2020年度コンピュータサイエンス領域功績賞受賞者

コンピュータサイエンス(CS)領域功績賞は,本領域の研究会分野において,優秀な研究・技術開発,人材育成,および研究会・研究会運営に貢献したなど,顕著な功績のあったものに贈呈されます.本賞の選考は,CS領域功績賞表彰規程およびCS領域功績賞受賞者選定手続に基づき,本領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は7研究会の主査から推薦された下記7件の功績に対し,本領域委員会(2020年10月8日)で慎重な審議を行い決定しました.各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,盾が授与されます.

土田正士  君 (データベースシステム研究会)
[推薦理由]
 本会正会員土田正士君(フェロー)は,我が国のデータベース分野に対して,企業における研究開発及び標準化を通じて長年に渡って貢献されてきた.
データベースシステム適用分野の拡大に対し,高いスケーラビリティを発揮する並列問合せ処理機構,及びメディアコンテンツへの操作,並びに追加登録など拡張可能性を有するプラグイン機構から成る ORDB(Object RelationalDatabase)技術で多大な成果を挙げるとともに,高スケーラブルデータベース統合基盤の開発に従事した.これらは SQL 標準に追従し続ける日本で唯一のベンダー製品群であり,最新 SQL 機能の普及に極めて重要な貢献を果たすとともに,金融業,物流業,通信業など幅広い産業分野で活用されつづけている.
  また,企業における研究・教育活動支援の一環として,SQL 製品を多くの大学・研究機関に無償提供するプログラムを 17 年以上継続して提供し,SQL/XML等主要な機能を含む最新 SQL 規格の普及,及び研究活動への導入に取り組むとともに,デジタルコンテンツなど多様化する情報を扱う人材の育成にも貢献してきた.
 さらに,ISO/IEC JTC1/SC32 WG3(SQL)日本代表,JIS SQL 原案委員会WG1(SQL)委員や国際標準化での活動を通じてSQL 関連の標準化に貢献するとともに,関連書籍を執筆し,標準の普及にも大いに貢献してきた.
同君は,日本データベース学会副会長,当会情報規格調査会 SC32(データ管理および交換) 専門委員会委員長,当会情報規格調査会 SC32/WG3(SQL)小委員会委員,当会データベースシステム研究会(DBS)幹事を歴任し,学会活動にも多大な貢献が認められる.
 このように,土田正士君は,我が国のデータベースコミュニティの興隆に極めて顕著な貢献をされており,CS 領域功績賞に相応しい人物として推薦する.
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東 基衞 君 (ソフトウェア工学研究会)
[推薦理由]
 東基衞氏は,ソフトウェア品質に関する国際規格ISO/IEC 9126およびISO/IEC 25000 (SQuaRE) シリーズの開発と普及を長年にわたり主導してきた.この功績により,ソフトウェア工学研究会では,東氏をコンピュータサイエンス領域功績賞として推薦する.
  ISO/IEC 9126ソフトウェア品質モデルは,情報技術 (IT) 分野の標準化を行うISO(国際標準化機構)と国際電気標準会議 (IEC) の第一合同技術委員会配下の技術委員会(JTC1/SC 7/WG 6)のもとで1991年に出版された.東氏は,第1回 SC 7/WG 6トリノ会議に,WG 6コンビーナ(議長),兼9126 エディタとして参加し国際規格の策定に大きく貢献した.その後,ソフトウェア製品の品質のモデル,測定量,評価プロセスに関するISO/IEC 9126: Product quality(シリーズ4巻)およびISO/IEC 14598:Product evaluation (シリーズ6巻)の2シリーズ化を行った.さらに,この2つのシリーズの統合および対象をソフトウェアからシステムへの拡張することを目指して,ISO/IEC 25000 (SQuaRE)シリーズの開発を開始した.その成果として2011年にISO/IEC 25010 システムとソフトウェアの品質モデルをはじめ,多くの国際規格として刊行された.
