2022年度受賞者詳細

2022年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細

コンピュータサイエンス領域奨励賞は,コンピュータサイエンス領域に所属する研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な研究発表を行った若手会員に贈呈されます.本賞の選考は,CS領域奨励賞表彰規程,CS領域奨励賞受賞者選定手続およびCS領域奨励賞受賞者推薦内規に基づき,領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は11研究会の主査から推薦された計19編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定しました.本年度の受賞者は下記19君で,各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,賞金が授与されます.

●高速かつ高精度な内積空間におけるカーディナリティ推定
 [DEIM2022(2022/2/28)](データベースシステム研究会)

平田 皓平  君 (学生会員)

発表時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 原研究室 修士2年
受賞時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 原研究室
[推薦理由]
AIや機械学習など,多くの問題においてデータはベクトルで表現され,ベクトル間の内積に頻繁に利用さている.またビッグデータを扱う多くの場面において,対象ベクトルの周辺に存在するベクトルの数(カーディナリティ)は,データ量の見積りなどに利用できる反面,素朴な計算は高コストであり,高精度な推定は困難な課題である.この問題に対し本研究では,高精度かつ高速なカーディナリティ推定手法を提案している.具体的には,問題を低次元空間に写像した上で,局所的な少数のサンプルから精度よくカーディナリティの推定を行う手法を提案している.提案手法はベクトルを利用する応用に広く適用可能であり,データ工学における高い貢献が認められる.以上より,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する.
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●JavaScriptを対象としたスペクトラムに基づく欠陥限局ツールの試作
  [2022-SE-210(2022/3/11)](ソフトウェア工学研究会)

小田 郁弥  君 (正会員)

発表時所属:大阪大学 基礎工学部 情報科学科 四学年
受賞時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科 楠本研究室
[推薦理由]
ソフトウェアデバッグを支援する技術として,プログラム中の欠陥の位置を推測する欠陥限局技術の研究が盛んである.本発表は,欠陥限局技術のうちスペクトラムベース欠陥限局手法について,これまで実装されていなかったJavaScriptを対象とした欠陥限局ツールInagoFLを実装した報告である.人為的に作成した欠陥を用いた評価実験と,実プロジェクトにおける欠陥を題材とした適用実験の結果,提案手法の可搬性を確認し,JavaScriptに有効と思われるアルゴリズムを示している.ソフトウェア工学のホットトピックの1つである欠陥限局について,広く利用されているJavaScriptに対して新たな実装を提供する意義は大きく,CS領域奨励賞に相応しい.
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●深層学習を用いたコードクローン検出器のベンチマーク間精度調査
  [2022-SE-210(2022/3/11)](ソフトウェア工学研究会)

福家 範浩  君 (正会員)

発表時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科 コンピュータサイエンス専攻 修士 2年
受賞時所属:ヤフー株式会社
[推薦理由]
複数のソースコード間で同一あるいは類似したコードが存在するコードクローンは,ソフトウェアの保守性を下げる一因とされ,様々なコードクローン検出技術が提案されている.近年は機械学習に基づく検出技術の研究が盛んであるが,学習に用いるデータセットと,評価に用いるデータセットの違いが検出精度に与える影響が明らかでなかった.本論文では,複数のクローン検出器と学習時・評価時の各データセットの複数の組合せについて実験を行い,データセットの差異と精度の関係や,クローンの種類と精度の関係を定量的に明らかにしたものである.本研究成果はコードクローン検出手法の研究進歩に寄与すると考えられ,CS領域奨励賞に相応しいものである.
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セキュアな不揮発性メモリのクラッシュ一貫性支援の高速化
 [2021-ARC-245(2021/7/20)](システム・アーキテクチャ研究会)

