具体的には,「ニュース」のような真面目な内容では顔出しをした方が好印象になる可能性や,「学び」では顔出しをしている方が印象が良いものの配信スタイルに関わらず解説の技術が視聴者に大きな印象を与えている可能性が示唆された.本成果は,Co-Vid19によって世界中で加速化された遠隔コミュニケーションの更なる発展に寄与する重要な研究成果であるため,推薦する.
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●注意機構を用いたGraph Convolutional Networksによる短期的将来滞在人口数推定
[2021-MBL-99(2021/5/27)](モバイルコンピューティングと新社会システム研究会)
kubota

久保田祐輝 君 (学生会員)

2021年3月 東京都立大学都市環境学部 卒業.
2021年4月 東京工業大学情報理工学院情報工学系 修士課程 入学.
現在に至る.

[推薦理由] 本研究では,Graph Convolutional Networksと注意機構を用いることで,比較的短期的な将来の空間的滞在人口数推定を行う手法を提案している.携帯電話網等により取得した人口統計データに基づいて,注意機構に基づいて天候や時刻といった外的要因を考慮することで,従来よりも精度の高い近未来の人口数予測を実現した.人流の把握,および予測は近年の社会において重要課題であり,コロナ禍中において一層重要性を増していることからも,研究の社会的実用性が高く,学術的なインパクトも大きい.また,多数の既存手法との比較を通じて提案手法の有用性を示すなど論文の完成度も高く,推薦に値する研究発表である.
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●差分プライベートなベイジアンニューラルネットワークのプライバシーリスク
[コンピュータセキュリティシンポジウム(CSS2021)(2021/10/26)](コンピュータセキュリティ研究会)
shibahara

芝原 俊樹 君 (正会員)

2012年3月 東京大学工学部機械情報工学科 卒業.
2014年3月 東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻 修士課程 修了.
2014年4月 日本電信電話株式会社 入社.
2020年3月 大阪大学大学院情報科学研究科情報ネットワーク学専攻 博士後期課程 修了.

[推薦理由] 本研究では,予測値の不確実性が算出できるベイジアンニューラルネットワーク(ベイジアンNN)が,差分プライバシを保証した状態において決定的なNNと比べプライバシリスクが高まるという指摘に対して,具体的な攻撃モデルを想定し定量的に評価している.具体的な攻撃シーンとモデルを想定し定量的にリスク評価した結果は実践において大きな貢献である.また,リサーチクエスチョンが明確であり,論文自体も非常に丁寧にわかりやすく執筆されている.よって,山下記念研究賞の受賞にふさわしいものとして推薦する.
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●エンドツーエンド暗号化SFrameに対する安全性評価
[コンピュータセキュリティシンポジウム(CSS2021)(2021/10/27)](コンピュータセキュリティ研究会)
ito

伊藤 竜馬 君 (正会員)

2009年3月 防衛大学校理工学部電気電子工学科 卒業,学士(工学).
2009年4月~2020年3月 防衛省航空自衛隊 勤務.
2015年3月 北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士前期課程 修了,修士(情報科学).
2019年5月 大阪大学大学院工学研究科 博士後期課程 修了,博士(工学).
2020年4月 国立研究開発法人情報通信研究機構 主任研究員.
暗号技術の安全性評価に関する研究に従事,現在に至る. 

[推薦理由] 本研究では,エンドツーエンド暗号化技術の1つであるSFrameに対し,第三者として初めての安全性評価を実施している.この結果,SFrameのインターネットドラフトのバージョンdraft-omara-sframe-01に含まれる脆弱性を明らかにしている.さらに,明らかにした脆弱性を設計者へ報告することで,SFrameの仕様修正へとつなげている.SFrameは,社会的影響力が大きい製品での採用も予定されており,その脆弱性を利用開始前に指摘した社会的貢献度は顕著である.よって,山下記念研究賞の受賞にふさわしいものとして推薦する.
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●走行中の車載カメラによる死角領域の状況把握
[2021-ITS-86(2021/9/7)](高度交通システムとスマートコミュニティ研究会)
ono

小野晋太郎 君 (正会員)

2006年 東京大学大学院情報理工学系研究科修了,博士(情報理工学).
2006年 東京大学生産技術研究所 特任助手(2007より特任助教).
2013年 同研究所 特任准教授.
2021年 福岡大学工学部 准教授(兼:東京大学).
この間,2017~2020年に(株)ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンを兼務.