 ISO/IEC 9126および その後のSQuaREシリーズは,情報通信技術のシステムおよびソフトウェアに関わる世界の実践者に広くかつ深く浸透しており,実際のソフトウェア開発の現場を大きく支えている.また,これらの国際規格のおかげで,ソフトウェア品質の見える化が格段に進展し,ソフトウェア品質に関する研究の礎が確立された.
 東氏は,WG6コンビーナおよびSQuaREシリーズ統括エディタとして,国際規格に関する数多くの国際会議に出席し,これらの企画・開発のすべてにわたり主導的な立場で貢献してきている.これが,ISO/IEC 9126および ISO/IEC 25000 SQuaREの成功につながっている.現在も,25010SQuaREの改訂に携わっている.また,これらの国際規格のJIS化(JIS X0129およびJIS X 25000シリーズ)においても,JIS化委員会の委員長として主導してきた.さらに,ソフトウェア品質に関わる数多くの書籍の出版を通して,国内への普及にも大きく尽力してきている.
 以上より,ソフトウェア品質の国際規格の策定に関する東氏の活動は,ソフトウェア工学分野の研究開発およびその発展に多大な恩恵をもたらしており,その功績はきわめて大きい.
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長谷川揚平 君 (システム・アーキテクチャ研究会)
[推薦理由]
 被推薦者,長谷川揚平氏は,2016〜2019年度にシステム・アーキテクチャ研究会の幹事を務め,当研究会の活性化に大いに貢献した.特に,産業界の立場から各種イベント企画や研究会活性化に尽力し,産業界と学術界の架け橋となった.若手研究者や学生のエンカレッジを柱とする研究会 HotSPA シリーズを定着させ,発表件数ならびに参加者の増加を実現した功績は極めて大きい.このような活動はコミュニティの拡大およびプレゼンス向上に大きく寄与するものである.以上のように,同氏によるシステム・アーキテクチャ研究会ならびにアーキテクチャ分野に対する貢献は極めて大きく,CS 領域功績賞受賞候補として推薦するものである.
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品川高廣 君、加藤和彦 君 (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)
[推薦理由]
 品川高廣氏と加藤和彦氏は長年にわたり,準パススルー型仮想化技術に基づいた新しい仮想化ソフトウェアBitVisorの研究開発を主導してきた.
 品川氏はBitVisorの研究開発において中心的な役割を果たし,BitVisorの機能改善や適用事例に関する数多くの研究を主導している.それらの成果は,オペレーティングシステム(OS)分野におけるトップレベルの国際会議への採択や国際ジャーナルへの論文掲載という形で高く評価されている.また,産学連携によるBitVisorの適用研究プロジェクトでは,研究開発の成果を大規模PC環境向け管理システムソフトウェア製品として事業化することに成功した.現在,本システムは,多くの大学のPC教室に導入され,研究・教育向けIT環境の構築や維持に貢献している.
 加藤氏は研究代表者として実施した「セキュアVMプロジェクト」(2006~2009年)において初期のBitVisorの研究開発を主導した.プロジェクト終了後にオープンソース・ソフトウェアとして公開されたBitVisorは,商用OSへの対応や動作の安定性や軽量さなどの特徴が評価され,OSとシステムソフトウェア分野の研究開発プラットフォームとして,大学をはじめとした国内外の多くの研究機関で活用されている.
 以上のように,品川氏と加藤氏が果たしたOS分野への貢献は極めて大きいため,CS領域功績賞受賞者としてふさわしいと考え,ここに推薦する.
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柴田誠也 君 (システムとLSIの設計技術研究会)
[推薦理由]
 柴田氏はSLDM研究会運営委員会の幹事を2017年度から2018年度の2年間に渡り務められ,合計8回の運営委員会の主催し,円滑な研究会運営に大きく貢献された.また,2016年度から2017年度の2年間においてはSLDM研究会が主催するフラッグシップシンポジウムであるDAシンポジウムの実行委員を務められた. 上記のように柴田氏は,研究会の運営やイベントの開催など,多方面にて近年のSLDM研究会に多大な貢献をされており,SLDM研究会は,柴田氏をCS領域功績賞の候補者としてふさわしい者として推薦いたします.