小池 亮 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻 修士1学年
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻
[推薦理由]
バイトアドレスの不揮発性メモリ (NVM)では,データの整合性を保証し改竄を検知する機構としてBonsai Merkle Tree (BMT) がよく用いられるが,その更新処理には大きなオーバヘッドをともなう.この問題を解決するため,本研究では,BMT更新処理の分析により種々の性質を見いだすとともに,これらの発見に基づく新しいNVM 用ハードウェア・ロギング・アーキテクチャを提案している.定量的評価を行った結果,従来技術と比較して大幅なBMT更新レイテンシの削減を実現しており,今後のメモリアーキテクチャ研究における重要な方向性を示す価値ある成果である.よって,CS領域奨励賞受賞候補として推薦する.
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●ユーザの支援を用いたファジングによるハードウェアテスト
 [2022-ARC-248(2022/3/11)](システム・アーキテクチャ研究会)

杉山 優一 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 修士2年
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 博士1年
[推薦理由]
近年,ソフトウェア分野におけるファジングをハードウェアのテストに応用する研究が行われている.しかしながら,既存技術ではハードウェア状態空間の探索が効率的ではないという問題がある.これを解決するため,本研究ではユーザ支援を活用した新しいハードウェア状態探索法を提案している.大規模かつ複雑なマイクロプロセッサ設計を対象に提案手法を適用した結果,既存手法では発見が難しい未知のバグを発見することに成功した.これは,今後のハードウェア設計技術における重要な方向性を示す価値ある成果である.よって,CS領域奨励賞受賞候補として推薦する.
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●同時マルチスレッディング環境下における永続メモリ向けスケジューラの検討
  [ComSys2021(2021/12/2)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

貴田 駿 君 (学生会員)

発表時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 修士課程1年
受賞時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 修士課程2年
[推薦理由]
近年,実用化された永続メモリはDRAMよりアクセス遅延が長く,データを永続化するための処理も必要となるため,CPUの計算リソースが無駄になっている.本研究では,同時マルチスレッディング(SMT)を用いて,永続メモリへのアクセスを多く行うタスクとCPUの演算器を多く使うタスクを同じ物理コアに割り当てることにより,CPUの計算リソースを有効に活用する手法を提案している.SMTにおいて計算リソースの競合を避ける先行研究は存在するが,SMTを用いることで永続メモリへのアクセスを効果的にスケジューリング可能であることを示した点が本研究の大きな貢献である.以上の理由により,本論文は情報処理学会CS領域奨励賞に相応しいと判断し,ここに推薦する.
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●メモリエラーへの耐性を有するオペレーティングシステム
  [2021-OS-152(2021/5/27)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

井口 卓海 君 (学生会員)

発表時所属:東京農工大学 工学府 情報工学専攻 博士前期課程1年
受賞時所属:東京農工大学 工学府 情報工学専攻 博士前期課程2年
[推薦理由]
メモリのエラーは様々な原因で発生しうることが知られている.メモリエラーの検出・訂正のためにECCメモリが利用されることがあるが,その機能には限界があり,さらなる改善策の実現が望まれる.一方で,従来のOSは,ECCメモリを用いた場合であっても発生する修正不可能なメモリエラーを修正する機能を有していない.本論文は,そのような修正不可能なエラーであっても,それをOSが修正し動作の継続を可能とする手法を提案するものである.そのために,データ構造の管理法について提案するとともに,具体的な修正機能を提案,実装している.さらに,いくつかのクラッシュシナリオを想定し,それらが適切に機能することを実証しており,優れた論文であると判断できる.よって本論文をCS領域賞候補として推薦する.
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●遅延ばらつき評価に向けた交互配置均質リングオシレータ
 [DAシンポジウム2021(2021/9/2)] (システムとLSIの設計技術研究会) 

有働 岬 君 (正会員)

発表時所属:京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻
受賞時所属:ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 デバイス営業部門
[推薦理由]
デジタル回路におけるMOSトランジスタの特性評価にリングオシレータ回路は有用である.しかし,NANDのような発振制御用の異なる論理ゲートがリング内に含まれる場合や,配線長などに不均質性がある場合,ゲートあたりの正確な特性評価が困難になる.本論文では,すべての論理ゲートの貢献度を均一にするためのリングオシレータ回路構造を提案する.提案構造は仮想電源ノード及び交互配置したレイアウトを採用し,NANDのような制御用の論理ゲートが含まれない.提案構造のリングオシレータを搭載した試作回路を評価した結果,スイッチング条件下におけるトランジスタの特性評価に有効であることが確認された.本論文は,低い電源電圧で動作させるデジタル回路のばらつき解析に大きく貢献する論文であることから,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する.
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●データアウェア・ストア機能を持つMTJベース不揮発性SRAM回路の提案と評価
 [2021-SLDM-196(2021/12/1)] (システムとLSIの設計技術研究会)

