2024年度受賞者詳細

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2024年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細

コンピュータサイエンス領域奨励賞は,コンピュータサイエンス領域に所属する研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な研究発表を行った若手会員に贈呈されます.本賞の選考は,CS領域奨励賞表彰規程,CS領域奨励賞受賞者選定手続およびCS領域奨励賞受賞者推薦内規に基づき,領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は11研究会の主査から推薦された計19編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定しました.本年度の受賞者は下記19君で,各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,賞金が授与されます.

●繰り返し聴取による興味の変化を考慮した楽曲推薦
 [DEIM2024(2024/3/1)](データベースシステム研究会)

重富竜ノ介  君 (正会員)

発表時所属:九州大学大学院 芸術工学府 芸術工学専攻 メディアデザインコース 修士2年
受賞時所属:KDDI株式会社
[推薦理由]
本論文では,繰り返し聴取という音楽消費行動の典型的でありながら適切に扱えていなかった特徴を用いて,過去に聴いた楽曲を適切なタイミングで推薦する手法「ReSANs」を提案している.具体的には,楽曲の繰り返し回数に基づいて「繰り返し埋め込み表現」を生成し,これをセルフアテンション層内で楽曲埋め込み表現と関連付ける.この方法により,複雑な繰り返しパターンを学習し,ユーザの興味の変化を考慮した推薦を可能とした.実データであるLast.fmのユーザ聴取履歴を用いた評価実験により,他の同種の既存手法に対し,20~30%程度の性能向上を示しており,学術的にも応用的にも価値がある研究である.以上より,本論文をCS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●コールグラフ差分を用いた,ライブラリアップデートに伴うメソッド呼び出し実体変化の検出
  [2023-SE-214(2023/7/22)](ソフトウェア工学研究会)

小泉 雄太  君 (正会員)

発表時所属:日本電信電話株式会社 ソフトウェアイノベーションセンタ
受賞時所属:日本電信電話株式会社 ソフトウェアイノベーションセンタ
[推薦理由]
本論文は,ライブラリアップデートにおける影響解析の中でも,既存の変更影響解析手法では潜在的な動作変化を取り扱うことのできないpulled-up/pushed-down method(PUPD)に特化し,新たな手法を提案している.具体的にはPUPDに形式的な定義を与え,ライブラリアップデート前後のコールグラフの差分から影響解析を行う.本手法はJavaソフトウェアとライブラリアップデートに適用され,有効性が確認されている.変更を追従することはソフトウェア開発の極めて重要な側面であり,実用的な価値を持つこの研究は,CS領域奨励賞に相応しいものとして推薦する.
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●テスト駆動開発における継続的な支援を目的としたフレームワークCATddの試作
  [SES2023(2023/8/25)](ソフトウェア工学研究会)

宮下 丈明  君 (正会員)

発表時所属:宮崎大学大学院 工学部 工学研究科2学年
受賞時所属:株式会社ベリサーブ
[推薦理由]
本論文は,テスト行動開発において,対象のプロジェクトのテスト実行後,失敗したソースコードを自動生成し修正するフレームワークCATddを提案している.LLM等を用いたソースコード自動修正を行う既存研究では,他のソースコードを考慮せず修正箇所が限定されているのに対して,CATddでは,失敗したソースコードを自動生成し修正する際に,関連するソースコードも入力とすることで,プロジェクト内の他のソースコードとの整合性を保つため,テスト駆動開発の継続的な支援を実現できる.これにより,開発者の負担軽減やヒューマンエラーの削減など,ソフトウェア開発全体の品質に寄与すると考えられ,CS領域奨励賞に相応しいものとして推薦する.
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●MTJベースの不揮発性デバイスを用いたノンストッププロセッサ
 [2024-ARC-256(2024/3/21)](システム・アーキテクチャ研究会)

中別府将太 君 (正会員)