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朴 泰祐 君 (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
[推薦理由]
 朴泰祐君は, 高性能計算システム研究分野で多くの先駆的な貢献を行ってきた.特に,超並列相互結合網及びシステムアーキテクチャ,演算加速装置付き並列クラスタにおける高性能通信システム及びシステムソフトウェア,並列処理言語等に関する研究は国際的に高く評価され,CS領域における研究の一潮流をなすものである.また,応用分野研究者との密接な共同研究により,種々の実アプリケーションの大規模化・高性能化に貢献し,計算科学における応用とシステムの連携の重要性を示した.さらに,ハイパフォーマンスコンピューティング分野の主要な研究を主導すると共に,CS領域における人材育成にも貢献してきた.こうした研究実績に加え,朴君は情報処理学会ハイパフォーマンスコンピューティング研究会主査,情報処理学会論文誌コンピューティングシステム編集委員長,情報処理学会の主催・共催を含む多数の国際会議,シンポジウムの実行委員長,プログラム委員長を歴任し,CS領域の発展に多大な貢献を行っている.これらの多年にわたる朴君のCS領域への貢献を評価し,同君をCS領域功績賞に推薦する.
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德山 豪 君 (アルゴリズム研究会)
[推薦理由]
  本会正会員徳山豪氏(フェロー)は,企業(日本IBM東京基礎研究所,1986-1999)と大学でのキャリアを通じて,アルゴリズムと計算の理論と応用における先端的な研究により,CS領域の推進を行った.学会においては,本会のアルゴリズム研究会主査,電子情報通信学会コンピュテーション研究会委員長,学術会議会員などを務めている.また,計算幾何学分野の4つの国際専門誌すべてでエディタを務めている.
  CS領域功績賞の推薦理由は「アルゴリズムと計算理論の国際的な研究コミュニティーの構築と発展」である.徳山氏は国際学会ISAAC(International Symposium on Algorithms and Computation)の運営委員長を2009年から10年間務める等,日本のみならずアジア全体のリーダーとして,国際的な計算理論の研究コミュニティーの構築と発展に貢献を行っている.人材育成においては,東北大学データ科学国際大学院の設立責任者を務めるなど,企業と大学の双方において優れた研究者とデータサイエンティストを育成している.また,「ビッグデータ基盤(CREST,さきがけ)」,「数理情報活用領域(さきがけ)」の領域アドバイザーを務めている.
  研究プロジェクトの推進においても,文科省創造的ソフトウエア事業「データマイニング:知識獲得機能付きデータベースの構築」の技術責任者,「新世代の計算限界」新学術領域,「多角的アプロ—チの統合による計算限界解明」新学術領域,「河原林巨大グラフERATO」,「実社会ビッグデータのためのデータ統合・解析技術の研究開発」(文科省),「ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジ」のグループリーダーを務める等の貢献している.
研究業績では,日本IBM科学賞,船井情報科学振興賞,ISAAC最優秀論文賞,本会研究賞,ベストオーサー賞などを受賞し,計算理論分野の4つのトップ国際会議(STOC, FOCS, SODA, SoCG)で25件の成果発表を行うなど,日本の計算理論の国際レベルを支えてきた.特に計算幾何学分野では,幾何学最適化,デジタル幾何,組合せ幾何学などで独創的な成果を挙げ,それらをデータマイニング,統計解析,画像処理,地理情報処理などへの応用に展開している.応用の中でも,データマイニングへの計算幾何の導入は,SIGMOD, PODS, VLDB, KDD などで発表され,広く利活用されている.これは,日本におけるデータマイニングの研究分野開拓とともに,世界的にアルゴリズム理論の研究者のデータマイニング分野への参入の先駆けになった.
 以上のように,徳山氏のアルゴリズムと計算理論の国際的な研究コミュニティーの構築と発展への貢献は高く,CS領域功績賞に値すると考え,推薦いたします.
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