[推薦理由] 本論文は,車載カメラ映像内のカーブミラーに映る車両等の路上物体を検出・追従し,自車両から死角にある領域の危険物判定を実現するものである.一般道自動運転で課題となる死角からの危険物検知を,ミラー映像から推定するという着眼点は興味深く,また実現方法も明確かつ適切で,停止中だけでなく走行中の認識性能の評価までを信頼のおける手法で示しており実用性も高い.さらにカメラ映像の画像認識技術で実現しているため,自動運転車だけでなく,運転支援機能としての適用も可能であり,多くの車両に搭載されることにより,死角が原因の衝突事故削減へ大きく寄与できる点は,本分野に大きく貢献するものである.よって,山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●A Supporting Technique for Comparative Analysis of Factory Work by Skilled and Unskilled Workers using Neural Network with Attention Mechanism
[マルチメディア,分散,協調とモバイルシンポジウム(DICOMO2021)(2021/7/1)](ユビキタスコンピューティングシステム研究会)
xia

夏  清心 君 (正会員)

2011年 中国海洋大学情報理工学部コンピュータサイエンス工学科 卒業.
2015年 中国海洋大学情報理工学系研究科コンピュータサイエンス専攻 修士課程 修了.
2018年 大阪大学大学院情報科学研究科マルチメディア工学専攻 博士課程  修了.
2021年 大阪大学大学院情報科学研究科 特任助教.
現在に至る. 

[推薦理由] 本研究では,工場の熟練作業員の作業時のセンサデータをマイニングする深層学習モデルを提案している.説明可能な深層モデルを設計し,作業のどこに熟練作業員のスキルが潜んでいるかを検出している.手法は実際の工場の工員から得られたデータを用いて評価しており,その結果も興味深い.夏さんは学生の頃より,UBI研究会関連会議にて多くの研究発表を行い,UbicompやPercomなどのトップ国際会議でも多くのフルペーパー論文を発表しており,本コミュニティへの貢献が大きく,山下記念研究賞の候補者にふさわしい.
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●衣服スケールのメアンダコイルによるバッテリレスセンサの高感度な無線読み取り手法
[2021-UBI-71(2021/9/3)](ユビキタスコンピューティングシステム研究会)
takahashi

高橋  亮 君 (学生会員)

2018年 東京大学工学部 卒業.
2020年 東京大学大学院情報理工学系研究科 修士課程 修了.
同年 東京大学大学院工学系研究科 博士課程 進学.現在に至る.
ユビキタスコンピューティング,無線技術に関する研究に従事.

[推薦理由] 本研究では,衣服に取り付けられたバッテリレスセンサからセンサデータを読み出すための機構を,パッシブインダクティブテレメトリとメアンダコイルを組み合わせて実現している.環境や身体に設置された小型センサのバッテリの問題は,ユビキタス・ウェアラブルコンピューティングを実現するための非常に大きな問題である.本論文では,衣服や身体に添付した圧力センサや回転センサなどの多様なセンサからのデータ読み取りを実験しており,様々なユビキタス・ウェアラブルアプリケーションの実現に多大な寄与をすることが期待される.したがって,山下記念研究賞の候補者にふさわしいものとしてここに推薦する.
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●Capabilityモデルに基づくスマートホームデバイスのネットワークアクセス制御
[マルチメディア,分散,協調とモバイルシンポジウム(DICOMO2021)(2021/7/2)](インターネットと運用技術研究会)
matsumoto

松本 直樹 君 (学生会員)

2021年3月 京都大学工学部情報学科 卒業.
2021年4月 京都大学大学院情報学研究科 修士課程 入学.
現在に至る.

[推薦理由] 本研究は,ホームネットワークにおけるアクセス制御手法として,Capabilityモデルに基づいたユーザ主体の認可アーキテクチャと,認可されたCapabilityに基づくネットワークアクセスの制御手法を実現した.デバイスの機能ごとにどのような目的を持つ通信であるかをユーザが確認しつつ認可することを可能とし,ユーザに認可されたCapabilityに基づく認可アーキテクチャに基づいたOpenFlowによる通信制御にてアクセス制御を実現している.スマートスピーカを代表とする家庭内デバイスが増加するなか,ユーザが主体的にCapabilityを管理することで意図しない通信リスクを抑制する仕組みとなっている.ユーザの負担を軽減しつつ,ホームネットワークにさらなる安全をもたらすことのできる研究成果であることから,山下記念研究賞候補として推薦する.
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●複数フルサービスリゾルバとDNS over TLS拡張による軽量なレコード検証手法
[2022-IOT-56(2022/3/7)](インターネットと運用技術研究会)
akutsu

阿久津賢宏 君 (正会員)

2020年3月 東京農工大学工学部情報工学科 卒業.
2022年3月 東京農工大学大学院工学府情報工学専攻 修士課程 修了.
2022年4月 ヤフー株式会社 入社.
現在,社内向けIaaSの運用・開発に従事.

