2019年度コンピュータサイエンス領域功績賞受賞者

コンピュータサイエンス(CS)領域功績賞は,本領域の研究会分野において,優秀な研究・技術開発,人材育成,および研究会・研究会運営に貢献したなど,顕著な功績のあったものに贈呈されます.本賞の選考は,CS領域功績賞表彰規程およびCS領域功績賞受賞者選定手続に基づき,本領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は9研究会の主査から推薦された下記9件の功績に対し,本領域委員会(2019年10月2日)で慎重な審議を行い決定しました.各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,盾が授与されます.

北川博之  君 (データベースシステム研究会)
[推薦理由]
 本会正会員北川博之君(フェロー)は,長年にわたり,データベースシステムの高機能化の研究,情報統合のためのシステム技術の研究,データマイニングや機械学習を用いたデータ処理等の研究で多大な業績をあげ,国内外の研究を牽引してきた.特に,データベースシステムの高機能化については,非正規リレーションや複合オブジェクトの問合せ処理,索引機構やその応用について先見性の高い研究を行った.情報統合のためのシステム技術については,ストリーム型情報源を対象とした異種情報統合基盤の発展に貢献した.さらに,外れ値検出,ソーシャルメディアマイニング,検索処理の高度化等に関しても顕著な研究成果をあげ,当該分野の進歩・発展に貢献してきた.近年では,理学・医学分野の研究者と連携したデータベース研究にも積極的に取り組んで成果をあげている.さらに,文科省/理研「実社会ビッグデータ利活用のためのデータ統合・解析技術の研究開発」(2014?2017年度)の研究代表者をはじめ,ビッグデータに関する大型研究プロジェクトの推進にも尽力してきた.
 また,大学院においては,高い実践力を有するICT人材の育成を目指した複数大学連携を含む様々な取組みを継続的に主導し,データベースシステム分野の優れた教育・人材育成に関しても大きな貢献が認められる.
 さらに,同君は,電子情報通信学会データ工学研究専門委員会委員長,日本データベース学会会長,ACM SIGMOD日本支部支部長,日本学術会議連携会員,データベース言語(SQL)に関するJIS原案作成委員会委員等を歴任し,JST戦略的創造研究推進事業「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」領域アドバイザー等も担当している.また,国際的な活動としては,学術雑誌IEEE Transactions on Knowledge and Data Engineering,IEEE Transactions on Big Data,World Wide Web Journalの編集委員を担当するとともに,VLDB,SIGMOD,AAAI,PAKDD,WISE,DEXAをはじめとする多数の国際会議でプログラム委員を務め,2019年開催のBigComp2019では,プログラム委員会共同委員長を務めた.さらに,DASFAA Steering Committee委員・会議委員長・Best Paper Committee共同委員長,APWeb共同会議委員長,WAIMSteering Committee委員・共同会議委員長,ICDE広報委員長を務めるなど,国際会議の企画,推進においても多大な貢献をしている.2020年開催予定のVLDB2020では,組織委員長を務めている.
 このように,同君は,我が国のデータベースコミュニティの興隆に極めて顕著な貢献がある.
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玉井哲雄 君、青山幹雄 君、佐伯元司 君、深澤良彰 君 (ソフトウェア工学研究会)
[推薦理由]
 ソフトウェア工学研究会では,アジア太平洋ソフトウェア工学国際会議(APSEC: Asia- Pacific Software Engineering Conference)の創設に大きく貢献した,玉井哲雄 氏,青山幹雄 氏,佐伯元司 氏,深澤良彰 氏をコンピュータサイエンス領域功績賞として推薦する.
 APSECは,情報処理学会ソフトウェア工学研究会(SIGSE)が,韓国のソフトウェア工学研究コミュニティと協力して創設した国際会議で,1994年に第1回(APSEC’94)を東京(早稲田大学)で開催した.以後,アジア各地を会場として毎年開催され,2018年(APSEC 2018)で25回を数えた.ソフトウェア工学全般を扱うアジア太平洋地域を代表する国際会議として,世界的にも広く認知されており,近年は,アジア各国のソフトウェア技術者,研究者をはじめとし,世界中から多数の参加者を集めている.日本では,第1回,第6回,第14回,第25回が開催されており,APSEC 2018では,世界28カ国から253名の参加者を集めた.また,現在では,数多くのアジア諸国が運営に携わっている.