宮内 陽里 君 (正会員)

発表時所属:芝浦工業大学大学院 理工学研究科 電気電子情報工学専攻 修士2年
受賞時所属:ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
[推薦理由]
LSIのリーク電力を削減する手法のひとつに,磁気トンネル接合(MTJ: Magnetic Tunnel Junction)素子を利用した不揮発性パワーゲーティング(NVPG: Non Volatile Power Gating)がある.NVPGでは,SRAMのような揮発性の記憶回路をMTJによって不揮発化することで,パワーゲーティング時にデータが保持できない問題を解決している.しかし,MTJは書き込みエネルギーが大きい問題がある.本論文では,現在書き込まれている値と同値であればMTJへの書き込みをスキップする機能(DAS: Data Aware Store)を備えることで低消費エネルギーを実現するNVSRAMを提案し,シミュレーションにより評価する.本論文は,低消費エネルギーLSIの実現に大きく貢献する論文であることから,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する.
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●タンパク質立体構造予測システムAlphaFoldのTSUBAME3.0上での高速化
 [2022-HPC-183(2022/3/17)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

藤田 隼斗 君 (正会員)

発表時所属:東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 4年
受賞時所属:株式会社ディー・エヌ・エー
[推薦理由]
発表者らは,タンパク質立体構造予測システムAlphaFoldを高速化するために,その実行時間の多くを占めていたhhblits(HMM-HMM–based lightningfast iterative sequence search)の高速化に取り組んだ.プロファイリングやソースコードの解析から,ボトルネックを特定し,並列化数の改善やソートの実装法の改良などを行い,単一の入力配列に対するAlphaFold の実行時間を半減するとともに,hhblitsがボトルネックとなることを解消した.本研究は,HPC技術により,アプリケーションを高速化できることを具体的に示すものであり,コンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に値するものとして推薦する.
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●遊休GPUを利用したホスト・デバイス間通信の高速化
  [2022-HPC-183(2022/3/17)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

立木 佑弥 君 (学生会員)

発表時所属:筑波大学大学院 理工情報生命学術院 システム情報工学研究群
受賞時所属:筑波大学大学院 理工情報生命学術院 システム情報工学研究群
[推薦理由]
発表者らは,GPU を1 基のみ使用するアプリケーションを複数のGPU を搭載する計算ノードで実行する場合に存在する遊休GPUを効果的に利用する方法について研究を行った.アプリケーションがホスト・デバイス間通信を行う際に, 1 基目のGPU に加えて2 基目のGPU も転送に関与することで,PCI-Express とNV-Link 経由の迂回路を確立し,これを通信路として併用する. 性能評価では十分に大きなデータサイズの場合に約2 倍の転送速度を達成した. 本研究は,ユーザのプログラムを変更することなく,システム側での対応により遊休GPUを活用し,性能改善を行うもので,研究としての質が高く,コンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に値するものとして推薦する.
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●データ構造ライブプログラミングのための言語実現フレームワークに基づくオブジェクトグラフ収集手法
  [PRO-2021-3(2021/11/1)] (プログラミング研究会)

高橋 修祐 君 (学生会員)