発表時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科
受賞時所属:TSMC Design Technology Japan, Inc.
[推薦理由]
耐障害性が求められることの多い組み込みシステムにとって,電源障害への対応は重要な課題のひとつであり,いつ電源が遮断されても電源復旧後に正常に動作が継続できるプロセッサが必要である.本研究では,MTJベースの不揮発性デバイスを用いたノンストッププロセッサを提案し,その実基板を実装している.発表では実基板を用いたデモも行っており,電源が遮断された場合でも正常に動作を継続可能な組込みシステムの実現性を実例をもって示した意義は非常に大きい.以上の点から,CS領域奨励賞にふさわしい候補として個々に推薦する.
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●MLIRを用いたGPU向け準同型暗号コンパイラ
 [2024-ARC-256(2024/3/23)](システム・アーキテクチャ研究会)

野崎 愛 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科システム情報学専攻 修士1年
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科システム情報学専攻 修士2年
[推薦理由]
準同型暗号は暗号化されたデータに対して演算可能な暗号方式であり,データ保護のアプローチとして注目されている.ハードウェアアクセラレータが提案されているが,アプリケーションをアクセラレータ上に移植するには非常にコストが高く,自動化するコード生成系の技術は十分に確立されていない.本論文では,GPUを対象として準同型暗号上アプリケーションのアクセラレーションを自動化するコンパイラを提案している.本論文は準同型暗号におけるアクセラレータとアプリケーションを仲介するソフトウェアの方向性を示す成果であり,CS領域奨励賞にふさわしい候補としてここに推薦する.
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●透過的なコンテナ内コンテナ環境のための入れ子型オーバレイファイルシステムの提案
  [2024-OS-162(2024/2/19)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

横山 文施 君 (正会員)

発表時所属:法政大学 情報科学部 ディジタルメディア学科 4学年
受賞時所属:トランスコスモス株式会社 CX事業部 デジタルインタラクティブ事業本部 サービス管理統括部 サービス管理部
[推薦理由]
本研究は,入れ子型コンテナ環境において内部コンテナからもファイルシステムを透過的に扱えるようにするためのオーバーレイファイルシステムを提案している.ファイルシステムを入れ子状の階層構造にすることを可能にするために,オーバーレイファイルシステムの名前空間を動的に割り当てる手法を導入している.コンテナの入れ子化は有用な技術であるが,現状はファイルシステムの制限により一部の機能が制限された状態でしか実行できないが,本手法によりコンテナを透過的にネストすることが可能になるため,実用上非常に有用性が高い優れた研究である.
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●コピーオンライトを考慮したHugepage管理機構
  [2024-OS-162(2024/2/20)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

笠原 一真 君 (正会員)

発表時所属:東京農工大学 工学府 情報工学専攻 2年
受賞時所属:ソニー・インタラクティブエンタテイメント FSEE 4部
[推薦理由]
本研究は,Hugepageをコピーオンライトするときの性能劣化を抑制するために,アプリケーションのメモリアクセス特性によってコピーオンライト方法を切り替える手法を提案している.親プロセスと子プロセスにおけるメモリアクセス特性に基づいてアプリケーションの種類を4つに分類し,親子各プロセスにおけるページ配置方法の組み合わせを切り替えることで,アプリケーション特性に最適なHugepageのハンドリングを可能にしている.Hugepageのジェネリックなハンドリングは難しい課題であるが,本研究ではRedisやAFL等の現実的なアプリケーションにおける特性に基づいて,事前に種類を選択するという現実的な手法によって課題を解決しており,シンプルだが優れたアイデアで高い実用性を達成した非常に優れた研究である.
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●リーク電流で演算する量子化ニューラルネットワーク用低電力12T-SRAMインメモリアクセラレータ
 [DAシンポジウム2023(2023/8/31)] (システムとLSIの設計技術研究会) 

田形 寛斗 君 (学生会員)