 1994年当時にアジア地区で国際会議を開催するに当たっては,質の高い論文をいかに集めるのかという点が非常に重要であった.この点に関して,APSECでは,開催当初から予稿集をIEEE ComputerSocietyから発行するという戦略をとったことで,国際的に認知されることに成功し,毎年数多くの(APSEC 2018では250 件を超える)論文投稿を集めている.
 APSECの創設ならびにAPSEC’94の開催においては,ソフトウェア工学分野の数多くの研究者・実践者の協力が必要であったものの,受賞候補者4名はAPSEC創設当時のみならず,現在のAPSECの運営にも大きく尽力している.アジア地区において世界的に認知される国際会議を立ち上がるためには,出版戦略をはじめとしてさまざまな工夫が必須であり,立ち上げだけでなく,その運営を軌道に乗せるための苦労は計り知れない.現在,APSECはソフトウェア工学分野に関わる学生や若手の研究者・技術者が初めて国際会議で発表する場として大きな役割を果たしている.このような場の提供は,ソフトウェア工学分野の研究の発展に大きく貢献しており,その功績はきわめて高い.
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小野貴継 君 (システム・アーキテクチャ研究会)
[推薦理由]
 被推薦者,小野貴継氏は,平成 26 年度~平成 30 年度にシステム・アーキテクチャ研究会の幹事を務め,当研究会の活性化に大いに貢献した.平成 26 年度~平成 27 年度の間は企業に在籍し,産業界の立場からシステム・アーキテクチャ研究会を活性化した. また,平成 28年度~平成 30 年度は大学に在籍し,学術界からの視点で学会運営を行った.このように,産業界と学術界の架け橋となり研究会を運営し,産学連携の活性化を進めた功績は大きい.また,情報処理学会や電子情報通信学会などに所属する7研究会が合同で開催する国内大規模ワークショップの組織委員長を務めたほか,アーキテクチャ分野での世界トップクラス国際会議である MICRO の日本初開催を中心的メンバーとして実現した.このような活動はコミュニティの拡大およびプレゼンス向上に大きく寄与するものである.以上のように,同氏によるシステム・アーキテクチャ研究会ならびにアーキテクチャ分野に対する貢献は極めて大きく,CS 領域功績賞受賞候補として推薦するものである.
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谷口秀夫 君 (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)
[推薦理由]
 谷口秀夫氏 (本会フェロー)はシステムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会の中心的なトピックである,分散処理やオペレーティングシステム(OS)についての研究を長年にわたって行ってきた.これまでにNTT,NTTデータおよび大学において,商用化されたものを含む7つの独自OSを開発してきた.NTTでは,UNIXをベースとした分散処理OSとして,グループアクセス機能を有する分散ファイルシステム機能を開発した.また,OS機能の処理分散を可能にする実時間処理用の独自OSも開発した.大学に移ってからは,新しいOS機能の確立へ向けた独自の分散処理OSの研究開発を進めている.これらの独自OSを用いてOS基盤技術の改良を続けており,OSの機能や性能の向上に大きく貢献してきた.特に,分散指向永続OSのTenderについては20年以上も継続して研究開発を続けており,独自OSであるという強みを活かして他のOSとは一線を画する機能を多数実現している.Tenderでは「演算」という新しい資源を導入したり,既存OSの資源を細分割したりすることで処理を高速化し,プログラムの部品化を可能にすることで新しいOS機能の導入を容易にしている.こうした独自機能の研究開発により,OS構成法の新たな道を切り開いてきた.