[推薦理由] 本研究は,DNSSECの問題点を補う新たなDNS応答の検証手法としてDNS over TLS (DoT)を利用した手法について提案を行った.証明書を適用したDNS権威サーバとクライアントがDoTを拡張した通信を行い,クライアント上でDNS権威サーバの正当性を検証することで,DNS権威サーバから得られる情報の完全性を保証するシステムを構築した.軽量な名前解決動作,並びに名前解決時間の安定性の実現,さらにはDNSSECと比較した場合の普及の容易さの可能性やセキュリティの向上など,インターネットを安全に利用する上で基礎となる技術である名前解決に関して,将来性のある可能性を実証した.現代のインフラの根幹となり得るインターネットの将来の安全性に関する高い有用性のある研究であることから,山下記念研究賞候補として推薦する.
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●クラウドソーシングを用いたWebAuthnベース生体認証のユーザビリティ調査
[コンピュータセキュリティシンポジウム2021(CSS2021)(2021/10/26)](セキュリティ心理学とトラスト研究会)
yamaguchi

山口 修司 君 (正会員)

2007年3月 九州工業大学情報工学部機械情報工学科 卒業.
2009年3月 九州工業大学生命体工学研究科脳情報専攻 修士課程 終了.
同年 ヤフー株式会社に入社.
現在に至る.認証技術やデータサイエンスに関する研究開発等に従事.

[推薦理由] 現代社会においてWebシステムおよびそのユーザ認証は不可欠である.著者らは先行研究でWebAuthnベースの生体認証がパスワード認証やSMS認証に対してユーザビリティ評価において優位性を示す結果を獲得していたが,本論文ではさらに実サービス及び実データを用い,クラウドソーシングで募集した7697名の実験協力者による大規模実験により先行研究結果を実証している.実サービスではユーザビリティの高さはそのサービスの顧客満足度や売上にも多大な影響があることから,本論文の成果は実社会への貢献が認められる.また本論文は実験設計と実施手順が明解に記載されており,研究資料としての価値も高い.これらにより本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●組込みシステム向け障害解析環境の効率改善
[2021-CDS-32(2021/9/2)](コンシューマ・デバイス&システム研究会)
nagano

長野 岳彦 君 (正会員)

1999年 東京学芸大学教育学部情報環境科学課程教育情報科学専攻 卒業.
2001年 北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士前期課程 修了.
同年 株式会社日立製作所 入社.
組込システム及びITシステムに関連する研究開発に従事.
現在 電気通信大学大学院情報システム学研究科 博士後期課程 在籍中.

[推薦理由] デジタルテレビや携帯電話などに代表される組込みシステムの高機能化・複雑化に伴い,システムにおいて発生した障害の解析に要する時間の増大が問題となっている.本研究では,この問題に対し,現状の障害解析における課題を整理し,それぞれを解決するための要件を規定した上で,障害解析の効率を改善する機能を設計している.また,設計した機能を実装し,実製品開発への適用を通して,その有効性を確認している.コンシューマデバイスの開発効率を大幅に改善する可能性をもった研究であり,CDS研究会のテーマとも合致している上,当研究会会員の評価も高かったため,当該論文を山下記念研究賞候補として推薦する.
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●立体的映像を用いたオンライン参加型プロジェクションマッピングの開発
[2021-DCC-29(2021/11/5)](デジタルコンテンツクリエーション研究会)
ahn

安  素羅 君 (学生会員)

2021年3月 愛知工業大学情報科学部情報科学科メディア情報専攻 卒業.
2021年4月 同大学院経営情報科学研究科経営情報科学専攻 入学.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文では,オンライン上のユーザが遠方の現実空間との接点が持てることを目的として,Webページ上に描いたキャラクタを現実空間に投影する共創型のインタラクティブプロジェクションマッピング型コンテンツの開発について報告している.具体的には,現実空間での映像はプロジェクションマッピングにより立体的かつ現実の物体とのオクルージョンを保った形で投影され,オンラインユーザは描いたキャラクタが遠方の現実空間に登場したように観察することができる.このコンテンツはインターネット経由で接続でき,実験では海外のユーザもほぼリアルタイムでインタラクションを楽しめることを確認している.本論文は,毎回のDCC研究会発表会で発表された優秀な研究・制作に対して授与されるDCC優秀賞を受賞している点と,また,2021年度の対象論文に対する幹事,運営委員による投票の結果,高得点を獲得している点から,本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●「笑顔で人々を繋げる」ビデオ会議システムを用いた遠隔花火インタラクティブコンテンツの開発と評価
[2022-DCC-30(2022/1/20)](デジタルコンテンツクリエーション研究会)
kudo

工藤 達郎 君 (正会員)

2009年3月 九州大学芸術工学部画像設計学科 卒業.
2011年3月 九州大学大学院芸術工学府芸術工学専攻 修士課程 修了.
2014年3月 九州大学大学院芸術工学府芸術工学専攻 博士後期課程 修了.芸術工学博士.
2014年4月 九州大学大学院芸術工学研究院 学術研究員.
2016年4月 久留米工業大学情報ネットワーク工学科 講師.
2019年4月 久留米工業大学情報ネットワーク工学科 准教授. 