発表時所属:京都大学大学院 情報学研究科 修士課程 2年
受賞時所属:京都大学大学院 情報学研究科 博士後期課程
[推薦理由]
本論文では,12-TSRAM セルを用いた低エネルギー量子化ニューラルネットワーク用インメモリアクセラレータを提案している.提案回路では,トランジスタのリーク電流を用いたアナログ演算回路を用いることで,従来のインメモリアクセラレータと比べて積和演算にかかる消費エネルギーを大きく削減した.また,回路内にキャパシタを用いない構造のため,センスタイミングによる出力の誤差が少ないことや,演算中の貫通電流が僅かであることから,従来手法の課題であったタイミングコントロールの制約を緩和することができている.商用 22nm プロセスにおける,256 行 256 列の SRAM アレイを用いたトランジスタレベルシミュレーションでは,平均消費電力 2.93 mW,エネルギー効率は最大 1367.5 TOPS/W を達成している.本論文では従来手法の課題も緩和しつつ,メモリの消費エネルギーを大幅に削減できている回路として有用であり,価値の高い論文であるため,CS領域奨励賞に相応しい論文として推薦する.
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●リーク電流による電荷蓄積型エイジングセンサ回路の提案と実機評価
 [2023-SLDM-204(2023/11/16)] (システムとLSIの設計技術研究会)

福島 未 君 (正会員)

発表時所属:芝浦工業大学 工学部 情報工学科 4年生
受賞時所属:富士通株式会社
[推薦理由]
BTI (Bias Temperature Instability) による動作不良が問題視されている.経年劣化により pMOS のしきい値 Vth が変化すると,リーク電流量が変化する.本論文ではこの性質を利用して,リーク電流による電荷が容量に蓄積される時間をカウンタで計測し NBTI を検出するエイジングセンサ回路を提案している.提案回路を搭載した試作チップに対し加速試験を行った結果,ストレス時間とストレス温度を増大させることで,pMOS の Vth 増大に起因して,電荷の蓄積にかかる時間が長くなる現象が観測された.本論文はBTIの特性を活かした画期的な提案がされており,測定結果も含めて価値の高い論文であるため,CS領域奨励賞に相応しい論文として推薦する.
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●分散タスク並列処理系Itoyoriにおける局所性に配慮した大域アドレス空間およびスケジューリング
 [2023-HPC-190(2023/8/4)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

椎名 峻平 君 (正会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科
受賞時所属:トヨタ自動車株式会社
[推薦理由]
分散メモリ上の大域アドレス空間においてノード間タスク並列処理を効率的に行う並列分散処理系であるItoyoriを開発した.Itoyori では,局所性に配慮した戦略をとることで高効率な分散タスク並列処理を実現した.大域メモリアクセスのキャッシュ,およびハードウェアのメモリ階層を考慮したタスクスケジューラの実装を行った.N 体問題ソルバなどアプリケーションを用いた性能評価の結果,Itoyori の高い効率と良好なスケーラビリティを確認した.本成果はCS領域奨励賞を受けるに値する成果であり,本賞に推薦する.
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●富岳上の大規模機械学習におけるAll-reduce通信の高速化
  [2024-HPC-193(2024/3/18)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

中村 秋海 君 (正会員)

発表時所属:東京工業大学大学院 情報理工学院
受賞時所属:フューチャーアーキテクト株式会社
[推薦理由]
近年の深層学習モデルの大規模化に伴い,大規模モデルの学習では複数の計算ノードにモデルを分散配置し,ノード間で大量の集団通信を行い並列学習を行っている.本研究では,深層学習に用いられる代表的な通信パターンであるall-reduce に注目し,「富岳」の6次元メッシュ/トーラス直接網による隣接通信に限定する双方向リングアルゴリズムを実装することで高速化を行った.また,大規模言語モデルの学習コードのall-reduce を部分的に本開発成果に置き換えて性能評価を行った.本成果はCS領域奨励賞を受けるに値する成果であり,本賞に推薦する.
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●A High-Performance Hybrid Binary Translator using Source-Level Information
  [PRO-2023-2(2023/8/4)] (プログラミング研究会)

