2022年度受賞者

2022年度コンピュータサイエンス領域功績賞受賞者

コンピュータサイエンス(CS)領域功績賞は,本領域の研究会分野において,優秀な研究・技術開発,人材育成,および研究会・研究会運営に貢献したなど,顕著な功績のあったものに贈呈されます.本賞の選考は,CS領域功績賞表彰規程およびCS領域功績賞受賞者選定手続に基づき,本領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は10研究会の主査から推薦された下記10件の功績に対し,本領域委員会(2022年9月27日)で慎重な審議を行い決定しました.各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,盾が授与されます.

吉川 正俊 君 (データベースシステム研究会)
[推薦理由]
 本会正会員吉川正俊君(フェロー)は,我が国のデータベース研究を代表する研究者の一人であり,当該分野における大学での研究教育,学会活動等に,長年に渡って大きく貢献されてきた.
 研究においては,分散データベース,オブジェクト指向データベース,XMLデータベース,マルチメディアデータ索引など,当時最先端の研究トピックに取り組み,SIGMOD, VLDB, ICDEなどトップ会議論文を含む数多くの成果を挙げている.それらは,多くの論文やデータベースの代表的な英文教科書等からも引用され,国際的にも高く評価されている.近年ではプライバシ保護に関する研究に取り組み,その成果は,SIGMODやVLDB等で発表されている.
 また学会活動においては,情報処理学会データベースシステム研究会主査,情報処理学会論文誌データベース(TOD)共同編集委員長,電子情報通信学会データ工学研究専門委員会委員長,日本データベース学会理事などを歴任するとともに,IEEE BigComp 2019 共同会議委員長をはじめ多くの国際会議において要職を務めてきた.
 以上のことから,吉川正俊君は,我が国のデータベースコミュニティの発展に極めて顕著な貢献をされており,CS領域功績賞に相応しい人物として強く推薦する.
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一般社団法人情報サービス産業協会 ソフトウェアエンジニアリング部会REBOK企画WG
斎藤 忍 君、中谷 多哉子 君、鈴木 律郎 君、位野木 万里 君、青山 幹雄 君 (ソフトウェア工学研究会)

[推薦理由]
 2011年,世界初の要求工学の知識体系REBOK(Requirements Engineering Body Of Knowledge,アールイーボック,近代科学社より発刊)を策定した,2022年7月まで10年以上に渡り,1)国内情報サービス産業への要求工学の啓発活動,2)企業の開発方法・人材育成へのREBOKの導入,3)研究成果のグローバルな発信に従事し,要求工学の普及展開と学術コミュニティでの日本企業のプレゼンス向上に貢献した.
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塩谷 亮太 君 (システム・アーキテクチャ研究会)
[推薦理由]
 塩谷亮太氏は,我が国のコンピュータ・アーキテクチャ分野に対して,研究活動と学会運営の両面において,大きく貢献を続けている人物である.その優れた研究成果は,MICRO等のトップカンファレンスを含む会議で高く評価されている.また,プロセッサシミュレータや命令パイプライン可視化ツールなど,研究を進める上で助けとなるソフトウェアの開発にも積極的で,コミュニティに対する貢献は非常に大きい.学会運営の面でも,2017年度から2020年度にかけて,システム・アーキテクチャ研究会の幹事として,また2021年度からは同研究会の運営委員として,活性化に尽力されているうえ,本学会のJIP論文誌やACS論文誌の編集委員を歴任するなど,学会活動でも多大な貢献が認められる.以上のとおり,同氏によるシステム・アーキテクチャ研究会ならびにコンピュータ・アーキテクチャ分野に対する貢献は極めて大きいことから,CS領域功績賞の受賞候補者にふさわしいと判断しここに推薦する.