[推薦理由] 本論文では,新型コロナウィルス感染症の流行により,様々な場面で活用されるようになってきているビデオ会議システムのアート・エンタテインメントへの活用を目的として,参加者の表情をリアルタイムに加工することでインタラクティブ性の高いコンテンツ構築する方式を提案し,ビデオ会議システムにおける多地点の遠隔参加者の笑顔を検出し,リアルタイムにコンピューターグラフィックスの花火として打ち上げるデジタルコンテンツ「FIRE-net-WORKS」を開発し,参加者のアンケート評価を通じてその有効性について確認している.本論文は,毎回のDCC研究会発表会で発表された優秀な研究・制作に対して授与されるDCC優秀賞を受賞している点と,また,2021年度の対象論文に対する幹事,運営委員による投票の結果,高得点を獲得している点から,本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●事例創作オンライン協調学習における認知症見立て知の適用過程の分析
[2022-ASD-22(2022/1/26)](高齢社会デザイン研究会)
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漆畑 文哉 君 (学生会員)

2010年3月 愛知教育大学教育学部 卒業.
同年4月 学校教育に従事.
2016年3月 愛知教育大学大学院教育学研究科 修了.
同年4月 学校教育に従事.
2017年4月 独立研究開発法人科学技術振興機構日本科学未来館 入職.
2021年4月 静岡大学創造科学技術大学院 入学.
現在に至る. 

[推薦理由] 認知症の見立てという高度な医学的知識と専門医の経験を,看護師,介護士が学習し,習得するための新たなオンライン協調学習環境を構築している.学習活動の発話内容を分析し,各種知識と適用形式を付与したナレッジグラフとして表現し,学習者の理解状況を視覚化する方法を提案している.学習したことを真に習得するための手法として,問題を作成することに大きな効果があることは知られているが,認知症の見立てという正解が一意に定まらない場合の学習においては,学協調的学習やその後の振り返り(内省)よって,より深く理解をすることにつながることを実践的実験によって明らかにしている.広く社会における実践的な学習の分析や効果向上にもつながる可能性がある研究であり,波及効果も大きいと考えられるため山下記念研究賞の候補として推薦する.
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メディア知能情報

●事例ベース推論を行うニューラルモデルの説明性とハブ現象の関係
[2021-NL-249(2021/7/28)](自然言語処理研究会)
sato

佐藤  俊 君 (正会員)

2020年3月 東北大学工学部電気情報物理工学科 卒業.
2022年3月 東北大学大学院情報科学研究科システム情報科学専攻 博士前期課程 修了.
2022年5月 アクセンチュア株式会社 入社.
現在に至る.

[推薦理由] 本研究は,ニューラルネットワークを用いた事例ベース推論において,少数の訓練事例が予測根拠として提示されるハブ現象がモデル予測の説明妥当性を毀損することの関係を示し,その解決指針を与えるものである.具体的には,ラベル付けの一貫性を問う指標を用いて,ハブの発生頻度と予測性能を損失関数や類似尺度の違いから詳細に分析し説明妥当性への影響を定量的に示し,特徴ベクトルのノルム正規化がその抑制に有効であることを明らかにしている.ニューラルネットワークによるモデルの説明性という重要な課題に対して非常に有用な知見を得た価値ある研究であり,論文としても完成度が高いことから,山下記念研究賞に推薦する.
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●DA3:マルチエージェント深層強化学習における協調行動の解釈性確立と対ノイズ性能の検証
[2022-ICS-205(2022/2/21)](知能システム研究会)
motokawa

元川 善就 君 (学生会員)

2021年9月 早稲田大学基幹理工学部情報理工学科 卒業.
2021年9月 早稲田大学基幹理工学研究科情報理工・情報通信専攻 修士課程 入学.
現在に至る.

[推薦理由]複数のエージェントがそれぞれ適切な行動を探索するマルチエージェント深層強化学習の研究が盛んに行われている.しかし,既存研究は観測ノイズがない理想的な環境を想定しており,現実世界のように観測ノイズが大きい場合学習がうまく進まないという課題がある.本論文では,アテンション機構を内包し,観測情報を取捨選択しながらノイズの大きい環境であっても適応可能なアルゴリズムを提案している.さらに,これまでブラックボックスとされてきたエージェントの行動決定過程におけるノイズの影響度の可視化を行っており,学術性および実用性の両面から優れた論文である.以上により本研究を山下記念研究賞として推薦する.
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●物理ベースオートエンコーダを用いた分光画像からの塗布顔料の厚みと混合比率推定
[2021-CVIM-227(2021/11/5)](コンピュータビジョンとイメージメディア研究会)
shitomi

蔀  竜太 君 (正会員)

2020年3月 工学院大学情報学部情報通信工学科 卒業.
2022年3月 奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 博士前期課程 修了.
2022年4月 株式会社クボタ 入社.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文では,物理モデルベースのオートエンコーダを用いて分光画像から顔料の厚みと混合比率を推定する教師なしアルゴリズムを提案している.一般にオートエンコーダでは中間層の潜在変数は物理的な意味を持たないため解析には不向きであるが,提案手法ではオートエンコーダの後段のデコーダ部に物理モデルを用いることにより,中間層の潜在変数を顔料の厚みと混合比率として解釈可能にしている点が新しい考え方である.実際に古代の装飾古墳壁画に使われていたものと同種の顔料で作成したサンプルを用いて実験を行い,定性評価を行っている.本分野で古くから利用されている物理モデルと深層学習をうまく組み合わせており,今後のコンピュータビジョンの方向性を示している.以上より,2021年度山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●Bilateral Normal Integration
[2022-CVIM-228(2022/1/28)](コンピュータビジョンとイメージメディア研究会)
cao

Cao Xu 君 (正会員)

2019年3月 名古屋大学情報学研究科 博士前期課程 修了.
2022年3月 大阪大学情報科学研究科 博士後期課程 修了.博士(情報学).
2022年4月 大阪大学情報科学研究科 特任助教.
現在に至る.