発表時所属:東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系 数理・計算科学コース 修士1年
受賞時所属:東京工業大学 情報理工学院数理・計算科学系 数理・計算科学コース 修士2年
[推薦理由]
プログラムの編集中にその結果や振舞いを視認することが可能なライブプログラミングが注目を集めている.本研究では,JavaScript言語に対する快適なライブプログラミング環境を実現するために,オブジェクト間の参照関係の情報を効率的に取得する方法が提案され,その実装方法について詳細に報告されている.具体的には,オブジェクトの生成・変更の履歴を時刻ごとに検索しやすい形で記録することにより,特定の時刻におけるオブジェクトの効率的な構築が実現されている.研究発表会では,実装のベースとなるJavaScriptランタイム環境であるGraalJSの紹介や本手法を実装するアイデアがわかりやすく説明されており,議論も活発に行われた発表であったことから,本発表をCS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●自然言語を用いたコーディング支援の実現に向けたニューラル機械翻訳ベースのコード生成
  [PRO-2021-3(2021/11/1)] (プログラミング研究会)

秋信 有花 君 (正会員)

発表時所属:日本女子大学大学院 理学研究科 数理・物性構造科学専攻
受賞時所属:日本電信電話株式会社 ソフトウェアイノベーションセンタ
[推薦理由]
この研究は,ニューラル機械翻訳を用いて自然言語からプログラミング言語への翻訳を実現することで,コーディング支援などに活用することを目標としている.発表ではその障壁のひとつである,自然言語からプログラミング言語への対訳コードコーパスが不足しているという問題に着目し,それを解決するためソースコードの抽象構文木やコード片のコーパスを用いて対訳コードコーパスを合成するという手法を提案している.実用に耐える翻訳精度を達成するまでにはまだ課題が多いものの,着目した問題点およびその解決方法は大変興味深く,今後の発展が期待される研究である.発表会でも聴衆にわかりやすく研究内容を紹介されていたことも評価し,この発表をCS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●デカルト木部分列照合問題の高速なアルゴリズム
 [2022-AL-186(2022/1/27)] (アルゴリズム研究会)

大泉 翼 君 (正会員)

発表時所属:北海道大学大学院 情報科学院 情報理工学専攻 M2
受賞時所属:株式会社メルカリ Software Engineer
[推薦理由]
デカルト木照合(Cartesian tree matching)は,値の大小関係に基づいてテキストの連続な部分文字列とパターンの照合を行う近似照合問題の一種であるが,本研究では,デカルト木照合問題をテキストの非連続な部分系列に拡張して,デカルト木部分列照合問題を提案している.また,既存手法と比較して,時間計算量を大幅に改善している.以上の理由から,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●多様体仮説に基づく統計的機械学習の圏論的定式化
 [2022-MPS-137(2022/3/4)] (数理モデル化と問題解決研究会)

鈴木 藍雅 君 (正会員)

発表時所属:産業技術総合研究所 人工知能研究センター / 筑波大学 システム情報工学研究科
受賞時所属:産業技術総合研究所 人工知能研究センター
[推薦理由]
本研究では機械学習の分野において広く支持される「実世界の高次元データは低次元の多様体構造の上に分布する」という多様体仮説と圏論に基づき,統計的機械学習の代数学的再定式化を行っている.多様体仮説に基づき,可能なデータ全体を多様体の圏の部分圏として定義することで,データ間の内部関係構造をデータの圏の射,モデルをデータの圏の間の関手,モデルの学習をモデル間の自然変換として表現している.本理論は,データ・統計モデル・モデルの学習という複数のレベルにまたがる諸概念を統一的な枠組みの下で説明する基盤となりうるもので,CS領域奨励賞にふさわしい論文である.
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●関数リアクティブプログラミングにおける時変値の初期値の自動決定
 [2021-EMB-57(2021/6/28)] (組込みシステム研究会)

白鳥 佑弥 君 (正会員)

発表時所属:東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 情報工学コース 修士課程2年
受賞時所属:株式会社ACCESS IoT開発本部 先端技術開発部 クラウドテクノロジー課
[推薦理由]
本研究は,組込みシステム等のリアクティブシステムを時変値の更新計算として記述するプログラミングパラダイムである,関数リアクティブプログラミング(FRP)の初期値を自動決定する手法を提案するものである.時変値の変化量や累積値,およびシステムの状態等を表現するためには時変値の過去の値を参照する必要があるが,システム起動時には過去の値は存在しないため,あらかじめ初期値を設定する必要がある.本提案手法によって,不適切な初期値によりシステム起動直後の挙動が不安定になる問題を解決できることを示した.これらの新規性,有用性の観点および組込みシステム分野での発展可能性が期待できることから本論文をCS領域奨励賞に推薦する.
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●Self-driving Simulator Test Scenario Framework with Event-triggered Functionality
 [APRIS2021(2021/11/30)] (組込みシステム研究会)