陳 暢彬 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 塩谷研究室 博士課程1年
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 塩谷研究室
[推薦理由]
本発表は,命令セットアーキテクチャ(ISA)の研究や新しいISAの試作・初期採用を支援するためのハイブリッドバイナリトランスレータを提案している.異なるプラットフォーム間のバイナリ変換を静的に行えると性能上の観点で理想的だが,主に間接ジャンプの変換を適切に行えないという理由により,性能を犠牲にした動的な変換にならざるをえない.本発表では,変換前のバイナリに対応するシンボルテーブルやソースコードからのコンパイルで得られたLLVM IRの情報を利用して高性能なバイナリを生成することを提案している.実装されたトランスレータはSPEC CPU 2017のコードを正しく変換可能であり,動的変換を採用しているQEMUより非常に高速に動作することを確認している.変換の正当性の保証など実用に向けた課題は残されているものの,シンボルテーブルの情報を利用して間接ジャンプの影響を分析・制限するアイデアは興味深く,ISAの研究に大きく貢献することが期待される研究である.また,SPEC CPUを正しく変換できるトランスレータを実装した労力も評価できる.以上より,本発表をCS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●Constant Propagation in CRIL by Bidirectional Data Flow Analysis
  [PRO-2023-4(2024/1/11)] (プログラミング研究会)

小口 隼矢 君 (学生会員)

発表時所属:名古屋大学大学院 情報学研究科 情報システム学専攻 博士前期課程1年
受賞時所属:名古屋大学大学院 情報学研究科
[推薦理由]
本論文では,伝統的な最適化手法のひとつである定数伝播を,並行可逆計算用中間言語CRIL向けに提案している.並行プロセス間の依存関係を考慮した双方向データフローグラフで競合を検出することで,並行プログラムでも定数を双方向に安全に伝播させることができる.従来の並行可逆計算言語における定数伝播と異なり,中間言語レベルで実現されているため,CRILをターゲットとした複数の高水準言語の最適化や,定数伝播以外の最適化のための基礎となることも期待される汎用性の高いものである.本論文はCRILの構文と操作的意味論に基づき,双方向データフロー解析の健全性の証明だけでなく,セマフォによる排他制御を含む具体的な並行プログラムへの適用例を含めて丁寧に述べており,質の高いものであることから,本論文をCS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●A Linear Delay Algorithm for Enumeration of 2-Edge/Vertex-connected Induced Subgraphs
 [2023-AL-193(2023/5/11)] (アルゴリズム研究会)

多田 拓生 君 (正会員)

発表時所属:京都大学大学院 情報学研究科 数理工学専攻 修士2年
受賞時所属:-
[推薦理由]
部分グラフ列挙問題とは,与えられたグラフにおいて所望の条件を満たす部分グラフを漏れなく重複なく出力することを問う問題であり,データマイニングやバイオインフォマティクスなどの領域に応用を持つ.本発表ではその一種である2辺連結(および2点連結)誘導部分グラフ列挙問題を,SD集合システムという,発表者が独自に提案するモデルの下で統一的に取り扱っており,開発したアルゴリズムが線形遅延という強い計算量クラスに属することを示している.この成果は従来研究の結果を大幅に改善するものである.高度な一般化とグラフ理論の様々な結果を用いた巧緻な解析がなされていることはCS領域奨励賞を受けるに値するものであり,本賞に推薦する.
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●数独に対する最も簡単な解法探索による難易度判定付きソルバー
 [2023-AL-194(2023/9/6)] (アルゴリズム研究会)

鹿屋 直大 君 (正会員)

発表時所属:九州工業大学大学院 情報工学府 情報創成工学専攻 修士2年
受賞時所属:株式会社クレスコ 福岡事業所
[推薦理由]
数独は日々,世界中の多くの人たちによって楽しまれているペンシルパズルである.その問題の多くはパズル作家によって作成されており,最近では作家自身が作成した問題の難易度を設定しなければならないことがある.しかし,問題の難易度はその問題における様々な解法の中から,より簡単なものを見つけ出すことで評価するため,多くの手間がかかる.本研究はそうした解法の中から最も簡単な解法を見つけ出し,難易度を測定する効率的なソルバーを開発している.本研究により開発された手法はパズル作家の負担を減らすとともに,同様のアイディアにより,他の多くのパズルへ応用ができる汎用的な手法として評価できる.よって,本研究をCS領域奨励賞候補として推薦する.
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●蛍光顕微鏡画像における深層学習による3次元細胞追跡手法
 [2023-MPS-146(2023/12/12)] (数理モデル化と問題解決研究会)