[推薦理由] Normal integrationとは,物体表面の傾き情報,すなわち法線マップから,深度マップで表現される立体形状を復元する手法である.多くの既存手法では,物体表面が滑らかであることを仮定しているため,不連続な表面を持つ物体に対して正しく推定できないという課題があった.本研究では,この問題を隣接ピクセル間の連続性と深度マップの同時推定問題として捉え,新たに提案したBilateral normal integration法によって高精度な形状復元を実現した.Normal integrationは照度差ステレオ法など測光学に基づく形状復元において重要な要素技術であるため,本研究は三次元形状復元の分野において重要な価値があり,高く評価できる. よって,本研究発表を山下記念研究賞候補に推薦する.
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●プライマリレイ走査高速化のためのアフィン変換レイアライメント —Embreeを用いた実装—
[2022-CG-185(2022/3/11)](コンピュータグラフィックスとビジュアル情報学研究会)
nishidate

西舘 祐樹 君 (正会員)

2022年3月 慶應義塾大学理工学部情報工学科 卒業.
2022年4月 慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻 入学.
現在に至る.

[推薦理由] 本手法はレイトレーシングにおけるプライマリレイの交差判定コストを低減するものである.レイとシーンに対してアフィン変換を行い,レイは重なるように、シーンオブジェクトは複製して多重化したうえでBVH構築する.一本のレイのトレーシングで多重化された交差情報を得られるため,レイの本数を削減でき,1.71倍から7.50倍の高速化を達成している.
アフィン変換によりレイをまとめることで,追跡するレイの本数を減らし高速化するというアイデアは興味深く,レイトレーシングの高速化という基礎的な部分の研究に新しい視点を提示したところは特に評価したい.また,業界で広く使われているEmbreeを用いることで,現実的なシナリオで性能評価を行っている点も評価できる.よって,本研究発表を山下記念研究賞候補として推薦する.
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●取捨選択操作の時間的な共起分析によるプログラミング・プロセスでの迷いの検出
[2021-CE-160(2021/6/5)](コンピュータと教育研究会)
yamaguchi

山口  琢 君 (正会員)

1987年 千葉大学大学院理学研究科 修士課程 修了.
1987年 株式会社日立製作所.
2004年 株式会社ジャストシステム.
2011年1月よりフリーランス.
2021年 公立はこだて未来大学 博士後期課程,現在に至る.
情報処理学会シニア会員,認知科学会会員. 

[推薦理由] 新学習指導要領では,主体的な学びとして,見通しを持って試行錯誤できることをあげている.プログラミング演習における取捨選択操作を具体的に検出する本研究は,今後必要とされる学習分析研究の1つの方向を示すものである.また,新規性のある手法を提案しているとともに,有用な可能性も示唆されていることから,プログラミング学習で重要な試行錯誤の機械的な検出について扱っていると考えられ有用性が高いことから,推薦する.
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●大学入学共通テスト「情報」サンプル問題を踏まえた情報Ⅰの教科書におけるプログラミング分野の比較
[情報教育シンポジウム2021(SSS2021)(2021/8/29)](コンピュータと教育研究会)
ide

井手 広康 君 (正会員)

2009年3月 鳴門教育大学学校教育学部 学校教育教員養成課程 卒業.
2009年4月 愛知県立衣台高等学校情報科 教諭.
2018年3月 愛知県立大学大学院情報科学研究科 博士前期課程 修了.
2019年3月 愛知県立大学大学院情報科学研究科 博士後期課程 修了,博士(情報科学).
2019年4月 愛知県立小牧高等学校情報科 教諭,現在に至る.