矢部 巧馬 君 (学生会員)

発表時所属:埼玉大学大学院 理工学研究科 数理電子情報専攻 情報システム工学コース 修士2年
受賞時所属:埼玉大学大学院 理工学研究科 数理電子情報専攻 情報システム工学コース
[推薦理由]
本研究は,自動運転システムのテストシナリオに歩行者・他車の柔軟な動きを含めて検証可能とするための,イベントトリガ機能を持つテストフレームワークを提案するものである.自動運転システムの検証において,従来の仮想環境テストでは歩行者・他車の複雑な動きを十分に表現することは困難であった.提案手法では,自動運転ソフトウェアAutowareとSVLシミュレータをリンクするイベントトリガ機能の実現により,自車の位置と速度に応じて歩行者・他車の振る舞いを制御するテストシナリオの実現を可能とした.更に,この機能追加によるシミュレーション実行性能への影響も評価した.これらの新規性,有用性の観点および組込みシステム分野での発展可能性が期待できることから本論文をCS領域奨励賞に推薦する.
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●コヒーレントノイズ下の表面符号におけるフォールトトレラント量子誤り訂正のサンプリングに基づいたシミュレーション
 [2021-QS-4(2021/10/15)] (量子ソフトウェア研究会)

八角 繁男 君 (正会員)

発表時所属:大阪大学大学院 基礎工学研究科 博士課程3回生
受賞時所属:日本電信電話株式会社 コンピュータ&データサイエンス研究所
[推薦理由]
本論文は,コヒーレントノイズ下でのフォールトトレラント量子誤り訂正のサンプリングに基づいたシミュレーション方法を提案している.提案したサンプリングベースの手法は,フルベクトルシミュレーションでは困難な比較的大きな符号距離を持つ平面表面符号も扱うことが可能であることを示している.実際,符号距離が 5 で 81 量子ビットからなる平面表面符号のノイズのある反復的なシンドローム測定のシミュレーション結果から,コヒーレントエラーにより論理エラーが増加することを示すことができている.これは,擬確率分布シミュレーションを意味のある課題に実用化したものであり,近未来の量子デバイス上で実験的に量子誤り訂正を研究する上で有用であると考えられ,CS領域奨励賞に推薦したい.
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●Divide-and-conquer verification method for noisy intermediate-scale quantum computation
 [2022-QS-5(2022/3/24)] (量子ソフトウェア研究会)

竹内 勇貴 君 (正会員)

発表時所属:NTT コミュニケーション科学基礎研究所 メディア情報研究部 情報基礎理論研究グループ
受賞時所属:NTT コミュニケーション科学基礎研究所 メディア情報研究部
[推薦理由]
近年の技術的進歩により,数十量子ビットを扱える量子計算機が実現しつつある.そのような量子計算機は,まだエラー訂正機能が無いことから,NISQ (noisy intermediate-scale quantum)計算機と呼ばれている.NISQ計算機を有効活用するためには,量子アルゴリズムだけではなく,NISQ計算機が正しく動作しているかを効率よく検証するためのソフトウェアも不可欠である.これまで提案されてきた検証手法の多くはエラー訂正機能がある大規模量子計算機を想定したものであり,NISQ計算の検証手法はまだまだ未開拓である.本研究は,近年発展している量子回路の分割手法をNISQ計算の検証に応用した初めての研究であり,今後,より実用的な検証手法の開発にもつながると期待される.これらの理由より,CS領域奨励賞に推薦したい知見がないと出せない結果であり,今後重要になってくるであろう量子コンピュータのアーキテクチャ研究の先駆的な成果といえる.今後の研究分野の拡がりを推奨する意味でも,CS領域奨励賞に推薦したい.
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