廣部 理来 君 (正会員)

発表時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科
受賞時所属:-
[推薦理由]
本発表では,蛍光顕微鏡によって撮影された細胞の3次元動画像を対象に,深層学習を用いて3次元空間上での細胞追跡を行う手法を提案し,数値実験によりその有用性を示している.提案手法は,3次元動画という対象を同定することが難しい環境下において非常に効果的な対象の特定・追跡に関する技術を提案しており,非常に有用性が高いものである.さらに,質疑応答を含めた発表もすばらしく,2023年度の本研究会における発表の中でも特に顕著に優れた発表と判断し,ここに推薦する.
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●マルチレート制御モデル並列化アルゴリズムの設計と形式検証
 [2024-EMB-65(2024/3/21)] (組込みシステム研究会)

近藤 大起 君 (正会員)

発表時所属:名古屋大学大学院 情報学研究科 情報システム学専攻 修士2年
受賞時所属:MHIエアロスペースシステムズ株式会社 総務部
[推薦理由]
本論文は,Simulinkで作成された制御モデル(Simulinkモデル)から並列制御コードを自動生成するアルゴリズムMBPにおいて,Simulinkのレート変換ブロックを考慮することによりマルチレート制御に対応する拡張アルゴリズムを提案している.アルゴリズムの検証には形式手法を用いており,形式記述言語CSPによって厳密に形式化し,モデル検査器FDRを用いて網羅的な検証を行っている.本研究は,MBPの汎用性を高める研究であり,MBPがより多くのSimulinkモデルに対して自動並列化を行えることが期待できる.また形式手法がアルゴリズムの設計や検証に有用であることを示しており,学術的にも応用的にも価値がある研究である.以上より,本論文をCS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する.
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●Efficient Simulation of Leakage Errors in Quantum Error Correcting Codes Using Tensor Network Methods
 [2023-QS-9(2023/6/29)] (量子ソフトウェア研究会)

真鍋 秀隆 君 (学生会員)

発表時所属:大阪大学 基礎工学研究科 博士後期課程1年
受賞時所属:大阪大学 基礎工学研究科 博士後期課程2年
[推薦理由]
量子ビットの状態空間から外の空間に励起してしまうなどの漏出エラーは現実的に起こりうるエラーであり,量子コンピュータ実装のための障害となっている.量子エラー訂正の評価に標準的に使われているスタビライザー形式ではこの漏出エラーを取り扱うのが難しかった.真鍋氏は本研究において,テンソルネットワークを用いて漏出エラーを効率的に評価する方法を提案した.これにより熱ノイズやコヒーレントエラーを近似なしでシミュレーションできるようになった.既存の近似評価では結果が大きくずれて出る場合があり,今回の手法がこのような現実的エラーの評価の正確性に大きく寄与したと言える.
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●量子特異値変換による量子共役勾配法
 [2023-QS-10(2023/10/26)] (量子ソフトウェア研究会)

豊泉喜一郎 君 (正会員)

発表時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻
受賞時所属:株式会社日立製作所 研究開発グループ 先端AIイノベーションセンタ データサイエンスラボラトリ
[推薦理由]
量子計算機で線形方程式を高速に解くアルゴリズムは様々な応用があるが,回路が長大となり,また多くの補助量子ビットが必要となるため,実機実装が難しい.豊泉らによるこの研究は,量子特異値変換に基づき,量子計算機で共役勾配法を実行する方法を提案している.提案アルゴリズムに用いられる量子回路の長さ(総計算量ではないことに注意)は係数行列の条件数の平方根のオーダであり,従来の線型方程式を解く量子アルゴリズムと比較して平方根の改善を達成している.さらに,提案アルゴリズムに必要な補助量子ビット数は条件数と所望の解精度に依存しない.この成果は量子計算応用の早期化に貢献するものであり,十分に推薦に足るものである.
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