[推薦理由]高等学校での情報Iの必修化を控え,多くの教科書会社が多様な内容を書いている中,どの内容が重要視されていて,どの内容が重要視されていないかを考察した報告である.高等学校教員である著者のご経験を踏まえた上で,複数の教科書を詳細に分析していることで,有意義かつ信頼できる研究と考えられる.この内容は当研究会が取り扱う分野において重要な情報であり,多くの研究者と教員等に対して,多くの知見を与える内容と考えられるため推薦する.
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●デジタルコーパスを用いたデータ駆動型の間テクスト性研究:古代末期エジプトの二人の修道院長のコプト語書簡におけるコプト語訳聖書からの引用の探知と分析
[2021-CH-126(2021/5/22)](人文科学とコンピュータ研究会)
miyagawa

宮川  創 君 (正会員)

2013年 北海道大学文学部言語・文学コース 卒業.
2015年 京都大学大学院文学研究科 博士前期課程 修了.
2015年 日本学術振興会特別研究員 (DC1).
2015年 ドイツ研究振興協会 (DFG) 特別研究領域 (SFB) 1136 研究員.
2015年 ドイツ研究振興協会 (DFG) 全米人文科学基金 (NEH) ジョイントプロジェクトKELLIA 研究員.
2020年 関西大学アジア・オープン・リサーチセンター PDフェロー.
2021年 京都大学大学院文学研究科 博士後期課程 研究認定退学.
2021年 京都大学大学院文学研究科 助教.
2022年 ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン(ゲッティンゲン大学)博士課程修了 Dr.phil.
2022年 人間文化研究機構 国立国語研究所 研究系 助教.
コーパス言語学,デジタルヒューマニティーズ,言語資源アーカイブに関する研究に従事. 

[推薦理由] 本論文は,史料のデジタルコーパス化と引用の分析を通してデータ駆動型の間テクスト性研究の可能性を示したものである.候補者は,5世紀エジプトのキリスト教修道院長2人が記したコプト語キリスト教書簡と呼ばれる大量の書簡を,TEI(Text Encoding Initiative)を用いてデジタル翻刻した.その成果に対して形態素解析・係り受け解析を適用することでデジタルコーパス化し,古代のコプト語訳聖書からの引用を検出・探知することで,従来の手動の研究では見つけられなかった聖書からの引用を多数発見し,分析することに成功した.人文科学とコンピュータ研究会の一大トピックである「史料とデジタル技術の新領域を切り開く研究」を優れた形で実践したものであり,高く評価できる.
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●デジタル源氏物語(AI画像検索版):くずし字OCRと編集距離を用いた写本・版本の比較支援システムの開発
[2022-CH-128(2022/2/19)](人文科学とコンピュータ研究会)
nakamura

中村  覚 君 (正会員)

2012年3月 東京大学工学部システム創成学科 卒業.
2017年3月 東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻 博士課程 修了.
2017年4月 東京大学情報基盤センター 助教.
2020年7月 東京大学史料編纂所 助教.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文は,古典籍の写本・版本のデジタル画像に対する検索支援を目的とした研究について記したものである.同研究では,くずし字OCRと編集距離を用いた写本・版本の比較支援システムを実現し,「源氏物語」を対象とした実験に基づく評価検証を実施している.膨大な文献資料を扱う人文学領域の研究活動に大きく資するものであり,機械学習手法の応用としても評価できる.定量的,定性的な評価実験と検証を実施しており,研究成果の信頼性も高いといえる.文学研究ドメインにおける研究課題の調査,およびその課題解決に対する情報技術の応用を前進させる研究であり,人文科学とコンピュータ研究会が目指す学際的な研究の成功事例としても高く評価できる.
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●ポピュラー音楽における模倣歌唱を用いた歌唱テクニックの頻度・特徴・生起箇所の分析
[2021-MUS-132(2021/9/17)](音楽情報科学研究会)
yamamoto

山本 雄也 君 (学生会員)

2019年3月 筑波大学情報学群情報メディア創成学類 卒業.
2021年3月 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科図書館情報メディア専攻 博士前期課程 修了.
2021年4月 筑波大学大学院人間総合科学学術院人間総合科学研究群情報学学位プログラム 博士後期課程 入学.
現在に至る.
歌声情報処理・音楽演奏分析の研究に従事.

[推薦理由] 推薦論文は,歌手の個性を構成する要素の一つである歌唱テクニックに着目し,その音響特徴と楽譜上の出現傾向を明らかにすることを目的としている.ビブラート等に限定された歌唱テクニックの分析は従来から行われているものの,本論文では様々な特徴を網羅的に対象としている点,また楽譜と対応づけた詳細な分析がなされている点が特徴である.歌唱データへの多様で詳細な歌唱テクニッ クのラベリングに精力的に取り組まれ,それらのデータへの分析によって歌手ご との歌唱テクニックの傾向や類似性,楽譜や歌詞との傾向などが示されている. 本論文の知見は,歌唱の知覚や理解の解明や歌唱合成などへの幅広い応用が期待 され,音楽情報科学分野への貢献が高いことから推薦する.
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●音声認識のデータ拡張のための合成音声の周波数スペクトログラム強調
[2021-SLP-139(2021/12/3)](音声言語情報処理研究会)
ueno

上乃  聖 君 (正会員)

2017年3月 同志社大学理工学部情報システムデザイン学科 卒業.
2017年4月 京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻 修士課程 入学.
2019年3月 京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻 修士課程 修了.
2019年4月 京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻 博士後期課程 入学.
2022年3月 京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻 博士後期課程 修了. 
2022年4月 名古屋工業大学大学院工学研究科 助教. 