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並木 美太郎 君 (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)
[推薦理由]
 本会シニア会員の並木美太郎氏は,システムソフトウェアの研究を通して,長年に渡りシステムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会(OS研究会)ならびにコンピュータサイエンス領域(CS領域)に対して大きく貢献をした.OS 研究会では 2007〜2010年度に主査を務めた.また同氏は,オペレーティングシステムを軸足として,超低電力プロセッサの制御手法やスーパコンピュータ向けの資源管理方式,またプログラミング言語の設計や教育システムの構築など多岐に渡る研究を展開し,それらの研究は山下記念研究賞を始め,CS 領域賞,優秀学生発表賞を多数受賞するなど高く評価されており,本研究会の運営および発展に大きく寄与している.また OS 研究会のみならず,並木氏は2018〜2019年度には本学会CS領域委員長,2009〜2012年度にはプログラミング・シンポジウムの幹事長,2010年度にはコンピューティングシステム研究会論文誌編集委員会長など数多くの役職を歴任しており,運営の面から 本 CS 領域全体に多大な貢献をされてきた.以上より,並木氏は,我が国のオペレーティングシステムのコミュニティならびにCS領域への貢献は極めて顕著であり,CS領域功労賞に相応しい人物として強く推薦する.
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廣本 正之 君 (システムとLSIの設計技術研究会)
[推薦理由]
 廣本氏はSLDM研究会運営委員会の幹事を2020年度から2021年度の2年間に渡り務められ,合計7回の運営委員会を主催し,円滑な研究会運営に大きく貢献された.また,2018年度から2019年度の2年間においてはSLDM研究会が主催するフラッグシップシンポジウムであるDAシンポジウムの実行委員幹事を務められた. 加えて2020年度はSLDM研究会が発行する論文誌 "IPSJ Transactions on System LSI Design Methodology" の副編集長を務められた.上記のように廣本氏は,研究会の運営やイベントの開催,論文誌の発行など,多方面にて近年のSLDM研究会に多大な貢献をされており,SLDM研究会は廣本氏をCS領域功績賞の候補者としてふさわしい者として推薦いたします.
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横川 三津夫 君 (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
[推薦理由]
 横川三津夫君は,大規模数値シミュレーションや高性能計算分野で優れた研究を行ってきた.特に,世界最高速を目指した地球シミュレータ,および京コンピュータのスーパーコンピュータ研究開発プロジェクトに参加し,それらの完成に多大な貢献をするとともに,世界最大規模の乱流直接数値シミュレーションを実施した.これらの成果により, 2002年ACM Gordon Bell Prize,及び2004年情報処理学会業績賞を受賞するなど,高性能計算分野の研究に対して高く評価されている.加えて神戸大学では,多くの学生の研究指導を行っており,CS領域における人材育成への貢献も大きい.また,横川君は,情報処理学会ハイパフォーマンスコンピューティング研究会の主査,幹事,運営委員を歴任し,CS領域の発展に尽力した.これらの多年にわたる横川君のCS領域への貢献を評価し,同君をCS領域功績賞に推薦する.
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上田 和紀 君 (プログラミング研究会)
[推薦理由]
 上田和紀氏はプログラミング研究会が発刊する論文誌「情報処理学会論文誌:プログラミング」(後に論文誌のデジタル化にともない正式名称を「情報処理学会論文誌 プログラミング」に変更)の初代編集委員長を務められ,研究会の発足ならびに同論文誌の創刊・確立に多大な貢献をされました.プログラミング研究会は,「記号処理研究会」(1977~)と,「ソフトウェア基礎論研究会」(1982~)および「プログラミング言語研究会」が統合されて1991年に発足した「プログラミング─言語・基礎・実践─研究会」の二つの研究会が,研究発表分野の重複を解消するために統合され1995年に発足しました.その後,研究会のあるべき姿についての徹底的な議論をふまえ,1998年に研究会独自の論文誌の発刊にいち早く踏み切りました.
 同論文誌の特徴は3つあります.第1は,従来の「論文」に対して想定されてきた対象分野や査読基準では必ずしもカバーしきれない,多様な成果の公表の場を提供すること,第2は,投稿論文の内容を研究会で発表することを義務づけることによって,迅速で的確な査読を実現するとともに,議論の結果の最終稿へのフィードバックを可能にすること,第3は,研究内容の表現に必要であると認められれば,長大な論文も採録可能としている点です.創刊時に定義付けられていたこれらの特徴は今も受け継がれており,とりわけ,投稿論文について「発表25分質疑20分」という十分な時間の討論を行った内容が査読にも反映されるという「同時投稿制度」は今なお他の論文誌と比べてもきわめて独自性の高いものであり,好評を博しています.このように,プログラミング関連分野の研究者に討論・成果発表の貴重な場を提供し続けている仕組みの制度設計・確立において中心的な役割を果たされた上田和紀氏の功績はきわめて大きく,同氏をコンピュータサイエンス領域功績賞に推薦いたします.