 現在のOS研究者の多くがLinuxなどの既存OSを改造して研究を行っている中で,一貫して一から開発した独自OSを用いて研究を行っていることは特筆に値する.独自OSの開発においては論文にならない箇所に費やす労力が大きい一方で,開発者の設計力や技術力を大きく向上させることができるという利点がある.谷口氏は独自OSを用いた研究開発を通して,高い技術力を持った多くの優れた学生を社会に送り出してきた.
 谷口氏は独自OSの開発と並行して多数の論文発表を続けており,2009年から2018年までの10年間で,OS研究会が主催する研究発表会およびコンピュータシステム・シンポジウムにおいて最も多くの発表を行った.このような積極的な研究発表はOS研究会の活性化に大いに寄与した.また,本会の論文誌編集委員ソフトウェアグループ主査を務めたり,FIT2019の現地実行委員長を務めたりするなど,CS領域に対する貢献も大きい.
 このように谷口氏の果たしたOS分野への貢献は極めて大きいため,CS領域功績賞受賞者としてふさわしいと考え,ここに推薦する.
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密山幸男 君 (システムとLSIの設計技術研究会)
[推薦理由]
 密山氏はSLDM研究運営委員会の幹事を2017年度から2018年度の2年間に渡り務められ,合計8回の運営委員会の主催し,円滑な研究会運営に大きく貢献された.また,2015年度から2016年度の2年間においてはSLDM研究会が主催するフラッグシップシンポジウムであるDAシンポジウムの実行委員を務められた.特に,表彰規定などのあり方などを慎重に議論し,有益な表彰を行い,発表者および研究会のモチベーションを向上させ,研究会の活性化につなげた.
 上記のように密山氏は近年のSLDM研究会の運営に多大な貢献をされており,SLDM研究会は,密山氏をCS領域功績賞の候補者としてふさわしい者として推薦いたします.
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関口智嗣 君 (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
[推薦理由]
 関口智嗣君は, ハイパフォーマンスコンピューティングや並列・分散処理技術に関する研究開発において多くの先駆的な貢献を行ってきた.特に,グリッドコンピューティングにおいては産官学連携によるプロジェクトを複数遂行し成功に導いた.さらに,遠隔呼び出しに基づく科学技術計算用ミドルウェアNinf-Gの共同開発や地球観測グリッド(GEO Grid)の開発は国際的に高く評価され,CS領域における研究開発の一潮流をなしえたものである.また,産業技術総合研究所の理事,情報・人間工学領域長として若手高度人材の発掘と指導,研究リーダの育成など情報関連の研究開発に精力的に取り組み,CS領域における人材育成にも貢献してきた.こうした研究・開発・人材育成の実績に加え,関口君は情報処理学会において研究コミュニティの醸成にも寄与した.例えば,数値解析研究会幹事として同研究会を発展的にハイパフォーマンスコンピューティング研究会への改組やSWoPP(並列・分散・協調システムに関するサマーワークショップ)の発起人としての企画などが挙げられる.情報処理学会ハイパフォーマンスコンピューティング研究会主査,同CS領域委員長,同理事などを歴任し,CS領域の発展に顕著な貢献を行ってきた.これらの多年にわたる関口君のCS領域への貢献を評価し,同君をCS領域功績賞に推薦する.
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COINSプロジェクト
代表:中田育男 君 
(プログラミング研究会)
[推薦理由]
 昨今のコンパイラの複雑化に伴い,新たなコンパイラを開発したり,新たなコンパイラ手法を実践的に実装したりすることは容易でなくなっています.この状況を打破すべく,中田育男氏を代表とするCOINS(COmpiler INfraStructure)プロジェクトは,新しいコンパイラ方式を容易に実験したり評価したりできるコンパイラの共通インフラストラクチャであるCOINSを開発しました.COINSはコンパイラに関する研究用・教育用基盤を与えるだけでなく,企業でも利用可能なものとなっています.組込みシステム向けの機能も強化され,現在も保守・改良が継続的に行われています.