[推薦理由] 本論文は,End-to-end音声認識のための学習データ拡張を目的として,これまで用いてきたメルスペクトログラムを音声波形に変換するボコーダに代えて,周波数スペクトログラム上で直接強調を行うネットワークを提案している.メルスペクトログラムから音声への変換に際してボコーダを用いることで,合成音声と自然音声の差異を埋める効果があるが,その生成時間が問題となっていた.提案法ではテキストからメルスペクトログラムを予測した後,このメルスペクトログラムから強調メルスペクトログラムを直接生成するmel-to-melネットワークを用いることで,少ない処理時間で高いデータ拡張の効果を得ている.ゆえにこの提案法はEnd-to-end音声認識の発展に強く貢献している.以上の理由により山下記念研究賞にふさわしい論文として本論文を推薦する.
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●ソース・フィルタ・チャネル分解に基づく自己教師ありニューラル音声復元
[2022-SLP-140(2022/3/2)](音声言語情報処理研究会)
saeki

佐伯 高明 君 (学生会員)

2019年 東京大学工学部航空宇宙工学科 卒業.
2021年 東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻 博士前期課程 修了.
2021年 東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻 博士後期課程 進学.
2022年 日本学術振興会特別研究員 (DC2).
現在に至る.

[推薦理由] 本論文は,過去の録音音声などの低品質な録音データの活用を目的に,劣化データのみを用いた自己教師ありニューラル音声復元手法を提案している.過去の録音音声などの劣化音声の場合,高品質音声との対データを得ることが困難であり,教師あり学習の手法を導入することが困難であった。提案法は劣化音声から復元音声の音声特徴量を推定する分析モジュール,音声特徴量から復元音声を生成する合成モジュール,復元音声に録音機器由来の乗算性歪を付与するチャネルモジュールからなり,入出力波形の再構成誤差最小化基準で復元モデルを学習できる.ゆえにこの提案法は音声データを用いる音声工学研究全般に強く貢献するものであり,以上の理由により,山下記念研究賞にふさわしい論文として本論文を推薦する.
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●ICT を活用した介護現場感染症対策支援に関する取り組み
[2022-EIP-95(2022/2/18)](電子化知的財産・社会基盤研究会)
tsutatani

蔦谷 雄一 君 (正会員)

2000年 電気通信大学電気通信学部情報工学科 卒業.
2002年 電気通信大学大学院情報システム学研究科 修士課程 修了.
現在,富士通株式会社にてAIを活用したシステム開発等に従事.

[推薦理由] 実用性と必要性の高いテーマについて,明確な問題意識を持って実査を行い,具体的な提言がされていることから,本賞への推薦に値すると判断した.
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●世界モデルによる好奇心と新規性に基づく探索
[ゲームプログラミングワークショップ(GPWS2021)(2021/11/14)](ゲーム情報学研究会)
waki

脇  聡志 君 (学生会員)

2022年3月 東京大学工学部電子情報工学科 卒業.
2022年4月 東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 修士課程 入学.
現在に至る.

[推薦理由] 近年ゲームの強化学習が盛んに研究されているが,報酬が疎で探索空間が大きい環境下での強化学習は難しく,重要な研究テーマである.本研究はモデルベース強化学習の利点を活かした性能の良い内発的報酬の設計を目的とし,世界モデルを利用した好奇心の内発的報酬計算の提案と,noisy-TV problem を解決する好奇心ベースと新規性ベースの方法を組み合わせた手法を提案している.探索が難しいとされるベンチマークゲームを用いた実験では,提案手法の優れた性能を示した.この研究は今後の強化学習研究に大きな影響を与えると期待されるため,山下記念賞の候補として推薦する.
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●Itako Device:対話の参加者が思いもよらないことを思うために自分の身体を通じて他者のことばを表現する文字描画システム
[エンタテインメントコンピューティング(EC2021)(2021/8/30)](エンタテインメントコンピューティング研究会)
eto

江藤健太郎  君 (学生会員)

2022年3月 早稲田大学基幹理工学部表現工学科 卒業.
2022年4月 早稲田大学基幹理工学研究科表現工学専攻 修士課程 進学.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文は,質問と回答がやりとりされる対話において,回答者の回答内容が質問者の身体(指先)を介して表現されることにより,本来は質問者である体験者が質問者か回答者のどちらとも言い切れないような状況や文脈の逸脱を誘発するシステムを構築し,その影響について評価実験を行ったものである.提案システムは,質問者/回答者の役割や能動性/受動性が混沌と感じられる状況をある程度創り出すことに成功しており,今後の展開が大いに期待される.本研究は,状況や文脈の逸脱により,思いもよらないことを想起するきっかけの提供を試みるという発想が極めて独創的であり,ともすれば合理性の追求に走りがちな現代社会におけるコミュニケーションのあり方に一石を投じる可能性を秘めている.
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●スタンプラリー型イベントの参加者の回遊に関するモチベーションの実験的調査
[2022-EC-63(2022/3/18)](エンタテインメントコンピューティング研究会)
sakamoto