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今井 浩 君 (アルゴリズム研究会)
[推薦理由]
 業績「日本におけるアルゴリズム,計算理論の研究の推進と教育」
 今井氏は,情報科学の基盤となるアルゴリズム理論,計算幾何学,量子計算の分野における日本の第一人者であり,世界の第一線で活躍され,多くの研究成果を挙げ,研究分野の発展に貢献された.本学会にいては,アルゴリズム研究会の主査と量子ソフトウェア研究会の主査を務められており,2008年にフェローを受賞されている.
 アルゴリズムと計算理論の研究分野への貢献としては,量子コンピュータに早くから着目し,2000年に日本で初めとなる量子計算科学と量子情報科学における大規模研究プロジェクトである「科学技術振興事業団創造科学技術推進事業ERATO 今井量子計算機構プロジェクト」を発足され2000年から2006年まで総括責任者を務め研究を推進された.量子計算・量子情報処理の新しい計算理論研究分野を開拓され,多くの重要な成果を挙げるとともに,教育・研究者育成にもご尽力され,研究分野の発展に多大に貢献された.
 以上のように,今井氏は日本における新しい研究分野の量子計算研究を開拓され,量子計算理論とアルゴリズム研究の推進と研究者育成の貢献は極めて大きく,CS領域功績賞に値すると考え,推薦いたします.
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小林 聡 君 (数理モデル化と問題解決研究会)
[推薦理由]
 小林 聡氏は,情報処理学会数理モデル化と問題解決研究会 主査を2009年度から2012年度まで4年間勤め,この間,約20回の研究会を開催し,当研究会の活性化に大いに貢献した.また,このうち4回は Int'l Conf on Parallel and Distributed Processing Techniques and Applicationsの中でMPSセッションとして開催するなど,研究会の国際化にも努めてきており,これまでに,40を越える学会・研究会の役割を果たしてきた.
また,知能を備えた分子ロボットのためのDNAを用いた化学反応回路の設計論に関する研究では,分子ロボットプロトタイプの創製に大きな役割を果たしたほか,従来のDNAコンピュータがベースとしている DNA 配列に情報処理機能をプログラミングするというアプローチから転換して,光照射や温度変化のような環境因子の変化系列に個々の情報処理機能をプログラミングすることにより,外部からの信号で多機能性を実現する汎用的な DNA コンピュータの設計に関する研究を行っており,DNA 計算・分子計算の分野を先導してきた.
 上記のように同氏による研究会の運営を始め,多方面にて当研究会が対象とする研究領域に対する貢献は極めて大きく,CS領域功績賞受賞候補者として推薦するものである.
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今井 浩 君 (量子ソフトウェア研究会)
[推薦理由]
 本会正会員今井浩君(フェロー)は,情報科学の基盤となるアルゴリズム理論,計算幾何学,量子計算の分野において世界の第一線で活躍し,多くの研究成果をあげてきた.また,2000年から2005年に日本の情報科学の分野における初めての大規模研究プロジェクトであるERATO今井量子計算機構プロジェクトの総括責任者を務めた.そのプロジェクトを通じて,多くの研究成果をあげるとともに,日本の情報科学の分野における量子計算の多くの研究者の育成に多大なる貢献をしてきている.また,2001年にERATOプロジェクトが中心となって,計算機科学,数学,物理といった幅広い分野の研究者が集う量子情報に関する国際会議EQIS (ERATO Conference on Quantum Information Science) を立ち上げた.ERATOプロジェクト終了後の2006年より,EQISを国際会議AQIS(Asian Conference on Quantum Information Science) と名称を変えてさらに発展させて,現在ではアジアにおける当該分野のトップクラスの会議となるまでに成長させることに中心的な貢献をしてきている.さらに,本会量子ソフトウェア研究会の立ち上げの発起人の中心として貢献し,初代の主査を2年間務めて,研究会の活動が軌道にのるために多大な貢献をしてきた.このように,今井浩君は,我が国の量子計算の研究コミュニティの興隆に極めて顕著な貢献をされており,CS領域功績賞に相応しい人物として推薦する.
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