 COINSはコンパイラの基本的な機能を組み合わせ可能なモジュールとして備え,それらを組み合わせたり,新しいモジュールを追加したりするだけで,目的に応じたコンパイラを作成することができます.入力言語としてCやFortran77,対象機種としてSparcやIntel x86のほかARM,MIPS,PowerPC,SH4など合計10機種に対してもコード生成が可能となっており,入力言語と対象機種の自由な組み合わせが可能です.COINSを利用することで,新しいアーキテクチャに対するコンパイラや,新しい言語用のコンパイラ,新しい機能を持つコンパイラなどを容易に実装することができます.そのため,COINSはコンパイラ技術の研究や教育に非常に有用な技術基盤を提供しています.
 コンパイラ共通インフラストラクチャを作るというCOINSの目標の意義は今日では広く認識され,LLVMと呼ばれるコンパイラ共通インフラストラクチャがごく当たり前に使われるようになっています.そして,GPUによる汎用計算や量子計算など様々なアーキテクチャが現れつつあるため,コンパイラ共通インフラストラクチャの重要性はさらに高まっています.COINSプロジェクトはLLVMプロジェクト(2003年頃~)に先立ち実施された先進的なものであるだけでなく,実際にその目標を達成し広く使われるソフトウェアを開発したという点でも特筆に値します.
 プログラミング研究会では2002年にCOINSに関連する最初の発表がされて以降,これまでに15件の発表がされ,プログラミングおよびプログラミング言語ワークショップなどでも多くの発表がありました.また,2008年にコンピュータソフトウェアで「最新コンパイラ技術とCOINSによる実践」という特集が組まれるなど,COINSはプログラミング言語の学術分野にも多大な貢献をしています.
 以上のようにコンパイラ・インフラストラクチャの開発を通じて当該学術分野に貢献された功績からCOINSプロジェクトをコンピュータサイエンス領域功績賞に推薦いたします.
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城 和貴 君 (数理モデル化と問題解決研究会)
[推薦理由]
 本会正会員 城和貴氏と数理モデル化と問題解決(MPS)研究会との関わりは深く,研究会運営委員,幹事を歴任され,平成13~16年度では研究会主査を務められた.主査在任中は,第34回から第53回に至る合計20回のMPS研究会を主催し,円滑な研究会運営に大きく貢献された.さらに,平成25~26年度には,研究会と密接なつながりを持つ情報処理学会論文誌「数理モデル化と応用」(TOM)誌の編集長として活躍された.TOM誌は,研究会連動型の投稿システムによって運用されているが,城氏は,研究会の発表と論文誌投稿を連動させるという基本構造を考案したパイオニアの一人でもある.
 城氏の専門分野は,並列計算機アーキテクチャ,自動並列化コンパイラ,ニューラルネット,画像処理と多岐に渡っているが,現在はスマートヘルスケアナビゲーションシステムという人間を見守りサポートしてくれるシステムの開発,明治~昭和初期に出版された近代書籍用の自動テキスト化の研究により近代書籍に限らずデジタル化以前の紙情報を,インターネット上に貴重な人間の知識として検索可能な形での整備,奈良県の世界遺産となる建築物や仏像等の貴重な文化財を後世に伝える為の文化財のデジタルアーカイブに関する研究を通じてCS分野の研究にも多大な貢献をしている.
 上記のように城氏は永年MPS研究会の運営に多大な貢献をされており,MPS研究会は,城氏をCS領域功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信している.
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井倉将実 君 (組込みシステム研究会)
[推薦理由]
(1) 組込みシステム研究会では,井倉様の多大なご尽力により,2018年度より国際会議APRISを開催し2年目を迎える.
(2) 以下の書籍をはじめ多くの雑誌記事を執筆し,FPGAおよび組込みシステムの普及に多大な貢献をしている.現在,井倉氏の記事や書籍でFPGAを学んだ研究者は多い.
「井倉 将実, FPGAボードで学ぶVerilog HDL, CQ出版, 2007.」
(3) ASEAN地域において大学-企業間連携を通じて広く組込み教育を実施している.
プリンスオブソンクラー大学,キングモンクット大学トンブリー校舎,タマサート大学等でモデルベース開発,FPGA,ソフトウェアQAを通じた車載組込み開発系の技術者育成コースを提供.
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