坂本 唯斗  君 (学生会員)

2022年3月 京都産業大学情報理工学部情報理工学科 卒業.
2022年4月 京都産業大学大学院先端情報学研究科先端情報学専攻 博士前期課程 入学.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文は,スタンプラリーを途中でやめてしまう参加者が多い現状に着目し,回遊中のモチベーション維持に寄与する仕掛けの効果について実験的に調査したものである.実験はクイズラリー形式のイベントを利用して行われ,景品の付与,景品獲得の負担感軽減という仕掛けとそれらの組み合わせによる効果に加え,隠しスポットの通知による行動への影響について調査が行われた.その結果,景品の付与と負担感軽減を組み合わせた場合の効果が大きいことなどが示された.広く実施されているスタンプラリー型イベントの活性化に寄与する研究であるとともに,調査用のシステムを構築した上で,大学のオープンキャンパスで複数日にわたり人数を確保した実験が行われており,実証的なアプローチが高く評価される.
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●新たなデータセットによる長距離フラグメントリンキング手法の再評価
[2022-BIO-69(2022/3/11)](バイオ情報学研究会)
tsushima

津嶋 佑旗 君 (正会員)

2020年3月 東京工業大学情報理工学院情報工学系 卒業.
2022年3月 東京工業大学情報理工学院情報工学系知能情報コース 修士課程 修了.
現在,ソフトウェア開発に従事.

[推薦理由] フラグメントベース創薬の一手法であるフラグメントリンキングにおいて,既存の手法では長距離に対応することが難しい.候補者は2021年度第 67 回バイオ情報学研究会にて,フラグメント間の距離やドッキングスコアなどを複合した評価関数によるビームサーチで小型のリンカー要素の組み合わせを探索する手法を提案した.第69回研究会では,5 種類の異なる標的タンパク質からなるデータセットと30 種類のリンカー要素を新たに作成して,パラメータの最適化と独自評価関数手法を開発することによって,汎用性を向上させることに成功した. 特記事項として,第67回バイオ研究発表会プレゼンテーション賞を受賞し,第69回バイオ情報学研究発表会の学生奨励賞を受賞している.
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●プログラミング演習の軌跡:学生のコーディング過程理解のための教師支援
[2021-CLE-35(2021/12/4)](教育学習支援情報システム研究会)
taniguchi

谷口 雄太 君 (正会員)

2009年3月 九州大学理学部物理学科 卒業.
2011年3月 九州大学大学院システム情報科学府情報学専攻 修士課程 修了.
2014年3月 九州大学大学院システム情報科学府情報学専攻 博士後期課程 修了.博士(情報科学).
2014年4月 徳島大学四国産学官連携イノベーション共同推進機構 特任研究員.
2015年9月 徳島大学研究支援・産官学連携センター 特任研究員.
2016年5月 九州大学基幹教育院ラーニングアナリティクスセンター 特任助教.
2017年4月 九州大学情報基盤研究開発センター 特任助教.
2017年10月 九州大学システム情報科学研究院 助教.
2020年12月 九州大学情報基盤研究開発センター 助教.
現在に至る.

[推薦理由] プログラミング教育において,コーディングの過程を記録する仕組みを開発し,プログラム実行時のエラーの有無だけではなく,コーディングの過程を可視化するという新しい研究課題に取り組んでいる.評価実験では可視化の有用性が確認されており,今後,プログラミング教育においてリアルタイムな情報提示や適切なタイミングでの支援などへの展開が期待できる.以上のことから,山下記念研究賞に相応しいものとしてCLE研究会より推薦する.
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●屋外移動支援を目的とした国内特化型データセットVIDVIPの特徴と運用設計
[2021-AAC-16(2021/7/16)](アクセシビリティ研究会)
baba

馬場 哲晃 君 (正会員)

2003年 九州芸術工科大学芸術工学部芸術情報設計学科 卒業.
2005年 九州芸術工科大学大学院芸術工学府 修了.
2008年 九州大学大学院芸術工学府 博士後期課程 単位取得退学,博士(芸術工学).
2008年 首都大学東京助教,2014年准教授を経て2021年4月より東京都立大学教授.

[推薦理由] 本研究は,視覚障害を持つ当事者が単独で屋外移動を行う困難に対し,深層学習を用いたコンピュータビジョン技術適応のための障壁として歩行者目線データセットの不足を挙げ,その解決へ向け物体検出データセットを開発・公開したものである.2018年からの3年間で3万画像(50万インスタンス)を超える規模のデータセットが完成し,データセットを活用したナビゲーションシステム開発の実績もある.また,コンピュータビジョン分野で標準的に使用される先行データセットと比較する形でデータ品質について考察を加え,領域分割データセットの開発やユーザ参加型アノテーションへ研究対象の拡大についても報告している.将来に渡る視覚障害者移動支援システムの研究・開発に対し基盤を提供し得る研究である.
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